和紙

10.燕

 お父さんも、お母さんも、兄弟もない、一人ぼっちの燕がいました。毎日、飛び回っては、虫を食べていましたが、いつも、寂しくてたまりませんでした。
 『僕は、一体、誰なんだろう。僕はどこから来たのか、そして、どこへ行くのだろう。僕はどうしてこんなに、寂しいんだろう。』
 燕は、いつも、しょんぼりと、そんなことを考えていました。
 ある日、燕は、変な鳥が松の木のてっぺんに、とまっているのを見ました。それは、今まで一ぺんも見たことのない、変わった鳥でした。
 燕は、びっくりして、その鳥のそばへ行って見ました。
 『貴方は、どなたですか?』
 燕は、その鳥に声をかけました。
 『私かね。私はコウノトリだ。むかし私たちの仲間は、大勢いたが、今では、ほんの少しになってしまった。だから、あんたたちには、私が珍しかろう。
私たちは、天国の鳥だよ。』
 コウノトリが、言いました。
 『天国の鳥だって?』
 『そうだよ。そういう君も、天国の鳥だよ。
 天国の鳥は、時が来れば、天国へ旅立つのだ。だから、この世では旅人だから、心がちっとも落ち着かないのだよ。』
 それを聞いて、燕は、何だか嬉しくてたまらなくなりました。
 『その天国へ出掛ける時が、私には、もう、来ているのだよ。さようなら、燕さん。お先に。』
 そういって、コウノトリは、大きな翼を広げました。
 『僕も行きたい。コウノトリさん。僕も天国へ連れて行って下さい。』
 燕が、頼みました。
 『君は、まだ、その時が来ないのだ。君には、まだ、仕事があるのだ。
 さあ、行って、みんなに、天国の喜びを歌ってあげたまえ。それが、神さまが私たちに、お命じになったこの世の仕事だ。私は、もう自分の役目を果たしたから、エスさまの所へ帰るよ。』
 そういって、コウノトリは、うれしそうに羽ばたきして、大空の果てへ飛んで行ってしまいました。
 『あゝ、僕は天国の鳥だったのか。僕の故郷は天国だったのか。』
燕は、何だか、嬉しくて、じっとして、いられなくなりました。
 『そうだ。みんなに、教えてあげよう。誰もが忘れている天国を、思い出すように、僕は、力一杯、天国の喜びの歌を、歌ってあげよう。』
燕は、電線の上にとまって、村の上から、大きな声で、楽しそうに天国の歌をうたい始めました。

   お友だちよ、聞いてください
   私たちは、天国の子供です
   ここで死んで、土の下へ葬られる
   滅びの子では、ないのです
   神のお子が、私たちの罪を
   あがなって下さった
   私たちは、罪を許されて
   エスさまの所へ帰るのです
   喜んでください、おともだち
   一緒に歌いましょう、喜びの歌を
   エスさまの歌を歌いましょう

 すると、お百姓さんの庭で、餌を拾っていた鶏たちが、燕を見上げて笑いました。
 『天国だって?天国が私たちの故郷だって?
 馬鹿な、夢みたいな事を、言ってるよ。そんなことがあるもんか。私たちは、ここで生まれたのさ。私たちのお父さんもお母さんも、ここの者だ。私たちも、ここで死ぬのさ。ここが私たちの故郷だよ。馬鹿な夢みたいな歌なんか、聞きたくもないね。
  コッコ、コッコ、コッコ、コッコ、』
 そう言って、鶏たちはだれも相手にしてくれませんでした。
 燕は、今度は、沼の上の電線に止まって、天国の歌を歌いました。楽しい楽しい故郷の歌を歌いました。
 ガア、ガア、ガア、ガア、と、沼のあひるたちが、おしゃべりしながら、燕を見上げました。
 『あんな変な歌を、歌っているよ。
私たちの故郷は、天国だって。天国ってなんだね。私たちは、みんな、この沼のふちで生まれたのさ。私たちは、ここで生まれ、ここで死ぬのさ。それで、沢山じゃないか。天国なんて、そんな、大それたものは、私たちには似合わないよ。
そんな面白くない歌は、やめてくれ。
 ガア、ガア、ガア、ガア。』
 そう言って、沼のあひるたちは、誰ひとり、燕の歌を、まじめに聞こうとはしませんでした。
 いくら、天国の歌をうたっても、天国のお友だちは、出来ませんでした。燕は、やっぱり、独りぼっちでした。
 でも、燕は、天国の歌を、歌わずにはいられませんでした。天国の歌を、歌っていれば、寂しくはなかったからです。
 天国の歌を聞いてくれる人も、だんだん出来てきました。貧乏な人たちや、重い病人たちや、小さな雀の子供達は、天国の歌を喜びました。天国の歌を聞いてくれる人は、この世から、はみ出したような人たちでした。この世に、どっぷり浸かっている人たちは、天国の歌を聞く耳がなかったのです。
 やがて、いよいよ天国へ旅立つ時が、燕にも、やって来ました。
 待ちに待っていた燕は、矢のように、天国めがけて、飛び立ちました。
 すると、どこからともなく、外の沢山の燕たちが、飛び出して来ました。それは、みんな、天国へ行く燕たちでした。
 『あゝ、僕は、ひとりぼっちだとばかり思っていたら、広い世界には、こんなにたくさん、天国の仲間がいたんだなぁ。
 この人たちも、僕とおんなじに、今までは、友だちが少なくて、寂しかったんだな。でも、これからは、寂しくないぞ。天国の友だちは、こんなに沢山いたんだ。』
 大空には、天国の友だちが、どんどん増えて行きます。天国の子供たちは、力いっぱい、本当の故郷目指して飛んで行きました。
(ヘブル11の13)


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