クリック小説 永遠の七日間 奥野とびら
あなたは人目の登場人物です。
日曜日
パソコンのディスプレイを見つめている読者の目を感じる。だが気にする必要はない。私にとって読者とはバーチャルな存在に過ぎない。それよりこの空間内での今日の天気が気にかかる。雨は嫌いだ。お気に入りの靴が濡れてしまう。
新聞に目を通す。普通紙とスポーツ紙。昨日は中田の試合はなかった。
今日から私は、新しい繰句小説(クリック小説)を綴ることにする。これは私の遺書のようなものだ。
目的はこの世から小説をなくすこと。
すべての物語のパターンを書き尽くし、リンクし尽くし、もうこれ以上この世に物語は存在しないという地点までこの小説を書き続けるのだ。
古来のユダヤ教では安息日は土曜日であり、週は日曜日から始まるらしいから、私もそれに習って日曜日から書き始めることにする。
以前、1997年に起ち上げたクリック小説は凍結してしまっている。あれから三年の歳月が過ぎ、私もわずかばかりの原稿料をもらう立場になった。だがこのクリック小説で原稿料を手にするつもりはない。
私は今まで様々な小説を読んできた。気に入ったものは「オールタイム・ベスト・ノート」に記している。
ここまで書き綴ったところでブザーが鳴った。
誰だろう。待ち人がいるわけでもない。魚眼レンズから覗くと若い女性が立っている。見覚えはない。幼い頃の面影しか知らない同窓生が訪ねてきたのだろうか。それともメドゥーサ・ドールのセールスレディ?。いずれにしろ無視することにする。今の私にとっては邪魔者に過ぎないだろう。買いたい物があるのなら市場、あるいはドット・コムの日本語サイトに行けばいい。それがソフトならダウンロードすればいいのだ。
私は今日の更新分を保存してファイルを閉じる。
月曜
この世界にはどのような物語が存在するのか。そもそも物語とは何なのか。
ネット上にも様々な物語が存在する。たとえば青空文庫では著作権切れした文芸作品が無料で手に入るらしい。また、自分のサイトを持っているプロ作家の人たちが大勢存在する。
私は今まで、純文学を初めとして、ミステリやSF、ファンタジー、時代小説と様々なジャンルの小説を読んできた。
それらの物語はユングのいうように、人類が古代より共有してきた、夢の中での繋がりに起因するものなのだろうか。夢の黄金現世の幻ともいうべき共有意識こそ、もしかしたら「物語」そのものなのかも知れない。
その物語の浜辺には様々な形の愛の波がおしよせている。
火曜日
むかし、好きな人に送ったラブ・レター。今はもうどこにいるかも判らない人。でも、その思い出は決していらない物ではない。もしかしたらそれこそが物語の原点かも知れないのだ。
昔見た光景が心に甦る。空に浮かぶ竜の形の雲・・・。そういえば、昔「いつか見た青い空」という映画を見た。
今日、久しぶりにビデオショップで借りた映画を見た。レンタルビデオ日記に書き記す。今日は日記のサイトを探訪することにする。やっぱり今日もみんな日記を書くのだろうか?
水曜日
ケータイの呼出音が鳴っている。OFFにするのを忘れていたようだ。OFFにしてパソコンのディスプレイに向かう。私はパソコンには素人なので、私のホームページは児戯同然かもしれない。だが、技術不足は気にしていない。サイトは永遠に消滅しないのだから、ニリューアルの機会はいずれ来るだろう。それが私の生きているうちかどうかは別にして。
木曜日
家を出るときに目の前を黒猫が横切った。これは不吉な徴だっただろうか。それとも幸運の徴?いずれにしろ、私はジンクスを信じる質ではない。
金曜日
今日はその他のサイトを探訪することにする。
土曜日
やっと安息日がきた。
私はもう眠る。
おやすみなさい。
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