2006年4月大阪松竹座

翫雀の「土屋主税」

      

 今年で三回目の浪花花形歌舞伎。

 第一部が「伊勢音頭」の通し、第二部が「土屋主税」と「お染の五役」、第

三部が新作の「大塩平八郎」の三部制。時間の都合で、一部と二部を見た。そ

の中では断然「土屋主税」が面白い。渡辺霞亭のこの芝居、通俗的で今まで大

して面白いとは思わなかったが、それが面白い。面白い理由は二つある。

 第一に翫雀の土屋主税、薪車の落合其月、亀鶴の大高源吾の三人が芝居の上

で均衡がとれていて、しかも三人ともにせりふがキッパリと明快、芸がかみ合

っているからである。これによって赤穂浪士と、周囲の期待と批判がそれなり

に芝居になった。土屋主税一人のスター芝居ではなく、アンサンブルで立体的

なドラマになっている。

 第二に、翫雀の土屋主税がごく普通の人間主税になっているためである。

「玩辞楼十二曲」とあって、二代目鴈治郎も三代目鴈治郎(現藤十郎)も、初

代鴈治郎以来の独特の芸のくさ味があった。それはそれでいいのだが、東京の

人間にはそれがどうも苦手であり、通俗的にも見える。ところが翫雀は実にす

んなりとクセがない。それがこの人の人柄であり、芸風なのだろう。観客とし

てはその素直さに共感がもてる。

 以上二点。この三人に加えて竹三郎の其角、吉弥のお園と揃って、これが一

部二部を通して第一の出来である。

 二部はこのあと「お染の五役」。

 南北の「お染の七役」が初演の五代目半四郎の上方巡業の際に御当地へ伝わ

った舞踊劇。段取りその他原作の方が洗練されている。お染久松、お光、雷、

土手のお六の五役。常磐津に一巴太夫が出て頑張っているにもかかわらず大し

て面白くない。

 孝太郎の五役では土手のお六が一番の出来。つづいてお光であるが、早替り

の手順があざやかといかず、吹き替えも似ていず、拍手喝采というわけにはい

かなかった。吉弥と愛之助が猿曳きに出る。

 第一部の「伊勢音頭」の通しは、宿屋、追っ駆け、二見浦、油屋の四幕六場。

 愛之助が仁左衛門写しの福岡貢を好演している。こうして通して出ると貢の

性根がよく通る。最初油屋は珍しい御納戸石持ちという噂だったので楽しみに

していたが、在来通りの白がすりであった。

 翫雀が万次郎とお鹿の二役。万次郎はさすがに品と位があってあたりを払っ

て上出来。お鹿は十七代目勘三郎以来、当今はやりの人間お鹿。この人ならば

歌舞伎の三枚目風のお鹿が見たかった。

 孝太郎のお紺は情がなく冷たい女。

 お鹿にしてもお紺にしても、せりふ廻しで観客を酔わせるところがほしい。

つくづく昔の役者が恋しくなった。

 吉弥の万野は東京の福助ほどではないがやはり不出来。若い女形のやるもの

ではない。

 薪車の喜助は芸にヒレがなく、翫雀の万次郎のよさに引かれて扇之丞のお岸

がいい出来。

 その他では、亀鶴の奴林平が大出来。去年の「車引」の梅王丸とすぐ引返し

て「寺子屋」の戸浪をやったのには驚いたが、この林平もいい出来である。

 進之介の藤波左膳は若い人にはムリな役。橘三郎と松之助の丈四郎大蔵はも

っと突っ込むかと思いの他に淡白でつまらず。これも昔の上方役者が恋しくな

る。

 

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