童話の部屋
ナメクジとアオムシのお話 written by kazu.O

お日様が静かに昇りはじめ、
空がだんだん青くまぶしくなってきました。
あたりのものすべて朝のつゆにぬれてひかっています。

ここは野菜畑の中....おや
野菜の葉っぱの裏っかわにナメクジがいます。
朝の散歩でもしているのでしょうか、
ゆっくりゆっくり、ねむそうに歩いています。

葉っぱのうらがわを歩いて、
さてそろそろ朝のごはんにしようかと
表側にやってきました。

するとそこには、いつたまごからかえったのか、
たくさんのアオムシがおりました。
アオムシたちも朝ごはんのようです。
その食欲の旺盛なことときたら....

葉っぱはみるみるうちに穴だらけになってしまいました。
ナメクジはビックリ。
でもこのナメクジ、その中の1匹と仲良しになりました。

ほかのアオムシたちは、ここの食事にあきて
別の葉っぱに移っていってしまいました。
でもナメクジと仲良しになったアオムシはまだここにいます。
2匹だけ、まだここの葉っぱにいます。
ナメクジは、このおチビさんが気に入ったようです。
アオムシのおチビさんも、
いつもナメクジにくっついて歩いています。

この2匹に名前をつけてやりましょう。
ナメクジのラグと、アオムシのピラです。

さて何日かたちました。
寒い朝も、風の吹いている朝もありました。
ラグも少しは大きくなりましたけれど、
アオムシのおチビさんは、みるみる大きくなっていきました。
でも2人はいつも仲良しでした。
とっても仲良しでしたけど、
ラグはおチビさんがどんどん大きくなっていくのを
ちょっぴりさびしく思いました。
いつまでもかわいいおチビさんでいてくれたらいいのに。

どうやらこのナメクジは、おチビさんが好きになったようです。
でもかわいそうに、ピラの方はラグのこと
何とも思っていません。

ぶかっこうで、ぶあいそうで
ただ食欲ばかりひといちばいのアオムシなど
誰も好きになったりはしないでしょう。
でも、それでもラグは、この子が好きなのです。
とってもとっても好きなのです。
恋ってそんなものなのでしょう、たぶん。

だからラグは、この子のためならなんでもしてやりました。
どんなめんどうでもみてやりました。
そして、そうすることがラグには何よりも喜びだったのです。

一方、ピラはラグを困らせてばかりいました。
強がりを言ってはケンカをしかけ、
わがままばかり言いました。
でも、それもラグにあまえていたのです、やっぱり。
ラグは何でもきいてやりました。
2匹にはそれでよかったのです。

時がたつにつれて、
ナメクジのアオムシを思う気持ちはいっそう高まっていきました。
ところが、アオムシの方はそうではありません。
だんだんラグと話をしなくなりました。
笑顔もまえのようには見せなくなりました。
元気もありません。
ただ、いつもとてもだるそうにしていました。

そしてある日、とうとう動かなくなってしまいました。
さなぎになったのです。
もう、ラグが何をしても少しも動きません。
何を言っても返事をしません。
いくら呼んでも返事をしません。
ラグはいっしょうけんめいでした。
でも、もうどうにもなりません。
もう、どうにもならないのです。
ラグもそれはわかっていました。
だからよけいにつらいのです。
「さびしい、ああ、さびしい。神様、助けて、
何とかしてください、神様」
でも、神様だってこればっかりは
どうすることもできないのです。
だってこれは運命ですもの。

ラグはひとりでいるのをとても寂しく思いました。
前だって一人だったのに、
今こうしてひとりでいるのは
どうしてこんなに寂しいんだろう。

ラグは、来る日も来る日も
ピラのさなぎの所へ行きました。
行っても何にもならないのに、
それでも行きました。

それがある日、ピラのさなぎが
小さな声で、ささやくように言ったのです。
「私、もうじきあなたとお別れします。
あなたはとてもやさしかった。親切だった。
ほんの少しだけ、あなたのこと好きだって思ってた。
でも、私、やっぱり....」

ピラには、ラグがやさしすぎたのです。
あまりに親切で、献身的なラグのやさしさが
ピラには重荷だったのでしょう。
愛することってむずかしいことです。
ピラは、もっと強い大きな
もっと別な何かを求めはじめたのです。

ある朝、とってもすばらしい朝。
いつものように
朝つゆがキラキラと光って、
とてもまぶしい朝。
ラグはさなぎがからになっているのに気付きました。
ラグはあたりを見回しました。
いました。
ピラがいました。
美しい蝶になっているのです。
もう誰もびかっこうなどという者はありません。

なんてきれいなんだろう、なんて...
ラグは思わずため息をつきました。
そしてわけもなくあふれ出る涙を
どうすることもできないで
その美しい羽根を小さくふるわせているピラを
じっと見つめていました。
ピラは、出来立ての、まだつやつやした羽根を輝かせ、
細く弱々しい足を少しずつ動かしました。

あのかわいいアオムシはどこへ行ったのでしょう。
いつもいつもラグにくっついて歩いていた
あのアオムシは....

その時、小さな風がそっと吹くと
ピラはその風にのってパッと飛び立ちました。
ピラは、ヒラヒラと
あたりを飛びまわりました。
楽しそうに楽しそうに飛びました。
ピラはとっても幸せそうでした。
それを見ていると
ラグもなんだかとてもうれしくなって、
涙にぬれた顔でにっこりと笑いました。

ラグは、ピラのことを呼んでみました。
「ピラー、ピラー」
いっしょうけんめい呼びました。
でも、ピラにはその声が聞こえないのでしょう、
呼べば呼ぶほど
高く高く飛んでいってしまいました。
ラグはどうすることもできません。
ただ涙を流して
ピラを見送ることしかできません。

ピラはやがて
まぶしいまぶしい青空の中に
すいこまれて消えていきました。

ナメクジが歩き去った跡には
その涙が残ります。
お日様の光に照らされて
ほら、虹色に輝いています。

おわり