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「いなくなるって・・・・・・・・・?」
シーナのそばに寄ろうとすると、シーナはうつむいたまま首を振った。
「そこにいて」
オレとシーナの距離は約1メートル。
空には星。
夏に蒜山(ひるぜん)で見た星とは輝きが全然違う星。
『この星、本谷に見せたかったんだ』
そう言って微笑むシーナの姿は、いまでも記憶の中に大切にしまってある。
宝物のように大切な人。
まさか自分にそんな人ができるとは思ってもみなかった。だからこそ、守りたいと思った。あなたは俺のオアシス。東京での過去、親父のこと、家のしがらみ。傷つけられて、反発することでしか身を守れなかった俺。そんな俺を、あなたの笑顔がいやしてくれた。
いつまでもそばにいたい。
たとえ、恋人としてじゃなくても。
友達として。
シーナはしばらくの間、黙ってうつむいていた。離れていても、シーナがこぶしを握りしめているのがわかる。
(シーナ・・・・・・・・・・・・)
どうしたんだろう。
待て、といわれ、来るな、といわれ、俺はただそこに立ち尽くすしかできない。ただ、晩秋の風にふかれるシーナの肩が寒そうだな、と思いながら。
どのくらい時間がたったのかわからない。
ようやく、シーナが顔を上げた。
「オレ・・・・・・・・・本谷に、ずっと・・・かくしてたこと、あるんだ」
「かくしてたこと・・・・・・・・・」
その言葉にドキッとした。
(まさか橘と何かあった・・・?)
シーナが素っ気なくなったのは、橘のいるゼミの手伝いを始めてからで・・・・・・その間に橘がシーナに何かしたのかもしれない。
(あの丸メガネっ・・・・・・)
最近、ようやく国家試験の準備に専念してくれて、大学にあまり顔を出さなくなっていたっていうのに。
しかし、シーナが次にいったのは、オレの予想とは全く違うことだった。
「オレ・・・・・・・・・本谷が・・・好きなんだ」
「―――――――――――――――」
(え?いま・・・なんて・・・・・・?)
俺のこと、「好き」だって・・・・・・言った?
シーナは真摯な瞳でじっとこちらを見ていた。
また、沈黙。
俺は状況がうまく飲み込めなくて、呆然とそこに立ち尽くしていた。
(好き・・・・・・・・・・・・?)
そんな俺の反応を見て、シーナは瞳を伏せた。
「おかしいって思うだろ?気持ち悪いって・・・・・・・・・男同士なのに・・・・・・・・・本谷には彼女いるってのもわかってる・・・・・・でも・・・・・・」
「――――――――――」
「・・・止められないんだ」
言葉の最後のほうがふるえた。
(泣いてる・・・・・・・・・?)
夜の闇の中で、シーナの肩が小さくふるえてるような気がする。
そっと歩み寄っても、今度は制止の声はかからなかった。
「・・・じゃあ、最近俺のこと避けてたのは・・・・・・俺のこと、嫌ってたわけじゃなくて・・・・・・」
「・・・・・・本谷に会わないでいたら、この気持ち、消えるかなって思って・・・・・・でも、駄目で・・・・・・・・・」
(あぁ、泣いてる・・・)
俺から顔を背けるようにシーナは深くうつむいた。
「ごめん・・・・・・オレ、いなくなるから・・・・・・もう本谷に関わらないから・・・・・・」
「――――――――――」
間近で風に揺れるシーナの髪。
その頭を俺は抱き寄せた。
「――――――――!?」
シーナの身体がびくっとふるえる。その身体を離さないように、きつく抱きしめて、シーナの髪に顔を寄せた。
寒空の下にいたというのに、シーナの身体は熱かった。
「シーナ・・・・・・俺も、だよ」
「――――――――?」
「俺も、シーナのことが好きだ」
シーナが顔を上げる。思った通り、その瞳は涙でいっぱいだった。綺麗な瞳を隠すメガネをそっと外し、俺はシーナに口づけた。
「本・・・谷・・・?」
困惑するシーナの口を口でふさいで思いきり抱きしめた。シーナはびっくりしているのか、しばらく身体を堅くしていたけれど、やがて、ゆっくりと俺の背中に腕を回して俺に寄り添った。
(うそだろ――――!?)
シーナが俺を好きでいてくれたなんて。
相思相愛だったなんて。
「どうしよ・・・・・・すっげーうれしい・・・・・・!」
「本当に・・・・・・・・・?」
「俺もシーナが好きで・・・でも言っちゃったら友達にも戻れなくなるかと思って言えなくって・・・・・・」
「・・・・・・怖かった・・・・・・・・・」
「うん・・・・・・」
だから、シーナはふるえていた。
俺に勇気がなくて言い出せなかった言葉を、シーナは俺に告げた。その強さを、尊敬する。
「でも・・・彼女は・・・・・・・・・」
「言ってるだろ?あいつは違うんだって」
「本当に・・・?」
「信じろって」
「・・・・・・うん」
ぎゅっとシーナの腕が俺にしがみついた。
「会いたかった・・・・・・・・・」
つぶやくシーナの声に、頭の中がとろけそうになる。
(夢みたいだ)
いまにもシーナが消えてしまいそうで、怖くて、俺はシーナをいつまでも抱きしめていた。
TO NEXT......
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