和紙

2.章子とおばあさん

 あや子ちゃんは、章子の仲良しのお友だちです。あや子ちゃんは、無教会の日曜学校へ行っていました。そして、神さまや、エスさまの話をしてくれました。章子も、なんだか行きたくなりました。それである日曜に、あや子ちゃんと一緒に、日曜学校に行きました。
 章子は、無教会の日曜学校って、どんな所かと思いました。立派な教会があって、立派な牧師さんがいるところだと思いました。けれど、違いました。無教会の日曜学校は、普通の人の家です。それは小林さんのお宅です。先生は、小林さんという女の人でした。牧師さんではなく、普通の家の奥さんでした。生徒は、あや子ちゃんと章子のたった二人きりでした。先生が一人、生徒が二人、全部で三人です。ほんとに小さい学校です。でも、エスさまが、霊という目に見えない姿で、いつも、一緒にいて下さると、先生は教えました。
 章子は、そこで、神さまとエスさまのことを、教えていただきました。神さまが、いつも、章子のことを、守って下さっていること、ごめんなさいすると、エスさまが章子の罪を、みんな引き受けて下さることが分かりました。賛美歌を歌って、お祈りもしました。そして、とても、とても、よい気持ちになりました。エスさまが、章子の心を中に、来て下さったからです。鳩のように優しい神さまの霊が、天から下って、章子の心の中へ、入って下さったのです。
 帰り道に、あや子ちゃんがいいました。
 『ねえ、章子ちゃん、よかったでしょう、日曜学校へ行って。』
 『ええ、よかったわ。』
と、章子は答えました。嬉しくて嬉しくて、たまらなかったのです。
 ニコニコ、ニコニコ、していました。
 『これから、日曜には、いつも行くわね。』
 『ええ、ゆくわ、きっとゆくわ。』
と、章子はいいました。そして、二人はエスさまのことを、お話しながら帰って行きました。
挿絵2-1 章子のおばあさんは病気です。長い長い病気で、ちっともよくなりません。随分のお年ですから治るのは難しいと、お医者さんが言っていました。年をとって、毎日毎日、病気で寝ているのは、辛いことです。頭が痛かったり、あっちこっち、苦しいところばかりです。おばあさんは、若いときから、随分苦労をしました。それはそれは、苦しいことばかりでした。朝から晩まで働いたり、子供を育てたり、大変でした。馬車馬といって、山のような荷を積んだ車を引いていく馬がいますね。おばあさんはあの馬とおなじです。日本の女の人の苦労というものは、とても、ひどいのです。昔は、特別にひどいものでした。ご飯を炊いたり、洗濯をしたり、子供のおむつを替えたり、繕い物をしたり、その上お百姓をしたり、店の仕事をしたりする人もいます。風邪をひいた位では寝ていられません。無理をしてでも、働かなければならないのです。
 ですから、年をとると、疲れが出て、病気なります。あんまり無理して働くので、疲れきってしまうのです。エスさまの十字架と、おんなじです。家中の苦労を、背負って下さるのです。ありがたいおばあさんです。ですから、お母さんや、おばあさんは、本当に大切にしないと申し訳ありませんね。
 でも、若い人たちは、おばあさんがどんなに苦労なさったかを、知りません。感謝する心を、時々忘れやすいのです。そして、若い人たちは、ずいぶん元気ですから、病人やお年寄りのそばには、あまりいたがりません。みんな元気に自分の仕事をしていて、おばあさんの事を、すこし忘れます。おばあさんは、少し怒りっぽくなっていました。ちょっとした事で、すぐ怒りました。そして、章子のお父さんとお母さんを呼んで、叱りつけました。そんなに怒らなくてもよいのに、と思うような事でも、よく怒りました。おばあさんは、寂しかったのです。お年寄りは、みんな寂しいので、怒りっぽくなっているのです。本当に、かわいそうな、おばあさん!
 挿絵2-2おつむが痛いというので、章子は、おばあさんのおつむを、もんであげました。章子は、おばあさんのお顔を眺めているうち、とても、とても、おばあさんがかわいそうになってきました。お気の毒なおばあさん!おばあさんは、エスさまのことを知らないから、怒ったり寂しがったりなさるのだ。ああ、神さま、どうか、章子のおばあさんに、エスさまのことを教えて上げて下さい。
その時、おばあさんが、パッチリ目を開けました。
 『章子や、お前のおかげで、頭の痛いのが、だいぶ良くなったよ。なにか、面白いお話でもしておくれ。』
 『じゃあ、おばあちゃん、エスさまのお話しましょうか。』
 『ああ、しておくれ、エスさまのお話をしておくれ。』
 章子は、嬉しくて嬉しくてたまりません。さっそく、エスさまのお話を始めました。
 「わたしたち人間は、どうして病気をしたり、年をとったり、死んだりするんでしょうか。また、喧嘩をしたり、怒ったり、憎んだり、いやな事ばかりするんでしょうか。それは、みんな、私たちが、神さまを忘れているからです。ですから、早く神さまに、ごめんなさいをしましょう。そうすると、エスさまがいらっして、私たちの悪い心、みんな持って行って下さいます。ニコニコ、ニコニコ、嬉しくて、たまらなくなります。これが天国です。この心が出来た人は、決して死にません。病気も、死ぬことも、怖くありません。悪い心を持っている人は、地獄にいるのです。そして、死んだら、もっともっとひどい地獄へ行かねばなりません。ですから、早く神さまに、ごめんなさいをして、エスさまに助けていただきましょう。」
 章子の話は、こんなお話でした。このことは、聖書という本に、書いてあります。聖書をは、神さまのお書きになった本です。
 おばあさんは、ニコニコして、聞いていらっしゃいましたが、やがて、ウトウトと、眠り始めました。
 ここは夢の中です。おばあさんの夢です。
 広い野原のようなところに、おばあさんが立っていました。寂しいところに、一人ぼっちでした。なんだか分かりませんが、体がぶるぶる震えています。怖いのです。
挿絵2-3 不意に悪魔が出てきました。一匹、二匹、三匹、もっともっと、います。どうする積もりでしょうか、おばあさんを食べてしまう積もりかもしれません。一緒に地獄へ、つき落とすつもりかもしれません。おばあさんは、夢の中で逃げようとしました。
 けれども、足が言うことを聞かないんです。走ろうとしても、走れません。なんだか、坂のようなところですが、登ろうとしても登れないんです。上の方から、少し明かりが射してくるようなんです。その方へ登ろうと、おばあさんは一生懸命です。悪魔の手が、おばあさんの着物のすそに、はい寄ってきました。
 その時、真っ暗闇の中で、おばあさんの手に、堅いものが、触りました。それは、なんだか、門の金具のようでした。
 『これは、天国の門だ!』
と、おばあさんは思いました。そして、その金具に一生懸命、しがみつきました。でも、悲しいことには、天国の門は、しっかりと閉まっていて、開きそうもありません。
 悪魔の爪が、がりがりと、おばあさんの着物を、ひっぱり始めました。もうだめです。天国の門は、ぴったりと閉まっていて開きません。どうしたらいいでしょう。おばあさんの目から、ポロポロ、ポロポロ、涙がこぼれ落ちました。つらい、つらい、おばあさん!かわいそうなおばあさん!
 その時、おばあさんは、章子の話を思い出しました。そうだ、エスさま!エスさまに、お願いしてみよう。おばあさんは、金具にかじりついたまま、泣きながら叫びました。挿絵2-4
 『神さま、神さま、許して下さい!私は、悪い悪い人間です。悪魔にさらわれて、地獄へ行っても、仕方のない女です。神さまのことを、考えもしないで、悪いことばかりして来ました。悪いことをしても、ごめんなさいもしませんでした。意地悪な、欲の深い女です。けれど、今になってやっと私は、自分が分かりました。神さま、もうごめんなさいをしても、間に合わないでしょうか。いいえ、神さま、孫の章子が教えてくれました。あなたは、どんな悪者でも許して下さる、いつでも許して下さる。そのために、大事なひとり息子のエスを、私たちに下さったのです。
 神さま、許して下さい!エスさま!エスさま!開けて下さい!孫の章子に聞いてきました。ここを、開けて下さい!』
 その声と一緒に、天国の門が、ギイッと、音をたてて開きました。光がさっと射して来ました。明るい、明るい、天国の光です。悪魔たちのいやな姿は、霧のように、消えてしまいました。
挿絵2-5 おばあさんは、天国の中へ、一足、あしを踏み入れました。まあ、このおばあさんの顔をごらんなさい。おばあさんは、ここで、何を見たでしょうか。奇麗な花もいっぱい咲いていたでしょうね。かわいい小鳥も飛び回っていたでしょうね。そして、エスさまが、ニコニコして出迎えてた下さったでしょうね。
 『おお、よく来たね。待っていたよ。』
と、おっしゃったでしょうね。懐かしいお父さんや、お母さんや、お友だちにも、会えたでしょうね。みんな、賛美歌を歌って、おばあちゃんを迎えてくれたでしょうね。ごらんなさい。おばさんの顔のしわが、だんだん、無くなって来たようです。曲がった腰も、まっすぐになったようですね。病気なんか、どっかへ、飛んで行ってしまったようです。ほんとうに、素晴らしい天国!
 私たちも、みんな、ここへ行きます。そしたら、おばあさんが、どんなものを、天国で見たかよく分かりますね。その時には、私たちも、おばあさんと同じように、こんなニコニコ顔をすることでしょう。それも、これも、みんな、優しい神さまのおかげです。エスさまのおかげです。
 おばあさんは、夢から醒めました。そして、章子を枕元に呼んで、ニコニコしながら申しました。
 『章子や、お前のおかげで、とてもいい夢を見たよ。神さまが見せて下さったのだ。私は、もう天国へ行ける。本当に、ありがたいことだ。章子や、一緒に、お祈りをしておくれ。』
 二人はおめめをつぶって、お祈りをしました。
 『天の神さま、エスさま、私たちに、あなたのことを、教えて下さって、本当にありがとうございます。私たちは、嬉しくて嬉しくて、たまりません。死んだら天国へ行けて、もっともっと、嬉しいです。早く死にたくてたまりません。天国ってどんなに良いところでしょう。お父さま、私たちを、こんなにも、かわいがって下さる天のお父さま、ありがとうございます。どうか、お父さま、エスさま、あなた方のことを知らないかわいそうな人たちにも、天国のこと、教えてあげて下さい。そして、みんなが天国へ行けるようにして下さい。そしたら、どんなに、嬉しいでしょう。章子のお父さんや、お母さんにも、神さまのことが、分かるようにして下さい。お友だちや、近所の人にも、わからせて下さい。神さまを知らない人は、みんな、憎んだり、悪口を言ったり、不平を言ったり、怖がったりして、暮らしています。お気の毒です。
 お父さま、私たちは、病気の年寄りと子供で、何のお役にも立ちませんが、でも、一生懸命働きます。あなたのこと、みんなに知らせます。どうか、私たちを助けて働かせて下さい。世の中には、丈夫な大人の人は、たくさんいます。けれど、そんな人たちは、たいてい、あなたを信じないのです。どうか、弱いわたしたちを助けて、あなたのお仕事をさせて下さい。
エスさまの御名によって、お父さま、感謝とお願いとをいたします。』


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