アニメーションで見る相対性理論
超光速粒子タキオンは存在するか
電車の速さは、どんなに加速しても、光の速さ c より小さいことは既に述べました。
しかし、光は特別で、基本的仮定より速さ c で移動します。
この世の中で、光より速く走るもの(物体、情報)は存在しないのでしょうか。
この想像上の粒子をタキオン粒子といいます。
タキオンの「オン」は粒子を意味しますが、
1970年代の某アニメの影響でタキオン粒子という言葉が定着していますので、
本稿ではタキオン粒子という用語を使用します。
この章では、もし、タキオン粒子が存在して、
我々がそれを扱うことができたなら、どういう事が起こるかを考えます。
時空図を取り扱うため、以下、光の速さを 1 とします。
そして、線路上に立っている老人から、
右に速さ v (0 < v < 1)で離れていく電車の中に立っている少年に、
タキオン粒子に情報を載せて送り付けることを考えます。
タキオン粒子に情報を載せるには、
例えば、短い時間間隔を設定して、タキオン粒子を連続発射したり、しなかったりして、
モールス信号を送ることなどが考えられます。
今、
少年が列車の座標系 (x, t) で常に位置 x0にいて、
老人は、線路の座標系 (x', t') で常に位置 0 にいるものとします。
両座標系で時刻ゼロに、位置ゼロが互いに重なったものとし、
その瞬間に老人は、少年に向けて、
タキオン粒子の照射を開始するものとします(図23)。

図23
少年は、タキオン粒子を受け取ったらすぐに、
老人にタキオン粒子を送り返すものとします。
図24では、この様子を時空図で表しています。
青の矢印が往きのタキオン粒子の世界線で、
少年は、青丸において、タキオン粒子を受け取ります。
図24の青の矢印は、タキオン粒子がいくら速くても、
右肩下がりにはなりません。
これは、老人はタキオン粒子の速さを、
無限大も含めていくらでも大きくできるとしていますが、
老人が老人にとっての過去にタキオン粒子を投げることはできないからです。
これについては、後述します。
少年も老人に向けて情報を変えずにタキオン粒子を投げかえしていますが(赤の左向き矢印)、
同様に、帰りのタキオン粒子の世界線の傾きは、
x-軸の傾きより大きくない必要があります。

図24
図24によれば、
老人が十分大きな速さでタキオン粒子を少年に向けて発射し、
これを受け取った少年が、これまた十分大きな速さでタキオン粒子を送り返した場合、
老人は、自分の現在知っている情報を自分の過去に送信できることになります。
これは矛盾をきたします。
老人が、ある暗号を受信すると自爆するしくみのタキオン信号送受信器を組み立てたとします。
そして、老人は、過去のその送受信器に向けて、その暗号を送信しました。
すると、その送受信器は、暗号送信時に存在しないことになり矛盾します。
「自分の過去に影響を及ぼすことはできない」というのも、
因果律のひとつです。図24の場合は、因果律に反しています。
先ほど「老人は老人にとっての過去にタキオン粒子を投げることはできない」と申しましたが、
ここで、この理由は明らかになりました。
図24のような、傾いた、列車の座標系を考えるまでもなく、
少年を線路上の適当な位置に立たせておいて、
老人が自分の過去に向けてある速さのタキオン粒子を投げ、
それを受け取った少年が少年の過去に向けて同じ速さでタキオン粒子を投げれば、
そのタキオン粒子は、必ず老人の過去に到着します。
投げる人の過去に向かうようなタキオン粒子は、どんな速さであっても、
もし、その速さのタキオン粒子が存在し、
それを我々が扱うことができるならば、矛盾してしまうのです。
以後、タキオン粒子と言えば、光よりも速く、
それを投げる人の過去に向かわない粒子を指すことにします。
なお、今までの説明の範囲内では、
タキオン粒子を使えば、
必ず過去の自分に情報を送ることができるわけではないので注意が必要です。
そういう意味で、まだ、「我々がタキオン粒子を取り扱えない」と断言できていません。
どういうことなのかを説明します。
老人が、光より速いが、1/v より遅いタキオン粒子を少年に向けて送ったとしましょう(図25)。

図25
このタキオン粒子は、
図25において、
光の世界線と x-軸の間を通る世界線を持ちます(世界線 x-軸は、
速さ 1/v に対応していることに注意してください)。
図25を凝視すると、このタキオン粒子を使ったのでは、
帰りのタキオン粒子がどんなに速くても、
老人は、自分の過去に送信できないことがわかります。
実は、それにもかかわらず、
どんな速さのタキオン粒子であっても、
それを扱うことができるなら、自分の過去への送信は可能なのです。
それには、扱うタキオン粒子の速さを決めた後、
それに応じて、少年の逃げる速さ v を決めてやります。
手順を追って説明します。
まず、扱うタキオン粒子の速さが無限大の場合は、
往きも帰りも送信者に対して速さ無限大のタキオン粒子を使用し、
v を 0 < v < 1 の適当な値(なんでもいい)にとってやれば、
必ず、そのタキオン粒子は老人の過去にもどって来るので(図24凝視)、
速さ無限大のタキオン粒子を我々は扱うことができません。
次に、扱うタキオン粒子の速さが、
無限大でない場合について考えます。
はじめに、少年がタキオン粒子を受信したイベントを、
線路における座標系で確定します。
これを、(x'1 , t'1) とすると、
(36)式、(37)式の方程式がたてられます。
ここで u は、送信者(往きは老人、帰りは少年)に対するタキオン粒子の速さで、
光の速さ 1 よりも大きく、
往きも帰りも同じ値を持つものとします。
ある u を選んで、老人が送信したタキオン粒子が老人の過去に帰って来るような、
少年の速さ v を決めることができるなら、
その速さ u のタキオン粒子を、我々は取り扱えないことになります。
 | (36) <タキオン粒子の世界線> |
 | (37) <少年の世界線> |
(37)式では、少年までの距離のローレンツ短縮を考慮しています。
もちろん、a = √(1 - v2) です。
方程式を確認するために、以下に図24を再掲します。

再掲図24
(36)式、(37)式を解きます。
x'1 を消去すると、
 | (38) |
したがって、
 | (39) |
(36)式より、
 | (40) |
となります。
次に、少年がタキオン粒子を自分にとって u の速さで、老人に向けて送信します。
この時の着信までの老人にとっての時間を t'2 とし、
線路の座標系で方程式をたてて、t'2 を求めます。
方程式は、
 | (41) |
となります。
右辺の t'2 にかかる係数は、
老人にとっての帰りのタキオン粒子の速度で、
以前に導いた速度の合成公式を使用しています。
(41)式を解くと、
 | (42) |
となります。ここで、(39)式を再掲します。
 | (再掲39) |
返されたタキオン粒子の老人への到着時刻は、
 | (43) |
となります。
任意の u (u > 1) に対して、
(43)式が負であるように、
v (0 < v < 1)が選べれば、
老人は、少年を運転士にして、速さ v で列車を走らせることにより、
自分の過去へのタキオン送信ができます。
このためには、不等式
 | (44) |
が成り立つように、v を決めます。
これができることの証明をします。
(44)式を変形すると、
 | (45) |
になります。 u > 1 と、相加平均と相乗平均の不等式により、
 | (46) |
ですので、
 | (47) |
となります。(47)式より、
 | (48) |
ですので、(45)式は、
 | (49) |
となり、2/(1/u + u) は1より小さいため、
任意の u (u > 1) に対して、
(49)式が成立するように、
v の値が選べます。
すなわち、老人は自分の過去への送信ができます。
ここでは、老人が取り扱い可能な「まさにその粒子」は、
少年にとっても取り扱い可能(逆もしかり)であることを大前提としています。
大前提によると、老人は自分の過去に送信可能で、矛盾をきたします。
自爆するタキオン信号送受信機を考えると矛盾が起こるのでしたね。
これで、タキオン粒子を取り扱うことは不可能であることが証明されました。
タキオン粒子を取り扱うことができないことは、
我々がタキオン粒子に影響を及ぼしたり、
タキオン粒子から影響を受けることがないことを意味し、
「存在しない」といってもいいでしょう。
物体の速さが光の速さを超えられないのは、
極細ペンで物体の表面にメッセージを記述できるからです。
光の速さを超えられないのは情報の伝達速度であって、
情報の伝達を伴わせることができない何らかの速さが光の速さより速くても、
特殊相対性理論には違反しません。
このような例は、物理学の分野で既に見つかっています。
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