九州線唱歌 汽車 (1番〜54番・門司〜長崎〜鹿児島)


1. 鳥も通わぬ玄界の 海原遠く右に見て
汐の流も早鞆の 瀬戸を渡れば門司港
2. 門司の関屋の跡旧りて あらたに起こる石炭の
輸出にぎわう一大市 鹿児島線の起点の地
3. 和布刈(めかり)神社の鎮守せる 和布刈の鼻に立つ時は
壇ノ浦波目の前に ながめやられて夏涼し
4. 門司打ち過ぎて大里駅 海辺は音に企救の浜
安徳帝のおわしつる 柳の御所もこのところ
5. 織物名高き小倉市に 置かるる師団は第十二
見るべき寺は真宗の 九州本山永照寺
6. 豊州線に乗り替えて ゆくや行橋新田原(しんでんばる・にゅうたばる)
椎田松江の浜づたい 左に望は周防灘
7. 中津の町から遡る 山国川の川上は
天下に無しと山陽が めでし耶麻渓大絶景
8. 青の洞門打ちくぐり ゆけば羅漢寺屏風岩
うしろに峙つ彦山は 雲おしわけて豊前一
9. 宇佐には祭る八幡宮 神勅受けて清麿が
天位を無窮に支えたる 御稜威(みいづ)は輝く千代八千代
10. 名に聞こえたる温泉場 別府十二里馬車もあり
大分湾の一方を しめて浴客四時絶えず
11. 小倉に帰りて叉ゆけば 煤烟おおう若松の
港はあれよと洞(くき)の海 隔てて向かう戸畑駅
12. 三十哩(まいる)の鉄道を 構内長く敷き渡す
東洋一の大規模を 示すは八幡の製鉄所
13. 神功后の旧蹟を 残すは福間の宮地嶽
仲哀帝の御廟所は 官幣大社の香椎宮
14. 博多湾線のりかえて ゆけば多々羅の川尻に
望む名島の波間より 帆柱石ぞ空に立つ
15. むかし弘安年中に 蒙古の戦艦襲来し
我と戦い敗られて 沈みし遺跡は此海辺
16. 醍醐の帝の宸筆を 写して敵国降伏の
四大字書きたる額面の 懸かるは箱崎八幡宮
17. 多々羅の浜より博多まで つづける千代の松原は
三松原の其一つ ながめ妙なる景色かな
18. 東公園打ち過ぎて 下車せば帯地の名産地
博多と西の福岡を 合わせて呼ばるる福岡市
19. 九州一の大都会 商業日々栄えゆく
西公園の眺望は 玄界灘まで唯一目
20. 遠き船路と古は よそに聞きたる筑紫路も
都を出でて二日市 おるれば太宰府天満宮
21. 恩賜の御衣を捧持して 余香拝せし誠忠の
心をあおぐ天拝山 山の麓は武蔵の湯
22. 佐賀には五十五聯隊(連隊) 松原神社神野茶屋
久保田を北に乗り替えて ゆけば鮎つる松浦川
23. 川の裾には焼物の 名に聞く唐津の港あり
虹ノ松原二里青く 東に領巾振(ひれふる)山高し
24. 叉立ち帰る本線の 牛津山口打ち過ぎて
温泉さかゆる武雄町 公園春の花もよし
25. ここより馬車の便ありて 嬉野温泉道三里
鹿島の稲荷は五里足らず ゆけや急がぬ旅ならば
26. 有田は陶器の名産地 線路はここより分岐して
つづく伊万里の港には 影さす浸す伊万里富士
27. 三河内過ぎて行く汽車の 早岐は佐世保の分岐駅
佐世保におかるる鎮守府の 威風に靡くや四方の海
28. 早岐を出でて南風崎 川棚彼杵松原と
走せゆく儘に眺めやる 大村湾の好風景
29. 大村氏の旧藩地 大村城の跡とえば
公園海に突き出でて 春は漲る花の雲
30. 音にも喜々津大草の あたりは名に負う鯛ノ浦
並ぶ島々濃く薄く 釣りする船も面白や
31. 時間長与のトンネルも 潜り潜りて長崎に
着きしは夢か夢ならぬ ここぞ著名の開港場
32. 長崎公園諏訪神社 夏の涼しき蛍茶屋
支那寺名高き崇福寺 市街は青く海深し
33. なお見るべきは水源地 飽(あく)の浦なる造船所
ついでに訪わん高島の 炭坑までは海三里
34. あわれ弥生の空ならば かねて噺に伝え聞く
全国無比の大奇観 凧合戦も見るべきを
35. 長崎隈なく一見し 帰は鳥栖より乗り替えて
わたる次郎の筑後川 菊池武光苦戦の地
36. 久留米絣の産地なる 久留米の寺に独り立つ
墓は高山彦九郎 参詣絶えぬは水天宮
37. 鉱泉名高き船小屋は 羽犬塚にて下車すべく
三池炭坑見る人は 大牟田おりてむだならず
38. 長洲過ぎつつ有明の 海のあなたを見渡せば
温泉(雲仙)嶽は青空に 聳えて四千数百尺
39. 十年役に官軍が 十七昼夜たたかいて
賊塁おとしし田原坂 木葉駅より二十町
40. 山鹿の湯まで四里と聞く 植木を過ぎて忽ちに
来る都会は熊本市 市中におかるる六師団
41. 城は清正築造の 誉れ雄々しき跡なるを
兵火に罹りて今は唯 形見を残す宇土櫓
42. 見めぐる加藤社本妙寺 花岡山に水前寺
かえりに休む公園は 名も白河の下河原
43. 噴火の烟絶間なく 雲居に眺むる阿蘇山は
熊本市よりは道十里 遊心勃ったり登山せん
44. 宇土より三角半島を 貫く端は三角港
天草島は目の前に 語れば答うるばかりにて
45. 右に望むは有明海 島原半島程近く
左に見るは八代湾 不知火もゆるは秋半ば
46. 有佐駅より十里ほど 山奥深く分け入れば
平家の子孫そのままに 今も残れる五箇の荘
47. 八代宮のある八代は 八代鮎の名産地
あゆみを望む旅人には 日奈久温泉遠からず
48 三急流の随一と その名を得たる球磨川に
沿いつつのぼる十六里 矢を射る水勢山ふるう
49. 坂本白石一勝地 送り迎える程もなく
奇岩激流あとに見て 人吉町に着きにけり
50. ここは相良氏旧城地 俄に是より馳せ登ぼる
汽車の勾配大畑に ゆるめて作るループ式
51. 肥後と日向の境なる 矢嶽トンネル出で来れば
雲井に望む霧島の 嶺は神代のままにして
52. 吉松栗野嘉例川 彦火火出見の御陵を
遥拝しつつ着く駅は 煙草産地の国分町
53. 加治木重富弓型に 沿いゆく錦江湾内の
風景富ます桜島 薩摩富士とは是かよと
54. 大崎トンネル打ち過ぎて 早くも着きぬ鹿児島市
東京出でて三日目に 来らるる汽車の有難さ

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