41. 新庄御所を打ちすぎて 掖上ゆけば神武帝
国を蜻蛉(あきつ)と宣いし ほほ(口に兼ねる)間の丘ぞ仰がるる
42. 終われば起こる鉄道の 南和と紀和の繋口
五条すぎれば墨田より 紀伊の境に入りにけり
43. 瞬くひまに橋本と 叫ぶ駅夫に道とえば
紀ノ川わたり九度山を すぎて三里ぞ高野まで
44. 弘法大師この山を ひらきしよりは千年余
蜩ひびく骨堂の あたりは夏も風さむし
45. 木陰をぐらき不動坂 夕露しげき女人堂
見れば心もおのづから 塵の浮世を離れけり
46. ふたたび渡る紀ノ川の 水上とおく雲ならで
立てるは花の吉野山 見て来んものを春ならば
47. あわれ暫しは南朝の 仮の皇居となりたりし
吉水院の月のかげ 曇るか今も夜な夜なは
48. 夕べ悲しき梟の 声なり猶も身にしむは
如意輪堂の宝堂に のこる鏃の文字のあと
49. 親のめぐみの粉河より 叉乗る汽車は紀和の線
舟戸田井ノ瀬うちすぎて 和歌山みえし嬉しさよ
50. 紀ノ川口の和歌山は 南海一の都会にて
宮は日前国懸 旅の心の名草山
51. 紀三井寺より見わたせば 和歌の浦波しづかにて
こぎゆく海士の釣船は うかぶ木の葉か笹の葉か
52. 芦辺のあしの夕風に 散り来る露の玉津島
苫が島には灯台の 光ぞ夜は美しき
53. 蜜柑のいづる有田村 鐘の名ひびく道成寺
紀州名所は多けれど 道の遠きをいかにせん
54. みかえる跡に立ちのこる 城の天守の白壁は
茂れる松の木の間より いつまで吾を送るらん
55. 北口いでて走りゆく 南海線の道すがら
窓に親しむ朝風の 深日はここよ夢のまに
56. 尾崎に立てる本願寺 樽井にちかき躑躅山
やまずに来て見ん春ふけて 花うつくしく咲く頃は
57. 佐野の松原貫之が 歌に知られし蟻通
蟻のおもいにあらねども とどく願いは汽車の恩
58. 貝塚いでしかいありて はや岸和田の城の跡
ここは大津かいざさらば おりて信太の楠も見ん
59. かけじや袖とよみおきし その名高師が浜の波
よする浜寺あとに見て ゆけば湊は早前に
60. 堺の浜の風景に 旅の心もうばわれて
汽車のいづるも忘れたり 霞むはそれか淡路島
61. 段通刃物の名産に 心のこして叉も来ん
沖に鯛つる花の春 磯に舟こぐ月の秋
62. 蘇鉄に名ある古寺の 話ききつつ大和川
渡ればあれに住吉の 松も灯籠も近づきぬ
63. 遠里小野の夕あらし ふくや阿倍野の松かげに
顕家父子の社あり 忠死のあとは何方ぞ
64. 治まる御代の天下茶屋 さわがぬ波の難波駅
いさみて出づる旅人の 心はあとに残れども
ご意見や誤字・脱字のご指摘はメール、
または掲示板までお願いします
home