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12月25日は雪で幕を開けた。
「うわ・・・・・・一晩ですごくつもってる・・・・・・!」
朝、カーテンを開けると庭の木々や屋根なんかが真っ白になっていた。窓を開けて目の前の屋根に積もった雪をきゅっとにぎる。
「冷たーい!」
12月に入って何度か雪は降ったけれど、こんなに積もるのは今年初めてだ。空からはまだ雪がゆらゆらと降ってきている。この調子だと、もっともっと積もるかもしれなかった。
今日は、お父さんとお母さんが家でパーティをしてくれた。東堂や学校の友達を呼んで、プレゼントをもらって、みんなでケーキを食べた。
にぎやかにしている間は忘れていられたのだけど、夜になり、みんなが帰ってしまうと、急に先生のことを思いだした。
(会いたかったな・・・・・・・・・)
庭の一角にあるピアノ練習室に行き、ピアノの前に座る。
ぽーん、ぽーん、と右手の人差し指で適当に鍵盤を押す。
(先生、今日が誕生日だって知らないし、仕方ないか・・・・・・)
せめて電話で声が聞きたかったな・・・・・・・・・
会わないでいると、先生への想いが積もっていくみたいだ。体中ぱんぱんになるまで「好き」っていう気持ちが貯まってしまって、すごく苦しい。
(言おう)
今度先生に会えたら、「好きです」って言おう。
このまま気持ちが貯まっていくと、いつかぱちんって破裂してしまいそうな気がする。
しばらく鍵盤で遊んでから、今度はポジションをとり、きちんとしたメロディーを弾いた。曲は、先生と初めて会ったときに僕が弾いていた曲、エリック・サティのジュ・トゥ・ブ。
(「あなたがほしい」)
まさに、今の僕の気持ちだ。
先生がほしい。
先生がほしい。
心の中には、それしかない。
先生と初めて会って、まだ一年もたっていないけど、僕の心の中は先生でいっぱいだ。誰かのことを思って胸が痛くって苦しくって、だけどしあわせで。そんな気持ち、先生に会うまで知らなかった。
最後の音を弾いて、ピアノにおでこをくっつける。そこからひんやりと冷たさが広がる。そのとき。
ぱち、ぱち、ぱち、と拍手が聞こえた。
(え―――――――――――?)
空耳?
(こんなにはっきり聞こえるのに?)
違う。空耳じゃない・・・・・・・・・じゃあ誰が・・・・・・
拍手の主の気配。その人は、温室の入り口に寄りかかってこちらを見ている。
(まさか・・・・・・・・・・・・)
ピアノから顔を上げて「その人」を確かめるのが怖かった。もしもその人が僕の思っている人と違ったら、思いきりがっかりしてしまうから。
(まさか・・・・・・・・・・・・)
僕が身動きがとれなくなっていたとき、
「真雪」
「その人」が僕を呼んだ。
それは、僕がずっとずっと待っていた人の声、だった。
「―――――――――――っ!」
がばっと顔を上げて「その人」を見る。真っ黒なコートを着た長身の彼は、肩や髪に白い雪をつけて立っていた。前に会ったときよりも長くなった髪、少しやせた雰囲気のあご、そして優しくこちらを見つめる切れ長な瞳・・・・・・
「先・・・生・・・・・・!?」
「前よりも格段にうまくなったな、真雪」
「先生っ!」
ガタッと椅子が倒れる。
僕は久しぶりにご主人に会えた犬みたいに、一直線に先生へ向かって走った。
「先生!」
そのいきおいのままどーんっと先生の胸に抱きつくと、先生がよろけて、二人でしりもちをついてしまった。
「あ・・・っ・・・ごめんなさい・・・・・・っ・・・!」
あわてて先生から身体を離すと、困ったな、という風に苦笑する先生と視線が合った。
「あの・・・・・・っ、お帰りなさいっ・・・・・・」
「・・・・・・ただいま」
立ち上がりながら先生が答える。外は寒かったので、とりあえず二人でソファまで移動して座った。
先生は着ていた厚手のコートを脱いでソファの背にかけた。
「雪のせいで飛行機が遅れたんだ。本当はあと2時間くらい早くつく予定だったんだが・・・・・・」
「先生・・・・・・年明けまでかかるんじゃなかったんですか・・・・・・?」
そう問うと、先生は僕を見て、それからコートのポケットを探り、小さな包みを僕に渡した。
「12歳おめでとう。間に合ってよかった」
「え・・・・・・どうして僕の誕生日を・・・・・・」
「前に叔父さんに聞いたことがあるんだ。うちの息子はクリスマス生まれなんだって」
「でも・・・・・・でも、コンサートは・・・・・・」
「昨日で一段落。一週間休みになったから、戻って来れたんだ。ぎりぎりまでプレゼントを送るかどうか考えてたんだが、なんとか自分で渡せてよかったよ」
「でも・・・・・・・・・・・・」
まだ信じられない。
先生が目の前にいるだなんて。
呆然としている僕の頭をなでて、先生は笑った。
「プレゼント、それの他にもう一個。真雪の好きな曲、リクエストきくよ。真雪の為だけにピアノ弾いてやる」
「じゃあ・・・・・・じゃあ、先生にお任せ、で・・・・・・」
正直に言って、今の僕の頭の中は先生の登場でいっぱいになっていて、リクエスト曲を考えることなんてできなかった。
「わかった」
先生はもう一度僕の頭をなでてから、ピアノの前に座った。
「俺の好きな曲、適当にメドレーでつなげていくからな」
そう言って弾きだしたのは、ガーシュィンの曲だった。
(やっぱり先生のピアノはすごい・・・・・・)
知っている曲でも、たとえ知らない曲でも、気づくとその世界に引きずり込まれてしまう。ピアノの上で動く指先は、まるでひとつひとつが生きているように飛びはね、踊る。
僕はソファから立ち上がり、先生の横に立った。先生は僕をちらりと見上げ、小さく口元だけで笑った。
それから、先生の指は僕の聞いたことのある洋楽や映画音楽なんかを次々と奏でて、止まった。
「すごくよかったですっ!」
ぱちぱちと拍手をすると、椅子に座ったまま先生は僕を見上げて笑った。
「喜んでいただけて幸いです、お姫様?」
それから、先生のくれた小さな包みを開いてみる。中から出てきたのは、半透明の黄色っぽい石だった。
「アンバー・・・琥珀だよ」
「琥珀・・・・・・理科の時間に出てきました!」
「中に化石が入ってる」
「・・・ホントですね!すごい!綺麗!!うれしいです!」
「喜んでもらえてよかった。俺の趣味で選んだから、どうかな?って思ってたんだ」
「先生、化石が好きなんですか?」
「化石も石も好きだよ」
それは知らなかった。新しい発見。
「じゃあ、とりあえず部屋に戻るよ。朝からずっと飛行機に乗ってたから疲れた」
ソファからコートをとって席を立った先生。
その背中が温室のドアから消えようとする瞬間、僕は先生を呼び止めていた。
「先生・・・!待ってください!」
「――――――――――――――?」
怪訝そうに振り向く先生。
僕はその先生をまっすぐに見つめ、こぶしをぎゅっとにぎった。
(行ってほしくない)
「真雪・・・?」
ゆっくりと僕の前に戻ってくる先生。
「どうしたんだ?」
少し心配そうに僕の顔をのぞき込む先生。
「先生・・・・・・・・・」
言おう。
次に先生にあったら伝えようと決めていた、ずっと想っていたこの気持ちを。
「先生!」
目の前に立つ先生を見上げ、僕は意を決した。
「先生・・・・・・僕、先生が・・・好きなんです・・・・・・!」
to be
continued …
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