地理唱歌 汽車の旅(上野〜大宮〜高崎〜長野)


第一 上野〜大宮〜高崎 中山道

上野(うえの)を立ちて大宮(おおみや)や 送り迎うる駅と駅
発車を告ぐる笛の音の あわただしさよ汽車の旅
上尾・桶川・鴻ノ巣(あげお・おけがわ・こうのす)や けぶり吹上いぶせくも
駅夫の声におどろけば ここは熊谷(くまがや)花の土堤
源平二家の花役者 蓮生法師の菩提(ぼだい)とて
青苔深くなめらかに 五輪の塔ぞいかめしき
古歌にもきく風流の (つま)をしたいてはるばると
思い深谷(ふかや)古墳(ふるつか)に 手向けの花は今も咲く
群馬(ぐんま)も近し本庄(ほんじょう)神保ヶ原(じんぼがはら)を越えゆけば
名残は惜しき武蔵野(むさしの)の 都を西に三十里
送り迎うる町と町 新町・倉賀野(にいまち・くらがの)いつしかに
名も高崎(たかさき)やここはこれ 信州線の乗りかへ場
県内第二の都会とて 馬車の往来にぎわしく
ここに鎮めの兵営は 十五連隊二千人
三古碑の一多胡の(いしぶみ)も ここより道程遠からず
名に富岡(とみおか)の製糸場も 汽車の便あり程近し

第二 高崎〜長野 信越線

前橋(まえばし)行きに立ち分かれ はや我が汽車は出でて行く
飯塚(いいづか)駅もいつしかに 安中(あんなか)駅につきにけり
誰も磯部(いそべ)の鉱泉に 旅の疲れを洗わんと
足を停むるひまもなく 着くや松井田(まついだ)停車場(ステーション)
妙義(みょうぎ)おろしの涼しくて 夏も流るる横川(よこかわ)
関こそあとものこらねど 人の心やとまるらん
きざめる如き山かげに 過ぎこし方を眺むれば
はや関東も消えゆけて 都は遠し雲低し
行くての方を眺めむば 青山峩々(がが)(そばだ)ちて
したたる如き若緑 秋は紅葉の碓氷(うすい)
出でてはくぐる隧道(とんねる)の 数は二十六その中の
熊ノ平(くまのたいら)に休らへば 空気も潔し月も涼し
吾妻(あがつま)の古跡あたりぞと 眺むる窓に煙立ち
猿の声も聞えしを 響く笛の音あやにくし
窓もれ来る黒烟に むせしぶもしばし軽井沢(かるいざわ)
重荷おろしし心地して 休み御代田(みよだ)の窓の外
仰ぐかなたに峙てる 浅間ヶ岳の白けむり
東の空にたなびきて 雲こそ迷え佐久平(さくだいら)
小諸(こもろ)城址の懐古園(かいこえん) 老松かげを横えて
長蛇に似たる有様を おかしとめづる程もなく
田中(たなか)畠中(はたなか)畦づたい 飛ぶが如くに走りつつ
千曲(ちくま)の川の瀬にそいて いつか大屋(おおや)も別れゆく
せまれる谷の広まりて 地味も肥たる小平野
真田(さなだ)城址の上田(うえだ)(つむぎ)の産地の名残ぞや
千曲(ちくま)の流れ音たかく 汽笛のこえにひびきあい
坂城(さかしろ)の駅もいつしかに いくや屋代(やしろ)停車場(ステーション)
世に名高き更科(さらしな)田毎(たごと)の月の光にて
昔を今に照りかえす 姨捨山(おばすてやま)のものがたり
八幡(はちまん)神社の境内は 老樹森々茂りあい
(なお)くらき有様は 神さびてこそ見えにけれ
一道長き鉄橋に 昔の跡を忍びつつ
はや篠ノ井(しののい)停車場(ステーション) 中央線の分かれ道
右に(そび)ゆる妻女山(さいじょさん) 左に立てる茶臼山(ちゃうすやま)
川中島(かわなかじま)やこれぞこの 甲越二軍の古戦場
はや犀川(さいかわ)の鉄橋を 渡ればやがて長野駅(ながのえき)
信州一の大都会 人の往来もにぎわしく
四海に名高き善光寺(ぜんこうじ) 百済(くだら)国より伝来の
釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ)のまし所 仰ぐ功徳(くどく)のありがたや




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