* * *
ドクン、ドクン、と心臓が激しく脈を打つ。
首筋にあたった笹目さんの腕の感触に、全身が緊張する。
「まゆ」
ゆっくりと笹目さんの腕の中に引き寄せられた。
どきん。
心臓が大きくぴょんとはねたのがわかった。極度の緊張のせいで、指先がどんどん冷たくなっていく。
笹目さんはしばらく僕の髪をなでた後、僕の頬に右手をあてた。温かくてごつっとした大きな手。そして、重ねられる唇――――――
「―――――――――っ……」
(違う)
先生とは違う口づけ。
ざわっ、と服の下に鳥肌が立つ。
(違う)
「これ」は僕の欲しいキスじゃない。
「…やっ…………」
無意識に、笹目さんの胸を押していた。そんな自分の行動に自分で驚く。
「あれ…………?」
「……な、やっぱり駄目だろ?」
くすっと笑って笹目さんが僕の頬を引っ張った。
「まゆからしてくれっていったくせに、『嫌だ』なんて失礼だぞ」
「ごめんなさい………」
「いいんだよ」
ぐしゃぐしゃと僕の髪をかき混ぜて笹目さんが笑う。
「これでわかっただろ。セックスするのは誰でもいいってわけじゃない。ちゃんとまゆが好きなやつとしないとな」
「はい…………」
無意識に笹目さんを拒否していた身体。
先生を求めていた心。
「ごめんなさい、笹目さん……」
「ま、俺は役得ってことで、貸し借りナシな」
「役得………」
いたずらっぽい笹目さんの言葉に、かぁっと顔が熱くなる。
「日下のこと、もう少しだけ信じてやってな。まぁ、ほとんどはあいつのぶっきらぼうなのが悪いんだけどなぁ」
「―――――――――………」
「まゆが不安になるのもわかる。でも、まゆももっともっと欲張りになってもいいと思うぞ」
「欲張りに…?」
「日下に遠慮しないでもっとどんどん思ってることを言ったほうがいい。遠慮して言わないでいると、積もり積もって、さっきみたいに爆発するから。俺がまゆを抱けばそれですっきりするっていうなら、いくらでも抱くけれど、そうじゃないってわかったところだし」
「はい…………」
「日下に言ってごらん、まゆがして欲しいこと。もっと日下に甘えていいよ。あいつが唯一甘い顔する人間なんだから」
「そう…ですか……?」
「そうそう。俺には絶対にしない顔をまゆには見せてるよ。こき使われてるマネージャーとしては、うらやましい限り」
はぁ、と大げさにため息をつく笹目さんに、つい笑みがこぼれた。
「…やっと笑ったな」
にこっと笹目さんも微笑む。
「まゆは泣き顔よりも笑ってるほうがいい」
ぐしゃぐしゃっと髪をかき混ぜられる。
そのとき、部屋のドアが静かにノックされた。
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