* * *

 

 先生が帰ってきたのは、2月に入ってすぐの日だった。

「お帰りなさい!」

 夜更けに、大きなスーツケースを持って帰ってきた先生。すぐに飛びつきたかったけれど、お父さんたちがいたし、何より、久しぶりに会う先生に緊張してしまってできなかった。僕は部屋に向かう先生の後をついていった。

「……あの…入ってもいいですか?」

 先生の部屋の前でそう聞くと、先生はふっと口元で笑って、僕の背を押してくれた。久しぶりの、先生の笑顔。ドアが閉まるやいなや、僕は先生にぎゅっと抱きついた。

「真雪?」

 柔らかなトーンの声。心地よい響き。

「…………………」

 先生が本当にそばにいる。

 そう思うと、うれしくて、涙が出そうになった。

「会いたかったです………」

 先生のコートに顔を押し付けると、先生の手がそっと僕の髪に触れた。そして、その手は優しく僕の頭をなでた。

(―――――――――――――……)

 どきどきと心臓が脈を打ち出す。

(キスしたい)

 そう思ったけれど、先生は僕から身体を離してしまった。

「…………―――――――――――」

 さみしい。

 先生と触れ合っていたぬくもりが、一気にさめてしまう。

 先生はコートを脱いで椅子にかけると、僕のところへ戻ってきた。

(抱きしめてもらえる?)

 その思いとは裏腹に、先生は静かにこういった。

「もう寝る時間だろう、真雪」

「…………………」

 寝る時間?

 寝る時間って、何?

 一瞬、頭の中が真っ白になった。

「…そんな子どもじゃないですっ」

 ついつい強い口調になってしまった。そんな僕を見て、先生は「やれやれ」というように微笑んだ。

「明日も学校なんだろう?そろそろ寝ないと、起きられないぞ」

「――――――――――――――」

(学校なんて)

 そんなものよりも、久しぶりに会えた先生と一緒にいたいのに。

 そばにいたい、と必死に先生を見上げたけれど、先生の表情は変わらなかった。

 僕は仕方なく、先生の部屋を出た。

「……おやすみなさい」

「おやすみ」

 素っ気ない返事。

 ぱたん、とドアを閉めると、僕は自分の部屋に駆け込み、ベッドに飛び乗った。

(ひどい!)

 先生に会うのは一ヶ月ぶりだったのに、先生は僕の頭をなでただけ。そしてさっさと寝ろ、と僕を追い出してしまった。

(どうして?)

 先生は僕に会いたくなかったのかな?

「――――――――――………」

 ふと浮かんだ自分の考えに、思いきり落ち込む。

 迷惑……?迷惑だったのかな…………

(そうかも)

 先生は20時間近く飛行機に乗っていたそうだから、きっと疲れてたんだ。それなのに僕が邪魔をしてしまったから、迷惑だったのかもしれない。

「――――――――――――」

(でも……………)

 やっぱり、もっと一緒にいたかった。

 廊下をはさんで、たったドア一枚。その先に大好きな人がいるというのに、会えないなんて。

 僕は半分落ち込み、半分すねながらベッドの上に転がった。

(眠れるわけない)

 こんなもやもやした気持ちのままじゃ、眠れない。

 そうして明け方近くまでベッドの中で寝返りをうっていた僕は、その朝、見事に遅刻したのだった。

 

 

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