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 最後の曲目を演奏し終わり、一回目のアンコールに応え、両手に花束をたくさんもらって先生は舞台袖に帰ってきた。

「すごいお花ですね………!」

「持っとけ」

 「え?」というまもなく、どさどさっと花束が渡された。落とさないように僕は必死に腕に力をこめた。花束も、これだけ集まると、かなり重い。

「真雪にやるよ」

「先生!」

 客席からは、アンコールを求める拍手が鳴り響いている。

 先生と同じように花束を抱えて戻ってきた指揮者さんが、スタッフの人に花を預け、先生のところへやってきた。

「二回目のアンコールは、あれでいいんですね?」

「?」

 指揮者さんの視線が、ちらりと僕に投げかけられたような気がした。

「ええ、すみません、わがままを言ってしまって」

 先生の視線も、同じように、僕に……でも、花束が視界をさえぎっていて、よくわからない。

 そうこうしているうちに、二人はまた舞台のほうへ帰っていった。わっと歓声がおき、拍手が高まった。

「まゆ、日下がこっち見てるぞ」

 僕の腕の花束を受け取りながら、笹目さんがステージのほうを指差した。笹目さんの目がいたずらっぽく細まっている。

「?」

 確かに先生はこちらを見ていた。ピアノに座り、客席ではなく、僕のほうをまっすぐと。そして、声には出さずに口だけを動かして、たぶん、こう言った。「聞いてろ」

 それが合図だったかのように、指揮者さんが棒を上げた。だけどそれはオーケストラを指揮するためではなく、先生のピアノを促すものだった。どうぞ、というように、指揮者さんは棒を持った手を上向けて、先生のほうを見た。

(なんだろう……………)

 ドキドキしながら僕は先生が第1音目を奏でるのを待った。

 そして、先生が弾きはじめたのは

「ハッピーバースデー………!?」

 あまりにも聞きなれた旋律が、耳に飛び込んできた。

 ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー。

 まるで小学生の発表会みたいにシンプルなハッピーバースデー。決してコンサートのアンコールにはふさわしくない曲調。だけど。

(先生っ………………)

 僕のために?僕のためなんですか、先生……?

「贅沢ものだなぁ、まゆ」

 笹目さんの言葉が僕の考えを裏付けた。

 先生は今、僕のためにピアノを弾いてくれているんだ………

 一通りハッピーバースデーを弾き終わると、先生は指揮者さんに目で合図を送った。指揮棒が上がる。オーケストラの人たちが楽器を構える。始まったのは、ハッピーバースデーを主題にしたにぎやかな曲だった。マーチのテンポにアレンジされているから、歯切れが良く、客席の人たちも手拍子で参加した。

 先生の指が、鍵盤中を走り回る。追いかけるように流れるクラリネット。それを飾るフルート。合いの手を打つトロンボーン………

 曲はハッピーバースデーからクリスマス曲のメドレーにつながった。

 にぎやかに、客席も巻き込んでのアンコール。

 大盛況で、コンサートは終了した。

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モドル