* * *

 

 

 泣き疲れてようやく涙が止まったのは、だいぶたってからだった。

 ぐいっと涙まみれになった顔を拭って見上げると、笹目さんは静かに微笑み返してくれた。

「……落ち着いたか?」

「…………はい………ごめんなさい…………」

「謝ることないぞ。それより、まゆ、目が真っ赤だなぁ。明日、腫れるかもしれないぞ」

 笹目さんのいう通り、まぶたが重たくて仕方なかった。鏡を見なくても、まぶたがむくんでしまっているのがわかる。

「タオルで冷やすか」

 そういって立ち上がろうとした笹目さんの服を、気づいたら引っ張っていた。

「まゆ?」

「―――――――そばに……いてください…………」

 たくさん泣いたけれど、胸の中のもやもやはまだすっきりとはしていない。逆に、思いを吐き出してしまった分、よりいっそうさみしさが増していた。

 必死に笹目さんを見つめる。

「独りで………いたくないんです…………」

 人の暖かさを感じた僕の心は、弱くなっていた。やさしい笹目さんのぬくもりを放したくなかった。今までのさみしさや孤独感があふれていて、今独りになったら、ぺたんと押しつぶされてしまう気がした。

「お願いです…………」

「じゃあ冷やすのはナシな」

 笹目さんは苦笑しながらベッドに戻った。

「どうした?そんな顔して。心配なら、眠るまでそばにいるよ」

「――――――………」

 違う。

 そばにいるだけじゃなくて。

 今僕が欲しいぬくもりは、もっと――――――――

「…抱いて………もらえませんか……?」

「―――――――!?」

 声がかすれた。

「お願いします…………」

 僕が欲しいのは、もっともっと深いつながり。

 あのクリスマスの夜のような、肌と肌のふれあいだった。

 たぶん、そうでないと、このさみしさは埋められないと、本能的に気づいていた。人肌のぬくもり。抱きしめてくれる腕。そういうものが欲しくて欲しくて、なのに手に入らなくて、どんどんと心の中が空っぽになっていったんだ。

「まゆ…………」

 困惑した笹目さんの声。

「お願いです……」

 笹目さんは笑顔を消し、しばらくの間、真剣なまなざしで僕を見つめた。それから、ふっと肩の力を抜き、苦笑した。

「………そんな顔で『抱いてくれ』だなんていうな」

 そっと笹目さんの手が伸びてきて僕の髪を梳く。

「俺と寝たって、なんの解決にもならないよ」

「………………………」

「まゆの望みは、そうじゃないだろう?」

「駄目…ですか…………?」

「そうじゃなくてなぁ…………」

 うーん、と笹目さんが天を仰ぐ。

「まゆは日下が好きなんだろう?なら、抱いてくれっていう相手は日下なんじゃないのか?」

「…先生は……僕に触れてもくれません………」

 もしかしたら、たった一度だけのあの夜も、後悔しているのかもしれない。

 キスだって、抱きしめるのだって、僕がせがまなかったらしてはくれなかった。その先生に「抱いて欲しい」といって受け入れてもらえるはずがない。

「笹目さん………」

「―――――――――――………」

 懇願の目で見つめる僕の目を、笹目さんはじっと見た。笹目さんの顔から、また笑みが消える。

「…本当に……そうして欲しいのか…?」

 こくん、とうなずく。

「―――――――――――」

 ふぅ、と小さくため息をつき、笹目さんは真剣な表情になった。

「そばに……いてください………」

「―――――――――――」

 答える代わりに、笹目さんは僕の首に腕を回した――――――

 

 

 

 NEXT →

← BACK

 

モドル