鉄道唱歌 信州編 (1番〜28番・上野〜上田)


1. 上野(うえの)の山に鳴り渉る 汽笛の声と諸共に
発車(いづ)れば何時か日暮(ひぐらし)の 里も離れて紅葉散る
2. 道灌山(どうかんやま)(ふもと)より 田畑の中を走りつつ
飛鳥(あすか)の山の影に住む 王子(おうじ)の町に着きにける
3. 名も赤羽(あかばね)(とどろ)くは 戦時御用の火薬庫ぞ
(わらび)(うえ)(しの)がんと 探す浦和(うらわ)駅路(えきみち)
4. 埼玉県冶のある所 大宮町(おおみやまち)は公園と
永川の神の宮殿(みやい)にて その名を世間に上尾駅(あげおえき)
5. 手を桶川(おけがわ)鴻巣(こうのす)を 入れて()づるや吹上(ふきあげ)
世にも名高き年の魚 蓮生山(しょうれんやま)の鐘の音に
6. 熊谷二郎直実(くまがやじろうなおざね)(おもかげ)今も忍ばれて
旅の衣も自ずから ぬるる情ぞいと深谷(ふかや)
7. 西方一黛(にしいったい)の山脈は 秩父(ちちぶ)の山の山つづき
秩父(ちちぶ)の庄司重忠の 居城の址も草しげく
8. 岡部(おかべ)の村に六弥太が 人となりぬる古跡あり
近き傍らに忠度(ただのり)の 墳墓もありて露深し
9. 気を本庄(ほんじょう)に取り直し 進めばやがて神保原(じんぼはら)
己が心を新町(にいまち)(そぞ)ぐ沢の湯浄法寺
10. 馬に倉賀野(くらがの)置き据えて 渉るは清き神流川(かんながわ)
奇石に激しく浪白し 見るも中々心地よし
11. ふりにし多胡の(いしぶみ)は 多胡の城址に訪ふて見ん
金井(かない)の沢の(いしぶみ)や 山上の碑は後にして
12. 走り進めば日の足も まだ高崎(たかさき)の宿はづれ
喇叭(らっぱ)の声に気もいさみ 汽車のあゆみももどかしや
13. 第一師団の分営の 軍馬の声に促され
前橋(まえばし)線と立ち分かれ 四方の風光を眺めつつ
14. 走る心地の飯塚(いいづか)や ゆられて睡る夢路さえ
おのずと安き安中(あんなか)の 宿を過ぐれば其むかし
15. 楯で籠たる里見氏(さとみし)の 鷹の巣山の城址あり
今は音なう人さへも 絶えてなき世のあはれさに
16. 涙片手に汲む磯の 磯部(いそべ)の宿の鉱泉は
効験特にしるしとて 浴客常に絶え間なし
17. 左方に高く(そびえ)るは 妙義の山の高嶺ぞ
右窓に雲と見まがうは 榛名(はるな)の嶺の白雪ぞ
18. 佐々木三郎盛綱(ささきさぶろろうもりつな)の 古跡も近傍(ここ)にありときく
尋ぬる客を松井田(まついだ)と 共に登らん射抜岩
19. 円山(まるやま)坂や郷原(さとはら)の 温泉を横に横川(よこかわ)
かかれば線路も急となり 登り兼ねたる苦策たり
20. 生み出したる「アプト」式 二十と六つの隧道(とんねる)
安々昇る山上は 碓氷峠(うすいとうげ)の絶頂ぞ
21. 開けし御代の仁恵(めぐみ)には 如何なる山の奥にても
(かす)かに遠き谷にても 見ることもなや熊ノ平(くまのひら)
22. しばし足をも霧積の 温泉に息め山々の
秋の錦を眺めなば おのずから身も軽井沢(かるいざわ)
23. 如何に烈しき炎熱も 一たび此処に身を入れば
更に苦熱を感ぜぬと 亦有りがたき御代田(みよだ)かな
24. 雲表に(そびえ)浅間山(あさまやま) 何に思いを焦がしてか
日夜胸をばもやしつつ 天に恨みを述ぶるらん
25. 小諸(こもろ)に身をも忍ばせて 終日田中(たなか)に立ち出でつ
草ぎりもしつ耕しつ 大屋(あそび)に遊び暮らせかし
26. 此処に名に負う上下の 諏訪(すわ)の地方や松本(まつもと)
往来の人の昇降地 近年開けしステーション
27. 上田(うえだ)の城は秀忠(ひでただ)の 大軍勢を喰い留めて
関ヶ原(せきがはら)への会戦に わざと機会をはづさせし
28. 真田(さなだ)親子の軍略と 共に名高き古跡にて
今もさびしき月影は 其愚(そのぐ)を笑うに彷佛(さもに)たり

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