第一稿

脚本 松本廣



○ 霧につつまれた山中(未明)

       深い霧の中に、馬の荒い息遣いと蹄の音。

       その音に甲冑が擦れ合う音が混じって、やがて武装した数騎の騎馬武者と
       槍や弓を持った数十人の兵士たちが姿を現す。

       源頼光が率いる兵士の一団で、武装した騎馬武者といっても、頼光以下
       まだ野伏せりか夜盗のような鎧兜を身にまとっ
ている。

○ 山隘にテント(穹廬氈帳)を張った部落
        
       十幾つのテント(厚い布の天幕に、床に獣毛を引いた原始的なもの)を張った
       部落が、まだ明けやらぬ山隘に静かに眠っている。

       その部落を、頼光の一団が見下ろしている。
       馬に乗った頼光の若き四天王(渡辺綱、碓井貞光、占部季武、坂田金時)が
       抜刀すると、弓を持った兵士たちが前面に出て、テントの部落に向って一斉
       に火矢を放つ。

       それを合図に、四天王たちが馬の腹を蹴り、兵士の一団が突撃の声を
       上げて一気に部落に攻め入る。

       寝込みを襲われた山隘の静かな部落は、異変に気付いて各テントから
       外に飛び出す者などの姿が見え、すぐに怒号と悲鳴が交錯する戦場に
       一変する。

       武力に勝る兵士たちは、鉈や山刀を持った屈強の者たちを、槍で突き、
       太刀で切り倒し、次々と血祭りに上げる。

       そして、戦場は虐殺の場へと変わっていく。
       部落の者は、老人や女子供たちにいたるまでが手に手に得物を持って、
       勇敢にも無謀にも兵士たちに立ち向かう。

       綱が、貞光が、季武が、金時が、鎌を持った老人の首を刎ね、鍬握る女の
       腹を刺し貫き、棒切れを太刀として向かってくる幼い少年の額を割る。

       兵士たちは凶悪な殺戮者と化し、燃え上がる炎とともに、狂ったように
       部落の者をなぶり殺しにしていく。

       頼光が、馬上からその陰惨な光景を見ている。

○ タイトル

○ 美しい竹林

       風にそよぐ美しい竹林。

       その竹林に入り込んで、眉間に刀傷のある弥次郎(三十歳くらい)以下
       数人の垂髪・水干姿の男たちが、鉈で太い孟宗竹を切っている。


○ 藤原道長邸・一室

       一段高い席に、顔に白粉を塗り、歯に鉄漿をつけて化粧した藤原道長が
       童女を侍らして座り、座敷の上座には数人の家臣が左右に列席し、下座に
       衣冠束帯の源頼光が平伏している。

   道長 「頼光、面を上げよ。余は苦しゅうないぞ」
   頼光 「ははっ」
   道長 「不法にわが国を侵犯し、罪なき民人を殺傷し、調停に害を成す恐ろしい
       蛮人を退治した此の度の働き、天晴れである。人々は、そちの武勇を称え、
       いつの世までも語り継がれようぞ」

   頼光 「ははっ、有り難きお言葉」
       そこに、道長の家臣が一振りの太刀を捧げて現れ、厳かに頼光の前に置く。
   道長 「蜘蛛切りの剣じゃ、これを此の度の褒美としてとらす。頼光、政を助ける
       国司として、武弁の者として、これからも余のことを頼むぞ」

   頼光 「はっ、承知仕りました」
       頼光、再び平伏する。

○ 熊が瀬の集落

       竹林を背に、十軒ばかりの小さな集落。
       集落の側には澄んだ水の小川が流れ、流れでは粗末な着物を着た女たちが
       菜を洗ったり、そのすぐ下では汚れ物を足で踏んで洗濯をしている。

       みすぼらしい家屋が建つ広場では、弥次郎と男たちが孟宗竹の枝を
       削ったり、縦に割いたり、割いた竹を縄で編んだりして、罪人を運ぶ時に使う
       籠を作っている。

       すぐ傍では、片足のない老人が子供たちに竹とんぼを作ってやっている。
       男たちの内の一人多助(二十歳前後)が、作業を続けながら弥次郎に
       話しかける。

   多助 「弥次郎兄い、棺桶は作らねえでいいのか?」
  弥次郎 「ああ、仕事が減って大助かりじゃ」
   多助 「じゃが・・・」
  弥次郎 「明日までに三つも罪人籠を作れだ、その上籠を担げだ、墓穴を掘れだの、
       挙句に晒し首の台座まで作れときた。多助、お主はそれでもまだ棺桶が
       作りたいか?」

   多助 「いやそげな分けじゃなかが・・・棺桶もない罪人は誰じゃろうかと?」
  弥次郎 「明日になれば嫌でも分かる。わしは、罪人の身体が軽うかことを
       願うばかりじゃ」

       老人が、両手を擦り合わせて出来上がった竹とんぼを飛ばす。
       竹とんぼ気持ちよさげに空を飛翔し、子供たちの歓声が上がる。

○ 京都・大通り

       大勢の人々が詰めかける大通り。
       その大通りを、源頼光とその四天王が率いる兵士の一団が、三丁の罪人籠
       を行列の間にはさんで、パレードよろしく歩いていく。

       頼光と四天王はそろって派手な鎧兜を身に着けており、行列の先頭を
       行くのが渡辺綱、罪人籠の前後に碓井貞光と占部季武、最後尾に巨漢の
       坂田金時という布陣で、中ほどに数騎の騎馬武者に囲まれた頼光は、
       西洋風の鎧兜を身に着けひときわ異彩を放っている。
       罪人籠を担ぐのは弥次郎とその仲間たちで、中が見える竹で編んだ三丁の
       籠には、白人の男女と黒人の男がそれぞれ乗せられている。
       野次馬たちは、売りだし中の頼光と四天王、初めて眼にする南蛮人の両方を
       見物できるとあって、押すな引くなの大騒ぎである。

タイトルが終わる。

○ 源頼光邸・邸内

       地面に置かれた三丁の罪人籠の傍に、弥次郎たちが片膝をついて控え、
       その周りを長刀を持った数人の雑色が警護にあたっている。
       籠の中から、白人の女が手を合わせて弥次郎に何かを懇願している。
  弥次郎 「・・・?」
       弥次郎思わず籠に近づき、白人の女の顔を見つめる。
 白人の女 「・・・ウォーラー、ウォーラー」
       白人の女、青い色をした瞳に涙を湛えて、水を飲む真似をして訴える。
  弥次郎 「・・・水?」
       その時、雑色の一人が弥次郎を思いっきり蹴りつける。
   雑色 「何をしている、この下人が!」
  弥次郎 「申し訳ありませぬ、女が何やら訴えておりましたので」
   雑色 「うるさい!」
       と言って、今度は長刀の柄で弥次郎を激しく何度も突く。
       「待てい! 何をしておるのじゃ?」
       何時の間にか、渡辺綱が立っている。
   雑色 「はっ、下人めが勝手に罪人の女に近づきましたので、懲らしめておる
       ところでございました」
    綱 「(弥次郎を見て)お主、熊が瀬の者じゃな…もしや、南蛮の女子に懸想
       でもしたか?」
  弥次郎 「いえ、滅相もありませぬ、多だ水がほしいと申しておりますので」
    綱 「水・・・ほう、水を欲しいと申してか?」
  弥次郎 「はい・・・」
    綱 「ちと訊くが、熊が瀬の者には、その女子はいかように見えるものじゃ。
       美しいか、醜いか、どちらじゃ?」
  弥次郎 「え、それは・・・」
    綱 「金時は、その女子を犯そうとしたことがあった。どうじゃ?」
  弥次郎 「と、申されましても・・・」
    綱 「わしは気が短い。今、ここでお主を斬ってもよいのだぞ。蛮人の女子は
       美しいか、それとも醜いか? しかと答えてみよ!」
  弥次郎 「・・・う、美しゅうにございます」
    綱 「そうか・・・女に水を飲ましてやれ!」
       と言うと、綱何事もなかったように立ち去る。
       雑色、ほっとした弥次郎を顎で促す。

○ 同・井戸のある庭

       井戸から水を汲み上げる弥次郎。

       渡り廊下に華やかな歓声が上がり、頼光が道長と数人の着飾った女たち
       を案内してくる。

○ 同・邸内

       美味しそうに柄杓の水を飲み干した白人の女、籠の中から手を合わせて
       弥次郎を拝み、青い瞳の眼から涙をこぼしながら十字を切る。
 白人の女 「あなたとその家族に、必ず神の思し召しがありますように、
        アーメン(英語で)・・・」
  弥次郎「・・・」

○ 同・一室・白砂の庭

       御簾の奥には、道長と女たちが隠れ、白砂が敷き詰められた庭でこれから
       行われることを心待ちにしている。
       廊下には頼光がどっかりと座り、白砂の庭には指揮をとる渡辺綱が立ち、
       庭の真中には首を垂れた三人の異人たちが横に並んで座らされ、
       それぞれの傍には介錯にあたる碓井貞光、占部季武、坂田金時が
       太刀を持ち襷がけをして控えている。
       庭の外には弥次郎たちが平伏して座り、ちょうど垣の隙間からこの光景を
       見ることが出来る。
       白人の女の腹は大きく膨らみ、一目で懐妊していることが分かる。
       頃合を見て、綱が顎をしゃくって合図をすると、三人の介錯人は
       立ちあがって抜刀する。
       陽光に刃がきらめき、骨を断ち切る音とともに白砂に血潮が飛び散る。
       その時、御簾の奥の道長たちは残酷な光景を袖で顔を隠したりして
       見ているが、金時によって切り落とされた白人の女の首が凄い形相で
       飛翔し、御簾に噛み付くように激突したので思わず大きな悲鳴を上げる。
        「わ−っ!」
       そこに、追い討ちをかけるように、突然、甲高い赤子の泣き声がする。
        「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ!」
       これには、頼光と四天王も顔色を失う。
       血に塗れた赤子が、なおも泣き声を上げながら、白砂の上を
       胎盤を引きずりながら蠢いている。
       この事態に、道長たち慌てふためき、うろたえた女たちは悲鳴を上げ、
       その場は騒然となる。

○ ある寺院・境内(夜)

       護摩壇で火が焚かれ、陰陽師が真言陀羅尼を唱えながら祈祷している。

○ 黄昏時の河原(夕方)

       三つの異人の首が晒され、浮浪の者が気味悪げに遠巻きにして見ている。

○ 熊が瀬・弥次郎の家(夕方)

       弥次郎と多助たちが集まり、弥次郎の妻女(たき)が白い肌の赤子を、
       木製の盥で湯浴みさせている。
    老人 「弥次郎、この赤子をどうするつもりなのじゃ? 殺して焼き捨てろとの、
       陰陽師の宣告が出たというのに」
   弥次郎 「母親の腹を食い破ってでも生きようとした赤子じゃ、殺したりは出来ぬ。
       獣の乳を飲ませても、育ててやるつもりよ」
    老人 「何と!」
   弥次郎「皆に迷惑はかけぬ、わしは村を出て山に戻るつもりじゃ。仲間を
       ことごとく殺され、年貢はむしり取られ放題で、虫けらのようにこき使われる
       のに、もう我慢できぬのじゃよ」
       たき、何時の間にか盥の赤子を白布にくるむと、そばにおいてあった瓢箪の
       栓を抜いて赤子の口に含ませる。
       赤子、のどをごくごく鳴らして乳を飲む。
    多助 「弥次郎兄い、わしも一緒に行くぞ!」
    男A 「そうじゃ、わしも行く!」
    男B 「わしも、連れてってくれ!」
    男C 「皆で、村を出ようぞ!」
    老人 「・・・!」
       そこにいる全員が村を出ると言い出す。

○ 同・広場(夜)

       長い髪を振り乱した若い巫女が、激しく全身を打ち震わせて、憑霊の祈祷を
       行っている。
       広場には部落の者が全員集まり、たきがおくるみで赤子を抱き、弥次郎など
       すべての者が巫女の一挙手一投足に見入っている。
       と、突然巫女が地面に突っ伏し・・・やがて瀕死の状態で起き上がり、皆を
       睨めまわして太い男の声で語り始める。
   男の声「我は弓と矢を持ち、馬を自在に操り、野山で獣を狩り、川で魚を獲り、
       水草を追って暮らす者・・・汝らが先祖なり・・・我らが殺めてよいものは、
       山神様が与えてくれる生き物だけ、そこにいる赤子を殺める者は山神様に
       背く者・・・」
       とだけ言って、巫女は抜け殻みたいになってその場に昏倒する。
       片足の老人が立ち上がる。
    老人 「山神様のお告げが出た。わしらはこの赤子を殺めることは出来ぬ。
       今から、ただちに村を出て、頼光どもが気付かぬうちに山に入る。
       仕度を急げ!」
        「おー!」

○ 炎を上げて燃える熊が瀬の集落

○ 頼光邸・頼光の部屋

       西洋風の兜、甲冑、槍、刀剣、珍しい美術品などが飾られた部屋・・・。
       四天王が控える部屋に、頼光が足音もけたたましく入ってきて、上座の
       自分の席に胡座をかいて座るなり、
四人に噛み付くように言う。
    頼光 「熊が瀬の者が、村を焼き捨てて逃げたと申すか?」
    季武 「はっ、陰陽師の宣告を無視し、赤子を連れて山中に逃げ込んだと
       思われます」
    頼光 「何、赤子を連れてだと?」
    貞光 「神をも怖れぬ、不届きな者らにございます」
    頼光 「追手は掛けたのであろうな?」
    金時 「はっ、すぐさま騎馬隊を率いて追ったのではございますが、如何せん
       馬も入れぬ険しい山中にて、今もって行くへが分かりませぬ」
    頼光 「綱! 如何するつもりじゃ?」
     綱 「はっ、検非違使にも伝えてあるのですが、何分にも、京都より離れた
       深い山中のことにて・・・」
    頼光 「ええい、何が検非違使じゃ! 深い山中じゃ、下人どもを見つけた
       者には報奨金を与え、草の根を分けても探し出せ!」

○ 山奥深く入っていく熊が瀬の者たち

       弥次郎とたきと赤子、多助たち、女たち、子どもたち、片足の老人も、
       集落の者全員が家財道具のすべてを持って移住している。

       その光景は、みすぼらしいが活気に満ちている。

○ 京・洛中・賑やかな通り

       ・・・京の都、洛中の賑やかな通り。
       賑やかな通りは、両側に露店(野菜類、干物など海産物、織物、
       竹や木の細工物、焼物類、獣被などを売る)が並んで市をなし、
       その間を人を乗せた馬や牛車が通り、大勢の人々が行き交っている。
       行き交う人々は多彩で、供を連れた公卿から太刀を佩びた武士、
       牛を追う牛飼童、担い棒で行李を担いだ行商の男、頭に荷を乗せた
       大原女、高下駄をはいた市女笠
の女、鉢を持った遊行の僧、裸足で
       駆けずり回る子供などまで、当時のあらゆる老若男女の姿が見受け
       られる。

○ 同・頼光邸・表

       山伏姿の修験者風の男(道鬼)が、頼光邸の前で錫杖を振り立てて
       錫を鳴らし、呪文を唱え加持祈祷を行っている行っている。

○ 同・頼光の部屋

       頼光が上座に座り、痩せて眼光鋭い道鬼がその前に座っている。
    頼光 「道鬼殿は、そこを掘るとまこと鉄や鉛が出ると言われるか?」
    道鬼 「間違いない。大きなる川に注ぐ一つのせせらぎの底が、赤く
       錆びついておるのを見た」

    頼光 「何故、わしにそれを?」
    道鬼 「これからは、武家の時代だからじゃ」
    頼光 「だが、武家の地位は低い、いくら功をたてても位は上がらぬ。
       それに、公家どもが邪魔をして、今もって都に兵を構えることすら
       出来ぬぞ」
    道鬼 「ことを急いでは仕損じる。焦らず、怒らず、密かに財を蓄え、
       時の到来を待つのがよい」
    頼光 「ところで、道鬼殿はどなたのお弟子筋にあたるのであろうか?」
    道鬼 「先にお亡くなりの、安部清明様でござる」
    頼光 「大、関白殿の陰陽師であった?」
    道鬼 「いかにも・・・」

○ 山中

       四天王たちが、それぞれの手勢を連れて馬を走らせ、藪の中に
       入り込んでは小さな流れを探索している。

○ 同・細いせせらぎ

       馬を下りて休んでいる綱、貞光、金時の所に、 季武が馬を走らせてくる。

       季武、馬を下りてしゃがみ込んで流れの水を飲む。
    季武 「底が赤いせせらぎなぞ、どこにも見当たらぬぞ。一杯くわされた
       のではないか、親方様は?」
     綱 「季武もそう思うたか。今、わしらも話していたところじゃ。親方様を謀り、
       多大の礼をくすねるとは見上げた修験者だとな」
    金時 「修験者風情になめられて、情けなくて涙が出るぞ(実際、涙を流して
       笑っている)」
    貞光 「だが、親方様に、あれはいんちきでございましたなどとは言えぬぞ。
       あの性格じゃ、余計なとばっちりが我らに降りかかってくる」
     綱 「さて、弱ったことじゃのう」
    季武 「何が、赤く錆びついた底じゃ!」
       と言って、季武がせせらぎの中に入り込んで、子供のようにきれいな砂の
       底を両手で掻き回す。
       ・・・・・澄んだ水が砂煙でにごり、それに陽光があたり黄金色に輝く。

○ 洛中・朱雀門(未明)

       未だ夜の明けぬ洛中。
       ・・・・・遠くで野犬が吠えている。
       そこに、一人の男がよろよろと歩いてきて、門にたどりつくとその場に
       座り込む。
       すると、すぐに二人ばかりの男たちが近寄り、座り込んだ男を蹴りつけて
       その衣服を剥ぎ取る。

○ 同・人気のない大通り

       闇の中を、荒々しい息遣いで、何人かの夜盗が走る。

       続いて、人々が寝静まった都大路を、蹄の音も猛々しく数頭の馬が
       駆けていく。
       「止まれ、止まらぬと叩き斬るぞ!」
       馬上の検非違使、太刀を抜き放ち、足の踵で馬の腹を蹴る。
       夜盗ども、なおも逃走しようと走る。
       検非違使、一人の夜盗を追い、追いつきざまに太刀を横に払う。
       絶叫を残して、夜盗の首が吹っ飛ぶ。
       ・・・・検非違使火長・坂上次郎(二十歳半ば)。

○ 検非違使寮・表

       出勤する検非違使たちとともに、夜勤の検非違使たちが捕縛した
       盗人たちを伴って帰ってくる。


○ 同・詰め所

       夜勤明けの検非違使たちが甲冑を脱いだり休んだりしている所に、
       鮮血を浴びた次郎が戻ってくる。

       中年の検非違使火長(中原吉兼)がその次郎の勇ましい姿を見て、
       着替えをする次郎に近づいて声をかける。
   吉兼 「次郎、夜盗を斬るだけがお役目ではないぞ」
   次郎 「だが吉兼殿、斬っても斬っても夜盗は増えるばかり、斬らねばますます
       都は盗人だらけになってしまいますぞ」
   吉兼 「それはそうだが、盗人を生きたまま捕まえると報奨金が出るという
       話なのじゃ」

   次郎 「それは、検非違使で正式に決まったことでござるか?」
   吉兼 「いや、そこのところはまだ分からぬが、新しい別当殿がくださるそうで、
       皆、張り切っておるようじゃ」
   次郎 「夜盗など、私は斬った方がよいと思いまするが・・・・・」
       
○ 同・中庭
       そこに、検非違使別当・坂上琢磨(四十歳くらい)が、数人の供を従え
       馬で通りかかる。
       その別当に、そこに居合わせる検非違使や放免が頭を下げて挨拶するが、
       別当はそれらを歯牙にもかけず悠然と構えたまま寮内に入って行く。

○ 同・別当の部屋

       別当、書類に目を通しながら前に控えた数人の部下に、



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