『運動靴と赤い金魚』(97年イラン)



2000年5月 記


 イラン映画は話の終わらせ方が実に良い。潔い。スパッと切る。余計な説明は一切しない。だから逆に深い余韻が残る。うめぇ。

 今回のこれもやってくれます。ほんとにラストシーンだけ見た人なら、どう見ても悲劇の物語にしか見えないでしょう。ダメなお兄ちゃんがかわいい妹を悲しませる話にしか見えないはずです。しかしもう少し前から見ていれば、このラストシーンの後にどれほどハッピーな情景が控えているかがわかるはずです。そういう見事なつくりになっています。
 しかし、一生懸命がんばったお兄ちゃんが、がんばりすぎてしまって逆に報われないという、ちょっぴりカワイそうな終わり方でもあります。

 結局お話としては、お兄ちゃんが妹の靴をなくしてしまってさぁ大変というところから全てが始まります。アリの家は貧しくて、靴が破れたとしてもすぐに新しく買い代えることなんてできません。だからましてやなくしたなんて言おうものなら、コワイ父ちゃんにメチャクチャしかられます。そこでアリは仕方が無いので妹に自分の靴を貸して、当分の間二人で交互に使うことにするのです。

 さてさて、妹のザーラちゃんは小学校1年生ぐらいの小さな女の子ですが、やはり身だしなみにはちょっと気を配ります。あんちゃんの汚い靴はやはりイヤです。他の女の子達が履いている、キレイでカワイイ靴がうらやましくて仕方ありません。
 しかしザーラちゃん、靴への執着は尋常ならざるものがあります。ピンク色のカワイイ靴を履いた女の子に目をつけ、下校時にあとをつけてその子の家の前まで行ってしまうほどです。さながら”ストーカー”のごとく(ってゆーかそんなんじゃなくて、もっとほほえましい映画なんですが。表現が悪くてすいません。)。
 将来、”イメルダ”のようになってしまわないかちょっぴり心配です。

 しかしイランの女の子はみんな同じかっこをしています。ズボンを履いて紺色のコート状の服を上から着て、そこへさらに頭からスッポリ真っ白な”アレ”(なんていうんだ?)をかぶっています。後ろから見るとみんな同じで、誰が誰だか見分けがつきません。でも顔だけ出ているのでとてもかわいいんです。イランの子供たちは男の子でも女の子でも、みんな黒く輝く大きな瞳を持っていてとてもかわいいです。

 さて、靴が無くて不自由な日々が何日か続いていきます。そしてある日、アリの学校(もしくはその学区全体)でマラソン大会が開かれることになりました。上位3名には賞品が出ます。しかもよくよく見てみれば、3等の賞品の中に”運動靴”があるではありませんか!お兄ちゃんは体育の先生に頼み込んでなんとか出場選手にしてもらいます。そして妹にも「絶対3位になるぞ!」と約束をします。さて結果は?


 イラン映画は大体中国映画と同じぐらいの時期(1990年代)に世界で注目されるようになってきたんですよね。映像美という点ではやはり中国にはかないませんが、話のわかりやすさはおそらく世界一でしょう。子供が主人公の映画が圧倒的に多いです。昔のイタリア映画に近いものがあります。ほほえましいっす。大人から子供まで安心して楽しめる作品ばかりです。やはり思いっきりイスラム教国なので、あまりキツイものはできないのでしょう。たしか検閲制度があったと思います。中国映画にも大陸側のものには同じくあったと思います。だからこそ逆に監督たちは、検閲をパスする為に知恵を絞って工夫をするのです。そして象徴性、あるいは風刺性の高い良質の作品が出来上がってくるのです。
 イラン映画の巨匠、アッバス・キアロスタミか誰かが言ってました。「制限があることによって、逆に表現の方法に幅が出てくるのです。制限されることも悪いことばかりとは限りません。」と。


 ちょっとした発見。最近映画が盛んになった国々を見てみると、どこも同時に”国力”も上がってきてるんですよね。中国とかイギリスとかイラン(アメリカが警戒してるということは国力が上がってきているということ。)とか。イランなんて、この映画の中にも出てきますが、首都のテヘランの町の様子を見てみれば一目瞭然です。近代的なピッカピカの高層ビルがボンボン建ってます。初めて見る人は驚くばかりでしょう。
 あるいはこういう見方ができるかもしれません。世界の各地域の”地域大国”が、良質の映画を創り出している、と。東アジアの中国、西アジアのイラン、南アジアのインド、南米のブラジル(『セントラル・ステーション』という素晴らしい映画がありました。)、ヨーロッパのイギリス(私はどの作品も好きではありませんが。あと”ドイツ”も入れるべきなんでしょうか?)等々。
 この勝手な法則から推理して、近々国際的な映画賞を受賞するかもしれない国を挙げてみれば、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、インドネシア、ベトナム(すでに評価が高い。)、パキスタン、アルゼンチン、そしてロシア(すでに高い評価の監督はいるけど、あまりに芸術的過ぎて誰もついて来てない。)、などなど。
 どうだろ?