小児科外来をしていて、お母さん方の口からよく出る表現で、野田が苦手な表現がいくつかあります。今月、来月は、小児科医の愚痴にお付き合いください。
かぜですか?
溶連菌感染症とか感染性嘔吐下痢症とか、少ない知識を精一杯寄せ集めて、ふっとこちらが息を呑んだ瞬間、上記の言葉が私に浴びせられます。
『だからぁー溶連菌感染症だって言っているでしょう』、というと次の言葉は大抵決まっています。
『かぜではないのですか?』、この言葉を浴びせられるとこの勝負はこちらの負けです。
『か、かぜの病原菌には数え上げてみると284種類もあって、そのうちの一つが溶連菌感染症という病気なのです。』などといっても、迫力のないことおびただしいものがあります。
検査で言えるものは、まだいいのですが症状から類推して“ノロウィルス”感染症でしょうといって、『かぜではないのですか?』のあと、上記の言葉を言おうものなら、『本当ですか?』と疑いの目で見られます。生来弱気な自分は、『ええ、たぶん』などと言葉を濁してしまいます。
こうなったら、もう家庭看護のやりかた、受診の目安、今後の病状予想、何を言っても説得力がなくなります。
かぜ、盲腸、下痢、便秘、肺炎、気管支炎、脳炎、脱腸、これぐらいの病名で対処できたらいいのですが、近頃では訴訟の問題もあります。上記の病名で対処していたら診断能力に問題ありとして、裁判では負けます。かくして、生命保険の注釈のように読まれなくてもいいからプリントを配ったり、スナックの会計のときのように、メモに病名を書いて、そっと渡す毎日です。
284もある病原体の中から、乏しい知識を振り絞り、近隣の流行状況、年齢、垣間見たのどの所見、泣き声の間に時々聞こえる呼吸音、ちょっとしか見えない皮膚所見をつなぎあわせて、ようやくたどり着いたかぜ以外の診断名を、上記の一言で切り捨てないでください。医師の診断に対するやる気をそいでしまいます。
うつりますか?
聞きたいお気持ちは、わかります。しかし登園停止の病気です、とさっき言ったばかりです。
ご自分の聞きたいことだけ聞いて、人のいうことは聞かない、その態度は思春期になった子どもたちに顕著に現れることでしょう、などと心の中でつぶやいてしまいます。
そんな気持ちを抑えて、できるだけ冷静に『だから、他の人にうつさないために、熱が下がったからと言ってすぐに登校・登園させないでください。』といった途端に、『じゃあうちの子は、どうやってうつったのでしょう?』といじわるに質問されます。女性は男性に意地悪をするために、神様はお作りになったのでは、と邪推します。
ぐっとこらえて、『さぁ、今流行している病気なので、いろんな所でうつる可能性があります。でもオタクの場合は、はっきりしているのだから、決められた日数は休んでください。』と迫力なく言い捨てます。