和紙

14.はさみ

 神さまが、一匹のかにをお造りなりました。歩けるように、足をつけて下さいました。見えるように、目も二つ、造って下さいました。ごはんが食べられるように、口も造って下さいました。
 おしまいに、立派な二本のはさみを造って下さいました。これは、手の役目をするのです。けれど、この手を、どんなことに使うために、神さまは造って下さったのでしょうね。
 よい事にでしょうか?悪い事にでしょうか?
 みなさんも二本の手を持っていますね。挙げてごらんなさい。そう、その手を皆さんは、どんなことに使ったらいいでしょうね?
 かにさんは、どうしたでしょうか?
 かにさんは、この手を使って・・・いいえ、手の代わりに、はさみでしたね・・・このはさみを使って、おいしい御馳走をとって食べました。御馳走を食べるためにだけ、使うものだと思ったのです。
 すると、となりのかにさんが来ていいました。
 『おや、君のところには、ずいぶんおいしそうな海苔がはえてるね。
僕にも食べさせてよ。』、
 『いやだよ。』
と、かにさんがいいました。
 『これは僕の場所だ。君は、自分の場所を探したらいいじゃないか。』
そこで、喧嘩がはじまりました。かにさんは、はさみを使って、チョキン、チョキン、となりのかにさんをはさみました。となりのかにさんは、痛い痛いと言って逃げて行きました。
 神さまからいただいた、はさみなのに、こんな悪いことに使っています。
 はさみは、どんどん、どんどん、大きくなりました。そして、かにさんも、どんどん、どんどん、威張った悪い人になりました。
 かにさんは、はさみで、おいしいものをとって食べたり、よその人をはさんで、いじめたりしました。はさみを、自分のことにだけ使いました。そして、働いて自分の持ち物をいっぱいにしました。よそのかにさんを、やってつけて、自分の場所を広げました。
 『どうだ。こんなに沢山の場所が、僕のものになった。僕は、もうお金持ちだぞ。偉いんだぞ。』
と、かにさんは、威張りました。
 威張って、うんとそっくり反りました。すると、風が吹いて、かにさんを岩から吹き落としました。
 きっと、神さまが、なさったのでしょうね。
 落ちたかにさんは、岩に背中をぶつけて、死んだようになってしまいました。
本当に死ぬんだと、かにさんは思いました。
 『ああ、僕は死んで、どうなるんだろう。神さまに、きっと怒られるな。自分のことばかり考えていて、神さまのことなんか考えたこともないんだもの。死んで神さまの前へいくのが怖い。』
 その時、一羽のかもめさんが、飛んで来ました。
 『ああ、かもめさん、僕を、食べるんですか。ごしょうだから、助けてください。』
 『食べたりなんかするもんかね。』
と、かもめさんがいいました。
 『君は、死ぬほど、怪我をしてるじゃないか。かわいそうに。』
 『かもめさん、僕、もう死ぬんです。神さまは、僕を怒らないでしょうか?ぼく、悪いことをうんとしたんです。』
 『神のお子のエスさまにあやまって、かんべんしておもらい。』
と、かもめさんがいいました。
 『エスさまは、悪い僕らの代わりに十字架にかかって、神さまにあやまって下さったの。僕もそれが分かって、あやまったの。君も今までのことをあやまって、神さまの子供にしてもらいなさいよ。神さまは、喜んで許して下さるよ。』
と、かもめさんが教えてくれました。
 それから、やさしいかもめさんは、どこへも行かないで、何日も何日も、海の草を運んできて、動けないかにさんに食べさせて、養ってくれました。かにさんは、ポロポロ涙をこぼしました。エスさまのやさしいお心が分かって来たのです。かにさんは、死なないで、だんだん元気になって来ました。天の神さまが治して下さったのね。
 すっかりよくなったかにさんは、岩の上に登って、自分の広い持ち場を眺めました。
 『ああ、これはみんな神さまのものじゃないか。それを、僕は、人からとって、自分一人のものにして、威張っていたのだ。それでも神さまは怒らないで、僕を許して下さった。これからは、僕は、自分のことはやめて、神さまのために、働くんだ。』
ぽろぽろ涙を流して、かにさんはいいました。
 かにさんは、はさみで、おいしい海の草をとって、貧乏の友だちの所へ、運んで行きました。
 貧乏で病気のお母さんと、かわいそうな子供たちが泣いていました。
 『さあ、みなさん。元気をお出しなさい。エスさまが、ちゃんと天から見ていらっしゃいますよ。死んでも天国うれしいな、です。貧乏も病気も、エスさまを覚えるために、神さまが下さったんですよ。エスさまのことが分かれば、うれしく、うれしくなりますよ。』
そう言って、天国の話をして上げました。そして、毎日、食べ物を運んで、養ってやりました。
 こうして、かにさんは、毎日毎日、お友だちのために働きました。神さまからいただいた、はさみを使って、重いものを運んでやったり、困った人の世話をしてやったりしました。そして、天国のことを教えました。口だけで教えないで、汗を出した働いてやって教えました。
やがて、かにさんの死ぬときがきました。
 『僕は、このはさみを、自分のことには何も使わなかった。ただ、お友だちのためだけに使った。』
かにさんは、いました。
 『僕は、馬鹿で、怠け者で、何にもできなかったけれど、今度こそ、よろこんで神さまのところへ行ける。』
 かにさんは、にこにこして、死にました。
 さあ、皆さんも、手を挙げてちょうだい!
 そう、その手を、みなさんも、かにさんのように、神さまのために、お友だちのために、使いましょうね。自分の欲張りのために使わないで・・・。
(ヨハネ第一、3の16)


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