| 私たちは、自分を認めることができて初めて他者を受け入れることが できるのです。 自分を尊ぶことで、他者の尊さもわかるのではないでしょうか。 ですから、自分をほめることは、決して自己中心的なことではありません 手塚千砂子 強さも優しさも秘めた存在 植物はほめて育てるとよく育ち、汚い言葉をかけると枯れてしまうと言いますね。「子どもはほめて育てましょう」とも。ほめる言葉、肯定的な言葉には良い波長、エネルギーがあります。 私は長く自己尊重感.肯定感を高めるための研究に取り組み、都内で「心のジム」を主宰するほか、ホームページや講演を通じて「命の声を聴く自己尊重トレーニング」を皆さんにお伝えしています。 何千回と行なったワークショップと実証を経て開発したプログラムの中心は、「自分をほめる」「体を感じ、感謝する」、その2つ。本来、私たちは皆、素晴らしい愛もあれば、強さも優しさもたっぷりと蓄えた“心の泉”を持っています。ところが、苦しくなるとそこから水を汲み出すことがむずかしくなります。否定的になり、マイナスの面ばかりを見るようになってしまうのです。そんな状態の泉から砂利や石ころを取り除き、本来の自分を取り戻す近道。それが自分をほめ、体に感謝することなのです。 あなたは、最近自分自身をほめたことがありますか? 現代の女性は、仕事にも一生懸命。けれど、自分をほめるよりも、いじめている人のほうが多いように、私には思えます。心と体の状態を十分に知らないままに、「こうあるべき」という姿に自分を当てはめてはいないでしょうか。 10年前にお会いした、ある女性のことをお話ししましょう。その方は当時74歳。子どものころから体が弱く、死ぬ前に一度でいいから健康になりたい。それが私を訪ねていらした理由でした。 夫に従い、姑に従うのが当たり前の時代を生きてきた方ですから、自分をほめるなんてしたことがありません。体についても、これまで恨んでばかりだったはずです。それでも根気強く、「体さん、今日もありがとう」と言葉をかけ、自分の良いところを探しては日記に書くことを毎日続けてもらいました。「私なんか」といった、自分に向けるマイナスの言葉も使わない約束をしました。するとしばらくして「あっちが悪かったのが良くなりました」「こっちが楽になりました」と少しずつ変化が出始めたのです。その後、わずか半年で富士山に旅行できるまでに恢復し、今も元気でお過ごしです。誰にでも素晴らしい可能性がある。それは自分を肯定して初めて開かれる。この事例から、私は自分が実践してきたことの正しさを改めて教えてもらった思いでした。 私自身を発見する楽しさ トレーニングを始める前に、まずノートを一冊用意し、表紙に「ほめ日記」と書いて下さい。ここには今日から自分をほめることだけ書くと決めます。 「長所は知っています」 そう思う人も、意識して文章化することが大切です。書くことで意識にインプットし、目で確認する。それぞれ使う脳の部分が違いますよね。本当は、声に出してほめていただくとより大きな効果が得られるのですが、これはご家族や周囲の人に不審に思われない程度に。(笑) 初めのうちは多くの人が「ほめる言葉が浮かばない」と言います。中には、照れてしまう人も・・・。けれども、大人になると「ごはんがおいしかった」と家族が言ってくれることだって、ごくたまにしかありません。それでも頑張っている自分を、せめてあなた自身はほめてあげましょうよ。毎日が無理なら1週間に1度でも、同じことを書いてもかまいません。 「何ができた」「あれを頑張った」「これもやった」 「ほめ日記」にこんな言葉が並ぶのは、たいてい外で頑張っている人たちです。 できたことしかほめられない。これでは幸せには近づけませんよ。常に、できたか、できないかという採点を自分にしていくと、「次はできないのでは」と不安に駆られるし、つい人と較べて、どんどん苦しくなってしまいます。 表面的なことばかり肯定しようとするのも避けたほうがいいですね。どれだけ裕福か、どれだけ資格を持っているか、あるいはどれだけ若く美しいか。そうそう、どれだけ健康か、というのもあります(笑)。傍から評価される自分を追いかけるのは、一見、自己肯定的な行動と勘違いされがちですが、正反対の行動です。 書いて記録することのよい点は、あとから読み返せることです。落ち込んだときに過去の日記を読めば力をもらえるし、「何だか、できたことばかり書いているな」と気づけます。この、自分で気づくことが大事ですね。 「それでは、今までと違う良い点を探してみよう」と気づいた人の日記は、こんなふうに変わります。 「友人との会話がうまくいったね」 「相手の気持ちが少しでも読めた私は、素晴らしい」 「ふと道端の花が目に入った。案外いい感性をしているかも」 いろいろなところに目がいき、目に見えないものをほめ始めるのは、心が開いてきている証拠。これまで知らなかった本来の自分が表に出てきているのです。 自分の中にこんなにいいものがある。気づかなかった感覚がある。新しい自分を発見したら、「気づいた私はエライ!」と、またノートに書きます。 自分に対する発見を積み重ねると、自分自身への見方が変わってきますよ。内的な力や潜在している力を信じられるようになる。何歳であろうと、これからの自分に希望がもてるようになります。そして、これが本当の自己尊重感(セルフ・エスティ―ム)なのですね。 自分に集中する、いいところを探していくって、文句なく楽しいことですよ。私のもとにはこのトレーニングに取り組んだ方から数多くの報告が寄せられますが、続けるうちに行動が整理されて、余計なことをしなくなったという話はよく聞きます。また、育児や介護など、自分より他者を優先しなければならない状況にある人は、「ほめ日記」を書くことで心が落ち着き、大変なときは助けを求められるようになったと言います。 私たちは、自分を認めることができて初めて他者を受け入れることができる。自分を尊ぶことで、他者の尊さもわかるのではないでしょうか。ですから、自分をほめることは、決して自己中心的なことではありません。他者を理解するために、欠かせない一歩なのです。 細胞のひとつひとつに感謝を さて、もうひとつの柱は体を感じるワ―クです。あなたが最近、体を意識したのはどんなときですか? ケガや病気をしてつらかったときでしょうか。あるいは、人間ドックの結果が思わしくなくて心配になったときでしょうか。 誰でも、指先をちょっとケガしただけで家事に差し障ることを知っています。それなのに、健康なとき、体は意識を向けられることがありません。つらく苦しい場合にのみネガティブな感情をぶつけられるのです。ですから、このワークは、体操というよりも、無理なく体を動かし、意識できるように考えられています。 では、大きな流れを紹介しましょう。 まず、自然の中にいる自分をイメージし深い呼吸を繰り返します。姿勢は仰向けでも椅子に座った状態でもかまいません。そして、頭は重くないか、肩は凝っていないか、首、腰、足、手は・・・と体全体の状態を丁寧に感じていきます。少しでも調子の悪い部分は、「こんなに疲れているのに、今日も一日頑張ってくれてありがとう」とねぎらいましょう。 続けて、腰を左右にゆらゆらと動かし、手首、足首をブラブラ。首は首筋を伸ばすようにゆっくりと右、左。ここまできたら手の指を組み大きく息を吸いながら頭の上に伸ばします。仰向けの人は、足も目一杯のばしましょう。肝心なのは、呼吸をできるだけゆったりと深くして、動作と呼吸を合わせること。上手にできなくてもかまいませんから、腹式呼吸を心がけてみてください。 現代人は呼吸が浅いといわれますが、呼吸はとても大切です。特にお腹に力を入れてゆっくりと行う呼吸は、たとえストレスを感じているときでも「今は休息のときだ」と脳を刺激し、神経伝達物質のセロトニンやメラトニンなどのホルモンを出してストレスを緩和し、よい睡眠へと導いてくれますし、リラックスした状態に調整してくれます。 最後は、右手を左の胸にあて、ドキンドキンと打つ心臓の動きを感じ、左手を右の胸にあてて、両手で自分の体を抱き寄せるようにしてすべての内臓や骨の1本1本、60兆個の細胞のひとつひとつの働きに感謝し、体の中心に向かって感謝の言葉をかけてあげましょう。 心臓は1日に10万回、皆さんが寝ている間も休みなく鼓動を続けています。また人間1人分の血管をすべてつなぐと、地球2周半もの長さになるそうです。こういったことを持ち主がよく理解していなくても、体は毎日ちゃんと動いてくれている。その命は誰がくれたのでしょうか。もちろん、親であり、祖先なのですが、つきつめてゆけば宇宙がくれたものですね。そう、私たちは宇宙の一部であり、私たち自身の内面が宇宙でもあるのです。毎日のトレーニングを通じてこういったことが感じられたとき、私は深い感動を覚えます。そして、体に感謝の声をかけるとき、たしかに、どこかから返事が返ってくるのです。 あるお母さんは、小さなお子さんと2人でこのトレーニングに取り組みました。毎日、お風呂の中で自分の心臓に手をあて鼓動を感じるだけでなく、互いの胸に手をあてて鼓動を感じ合ったそうです。するとお子さんは、猫や犬のお腹を優しくそっとなでるようになったと言います。親殺し、子殺しの絶えない時代に、このお母さんは命の尊さをおのずと伝えたのですね。心と体について考えるための最高の教材は、実は皆さん自身の中にあるのです。 どんな植物も、根をしっかりさせて初めていい花が咲き、いい実を実らせます。人間も同じ。自分という根がしっかりあれば、大自然の恵みを受けて大きく育ちます。それなのに私たちは、ともすると根本的なことを忘れ、外から肥料ばかりを与えようとしていないでしょうか。 老いは誰にでも等しく訪れます。けれど、肉体は老いても、毎日新しい発見を続けていけば、1日1日新しい自分になっていくことができます。 私たちは持てる能力の10パーセントしか使っていないそうですね。残りの90パ―セントは潜在したままだとか。ならば、このトレーニングを続けて死ぬ間際まで未知の自分と出会ってみませんか? 私自身、これからもそんな自分との出会いを続けることを楽しみにしているのです。 (構成・藤田 幸枝) |
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