和紙

11.エスさまごめんなさい

 山あいに、小さな炭坑がありました。この子供たちは、貧乏な、坑夫さんたちの子でした。毎日、裸ん坊のような、かっこうをして、喧嘩をしたり、悪口を言ったり、意地悪したりして、暮らしていました。誰も、神さま、エスさまを、知らなかったのです。
 天のお父さまは、こんな子供たちを、たいそう、かわいそうに、思われました。そして、この子たちが、みんな、エスさまを知って、天国の子になるように、使いの者を、この炭坑に送ったのでした。
 ある日、一人のおじさんが、山を越えて、炭坑への坂道を、下りて来ました。このおじさんは、無教会の、日曜学校の先生でした。
 おじさんは、嘘の神さまの、祭ってある丘の下で、本当の、生きている神さまの、お話を始めました。子供たちは、沢山、集まってきて、びっくりして、一生懸命、おじさんの、お話を聞き、おじさんの紙芝居で、天のお父さまと、エスさまのことを覚えました。
 『天のお父さまはね、あんたたちが、かわいそうで、かわいそうで、ならないもんだから、あんたたちの代わりに、ご自分の子の、エスさまを十字架にかけて、殺してしまわれたのだよ。そうしないと、悪いことしている、あんたたちは、天国へ行けないからだよ。あんたたちの代わりに、エスさまが、罰を受けて、殺されて下さったのだよ。だから、エスさまは、あんたたちの、命の恩人だよ。やさしい、やさしい、神さまだよ。あんたたちの、ことばっかり心配していらっしゃるんだよ。』
 おじさんは、泣きそうになりながら、話してくれました。
 炭坑の子たちは、エスさまに、本当に、すまないと思いました。そして、みんな、エスさまを信じて、神さまの子供になりました。
 一番前で見ていた和夫も、本当に、エスさまに、すまないと思いました。和夫は、一生懸命、紙芝居を見ていました。和夫のとなりの武は、
 『ヘン、なんだ、こんなもの。』
と、心の中で、笑いながら、見ていました。武は、エスさまにすまないなんて、コレッポッチも、思いませんでした。
 おじさんは、紙芝居が終わってから、
 『それでは、みんな、エスさまに、ごめんなさいをしようね。エスさまに、すまないから、おわびしましょうね。』
と、言いました。子供たちは、みんな、素直に心から、
 『エス様、ごめんなさい。』
を、いいました。けれど、武は、ゲラゲラ笑ってふざけて、エスさまをバカにしました。
 和夫は、エスさまが、大好きになりました。そして、喧嘩の嫌いな子になりました。間違って悪いことをしても、すぐあやまりました。『無教会子供賛美歌』が、大好きで、いつも歌っていました。
 それを見て、武は、
 『やあい。アーメン、ソーメン、また、そんな歌を歌っている。』
と、悪口を言いました。
 ある日、学校からの帰り道、意地悪の武は、悪い友だちと組んで、和夫、待ち伏せていました。そして、生きている蛇をつかんで、和夫につきつけました。
 『ヤイヤイ、おまえは、エスさまが、守っているんだから、蛇なんか、おっかなくないだろう。ほら、どうだ!どうだ!』
と、蛇を、おしつけました。蛇の、メラメラ赤い舌を見たら、弱虫の和夫は、おっかなくなって、目を、堅く閉じてしまいました。
 『エスさま、エスさま、助けて下さい!』
 『なーんだ、弱虫!それでもクリスチャンか。』
みんなは、武と一緒になって、和夫を笑いました。和夫は、泣きながら、帰って行きました。
 それから、何日か立ちました。ある日の夕方、炭坑の近くにあるすいか畑に、泥棒が入りました。神さまを知らない武が、すいか泥棒の大将でした。
 ちょうど、そこへ、和夫が、通りかかりました。和夫は、
 『武ちゃん、やめろよ。悪いことやめろよ。天から、神さまが、見ていらっしゃるよ。』
と、止めました。悪い子供たちは、
 『なんだ、このクリスチャンめ。黙っていろ!行っちまえ!人に言ったら、後で、ひどいめにあわすぞ。』
 と、ゲンコツを、振り回して、脅しました。
 ちょうどその時、向こうから、畑のおじさんが、見付けて
 『こら!泥棒!泥棒!まてまて!』
と、どなりながら、走ってきました。
 それを見ると、悪い子たちは、くもをかすみと、逃げ散ってしまいました。これが、本当の意気地なしです。和夫は、黙って、立って見ていました。
すいか畠のおじさんは、和夫を捕まえて、
 『コラ、お前も仲間だな。逃げもしないで、一番ずうずうしいやつだ。言え!お前もやったろう?』
と、どなりました。
 和夫は、
 『ハイ、ごめんなさい。』
といって、黙って頭を下げました。お友だちの代わりに、あやまってあげようと思ったのです。おじさんは怒って、力まかせに、和夫の頭を、なぐりつけました。和夫は、じっとがまんして、黙ってなぐられました。和夫が、あんまり素直なので、小父さんも、かわいそうになりました。そして、
 『これから、二度とするなよ。』
と言って、帰って行きました。
 和夫は、一人になって、家へ帰ろうと、歩き出しましたが、強くなぐられたので、頭が、クラクラして、思わず倒れてしまいました
 和夫が、倒れて、死んだみたいになりますと、あわてて、走ってきた子がいました。武です。武は、さっきから、ものかげに隠れて、みんな見ていたのです。
 涙をボロボロこぼして、武は、和夫の介抱をしました。小川の水に、手ぬぐいをひたして、一生懸命、和夫の頭を冷やしました。
 『僕が、悪かったんだ。和夫ちゃん。』
武は、泣きながら、心の中で、なんべんも、和夫にあやまりました。
すると、武の、かたくなな心が解けて、十字架の、エスさまの心が、はっきりと、分かってきました。
 『ああ、エスさま、あなたは、この和ちゃんみたいに、悪いぼくのために、神さまに、ごめんなさいして、下さったんですね。ぼくの代わりに、神さまに、ごめんなさいして、たたかれて、殺されて、下さったんですね。それなのに、エスさま、あなたのことを、バカにしてました。悪い、悪い、ぼくです!本当に、悪いぼくです!』
 『エスさま、ごめんなさい!』
 今は、心から、エスさまに、おわびすることが出来ました。すると、エスさまが、高い、十字架の上から
 よし、よし、それでいいのだよ。』
と、言って下さいました。それが、よくわかりました。武も、神さまの子になれたのです。
 和夫は、すぐ、息を吹きかえして、気がつきました。
 『和ちゃん、ぼく悪かった。かんべんしてね。』
 武は、心から、和夫にも、あやまりました。
 『いいよ、いいよ、武ちゃん、よかったね。』
と、和夫が言いました。
 こうして、二人は、天国の兄弟になりました。エスさま、ごめんなさいの出来た子は、みんな、神さまの子供です。みんな、お互いに、本当の兄弟姉妹です。二人は、これからは、お互いに、助け合って、いつまでも仲良く暮らしていくでしょう。
(ヨハネ第一、3の16)


←前のお話 目次 次のお話→


和紙