星虫 再刊を祝して
2000年7月1日
星虫。
宇宙飛行士になることを夢見て、日夜努力している女の子が、不思議な生命体・星虫と出会うことで夢を叶えてしまう物語。
夢を見ること、叶えようとすることの素晴らしさを大真面目に教えてくれる傑作で、私のバイブル的存在でした。
しかし、この本は、1990年の初版だけで絶版となってしまいます。
以来10年。
あきらめが悪い愛読者達の口コミ活動が実り、ようやく朝日ソノラマ文庫から再刊されました。
この一件そのものは、苛酷なビジネスの現実に、ファンの熱意が勝利した快挙といえましょう。
しかし、それでも再刊に10年かかったわけで、ビジネスの厳しさを再認識させることにもなりました。
ファン心理、もしくはマニアの思考の価値基準は「自分が面白いと思ったか?」にあります。
自分が楽しめれば良い作品であり、作品が売れたか否かは評価の対象とはなりません。
この性癖ゆえに「隠れた名作」というものに巡り合える幸運に恵まれていますが、その代償として愛した作品がビジネス的な理由で絶版・打ち切り・生産終了に遭う不幸にも恵まれて(?)います。
ビジネスの価値基準が「面白いか否か」ではなく「売れたか否か」に置かれている以上、これは永久に避けられぬ苦難です。
ファンとしては、この厳しい現実に折り合いを見つけていくしかないのですが、そこまで悟れていない未熟なファンは「売れているだけで面白くない」と売れているメジャー作品批判に走りがちです。
時として、それはメジャー作品を「面白い」と考えている他のファンと衝突まで招き、深刻な対立を呼ぶことになります。
冷静に考えれば、これほど馬鹿馬鹿しい事態もありません。
メジャー作品を非難するエネルギーがあるなら、どうしてそれを好きな作品をヨイショする方向に使わないのでしょう?
星虫の再刊は、ファンの活動がメジャー批判に流れずに、ひたすら作品のヨイショに注がれたことで実現しました。
HPを開いて普及に努める方、ネットオークションで落札しては布教用に貸し出す方など様々な人たちが、それぞれの方法で星虫を応援していました。
こうした地道な活動が10年も続いたことに、深い敬意の念を覚えます。
星虫の再刊は、まぎれもなくファン達が成し遂げた一つの快挙です。
しかし、それはファンの到達点であるに過ぎず、星虫という作品自体にとっては再びスタート地点に立っただけのことにすぎません。
星虫という作品が、評価されていくのはこれからです。
そして、評価を下すのは過去からのファンではなく、これからの新しい読者に他なりません。
昔からのファンとして、この作品が新しい読者たちにも受け入れられることを祈ります。
別にベストセラーになって欲しいとは思いません。
ただ、再び絶版にされることなく、大勢の方々を楽しませ続けてくれれば、と願っています。