趣味の殿堂「遊舟」2000 DAMEMOVIE after the movie-映画を観た後で-
その7

このページでは劇場公開作品を鑑賞後、インプレッションしています。
とにかく月1,2本は観ていきたいと思ってます。
もちろんすべて自腹。第34回より「ボクの採点表」を開始。

ネタバレしないようにしています!

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作品一覧

2005年1月22日
第210回「パッチギ!」オススメ
とにかく激しい映画だが『イムジン河』一曲に泣かされる。
ボクの採点表
ストーリー 主張 青春 総合
5点 4つ星 5点 5点
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
井筒和幸

出演.
塩屋瞬/高岡蒼佑/沢尻エリカ/楊原京子/尾上寛之/真木よう子/小出恵介/波岡一喜/オダギリジョー/光石研他

パッチギ!

感想.
 1968年の京都。同じ街にある東高校、朝鮮高校は事あればケンカとなる程、その関係は悪化していた。ある騒動の後、東高校の康介は担任の勧めで朝鮮高校との親善サッカー試合を取り持つ事になった。そして訪れた朝鮮高校の音楽室を覗くと、一目ぼれしたキョンジャの姿があったのだ。だがキョンジャの兄は朝鮮高校の番長アンソン。親善サッカーは再び血の様相を呈していたのだった。60年代の青春群像を深夜番組「虎ノ門」『こちトラ自腹じゃ!』の井筒和幸が描いた最新作。

 作品冒頭から激しい学校同士の乱闘、その一方で巻き込まれる平凡な主人公康介。対極にある二つの構造を持ちつつ物語は進みながら、一見狂言回し的な存在だった康介によってその壁を崩していく。そのきっかけこそ、純情に愛しの子の国の文化を学び、魅せられる『イムジン河』。とにかく激しい映画だが、この『イムジン河』一曲に泣かされる。特にクライマックス、友を失ったアンソンたちの乱闘のバックでこの曲が流れた時には、何とも物悲しく感じて涙があふれ出てきた。

 ぶつかり合うエネルギーに若い血しぶき。だがその背景にある社会事情、理不尽さを感じる中、彼らの伝達方法が暴力に行き着くのはやむを得ない気もする。作品的に主張の押し付けと言われる向きもあるが、理不尽さ、無知が生む何かがあるのは事実。もちろん溢れんばかりのエネルギーは『イムジン河』を唄う康介にも表れるわけで、そこが心を捉えるのだ。しかもフォーククルセダーズのメンバーだった加藤和彦による『イムジン河』のアレンジは、作品の血ともなっている。

 全編で(主張、エロも含めて)井筒イズムに溢れ、単に笑いと人情で走った前二作とは意味合いが違う作品に仕上がっている。またキャスティング、脚本、演出、テンポと全てにおいて隙が無い。特に活劇たる側面をキャストは体現し、それがエネルギッシュで画面から飛び出してくる。時に笑い、そして前述の通りにぶつかって何とも心地よい。不幸の連鎖で終わらせず、前向きな終わり方も好感。あの毒舌監督にして面目躍如の傑作である。

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2005年1月1日
第209回「カンフーハッスル」
理屈は要らない!本当の主役は『功夫(カンフー)』バトル。
ボクの採点表
ストーリー アニメ度 カンフー 総合
3つ星 4つ星 4つ星 3つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
チャウ・シンチー

出演.
チャウ・シンチー/ユン・チウ/ユン・ワー/ドン・ジーホウ/シン・ユー/チウ・チーリン/ブルース・リャン他

カンフーハッスル

感想.
 ギャング団斧頭会に牛耳られた街。だが貧民の住む豚小屋砦はふとしたキッカケで、斧頭会との抗争を勃発してしまう。そのキッカケを作ったのはチンピラのシン。そして斧頭会に入ろうと右往左往する中、豚小屋砦へ送られる刺客たち。迎え撃つ豚小屋砦の人々に活路はあるのか。そしてシンの身に秘められたものとは...?「少林サッカー」のチャウ・シンチーが再びカンフーを通して描く『ありえねー』エンターテイメント。

 冒頭はややシリアスに進むが、突如面を喰らうアニメ的描写の数々。「少林サッカー」同様に日本のアニメ作品を意識した作りが踏襲されている。だからCGは誇張表現の一つで徹底して使用され、それを受け入れられるかがカギ。まともなカンフー映画を期待してはいけないが、そもそもこの作品を観る層にその心配は要らないかもしれない。むしろ路線が明確で、アニメバトルに脱線してしまった「マトリックス・レボリューションズ」よりも潔い。

確かに名目上の主役はチャウ・シンチーだが、本当の主役は『功夫(カンフー)』バトルである。登場するカンフーの達人たちの凄まじさ。こうしたキャラの構築と組み合わせの妙がこの作品の魅力となっている。物語もあって無いようなものだし、チャウ・シンチーのキャラは美味しいところだけ持っていくだけの存在。ただ物語を割り切って作っているのはよく判る。理屈は要らない、最後まで観ればカンフーバトルが全ての映画だと言わんばかりである。

 ただそれだけに作品としての面白さは今一歩。CGバトルに麻痺してしまうのと同時に、笑いにも麻痺してしまう。もう少し物語に惹かれるものが欲しかった。音楽が「少林サッカー」のような盛り上がりに欠けたのもマイナス(同じレイモンド・ウォンなのだが)。しかし最後まで魅せてしまうのは、同じアニメ民族たる日本人の嗜好にあっているからかも。お正月...という限定された中で観る分には楽しく過ごせる映画である。

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2004年12月18日
第208回「エイリアンVS.プレデター」
今回はあくまで...と言い訳がつきそうだが、もう潮時の感
ボクの採点表
ストーリー 激突度 シリーズ度 総合
3つ星 4つ星 3つ星 3つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
ポール・W.S.アンダーソン

出演.
サナ・レイサン/ラウル・ボヴァ/ランス・ヘンリクセン/ユエン・ブレムナー/コリン・サーモン他

エイリアンVS.プレデター

感想.
 2004年10月、南極に謎の熱源を発見した大富豪ウェイランド。ウェイランドはその謎を追うために探検家、考古学者らを収集、チームを組んでその探索を試みようとしていた。そこに降り立った彼らは100年前の施設を拠点に調査を開始、その地下にピラミッドを見つける事に成功する。しかし間もなく謎の惨殺が始まった。音も姿も無く、悲鳴が上がる。一方最階下では謎の卵を生み出す生物が捕獲されていたのだった。どちらが勝っても人類に未来はない...「バイオハザード」のポール・W.S.アンダーソン監督が描く宇宙最強生物決定戦。

 話題に溢れた本作、多くのSFファンにとって期待と不安に満ちた作品だったと思う。まず探索チームの描写ばかり、前半30分は正直観ていてつらかった。しかしアンダーソンがやりたかった事は後半一時間に集約されている。エイリアンとプレデターのガップリ四つのぶつかり合い。お互いの残虐さをあらわにし、強酸と緑色の血が飛び散るデスマッチ。ラストのオチは何となく判ってはいたが、果たしてお約束なのか、続編を匂わせる終わり方もある。

 物語は完全に「エイリアン」が「プレデター」に歩み寄った作り。「エイリアン」しか観た事のない人にはとんちんかんで『おいおい?』と感じたに違いない。そこに両者の異なる物語背景をバランスさせる難しさがある。リアル路線を歩んできた「エイリアン」、ややデフォルメされて描かれてきた「プレデター」の世界観の違い。また「エイリアン」の魅力たる密室劇に乏しく、何処か緊張感に欠ける面もみられた。ただそれぞれの残虐性に秘めたキャラクターの違いはよく判る。それがこの作品の骨子、彼らの対決を成立させている。

 そもそも「エイリアン」はパート3での映画会社と製作サイドのドタバタ劇。その後の量産化の果て、そして今回のスピンオフ。この製作自体、映画会社主導の匂いが強く、先の続編の匂いに通じる。これも製作サイドの皮肉、『我々の悲鳴は映画会社には聞こえない』という事なのだろうか。とにかくシリーズを作れば作る程、SFホラーの傑作「エイリアン」の格は落ちていく。今回はあくまで...と言い訳がつきそうだが、もう潮時の感を強く感じた。

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2004年12月11日
第207回「ゴジラ FINAL WARS」
北村色で展開される昭和ゴジラのパラレルワールド。
ボクの採点表
ストーリー ゴジラ度 アクション 総合
3つ星 4つ星 3つ星 3つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
北村龍平

出演.
松岡昌宏/菊川怜/ドン・フライ/北村一輝/ケイン・コスギ/船木誠勝/宝田明他

ゴジラ FINAL WARS

感想.
 突如として世界各都市に現われた怪獣たち。退治に向かうべく発進する地球防衛軍。だが間もなく現われた宇宙船と同時に怪獣たちは消えていくのだった。彼らの名はX星人、怪獣を葬ったと言うのだ。そして地球と友好を結びたいと手を差し伸べた。そんな中、M機関と呼ばれるミュータント部隊に所属する尾崎は、X星人に対し不可解さを拭えずにいた。そして尾崎に驚くべき事実が告げられる。ゴジラ生誕50周年を迎え、最終作となったアクションで名だたる北村龍平監督作品。

 本作は名目上ゴジラ生誕50周年記念であるが、実は東宝特撮作品へのオマージュを織り込んだ作品。妖星ゴラスや豪天号まで登場、また平成ゴジラ以後の作品よりも一旦シリーズを終えた初期のゴジラ作品の匂いが強い。ただそれらが着ぐるみだけでなくCGも駆使。特にハリウッド版の登場にはセリフ共々笑わせてもらった。物語の骨子も本作は劣悪なゴジラではあるが、沢山の怪獣が出てきた初期のゴジラ作品の末期に近い。しかも世界観はパラレルワールド的であり、これでもかの勢いで怪獣たちは街を破壊しまくる。また東宝特撮お約束の出演外国人は日本語吹替というのは妙に嬉しい(ドン・フライは何と玄田哲章氏...ただし後で字幕版が存在する事を確認している)。

 ただ本作に北村龍平色を強くするのは、マトリックスよろしくのアクションシーンがやたら登場するところ。北村監督はマトリックスが相当に好きなのだなぁと観ていて思わせる。そもそも怪獣映画なのか、単なるアクション映画なのかと見間違うほどに挿入されているのだ。それ故、ゴジラ作品としてみれば無駄と思える点も少なくなく、そのバランスは疑問。主人公のハイパー化などは明らかにネオしている。まぁ役者たちがアクションを頑張っているというのはよく解るのだが。ただ北村色を体現した北村一輝の存在は面白く、いい感じでキレている。

 しかしこれまでのゴジラファンには今回のテンポはキツイかもしれない。あの有名な伊福部昭のスコアも冒頭でそこそこに、後は北村風ロックンロールで攻めてくる。今風といってしまえばだが、前述のアクションと相まって、スケール感が乏しくなってしまうのはマイナス。またラストはキース・エマーソンのシンセで締めだが、これも合っているようで合ってない。ただ作品として東宝の特撮レベルの高さを感じたのも事実(漂うチープさも含めて)なわけで最終作というより、目くじら立てずにパラレルワールドとして楽しめればいい作品だと思う。

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2004年11月20日
第206回「ハウルの動く城」
観念的な描写も多いが、客層を意識したキャラを配し抜かり無し。
ボクの採点表
ストーリー 女性映画 エネルギー感 総合
4つ星 4つ星 3つ星 3つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
宮崎駿

声の出演.
倍賞千恵子/木村拓哉/美輪明宏/我修院達也/神木隆之介他

感想.
 父の遺した帽子店で働く少女ソフィー。だが彼女は仕事に勤しむあまり、けっして楽しく人生を送っているとはいえなかった。そんなある日、街に軍隊が訪れ、軍人に誘われるソフィー。嫌がる彼女を助けたのは魔法使いのハウルだった。だがハウルは荒地の魔女から逃れの身。それを助けたソフィーは荒地の魔女から老婆に変えられる魔法を掛けられてしまう。宮崎駿三年ぶりの新作はダイアナ・ウィン・ジョーンズの原作を映画化したファンタジー大作。

 ファンタジーは宮崎アニメの真骨頂。過去の作品同様、少女、ヒロインを助ける少年、そして空を駆ける乗り物とアイテムは揃い、物語を駆け巡る。ただ東洋を感じさせた前二作と異なり、西洋をベースに架空の世界が展開。一見、平和で穏やかな街を戦火が巻き込み、そこに魔法使いたちが巻き込まれていく。しかし終わってみれば、巻き込まれるというより、権力者たちの力を利用したある魔法使いの私戦だと気づかされる。ハウルはその発端であり、木村拓哉の声と相まって大変魅力的に描かれていると思う。女性なら第一声にドキッとするのではないか。

 難しいのはヒロインであるソフィーの扱いだろう。倍賞千恵子の声はミスキャストではないが、ベストと思えなかった。絶えずメタモルフォーゼする心情を声で演じる努力は垣間見えるが、時々難に感じる面はあった。やはり恋心と少女の成長を同時に演じるのは難しい。ただ冒頭、やや明るい面の少ないソフィー、そして老いて飾るものを無くしたソフィーを一人で演じるギャップが心地よく、それこそ宮崎監督がキャスティングに意図したのだと思う。

 ソフィーとハウルの関係は「千と千尋の神隠し」の別翻訳と取れる面も多いが、本作はより観念的な描写が多い上、テンポも過去の作品ほど軽やかでなく、子供向けを離れた感が強い。またテンポ不足は映像に傾けるエネルギー不足から来るところかもしれない(とはいえハウルの城の描写は素晴らしい)。過去の作品からみて何かが物足らない気がする。描かれるテーマは少女の成長が中心であり、その点で女性映画という側面がさらに色濃いという事なのだろう。ただ我修院達也のカルシファー等、子供ウケするキャラを配する等、客層を意識して抜かりは無い。本作が全国の宮崎アニメファンからどのような評価を受けるか興味深い。

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2004年11月6日
第205回「SAW[ソウ]」オススメ
痛い!でも知りたい!だから最後まで見逃せない!
ボクの採点表
ストーリー 仰天度 テンション 総合
4つ星 5点 4つ星 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
ジェームズ・ワン

出演.
リー・ワネル/ケアリー・エルウェズ/ダニー・グローバー/モニカ・ポッター/マイケル・エマーソン/ケン・リョン他

SAW[ソウ]

感想.
 突然、密室で目覚めたアダム。明かりをつけると目の前に、同じように壁に鎖でつながれたゴードンがいた。死体をはさんで対峙する二人。ポケットに入っていたテープにはそれぞれに向けた目的が記録されていた。ゴードンに残された時間は六時間。その与えられた目的とは、目の前のアダムを殺す事だった。まもなくゴードンはその手口から、ある猟奇殺人の容疑者を思い出す。サンダンス映画祭で注目されたサイコ・サスペンス。

 途中、単なるB級サスペンスと誤解してしまったが、それも想定された演出上の展開。しかも一見、ジグソーパズルのピースが継ぎ足されていくようで、実は綿密に仕組まれている事に気づく。だからこそタイトルのSAW[ソウ]に込めた意味は深い。それだけでなくその言葉は前述のジグ[ソー]パズルにも込められているし、様々な要素で登場する。思わせぶりでなく、伏線となっているセリフや出来事も多い。それが真犯人(そして製作者)があざ笑うかのようなラストに思わず唸らされた次第。

 なお猟奇性はあの「セブン」に勝るとも劣らない。画面を通して痛みが伝わるゆえに、思わず目を覆うシーンは少なくなかった(飛び散る血、内臓系がダメな方は要注意)。しかし深まる謎に知りたいと動機が生まれるゆえ、展開的にも物語的にも最後まで見逃せない。ただやや勿体ないと思ったのは、時々早回しのシーンが見られた事。そんな演出をしなくても十分にインパクトのある作りなのに、意外に興醒めさせられてしまったのは残念である。

 出演陣は「リーサル・ウェポン」シリーズのダニー・グローバーを除けば、キャストは超マイナーばかり。だがキャストの演技を含め、その出来はメジャー級と言っていい。特にクライマックス、緊迫した展開にこちらの動悸はピークまで高まる。そして考えるほどに裏切られる。スリラーファン、怖い物見たさの方は必見、今年最恐のサイコ・サスペンスである。

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2004年11月6日
第204回「オールド・ボーイ」オススメ
あまりに代償は大きく、終わってみても爽快感はない。
ボクの採点表
ストーリー 重さ もう一度観たい度 総合
4つ星 5点 3つ星 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
パク・チャヌク

出演.
チェ・ミンシク/ユ・ジテ/カン・ヘジョン他

オールド・ボーイ

感想.
 泥酔したサラリーマン、オ・デス。だが間もなく気を失った彼は監禁された一室にいた。衣食は供給されるも外界から遮断されたオ・デス。だが彼はテレビニュースで自分の妻殺しの容疑者となっている事を知る。殺された妻、そして引き離された娘を想うオ・デスだが、監禁は簡単に終わるものではなかった。十五年後、押し出されるように世間に戻った彼は、自らの監禁の謎、さらに陥れた者への復讐を誓うのだった。今年のカンヌ映画祭でグランプリを獲得、タランティーノも絶賛のコリアン・ムービー。

 思った以上に重い作品である。前半は体の痛みが突き抜け、後半は精神的に追い詰められていく。いやむしろ肉体と精神を絶えず痛めつけられるような想いで、我々観客は画面を注視してしまう。特に主人公オ・デスが謎を追い駆けつつ陥れられる事実は衝撃的。黒幕との関係、そして事実との対峙には驚かされる。思わずオ・デスを演じるチェ・ミンシクの演技に惹き込まれた。ただ非常に難しい題材であり、誰もが受け入れられる内容ではない。

 しかし単調に重々しく進まず、途中挿入されるアクション、殺陣はスピーディーだし見応えがある。また北野武作品を思わせる映像の間(ま)を織り交ぜ、作品の流れに緩急を与えていた。時に漂うユーモア、また痛みを感じる程のアクションも、何処か北野作品に相通じるものではある。ただ確かに原作マンガは日本のものだが、その文化と共に完全に韓国映画として昇華されていた。オ・デスを始めとするそれぞれのキャラクターも興味深く描かれている。

 全てを失ったオ・デスに差す僅かな光明。これがこの映画で唯一の救い。ただその代償はあまりにも大きく、必ずしもハッピーエンドと言い切れず。終わってみてもそこに爽快感はない。だがその味付けこそが本作の真骨頂であり、復讐の果ての愛情と憎しみ、悲しみが交錯する人生の極論が描かれている。何度も観るような題材の映画ではないが、一度位は色々な意味で、徹底的に打ちのめされてもいいだろう。

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2004年10月31日
第203回「隠し剣 鬼の爪」オススメ
タイトルに隠された伏線、「たそがれ清兵衛」の姉妹編
ボクの採点表
ストーリー 演技 タイトル 総合
4つ星 5点 4つ星 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
山田洋次

出演.
永瀬正敏/松たか子/吉岡秀隆/小澤征悦/田畑智子/高島礼子/田中泯/小林稔侍/緒形拳他

隠し剣 鬼の爪

感想.
 幕末の世。海坂藩の侍、片桐は母や妹、そして奉公人のきえと平穏に暮らしていた。妹が嫁に出て三年、母を失った片桐は、油問屋に嫁いだきえと再会。だが幸せとは思えぬきえの姿に片桐は唖然とする。間もなく片桐の下に、病の床に伏せたきえの噂が聞こえてきた。片桐は真意を知るべく油問屋を訪れるのだった。永瀬正敏、松たか子主演、「たそがれ清兵衛」と同じ藤沢周平原作、山田洋次監督による幕末時代劇。

 全体的に「たそがれ清兵衛」の姉妹編といった感じの作りとなっている。侍と剣術の道、慕う女性の影。緊迫感の続く中に笑いを織り交ぜ、緩急自在な脚本と演出は山田監督らしい。今回はかつての同門との対決。さらに控える大物との対峙と、ラストに向かって別の趣きを見せる。特にタイトルにある「隠し剣 鬼の爪」に隠された伏線。正攻法だった「たそがれ清兵衛」と違い、我が道を突き通す果て、自らに断を下す主人公。物悲しげな面もありつつ、明るさを示すエンディングである。

 とはいえ「たそがれ清兵衛」との相似性が高いために損をしている面がある。しかし独特の世界観、時代の描き方は相変わらず丁寧。また実直な永瀬正敏、健気な松たか子、隠されたもう一人のヒロイン高島礼子の存在、いかにも嫌な感じの緒方拳、さらにおなじみの脇役陣が締める。特に「たそがれ清兵衛」から続投の赤塚真人は可笑しい。彼らの演技を観るための映画かもしれない。

 作品そのものを考えると、大人の嫌らしさはあっても、泥臭さが少なくて話をキレイにまとめすぎた分、「たそがれ清兵衛」のほうが好きかなぁとも思った。やや卑怯な感があるのもマイナスだったかも。ただそんな師匠の厳しくも優しい助言には伝わるものがある。それに映画としてこちらも十分に良かったですよ。

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2004年10月11日
第202回「デビルマン」
ひ、デーモンを見せられた!全てにおいて見どころ無し
ボクの採点表
ストーリー 演技 緊張感 総合
1点 1点
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
那須博之

出演.
伊崎央登/伊崎右典/酒井彩名/渋谷飛鳥/宇崎竜童/阿木燿子/冨永愛他

デビルマン

感想.
 両親を事故で亡くした不動明は牧村家に住みこみ、平和に暮らしていた。そんなある日、幼なじみの飛鳥了に呼び出される。飛鳥の父が謎の事故で死んだのだ。だが導かれた場所には変わり果てた飛鳥の父の姿があった。そして間もなく明の体にとてつもない異変が起き始める。永井豪原作、ビジュアル化不可能といわれた漫画版を「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズの那須博之が実写映画化した。

 この作品、いいところを探そうにも全く見つからないといっていい。演技、演出、ビジュアル、その全てにおいて見どころが無い。特に最悪なのは脚本で、漫画版のキモである飛鳥了の存在を生かし切れず。そもそも物語の水先案内人として機能し、やがてその素性が明らかになる怖さが飛鳥にはあったのだが、この作品の飛鳥はただ単に危険で人類を嫌う存在でしかない。もちろん明への想いは語られるも中途半端。何故そこに至ったか、サタンという存在が私戦から、やがて最終戦争(ハルマゲドン)への道のりを辿るという事。明と美樹の関係はその対極にあり、了との存在は必要なもう一方の両輪の一つ。そしてその末路にある虚しさ。戦いの根源はそうした極めて個人に委ねられる怖さが描かれていない。

 中途半端は脚本だけにとどまらない。鳴り物入りのビジュアル(T-Visual)もほんの僅か。成熟どころか画面に馴染まないCG、好敵手たるシレーヌもジンメンとの戦いも取って付けた程度の扱い。それにCGは動いてナンボだろう。しかも変身とは言い難いデビルマンの姿を全編中ほとんどにさらす。失笑、その上主役の演技は平面的、絶叫も観客の心には届かない。時間の経過、世界が極限状態に陥る中、その緊張感が画面を通して伝わってこない。だから物語、映像を冷静に観てしまう悪循環が生まれる。しかも描かれる物語は前述の通り。最高の原作も最悪の結果となってしまった。

 とにかく本作の中途半端さの所以は監督の描きたいもの、アイデンティティを感じない事である。そこにこだわりはない。結局、本作は監督の中で咀嚼されず、永井豪の世界をなぞっただけであり、なぞるだけではテーマが伝わらない。しかもあの黄色いTシャツ、織り込まれる悪趣味なオマージュが目立つ。そもそも何故この監督が...の気持はあったが、終わってみれば「ひ、デーモンを見せられた」というのが本音である。

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2004年10月10日
第201回「インファナル・アフェア 無間序曲」オススメ
広がり、深みを見せる無間道、前作の欠けたパズルを埋めていく。
ボクの採点表
ストーリー 無間度 人間ドラマ 総合
4つ星 5点 5点 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
アンドリュー・ラウ/アラン・マック

出演.
エディソン・チャン/ショーン・ユー/アンソニー・ウォン/エリック・ツァン/カリーナ・ラウ/フランシス・ン他

インファナル・アフェア 無間序曲

感想.
 1991年中国返還前の香港。街を牛耳る大ボス、クワンが殺された。その後を引き継ぐ息子ハウ。ハウは父の部下達に対しても容赦しない。そんなハウの組織の中堅だったサム。組織壊滅をもくろむウォン警部は彼に接触する。そして二人は時同じくして、お互いの組織に若者を送り込んだのだった。前作「インファナル・アフェア」の時間を遡りつつ、ウォン、サム、ヤン、ラウら四人の過去に迫った三部作第二弾。

 前作のようなスリリングな面は後退したが、その世界観、無間道はさらに大きく広がりを見せる。アンディ・ラウやトニー・レオンは出てこないので一見華はないが、一層深まる人間ドラマ。特に前作、物語を締めたウォン、サムの経緯に焦点を当てて、因果応報の果て自ら無間道にハマリ、二人のエンディングの姿は確実に前作の物語に繋いでいく。やっぱりこの二人の演技、存在感はいい。新キャラ、カリーナ・ラウ演じるサムの妻も絶妙。もちろん若き日のヤン、ラウの二人がそこに絡み、前作の欠けたパズルを少しずつ埋めていく。

 三部作という事だろうか、何気に「ゴッドファーザー」を意識させるシーンも少なくない。両者に共通するのは家族。ただケータイが頻繁に登場する物語で、歴史の深みを描くには背景が物足らない。それは「ゴッドファーザー」との大きな差だろう。だが二つの組織、善と悪が絡み合う無間道は東洋的な深みに溢れている。むしろ前作以上かもしれない。また中盤からラストの急展開は本シリーズらしい。前作を気に入った人には間違いなく薦められる作品だと思う。なお本作の前に必ず前作は観て欲しい。冒頭からテンポ良く進むためについていけないし、前作からの細部は解らず、面白みは明らかに落ちる。

 唯一惜しまれるのは、第三部が日本全国拡大公開されるのに対し、この第二部は前述の通り、メインキャストのネームヴァリューの弱さから公開映画館数が少ない事。確かに第三部公開前にDVDリリースは目に見えているだろうが、物語が良いだけにもっと数多くの映画館で...の気持が強い。何はともあれどんな無間終局を迎えるのか、来年公開の第三部を期待させる出来である。

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2004年9月18日
第200回「スクール・ウォーズ HERO」オススメ
泣きのエピソードは分かっていても琴線に触れる。
ボクの採点表
ストーリー 泣き虫先生 実話度 総合
4つ星 5点 4つ星 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
関本郁夫

出演.
照英/和久井映見/内田朝陽/SAYAKA/小林且弥他

スクール・ウォーズ HERO

感想.
 山上修治は日本代表に上り詰めた程のラガーマン。1974年、現役を引退した彼を見た伏見第一工業高校の校長に「是非教師に」と誘われた。代表のプライドを胸に教壇にたった修治だったが、荒廃した学校とラグビー部の生徒たちの暴力を目の前にし、現実を突きつけられる。しかしそんな彼は妻に叱咤激励され、自らのラガーマン魂で生徒に立ち向かっていく。実際に全国制覇した京都市立伏見工業高校ラグビー部のエピソードを映画化したスポ根ドラマ。

 ご存知「スクール・ウォーズ」の映画化。とはいえ舞台は事実に基づき、神奈川から京都へ。またあくまで実話に即した作りでテレビシリーズのような過剰な脚色はない。むしろ本作を観て初めてその違いを理解できる。そして物語もテレビシリーズで最も熱かった京都総体優勝までの道程を追っている。確かに全国制覇までの七年間を描くのに二時間ではつらい。むしろ物語を絞った事で部員たちの更生、そして山上との熱い交流が丁寧に描かれている。だからエンディングを迎え、いい意味で「もう終わりなの?」と思ってしまったほど。

 物語の結末を分かっていても、映画に惹き込まれたのは照英の熱演にある。実直で熱くてユーモアもあって、フィジカル面も含めて存在感があって良かった。またテレビシリーズの山下真司に負けず劣らず、むしろ「プロジェクトX」で見た本物の山口氏に近い気もする。つい「あの弥栄の信吾が」というセリフは同氏の言葉が重なった。もちろん両者に共通するのは「泣き虫先生」だという事。泣きのエピソードも分かっていても琴線に触れる内容である。

 難しいのは70年代の物語を描くのに、子供たちは今の子の顔立ちという事。例えばSAYAKAは如何にも今の子だし(気が強いマネージャーを好演)、ヘアスタイルや背景は再現されていても少し気になった。しかしそう思うのは始めだけ、物語に没頭し始めると気にならない。試合もぶつかり合う音と共に迫力があって大画面に映える。また音楽はあっさり目、テレビシリーズを意識しない作りも心地いい。最初から最後まで熱い時間が過ごせる作品だと思う。

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2004年9月12日
第199回「バイオハザードII アポカリプス」オススメ
こけおどしの極致と激似したジルの登場にびっくり。
ボクの採点表
ストーリー 世界観 ジル・バレンタイン 総合
3つ星 5点 5点 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
アレクサンダー・ウィット

出演.
ミラ・ジョヴォヴィッチ/シエンナ・ギロリー/オデッド・フェール/トーマス・クレッチマン/ジャレッド・ハリス他

バイオハザードII アポカリプス

感想.
 アンブレラ社のTウイルスの餌食となったラクーンシティ。死者の復活はさらなるアンデッド(ゾンビ)を生み、ウイルスは広がるばかりだった。アンブレラ社は私設軍隊を投入するも街を隔離、残された市民は逃げ惑う。その頃、アンブレラ社の研究所を抜け出したアリスは、教会に逃げ込んでいたジルたちと合流、活路を探していた。そんな時突然、電話のベルが鳴る。人気ゲーム「バイオハザード」をベースに前作を受けて作られた第二章。

 前作はポール・W・S・アンダーソンの手腕が光り、ゲームの世界観を見事に構築していた。今回、監督が代わった事で危惧されたが、アンダーソン自身が再び脚本、そして製作を兼ねており、前作に引き続いたテイストを醸している。そしてあくまで序章として作られた前作から、いよいよゲームの本題、街中でのアンデッドとの壮絶なバトルが始まる。舞台はアンブレラ社からラクーンシティへ拡大、アクションもスケールも大きくアップしている。

 本作の見どころはシリーズの人気キャラであるジルの登場。画面を抜け出したかのような激似したルックスにびっくり、アンダーソンのこだわりだろう。ゲームファンならそれだけで満足。しかもアリスに負けず劣らずのアクションをみせてくれる。総力戦に兵器アイテムもパワーアップ、ガンアクションも凄まじい。ただ惜しまれる点はストップモーションの多用に、アクション中はクローズアップの画ばかりで、観る側が動きを捉えにくい事。スピーディーなアクションはゲームにない要素だが、もう少し大事に撮って欲しかった。

 ゲーム同様、こけおどしの極致だった前作を継承、今回もあっと驚かせてくれる。確かにそれ以上の印象を得る映画ではないが、それ以下の映画でもない。ウイルスの背景、アンブレラの目的など、その背景も丁寧に描かれている。本作でアリスは「エイリアン」のリプリー並みのキャラに出世したといえる(背景も話も、そして待ち受ける運命も似たような感じだが)。微妙に作品に流れるB級感も良い。少なくとも前作に納得、楽しめた人なら期待に応える出来だと思う。

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2004年9月11日
第198回「スウィングガールズ」
上手になる過程が端折られ、気持がスウィングするまでに至らず。
ボクの採点表
ストーリー スウィング度 女子高生 総合
3つ星 3つ星 4つ星 3つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
矢口史靖

出演.
上野樹里/貫地谷しほり/豊島由佳梨/平岡祐太/竹中直人/白石美帆他

スウィングガールズ

感想.
 何をやっても長続きしない女子高生の友子。夏休み補習の最中、高校野球で吹奏楽部にある事件が発生(?)、野球部の応援演奏のために彼女たちが召集された。しかし楽器を扱った事すらないほとんど素人集団。しかも吹奏楽のような大編成は組む事ができない。そんな時、ジャズのビッグバンドならと思いつく。「ウォーターボーイズ」の矢口史靖が、ジャズに目覚める女の子たちの青春を描いた音楽コメディ。

 目標を失った高校生が、ふとしたきっかけで新たな目標に目覚め、これを達成していく。まさに「ウォーターボーイズ」の女性版という物語構成。ただその大きな違いは音楽映画である事。「スウィングガールズ」のタイトル通り、ジャズのノリがポイントである。前半から矢口流のギャグが散りばめられ、小さな笑いを誘う。しかし音楽映画というよりコメディ色ばかりが目立ち、正直こちら観る側の気持がスウィングするまでに至らなかった。

 本作の欠点は音楽を主題にする映画でありながら、前半は笑いばかりに目が行く点である。もちろん楽器が扱えない子たちが上手くなっていく過程を追いたいがゆえ、音楽(BGM)がそれをスポイルする事を嫌ったのだろう。ただその後、最も大事な楽器が上手になる過程が端折られ、楽器を手に入れる過程ばかりにストーリーを割いた事も、そうしたノリの悪さの要因となったのかもしれない。音楽の使い方の巧い矢口監督だけに、もう少し何とかして欲しかった。

 「ウォーターボーイズ」と同じ韻を踏むのなら、それ以上の印象が欲しかった作品だったが、これでは単なる二番煎じととられても仕方がない。また物語的に山形弁と女子高生、さらにジャズという題材が生かしきれたとはいい難い。確かに彼女たちの表情は惹かれるものがあり、クライマックスの演奏後の表情には演技を超えたものが感じられた。ただそこから伝わる達成感は「ウォーターボーイズ」に及ばなかったと思う。やっぱり達成感にはその過程を描く事が大事。演奏が良いだけにもったいないと思わせる作品だった。

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2004年9月5日
第197回「LOVERS」オススメ
魅力は動のチャン・ツィイー。初々しかった彼女はもういない。
ボクの採点表
ストーリー チャン・ツィイー 映像美 総合
4つ星 5点 4つ星 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
チャン・イーモウ

出演.
金城武/アンディ・ラウ/チャン・ツィイー他

感想.
 中国、唐の時代。乱世に朝廷と敵対する勢力が台頭。そんな中、遊郭に最大勢力といわれる龍飛門の刺客の存在を耳にする。そこで朝廷の役人劉(リウ)は同じ役人の金(ジン)を向わせた。遊郭一の美女小妹(シャオメイ)、彼女こそその刺客。優雅でありながら鬼気迫る踊りに圧倒される金。しかし彼女は盲目だった。「HERO」で新境地を開いたチャン・イーモウが、唐の時代を舞台にした三つの愛を巡る物語。

 まず前作「HERO」のような大義をテーマにした作品ではない。物語は騙し合いの様相で一見複雑、次々と明かされる真実、またはまやかし、特に序盤はその展開に翻弄されるかもしれない。だが本作の描きたいテーマ、愛を巡る感情はシンプルである。戦いを重ねる末、素直に恋に落ちる様、じっと秘める恋、その狭間に迷う愛情。やがて掟、人を殺(あや)める三人の立場が生む悲劇が描かれていく。

 本作の魅力は動のチャン・ツィイーに尽きる。静の彼女が魅力だった「初恋のきた道」から一転。本作の彼女は激しく踊り、そして剣を片手に鋭く舞う。「初恋のきた道」もアイドル映画的な側面があったが、本作は大人のためのアイドル映画かもしれない。冒頭の鼓打ちの舞のシーンの優雅さ、その美しさ。ただ激しく愛し合う姿に、初々しかった彼女はもういない。さらに殺陣のシーンにおける彼女の頑張りは、その画面を通して受け取れるだろう。

 また主演の二人、金城武の激しさ、そしてアンディ・ラウの大人の目の演技が光る。三人が、がっぷり四つにぶつかってこそ美しい。また四季を感じ、「HERO」よりも素朴な映像が美しく重なり、何とも終演は虚しい。きめ細かく「HERO」とは別の映像設計で明らかに大画面向き。ただ殺陣のシーンは「HERO」との差別化は解るが、ややCG偏重なカットが目立つのは残念。またリズムを刻む太鼓、吐息に至るまで音の演出、音への気配りは印象的。特に吐息は何とも官能的であった。なおエンドロール、国際的なスタッフの中にも主題歌がキャスリーン・バトル(歌は英語詩)というのは驚いた。

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2004年8月23日
第196回「釣りバカ日誌15/ハマちゃんに明日はない!?」オススメ
コストパフォーマンスは高く、定番の展開に思わずニヤリ。
ボクの採点表
ストーリー ハマちゃん 秋田 総合
4つ星 5点 4つ星 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
朝原雄三

出演.
西田敏行/三國連太郎/江角マキコ/筧利夫/浅田美代子/谷啓他

釣りバカ日誌15/ハマちゃんに明日はない!?

感想. 
 ハマちゃんの勤める鈴木建設にも成果主義の波がやって来た。その頃、スーさんは重役達が招いたコンサルタント社員、薫の説明を受けていた。戸惑いを口にして部屋を出て行くスーさん。しかし薫自身もそんなプレゼンをする自分に疑問を抱いていた。だがそんな事も露知らず期が変わり、新たな有給休暇を得たハマちゃんは秋田へ向かったのだった。そんな道中、実家へ帰る薫と出会う。やがて意気投合する二人は思わぬ形で再会する事になった。ご存知、ハマちゃん、スーさんの釣りバカ日誌、秋田を舞台にした第15弾。

 知れたキャラクター、定番の展開に思わずニヤリ。話は立ち上がりからハマちゃん節が炸裂していく。西田敏行どんなキャラを演じても、今やハマちゃんに敵う者は無し。笑いのツボは何でもありで、恒例の「合体」も健在。小ネタまでオカシイ。ただ実際こんな社員が周りにいたら迷惑するだろうし、あくまで映画の出来事、他人事だから皆に愛される。いやハマちゃんはサラリーマンの理想郷だからこそ愛されている気がする。

 今回は秋田が舞台だが、若い二人の遅咲きの恋が描かれていく。秋田編の後半、どちらかというと小津作品へのオマージュが強い。さすが松竹、劇中小津の「麦秋」が流れるが、カット割りや服装まで意識した場面がみられる。ただそこは釣りバカ、ハマちゃんも笑いの仲人として参戦。笑いに始まり、笑いに終わる。ハマちゃんの息子鯉太郎クンもいい味を出している。スーさんも交えてエンドロールまで楽しめる。

 「...明日はない!? 」のサブタイトルも、物語は世間で進むリストラへの小さな抵抗、そんな世間へのエールこそがハマちゃん。ましてなかなか笑えるドラマというのは少ないもの。喜劇、大きなスクリーンの映画館だからこその笑いもある。本作は派手さは無いが、だらだら放送される二時間ドラマとは質が違う。そして何より映画の日を問わず、千円で観られるのが嬉しい。秋田旅行を疑似体験できるのも含めて、コストパフォーマンスは高いです。

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2004年8月23日
第195回「華氏911」オススメ
被告無き欠席裁判、ブッシュの言動で紡いだ毒舌コラージュ。
ボクの採点表
内容 アポなし度 無責任度 総合
4つ星 3つ星 5点 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督・出演.
マイケル・ムーア

主演.
ジョージ・W・ブッシュ

華氏911

感想. 
 2001年9月11日、アメリカ本土を襲った歴史的テロ事件。その最中、アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュはホワイトハウスの外にいた。来訪した小学校、絵本を見入るブッシュにテロの第一報が届く。悲しみにくれるアメリカ。果たしてブッシュはどう動くのか?その一方、テロは未然に防げなかったのか?「ボーリング・フォー・コロンバイン」のマイケル・ムーアが現役大統領を糾弾するドキュメンタリー。

 この作品の言いたい事ははっきりと反ブッシュ。曖昧に我が道を行く自国の大統領を、その誕生から痛烈に批判していく。ムーア流の毒舌も健在で、ブッシュ政権の閣僚までその餌食となっていく。ブッシュファミリー、オイルマネー、軍事産業、サウジとの蜜月関係。9.11の経緯を追う中で未然に防げた事実、ビン・ラディンとのただならぬ関係まで暴露する。特に中盤までテンポよく毒舌の切れ味も良い。前作「ボーリング・フォー・コロンバイン」と同様、国民に得体の知れない恐怖を与え、暴利を搾り取る点も追求していく。

 ただ筆者的に新味のある内容は少なかった。この映画以前、テレビのドキュメンタリーでビン・ラディンファミリーとの関係、各軍事産業とのブッシュ政権の背景は知っていたし、イラク戦争の戦死者の家族を担ぎだして批判したい気持ちはわかるが、まとめ方は前作と同じ手法で物足らない(もちろん悲しみの重さは理解した上で)。しかも物足らなさを感じたのは、ブッシュとの直接対決はわずかワンカット(1-2分)であり、そのほとんどが被告無き欠席裁判。主役はブッシュといいつつも、ムーア流ブッシュの言動で紡いだ毒舌コラージュ集に終わっている。全米ライフル協会を相手に回し、アポ無しでグイグイ惹きつけた前作のような求心力を失ってしまった。相手が巨大すぎる故に難しいとは思うが、彼の作るドキュメンタリーとしては是非実現して欲しかった。

 ただ自由の国アメリカですら情報統制を受け、多くの国民がまだまだブッシュの背景が充分に知らされていないのも事実。本作がパルムドールを獲った事も、本作の存在価値がそういう意味で評価されるべきだろう。またヒトラー並みの秘密警察の如く、民間人が取り調べられる事実も恐ろしい。そんな法律が簡単に通る怖さは我が国に重なり、今や他人事に思えない時代の始まりかもしれない。全てを真に受けるのは早計だが、普段政治に興味の無い人には観て欲しい。

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2004年8月7日
第194回「スパイダーマン2」オススメ
もがき苦しむじれったさとヒーローとしての成長。
ボクの採点表
ストーリー じれったさ ヒーロー 総合
5点 4つ星 5点 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
サム・ライミ

出演.
トビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト、アルフレッド・モリーナ、ジェームズ・フランコ他

スパイダーマン2

感想. 
 大学進学の傍ら、悪の手から街を守るスパイダーマンことピーター・パーカー。しかしヒーローの華やかさと現実は大きくズレ始め、学業は中途半端、しかも宿代は払えず、借金生活に陥ってしまう。一方、MJ(メリー・ジェーン)は舞台で成功へのステップを歩み始め、ハリーはオズボーン社を引き継ぎ、実業家として新たな研究をサポートしていた。その研究こそオクタヴィス博士の核融合技術、しかし研究発表の場で大事故が起きてしまう。そして間もなく、鉄の触手を持った怪物ドック・オクが誕生したのだった。前作から二年、スケールアップして摩天楼を疾駆するスパイダーマン第二章。

 物語は相変わらず青臭さが特徴で、今回も悩み、もがき苦しむピーターの様がじれったい。しかしそれこそがスパイダーマンの持ち味であり、我々男性が感情移入し易い要因でもある。さらに第二章たる本作ではよりパーソナルな側面に踏み込み、自己犠牲の果てに己をさらけ出すピーター。サム・ライミはそうする事で、スパイダーマンにヒーローとしての成長を与えている。恋愛感も相変わらずだがよく考えてみれば、ピーターのもう一つの姿、白い糸を放つスパイダーマンという存在に、性的な印象を感じるのは思い込みすぎだろうか。恋愛に関しやや大人の味付けな「X-MEN」とは違い、やはり青春の二文字がよく似合う。

 今回の敵はドック・オク。縦横無尽さはスパイダーマンにひけを取らず、しかもパワフル。空中戦の多かった前作と違い、本作では互いに壁を這い、縦型アクションになったのも映像的に面白く映った。もちろん悪役とはいえ、完全な悪でない点も心憎い。ピーターへ恋の手ほどきをするのがオクタヴィスだし、二面性に狂気を感じつつも変身後の末路は、科学者としての人間性も感じる。表情にユーモアを醸すアルフレッド・モリーナの起用もいい。

 なおVFXは前作に比べCG臭さは後退し、より作品にのめり込む事ができた。コミックを題材にしつつ、物語とヒーローを見事にバランスさせるサム・ライミの手腕も極まった気がする。ただ前述の通り、中盤でじれったさを感じる人も少なくないだろう。ただ一応の結末をつけた今回に対し、彼が三度関わるであろう第三章では、果たしてどのようなまとめ方をするのか、今回からの伏線を含めて非常に興味深い。

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2004年8月7日
第193回「サンダーバード」
救助メカの活躍が物足らず、本来の魅力を欠いたお子様向け。
ボクの採点表
ストーリー 懐かしさ お子様向け 総合
2つ星 3つ星 4つ星 2つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
ジョナサン・フレイクス

出演.
ビル・パクストン/ブラディ・コルベット/ソフィア・マイルズ/アンソニー・エドワーズ/ロン・クック/ベン・キングズレー他

サンダーバード

感想. 
 ロシア油田の火災事故が発生、出動するサンダーバード1号と2号。無事に救助を成功する国際救助隊だが、それは宿敵ザ・フッドによって仕掛けられた罠だった。トレーシー一家は宇宙に分断され、彼らの島は乗っ取られてしまう。そんな中、島に残された末っ子アランは国際救助隊の窮地を打開すべく動き出す。60年代、全世界をスーパーマリオネーション(人形劇)で熱狂させたサンダーバードが実写版で復活。

 まずこの映画版の物語は完全にお子様向けになっている。確かにファミリー映画を意識した作りは賢明である。ただサンダーバードのテレビシリーズの優れた点は、大人の鑑賞にも耐えうる物語と映像だった事を考えると残念。また家族関係が父ジェフとアランの間に絞られすぎ、他の兄弟達は添え物程度の扱いに終わっている。しかも物語の大半がアランら子供たち中心で、友情を匂わせるものの、新味無くこれといって気を惹くような内容ではない。

 そして救助活動が物足らない。そればかりか少な過ぎる。フッドの存在(俳優の格からも)を強調するあまり、オリジナル本来の魅力を欠いた物語となってしまった。さらにCGで描かれたサンダーバードにドキドキしない。オリジナルのサンダーバードは重力を感じ、サスペンションの動きに至るまで、観ている者に伝わってくるリアルさ、緊張感を有していたが、今回はそこまでの気配りは感じない。恒例、肝心の発進シーンもあまりに割愛されてしまっている。とにかくもっと救助メカの活躍が欲しかった。

 ないない尽くしになったが、前述の通りにお子様向けだと考えれば、別段けなすような映画でもない。バリー・グレイのメインテーマをハンス・ジマーがリメイクし、オープニングはその映像と相まってポップさを演出。ソフィア・マイルズのペネロープ嬢は現代的で美しいし、パーカーもユーモアたっぷり。まともな日本語吹替版があればもう一度観てみたい。

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2004年8月1日
第192回「マッハ!!!!!!!!」オススメ
気分は深夜の東京12チャンネル、あまりに凄いとただ笑うしかない。
ボクの採点表
ストーリー アクション 痛み 総合
2つ星 5点 5点 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
プラッチャヤー・ピンゲーオ

出演.
トニー・ジャー/ペットターイ・ウォンカムラオ/プマワーリー・ヨートガモン/スチャオ・ポンウィライ他

感想. 
 タイの片田舎、ノンプラドゥの村。貧しくも崇める仏像のおかげで、村は平和と溢れる自然を守っていた。しかし仏像の頭を奪われ、一瞬にして村はどん底に突き落とされた。そんな村を救うべく、ムエタイの達人ティンが、仏像の頭を奪ったドンを追いかけ、バンコクへ向かうのだった。CG、ワイヤーアクション、早回し御法度、徹底してライブアクションにこだわったタイ発ガチンコ武闘映画。

 これでもかのアクションを期待した序盤だったが、かつての香港映画を思わせるありがちな展開で、やや平凡に進んで肩透かしを喰らった。しかしいざエンジンが掛かると凄い。これほど痛さが伝わってくるアクションは久しぶり。特にトニー・ジャーの超人的な動きと相まって、ぶつかり汗が飛び散る映像。暑気払いにもってこい。驚き、唖然とさせられると共に思わず笑ってしまった。あまりに凄いとただ笑うしかない時もある。

 もちろん単なるアクションに終わらず、多人数との戦いやタクシーチェイス等、色々趣向を変えている点も好感、見どころを心得ている。ただ勿体無いのが、スローモーション、ストップモーションの多用だ。エンドロールで流れたトニー・ジャーの鋭く素早い動きを見ると、本編中でこそもっと見たかった気がする。それ程に素晴らしかった。ただ素のスピードで展開すると、それこそ映画本編が短くなってしまうかもしれない(笑)。時にお涙頂戴でありきたりなストーリーだが、とにかくアクションが第一。その意気込みは充分に感じられるし、邦題の勢いの如く最後まで突き抜けている。

 筆者地元の映画館では日本語吹替版しか見られなかったが、むしろ気分は深夜、かつての東京12チャンネルを彷彿とさせる時間を過ごす事ができた。つい夜中に目が覚めて、テレビを付けたら最後まで観てしまう感覚。実際吹替えも悪くなかった。ただ願わくば原語で観たいのが映画ファン。言葉から文化を知るのも、映画で大事な要素だと思う。映画そのものと関係ないが、地方映画館の選択肢の無さに少し残念に感じた。

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2004年7月17日
第191回「スチームボーイ」オススメ
大友作品の定番である破壊と創造はここでも健在
ボクの採点表
ストーリー 大友テイスト 映像 総合
4つ星 4つ星 5点 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督・原案・脚本.
大友克洋

声の出演.
鈴木杏/小西真奈美/中村嘉葎雄/津嘉山正種/児玉清/沢村一樹/斉藤暁/寺島進他

スチームボーイ

感想. 
 19世紀のイギリス。少年レイのもとにアメリカにいる祖父ロイドから小包が届けられ、そこにはスチームボールと呼ばれる鉄の球が秘められていた。間もなくオハラ財団の使者がレイを訪れるも、突然現れた祖父ロイドの言葉から、レイはスチームボールを持って逃げる羽目に。だがオハラ財団はレイを容赦なく追い詰める。そしてレイの前に現れたのは、死んだはずの父エディだった。「AKIRA」で全世界の度肝を抜いた大友克洋が、10年の歳月をかけて製作したアニメーション大作。

 観て感じる作品だった「AKIRA」。これに対して本作は冒険活劇という解りやすい作りとなっている。しかしながら明確な敵を設けていない。そこに科学の進歩と扱う者の立場を描きつつ、それなりの結末はあるものの、投げかけられた結論自体は観る者に委ねている。産業革命以降の目まぐるしい進歩の中、正しく進むべき道を見失った世界へのアンチテーゼ。そこに大友流のフィクション、世界観を織り交ぜ、圧倒的なスケールと映像で迫ってくる。

 ただ「AKIRA」のように言葉で表せない凄さがあったかと言われると難しい。活劇としての解り易さが逆に物足りなさとなってしまった。本作を観るべきターゲット層からすればやむを得ないが、大友らしく鳥肌の立つ場面が欲しかった。しかしロンドンの空を翔るレイ、陥落するスチーム城のスペクタクルは言葉にし難い。そして大友作品の定番である破壊と創造はここでも健在だ。

 「科学の子」を未来でなく、「スチームボーイ」のタイトル通りに過去、19世紀で描いた大友のオマージュ。そしてメカへのこだわり。しかも空を飛ぶ姿は宮崎アニメとは異なるアプローチ。主人公のはつらつとした姿。科学の目指す道、その道を見誤る父、信念を貫く祖父。三者にテーマを重ね、活劇として定番を踏まえていく。大友作品としては大人しくはあるが、残酷さは程ほどに子供向けとして薦められる夏休み映画だと思う。

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2004年7月4日
第190回「ブラザーフッド」オススメ
リアルな戦場、戦争の大義よりも個人的感情を表に出す。
ボクの採点表
ストーリー 戦闘 厳しさ 総合
4つ星 5点 5点 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
カン・ジェギュ

出演.
チャン・ドンゴン/ウォンビン/イ・ウンジュ/コン・ヒョンジン/チェ・ミンシク他

ブラザーフッド

感想. 
 1950年ソウル。学が無くとも弟思いのジンテ、家族思いのジンソクの兄弟。結婚を間近にするジンテは、ジンソクを無事に大学進学させるのが小さな喜びとなっていた。だが彼らを突然襲った朝鮮戦争の勃発。しかも疎開の中、徴兵にとられてしまうジンソク。そしてそのジンソクを追ったジンテたちは、そのまま戦場の最前線に送り込まれてしまう。ジンテは戦線で手柄を上げる事をきっかけにジンソクを除隊させようと奔走する。「シュリ」のカン・ジェギュ監督が描く戦争ドラマ。

 揺れる手持ちカメラの映像にリアルな戦場で「プライベート・ライアン」を彷彿とさせる場面が多い。ある意味あっけなく、しかし長く続く戦闘は、戦争の持つ痛みと苦しみを伝えてくる。これだけのシーンを作るだけでも凄いと思うが、それが韓国映画だという事実。そこにハリウッドとのレベル差は微塵も感じない。「シュリ」同様、監督にとって南北分断を描く事がライフワークだと思うが、エンターテイメントに徹した前作とはアプローチが違う。戦争の大義よりも個人的感情を表に出して、朝鮮戦争の行く末を兄弟の目を通して描いている。

 戦争の起きた背景よりも、過程とその渦中で狂っていく彼らの心境と立場が物悲しい。しかも同じ国民同士すら狂わせる極限状態に、一途なジンテの思いも限度を超えてゆく。そんなジンテを演じるチャン・ドンゴンの目もその厳しさを強く訴えてくる。だがそんな現実に劇中のジンソク同様、理不尽な感情を抱いてしまうが、それらが戦争が生んだ悲劇というには簡単すぎるかもしれない。ただ朝鮮戦争に限らず生じる理不尽さこそ、どんな戦争でも語られている現実である。

 残念なのが、従来の戦争映画以上に何かを訴えているかという点で弱い事。リアルさは判るが、映像だけでいえば二番煎じを感じなくも無い。言葉にはできないが、全体的に何かが物足らないのだ。それと手法的にスローモーションを使い、観客の感情を揺さぶる演出には古さを感じてしまう。ただ朝鮮戦争、そこに至るまでの韓国の立場を考えれば、今や風化されつつある50年前の悲劇を語り続けようとする意義を感じる。ハリウッドのようなプロパガンダでなく、この悲劇を通じて問題提起する事がこの映画のテーマだと感じた。

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2004年6月26日
第189回「ロスト・イン・トランスレーション」オススメ
ありとあらゆる関係に生じる「Lost in Translation」
ボクの採点表
ストーリー 東京 孤独 総合
4つ星 4つ星 4つ星 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
ソフィア・コッポラ

出演.
ビル・マーレイ/スカーレット・ヨハンソン/ジョバンニ・リビシ/アンナ・ファリス他

ロスト・イン・トランスレーション

感想. 
 サントリーのCM撮影で東京へやって来たハリウッド俳優のボブ。だがその心中は言葉の通じぬ苛立ち、街に溢れる異文化に戸惑うばかり。そんな中、同じホテルにカメラマンの夫と宿泊中だった女性シャーロットと出会う。やがて何か埋まるものを持たない二人は意気投合、夜の街へ飛び出すのだった。ソフィア・コッポラが自身の日本滞在体験を基に監督・製作、彼女自身もアカデミー賞脚本賞を獲得した作品。

 「Lost in Translation」とタイトルの通り、「翻訳の中で失われるもの」の世界。その一つが異文化であり、渋谷やテレビ、広告業界等々、いろいろと出てくる。ややオーバーな面を感じ無くもないが、あくまで軽いデフォルメ。そこにコメディ的な狙いはなく、それだけを目的にしていると面を喰らうだろう。そこにはほぼ等身大の日本、東京がある。この映画にとって日本は主人公二人が漂流する海のようなもの。絶えず漂流、浮遊感が彼ら二人を取り囲んでいる。そんなヨハンソンを表すように、窓際に脚を組んでただずむ彼女が、乾いた映像と共に印象的であったりする。

 そしてタイトルに込められたもう一つのTranslationの対象が解釈、互いの関係の見方だという事。互いの何処か冷めた夫婦関係、そんな中を異国で生まれた友情、愛情が欠けたものを埋め合う。だからといってお互いセリフを浴びせ、語り合うような作品ではない。むしろシチュエーションを大事にしている脚本。印象的なセリフは数少ないが、街中のラストシーンのようにセリフで決めず、表情だけを追っている点も評価されたのだと思う。ただ以上に限らず、このタイトルの持つ含蓄は深い。

 元々とぼけた味が身上のマーレイだが、面と向かってコメディしていないところに中年の悲哀を感じる。ヨハンソン演じるシャーロットとの関係も実にプラトニック。本作ではそんなありとあらゆる関係に生じる「Lost in Translation」が興味深い作品である。ただ唯一いただけなかったのは街中でエアガンを連射する日本人。蛍光弾が美しいと使ったのだろうが、人に向けて発砲する姿を見ると正直気分を害した。せっかくの等身大の日本も台無しである。なお本作も例に漏れず、東京の夜のネオンが光輝く。殊更ショットの長かった三千里薬品は外国人には印象的なのだろう。

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2004年6月25日
第188回「デイ・アフター・トゥモロー」
まずはストーリーよりも映像、アメリカ版「日本沈没」
ボクの採点表
ストーリー CG 絶望度 総合
3つ星 4つ星 4つ星 3つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
ローランド・エメリッヒ

出演.
デニス・クエイド/ジェイク・ギレンホール/イアン・ホルム/エミー・ロッサム/セラ・ウォード他

デイ・アフター・トゥモロー

感想. 
 環境学者のジャックは学会で自分の学説とその危険を訴えるも、一方の政治力学に押し潰されてしまうばかり。そんな時、グリーンランド沖の観測ブイを始めとして温度上昇が記録された。やがて巨大な雹(ひょう)が降るなど、全世界的に大気が不安定な状態となっていく。そして大嵐がロサンゼルスを襲い、壊滅的な破壊を受けてしまう。ジャックの学説に近づく世界。だがまもなくニューヨークを巨大津波が襲う。彼の息子サムはニューヨークにいたのだ。ジャックはサムを救う事ができるのか。そして世界はどうなっていくのか。「インデペンデンス・デイ」のローランド・エメリッヒ監督が描くデザスタームービー。

 あまりにど派手な展開に気象学や科学的根拠は?と思ってしまうが、それを思わせないくらいに圧巻、大画面スクリーン向きのCGを連発。あまりに簡単に吹き飛ばされる姿は、むしろ自然に太刀打ちできない人類を描くのに充分な描写力。ただ親子愛、友情、愛情は露払い程度に、あとはこれでもかの危機的状況の連続、特に世界が巨大な目玉(大気渦)三つに覆われると、観客としては黙って観ているしかない。ただそこにあるのは氷の世界。地味なキャスティングを配した理由(とはいえ演技には定評のある主役二人)も、あくまで自然が主役という表れであろう。

 ただ本作は地球温暖化に警鐘を鳴らす一方でとどのつまり、描かれるのはアメリカ版「日本沈没」。本土は大打撃を受け、民族は母国を捨て、世界への離散を余儀なくされていく姿。そう小松左京の「日本沈没」で描かれた世界をそのまま、本作で同じ韻を踏んでいる。そして離散の現実に遭遇しても、自分たち民族と愛国の誇りを捨てず生きる事、そんな大統領のスピーチも重なるエピローグ。ただ「インデペンデンス・デイ」や「ゴジラ」であれだけ脳天気なパニック大作ばかりを描いてきたエメリッヒらしくなく、結末に光明は差すものの、何処か悲観的な未来観が織り込まれ、今のアメリカへのアンチテーゼが見え隠れしている。

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2004年6月12日
第187回「下妻物語」オススメ
貫けマイスタイル!いつの間にかちょっとした元気をくれる。
ボクの採点表
ストーリー コメディ マイスタイル 総合
4つ星 4つ星 4つ星 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
中島哲也

出演.
深田恭子/土屋アンナ/宮迫博之/篠原涼子/樹木希林/阿部サダヲ他

下妻物語

感想. 
 茨城県下妻の田舎町、ロリータファッションに身を包む高校2年の桃子。唯我独尊、その考えは自らが語るように波瀾万丈な人生が生んできたものだった。そんな彼女がヤンキーのイチゴと出会い、やがて二人の間に奇妙な友情が目覚めていく。藪嶽野ばら原作小説をベースに、超ど田舎下妻を舞台に描くローカル青春コメディ。

 原作を知らず、想像でキャラが固定されていない分、主人公二人のなりきりぶりが心地いい。土屋アンナの凄みのある存在感、そして地で演じているような深田恭子の演技。今まで正直、深田の演技って上手いとは思えなかった。むしろ本作はそれを利用して桃子のキャラを作っているようにも思えていた。本当に途中まで。ところがクライマックス、それを逆手にとり、観客の想像を覆すようにビシッと魅せてくれる。そのギャップ、セリフ回し、表情共に完璧。ここを観るだけでも本作の価値がある。

 この作品、自虐的なローカルギャグが中心の作品と思いきや、友情とマイスタイルを貫き通す事が隠れたテーマ。多少デフォルメされているキャラたちを交え、言いたい事は至ってシンプル。ポリシーを通して生きる事の難しさ、それを見つけた時の満足感を彼女たち二人を通して描かれている。同性でない分、完全な感情移入までに至らなかったが、感化されるだけで充分。好きな事、没頭できる事、浅かろうが深かろうが、それを信じて走っていけばいい。

 もちろん本作の本分たるコメディ、ローカル色、カルチャーギャップも楽しみの一つ。ジャスコに限らず、田園風景、いかにも田舎な下妻駅と風情があっていい。そんなローカルなテンポと相反し、作品自体は緩急織りまぜつつハイテンポ。それがまた本作のポップな流れを作っている。奇をてらいつつ笑わせて、いつの間にかちょっとした元気をくれる、そんな映画だと思う。

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2004年6月5日
第186回「キューティーハニー」
またかと思わされる反面、アノ作品よりも後味は遙かにいい。
ボクの採点表
ストーリー あのテーマ サトエリ=ハニー 総合
3つ星 4つ星 4つ星 3つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
庵野秀明

出演.
佐藤江梨子/市川実日子/村上淳/及川光博/片桐はいり/小日向しえ他

感想. 
 叔父と慕う宇津木博士が誘拐され、その一報を知った如月ハニー。一目散に囚らわれた東京湾アクアラインへと向かうのだった。一方、誘拐犯は逃げ道を奪われ、警察が取り囲んでいた。だがまもなく警察は爆音と共にけちらされてしまう。その誘拐犯こそパンサークローの師客、ゴールドクローだった。万事休す、だがそこに一筋の光が現れた。それこそキューティーハニーの放つ輝きだった。永井豪原作、キュートでセクシー、そして強いハニーが「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督の手で実写として帰ってきた。

 冒頭からテンポがいい作品。もちろんあの有名なテーマソングに助けられている点は多々あるが、はちきれんばかりの健康的なサトエリといい、オマージュ満載のオープニングアニメといい、ある意味木っ端恥ずかしさも認めつつ、楽しく観る事ができた。映像は総天然色、キャラが立った登場人物たち。映画である必要性は感じないが、劇画的で心地いい。サトエリからキューティーハニーに歩み寄るのでなく、サトエリ自身のキャラを生かした形。戦いの際の凛々しさ、普段のおバカさのギャップ(アニメ以上に極端ではあるが)もかつてのアニメシリーズに相通じるところだろう。

 最初は単なるおバカなオマージュ実写で終わるかと思いきや、庵野監督は永井豪ワールド、キューティーハニーを語りつつ、徐々に自分の土俵へ引き込んでいく。その最たるがシスター・ジルの存在。「エヴァ」を知るファンならまたかと思わされる反面、このハニーでは非常にあっさりと描いている。むしろ前向き、ポジティブに描かれる分、「エヴァ」よりも後味は遙かにいい。アダルトチルドレン、大人の都合に走る描写は少ない。またそれだけを描くのも真意ではないだろう。

 最後の決戦では特撮のチープさを織りまぜつつ、その戦いの場はアニメシリーズをほうふつさせる。笑いの点ではツボにハマらなかったが、サトエリの魅力で充分に事足りる。それにしてもキューティーハニーのテーマは伝家の宝刀。戦いの場ではマッチしていた(アレンジを程々にしたのも好感)。もちろん庵野監督の色を感じつつ、全般的にはここ一連、アニメからの実写化例では成功の部類に入る作品だと思う。

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2004年5月16日
第185回「キル・ビル vol.2」オススメ
タランティーノの描く、これが女の「怨み節」
ボクの採点表
ストーリー 怨み節 殺陣 総合
4つ星 5点 4つ星 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
クエンティン・タランティーノ

出演.
ユマ・サーマン/デビッド・キャラダイン/ダリル・ハンナ/マイケル・マドセン/ゴードン・リュー他

感想. 
 毒ヘビ暗殺団への復讐の旅を続けるザ・ブライド。その矛先は第三のメンバー、バドに向かう。だがそんなバドはアル中、用心棒をしながら生計を立てていた。ザ・ブライドにとって落ちぶれたバドは取るに足らない存在...のはずだったのだが。果たして彼女は復讐リストの最後、ビルまでたどり着く事はできるのだろうか。タランティーノ第4作目、二部作に分かれたvol.1を受けた完結編(らしい?)。

 全体マンガ的に進んだvol.1と異なり、vol.2は静かに淡々と進む。特に冒頭モノクロによるデビッド・キャラダインの表情が印象的。vol.1の千葉真一と同様、ビルは彼にとってタランティーノが用意した絶好の役。殺し屋ゆえの運命、悲しみをタランティーノ流にセリフや状況を引用しながら描かれている。そして二部作に分かれる以前にこの後半は非常に重要なパートであり、「KILL BILL」全体で描かれるテーマ「(女の)怨み節」に迫っている。

 だが映画オタクたるタランティーノ、サービス精神とオマージュは忘れていない。パイ・メイのエピソードはvol.1の「刀」から、vol.2の「拳」への重要なカギとなっている。それに単なる修行でなく、一触即発な展開にマッチして、かつザ・ブライドの復讐劇の伏線も担っている。タランティーノがこの二部作を通して感じさせるアジアは、単なる女の復讐劇に留まらない。まるで「怨み節」の歌詞をなぞっているようだ。割と観客の寂しい映画館で観たおかげで、再び流れる梶芽衣子の唄がやけに心に沁みた気もする。

 とはいえ、とにかく「KILL BILL」の本分はドラマでなくマンガである。ただvol.2は繊細さをメインにトドメは緩急が絶妙な殺陣。ただあまりにvol.1のチャンバラは行き過ぎた感が強く、もし当初の目論見通り、一本の映画になっていたら...と思う残念な面もある。それほどにvol.1とのテンポの違いが激しく、またそこがいい。vol.1以上にB級感は強いが、復讐劇の最後とは儚(はかな)いもの。それこそがタランティーノの作りたかった最大級のオマージュだと思う。静かながらそれぞれのキャラが一層濃い点でも、vol.2のほうが好きです。

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2004年5月15日
第184回「ビッグ・フィッシュ」オススメ
観る者の父性に訴えるバートン版「フォレスト・ガンプ」
ボクの採点表
ストーリー ファンタジー おとぎ話 総合
5点 4つ星 5点 5点
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
ティム・バートン

出演.
ユアン・マクレガー/アルバート・フィニー/ビリー・クラダップ/ジェシカ・ラング他

感想. 
 妻と生まれてくる子供を待つウィル。だが事あるごとに夢のあるホラ話を語る父エドワードを年と共に受け入れなくなり、いつしか三年間直接会話する事が無くなってしまう。しかしそんなエドワードが病に倒れ、母親はウィルを家に呼び戻した。病で床に伏す父と対峙するウィル。そんな時、ウィルは父から語られたおとぎ話を少しずつ思い出し始める。奇才ティム・バートンが送る大人のためのファンタジー。

 セリフと映像、エドワードによって修飾された世界観を構築したバートンの手腕は見事。確かに子供の目線に立った世界感だが、その切り口は絶妙に大人の視点になっている。確かに途中まで冷めた視点で観てしまうが、実はそれらが様々な伏線を生み、最後の大団円につながっているのに気がつくと、思わず胸がつまってしまう。大同小異、エドワードの語り口、そして息子に託した言葉に嘘は無い。

 そしてこの作品の良さは単なるファンタジーに終わっていないところ。虚構と現実の狭間、有言実行に生きたエドワードに、その息子ウィルと観客は魅了されるのである。それが最後のおとぎ話につながり、親(または大人)として子供にとってどうあるべきか考えさせられる。子供に何か伝えるものがある親は幸せ。輪廻を繰り返す親子関係の中、それが原作、監督の一致したテーマの一つなのだろう。この映画の良さはティーンエイジャーに解り難いかもしれない。

 明るい太陽のような青年時代のエドワードを演じたマクレガーもいいが、味のある晩年を演じるフィニーがいい。最後に涙腺を引き出したのは彼の名演によるもの。そして時代と共に生き、観客が違和感無く作品に入れたのも絶妙なキャスティングに尽きる。この作品は、誰もが持つ父性を引き出して語られるバートン版「フォレスト・ガンプ」なのかもしれない。ただ今までの彼の作品の中で最も大人だと思う。旧作のような箱庭的なバートン色、音楽ダニー・エルフマンの個性は薄まっているが、それだけドラマ性が重視された証拠。いい映画でした。

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2004年5月3日
第183回「スクール・オブ・ロック」オススメ
愛も皮肉も込められているロックの寓話。
ボクの採点表
ストーリー 熱弁 ロック 総合
3つ星 5点 5点 4つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
リチャード・リンクレイター

出演.
ジャック・ブラック/ジョーン・キューザック/マイク・ホワイト/サラ・シルヴァーマン他

感想. 
 鳴かず飛ばずのロッカーであるデューイ。所属するバンドをクビにされ、下宿先は滞納で追い出される寸前。そんな折、下宿先に補助教員の依頼が来る。もちろんデューイに対するものではないが、その高給に惹かれて名を偽って働く事に。だがそこは地域でも有名な進学校。デューイは生徒も授業も知らぬ存ぜぬで通そうとするが、ある光景をみて妙案が頭に浮かぶ。コメディアンでミュージシャンでもあるジャック・ブラックが、子供たちを相手に奮闘する学園音楽コメディ。

 粋なオープニングクレジットに本作はロックの寓話だと感じさせる作り。そんな上手く話が運ぶわけ無いじゃんと思わずツッコミを入れたくなるが、あまりのジャックの熱弁ぶりに惹きつけられてしまう。特に70年代のロックシーンを語られたら、観ているこちらはたまらない。レッド・ツェッペリン、ピンク・フロイド、ザ・フーにジミヘンと当時を代表するアーティスト名が飛び出してくる。かつて少しでも洋楽を親しんだ人なら楽しめるセリフも多い。

 そんなジャックに毒され、いや身も心も教育されていく子供たち。生真面目から変貌していく彼らの姿も面白い。説教臭くないのもロックで語る賜物。リズムを刻んで飛び出すフレーズがあって心地いい。自らギターをプレイするのがジャックだからこそ伝わる熱さでもある。ただ馬鹿にするだけではない、等身大の彼が本作にあるのではないか。そこには現在の音楽シーン、ロックへの愛も皮肉も込められている。

 音楽映画にハズレ無しは筆者の持論だが、本作も例に漏れず。また笑わせながらもさりげなく、誰もが持つ可能性をテーマに折り込むのが憎い。エンディングは大団円的なシーンも盛り込まれているが、ロックの寓話らしく単純に終わらないのもコメディらしい。映画が終わっても楽しさとその余韻に浸れるが、思わず楽器をできる人が羨ましくなってしまった。子供たちのセリフにもあるが、いつの時代もロックンローラーはモテるんだよなぁ。

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2004年4月24日
第182回「CASSHERN(キャシャーン)」
大事なところでセリフに頼ってしまうのは残念。
ボクの採点表
ストーリー CG セリフ 総合
3つ星 4つ星 3つ星 3つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
紀里谷和明

出演.
伊勢谷友介/麻生久美子/寺尾聰/樋口可南子/小日向文世/宮迫博之他

CASSHERN(キャシャーン)

感想. 
 世界を席巻する大国。その強大な軍力にものをいわせていたものの、レジスタンスの台頭に憂慮の事態を迎えていた。そんな中、化学兵器で体を蝕まれた人類を救うべく東博士は新造細胞を発表する。だが彼の動機は妻みどりを救う事だった。そんな折、東の息子である鉄也は父との衝突から兵士に志願する。だがその願いは悲しい結果を生んだ。そして時同じ頃、壁にぶつかっていた東の研究にある出来事が起こる。「新造人間キャシャーン」として人気を博したアニメをベースに、プロモを数多く手がける紀里谷和明による劇場用初監督作品。

 冒頭から目を見張るCGで始まる。幻想的な理想郷はファンタジックに、一方で現実的な世界観は濃厚で劇画調にCGを用い、映像的な緩急をみせる。本作で監督の描く世界は一貫しており、まず映像こそ主張という印象。特に「キャシャーン」らしく、行進するロボット軍団(アニメでは『アンドロ軍団』と称していた)、そしてスピード感で迫るアクションは実写の凄みを感じさせる。だがその戦い、特にラストに至る総力戦は、あの「スターウォーズエピソード2」に極似した感じがして、実写作品というよりCG絵巻になってしまっていた。ただそれは、あくまで本作の世界観だと考えれば納得できる。

 むしろ残念なのは大事なところでセリフに頼ってしまう作り方だろう。お互いのエゴが生んだ争いは理解できるが、あまりに語りすぎるために観客の想像力の介入を許さない。特に映像と共にファンタジックに進むエンディングではその印象が強かった。また折角の映像も、挿入されていた戦争の実録フィルムに凄みで負けていた。むしろ手抜きにも感じてしまう。何故、今キャシャーンなのか、悲しみの連鎖、争う事の虚しさ...描こうとする志の高さは理解するが、そのテーマを伝える事の難しさを露呈している気がする。

 舞台劇風のセリフ回しも俳優の演技に頼るゆえなのかもしれないが、観ていて疲れる。中盤、派手なCG場面は意外に少なく、セリフのやり取りのほうが多い気がした。またアニメ版はアンドロ軍団対キャシャーンだった構図が、本作では第三の勢力を登場させる事で内容をややこしくしており、その分ブライ側の動機づけが弱くなってしまっている。凡長なシーンも少なくなく、もう少しスマートにできそうな気がして残念。ただ最後まで観せてしまう力量は感じるし、日本の映像クリエーターのレベルの高さが目立つ作品である。

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2004年3月28日
第181回「レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード」
前作の良さは消え失せ、観ていてワクワクしない。
ボクの採点表
ストーリー アクション シリーズ度 総合
2つ星 2つ星 3つ星 2つ星
星は5点満点。3が平均だが、総合4点以上がオススメ作。選んだ項目は適当です。

監督.
ロバート・ロドリゲス

出演.
アントニオ・バンデラス/ジョニー・デップ/サルマ・ハエック/ウィレム・デフォー/ミッキー・ローク/エヴァ・メンデス/ダニー・トレホ他

レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード

感想. 
 CIA捜査官のサンズはクーデターを狙う麻薬王バリーリョの組織の一掃を図ろうと画策していた。そこでサンズは伝説の殺し屋エル・マリアッチを引き入れる。実はエルにとってはクーデターを企む一派のマルケス将軍は彼の家族を殺した宿敵だった。そしてエル、サンズ、バリーリョらの思惑を絡み合い、クーデターの日がやってきた。「エル・マリアッチ」「デスペラード」に続くギターを持った殺し屋シリーズ第三弾。

 一見、前作「デスペラード」の続編に思えるが、作品の背景を除いてほとんどつながりはない。今やアントニオ・バンデラスも、サルマ・ハエックもビッグな俳優となったが、設定上で二人の愛情関係はそのままに、別の物語に置き換えられている。むしろ本作で気を吐くのはジョニー・デップ。物語を進める糸のカラクリは彼にかかっている。徐々にキーマンそれぞれの思惑が明らかにされていくが、意外に単純な作りとなっている。この作品の楽しみは割り切ってアクションと考えるべきだろう。

 だがその肝心なアクションがいただけない。掴みとなるべき導入部分も前作のような心を捉えるものでなく、見るべきものを感じない(前作はスティーブ・ブシェミの語りの不気味さが光ったが...)。そしてラテンアクション、劇画的な美に酔った前作の良さは消え失せてしまった。『やたらブッ放せば』に終わらなかった前作を越える事はできていない。それに悪役はウィリアム・デフォーを配しながら、カリスマを感じるまでに至っていないし、観客に対して『殺されるべき動機づけ』が弱い。これは本作に乗り切れなかった要因の大きな一つだと思う。

 シリーズもの、特にアクションもののシリーズは優れた前作のパロディでなければならない。仕込み銃だけに終わらない良さが本シリーズにあったはずなのに、派手なばかりの無駄なアクションで薄められている。観ていてワクワクせず、いかにもヒットしたから作りました的な内容が残念で仕方がない。それにハリウッド的な配役もほとんど機能していなかった。ただ本作にジョニー・デップがいなければ救いようのない映画になっていたのも正直な感想である。筆者も含め前作のファンには残念な出来になったと思う。

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