鉄道唱歌 信州編 (薫志堂/1番〜31番・上野〜吾嬬)


1. 花の都の上野山(うえのやま) 汽笛を跡に名残なく
かすむ朝霧やぶりつつ 汽車の旅にと立出でぬ
2. 道灌山(どうかんやま)(ふもと)なる 田端(たばた)の駅に着きぬれば
東を指せる常磐線(じょうばんせん) 上がる煙の勇ましさ
3. 雪かとまがう飛鳥山(あすかやま) 風にさそわれひらひらと
散れる花びら舞える時 (さぞ)や心地のよかるらん
4. 王子(おうじ)を跡に赤羽(あかばね)や 乗りかえ行けば新橋(しんばし)
架渡したる鉄橋は 洗いもきよき荒川(あらかわ)
5. (わらび)を過ぎて浦和町(うらわちょう) 埼玉(さいたま)県庁ここに在り
果しもつきぬ広き野辺 秋は穂波をうたすらん
6. 西にそびゆる富士の嶺 朝日にまばゆくさす影は
雪に照り沿い輝きて 画にもかかまく景色なり
7. 奥州線に乗換の 大宮(おおみや)あとに馳せ出でば
彼方にしげる一叢(ひとむら)の 松の林にしたたれる
8. 緑をこめし其の中に 鎮まりませる御社(みやしろ)
武蔵(むさし)の国の一の宮 氷川神社(ひかわじんじゃ)とよび奉る
9. 上尾・桶川(あげお・おけがわ)打ちすぎて 雁にゆかりの鴻巣(こうのす)
古来名だかき勝願寺(しょうがんじ) 千歳を過ぎし寺かとや
10. 吹上(ふきあげ)あとに熊谷(くまがや)は 連生法師直実(なおざね)
あわれとどむる古跡に 袖しぼるこそ悲しけれ
11. 西にかすめる秩父山(ちちぶさん) 山の此方の満福寺(まんぷくじ)
昔をしのぶ重忠(しげただ)の 墳墓いとど苔むせり
12. 深谷(ふかや)にとなる岡部(おかべ)には 衆生済度(しゅじょうさいど)の普済寺や
ここに遺れる六弥太の 古跡訪ふも哀なり
13. いつしか着ける本庄(ほんじょう)の 眺もきよき小倉山(こくらやま)
名残を惜しむ勅使河原(てしがわら) はや上野(こうずけ)に入りにけり
14. 新町(にいまち)よりはひつじさる 神流(かんな)の川の水上(みなかみ)
怪岩奇岩たちならぶ 珠をもくだき雪ぞとぶ
15. 右に聳ゆる赤城山(あかぎさん) 見つつ着きたる倉賀野(くらがの)
多胡に(いしぶみ)見て行けん 友にはなしの土産にも
16. 佐野(さの)の船橋いづこぞと 古歌をたづねて跡とへど
きしる車の音に消され 名も高崎(たかさき)に着きにける
17. 若葉しげれる公園や 頼政神社(よりまさじんじゃ)神さびて
代々の藩主の菩提寺は 松に名だかき大信寺
18. 西に分るる鉄道は 製糸に其の名知られたる
富岡(とみおか)過ぎて下仁田(しもにた)へ 走れば二十一(まいる)
19. 鉄道馬車は渋川(しぶかわ)へ 山路たどれば伊香保(いかほのゆ)の湯
榛名(はるな)の湖に影したす 小富士の姿やさしけれ
20. 汽車路東に分るれば 前橋市(まえばしし)へは十五分
伊勢崎・桐生(いせざき・きりゅう)束の間に いにし面影のこしたる
21. 足利黌(あしかがこう)は今もなお めぐみをのこす其の本は
二千余年のそのむかし 小野篁(おののたかむら)なりとや
22. 水や逆賊蹶起(けっき)の地 その跡だにも見分けねど
同じき祖の新田氏(にったし) 今もかがやく金山(かなやま)
23. 佐野(さの)栃木(とちぎ)を過ぎぬれば 奥州線の小山駅(おやまえき)
やがて支線を立ちもどり 再びきたる高崎市(たかさきし)
24. 飯塚(いいづか)過ぎて彼方には 榛名(はるな)の峰は雲を衝き
見渡すかぎり一帯の 桑園(そうえん)いとど繁りたり
25. 飼養のさかる安中(あんなか)に 送られつつも磯部駅(いそべえき)
(つと)にきこえし鉱泉は 土地の名たかきしるしなり
26. 西に魏峩(ぎが)たる妙義山(みょうぎさん) 三つの(いただき)いやたかく
中にもたかき白雲峰 夏の景色やよからまし
27. 沿いて遡るは碓氷川(うすいがわ) 右と左の山ちかく
松井田(まついだ)あとに横川(よこかわ)や 過ぎる線路は上り坂
28. そも此の山は上野(こうずけ)信濃(しなの)の国の境なる
碓氷峠(うすいとうげ)阻路(そばみち)に 築きなしたる鉄道は
29. 常闇なせるトンネルを 過ぎつる数は二十六
上りはつれば軽井沢(かるいざわ) 過ぎ来し方を眺むれば
30. 小碓(おうす)皇子(おうじ)のよぎられて 姫をしたへるまごころの
吾嬬(あがつま)はやとのたまひし 古跡はいずこ此のあたり
31. ここは紅葉の名勝地 秋の錦をさらす時
夕陽てりそいてかやけば 眺望(ながめ)もいと増すとかや

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