Tempest テンペスト




 

大丈夫か?まゆ」

 医師に先生が今後の処置を聞きにいった後、僕は先生と一緒に病院を出た。病院の駐車場の見慣れた車の中で僕たちを待っていた笹目さんは、僕を見るなり、車の外に飛び出してきた。

「腕?折れたのか?」

「ひびが入っているそうだ。全治1ヶ月」

「1ヶ月か・・・・・・痛むか?まゆ」

「・・・少しだけ」

「そうか・・・・・・・・・」

 笹目さんは自分のことのように顔をしかめて、僕の髪をなでた。その手がたんこぶに触って「痛っ」と声をあげてしまう。

「?頭もなのか?」

「落ちたときにぶつけちゃったみたいで、たんこぶできてるんです」

「あー、そりゃ悪かった」

 笹目さんはさらにしかめ面になって僕に頭を下げた。

「あ、いえ、大丈夫です!ちょっとぶつけただけですから!」

「頭は怖いからなー。検査してもらったのか?」

「異常なしだそうです」

「そっか。よかったな」

 どうぞ、と笹目さんが車の後部座席のドアを開けてくれる。いつもは助手席に乗る先生が、僕と並んで後部座席に座った。

「疲れただろ、まゆ。日下に寄りかかって寝てろ」

「いえ・・・・・・!」

 そんな、先生をクッション代わりになんて使えるわけない。

 僕は先生のとなりで姿勢を正した。

「大丈夫ですから!」

「そうか?じゃ、安全運転で行くぞ〜」

 その言葉どおり、笹目さんはほとんど揺れない運転で、僕を家まで運んでくれた。家に入ると、佐紀さんが帰らずに待っていてくれた。

「まゆさん!まぁ……」

 僕の包帯を見て絶句する佐紀さん。

「……ごめんなさい…」

 病院で先生と会ったときと同じように謝る。自分の不注意でしてしまった怪我のせいで、大切な人たちに心配をかけているのがとても申し訳なかった。

「今晩、私、泊まりましょうか?」

「大丈夫です!」

 そこまで迷惑をかけるわけにはいかない。

「僕がついてますから。しばらく仕事もありませんから、真雪についていられるので」

 先生がそう言うと、佐紀さんは「わかりました」とうなずいた。

「それじゃあ、また明日、参りますので」

 そう言って、心配そうな顔の佐紀さんは、笹目さんと一緒に帰っていった。

(どうして怪我なんかしちゃったんだろう……)

 先生や笹目さん、佐紀さんにお父さんとお母さん。

 みんなにとても心配をかけてしまった。

 なにより………一番悲しいのは、せっかくの先生のオフなのに、レッスンをしてもらえなくなったこと。不謹慎かもしれないけれど、それが一番、悲しくて悔しかった。

 

 

 

 

 その夜から僕は熱を出した。

 熱のために意識がぼんやりして、おかげで腕の痛みをあまり感じなかった。

 何度も眠り、目を開けるといつもそばに先生がいた。

(昔も…あった)

 こうやって浅い眠りを繰り返し、何度も目を開けては、そばに大切な人の姿を探していた。吹雪の音と、自分を抱きしめている腕のぬくもり。毛布の感触。先生とふたり、風の音に身を縮めながら過ごした幼い日の夜。あの時も、今も、先生は僕をじっと守ってくれている。

「………………」

 そっと額に何かが触れた感触で目が覚めた。

 重いまぶたをゆっくりと開くと、視界は白いタオルで覆われていた。

「……?」

(これ……なんだろう…?)

 タオルを払いのけようと手を出すよりも早く、それが取り除かれた。

「…起きたのか?」

 先生の声。

「タオル……?」

 かすれた自分の声は、他人のもののように現実感がない。

「汗をかいていたから」

 そう言って先生はそっと僕の額をタオルでふいた。

「身体もふくか?」

「え…?身体………?」

 言葉を発している途中から、またまぶたが重たくなる。そのまま僕は眠りに落ちた。

 

 

 そうして僕は、まる2日間、眠りつづけたらしかった。

 

 

 

 

 

←モドル ススム→

メニューにモドル