8
11月も終わりに近づき、日に日に寒さが増していく。
構内の木の葉もみんな枯れて、もの悲しい雰囲気になっていた。
シーナは先輩の手伝いが終わってから、確かにいままでよりは多く講義に顔を出すようになった。俺と顔を合わす機会も多くなった。だけど。
(遊んでくれないんだよな・・・・・・)
夏みたいに家に誘っても来ないし、どこかに出かけようといっても断られる。
「・・・カノジョに悪いし」
なんていって。
いくら俺が姿子は彼女じゃないって説明しても、信じていないみたいだった。
それからは、どうも避けられているような気がしていた。シーナは、俺の側には来ないし、目を見て話さないし、すぐにどこかへいってしまう。
(なんでだろう)
理由が思いつかない。
今日の講義のあと、何とかシーナをつかまえた。
「何?」
ぶっきらぼうな言葉にたじろぎつつ、俺は笑顔を作った。
「このあとヒマ?よかったら・・・」
「ヒマじゃない」
俺の言葉を遮ってシーナはぷいとそっぽを向いた。
最近はずっとこの調子なのだ。
前にシーナの家に泊まったときは、ようやく夏のような友達関係に戻れたと思ったのに。あの時以来、シーナは以前以上に素っ気なくなってしまったのだ。
そうやって振られた俺は、仕方なく、ひとり寂しく構内のベンチで煙草を吸っていた。
(なんでだろう)
シーナが俺のことを嫌いになったとか?なんで?
(俺の気持ちに気づかれた・・・とか?)
だから、気持ち悪くなって、近寄らなくなったとか。
それは考え得ることだけど、どこからそれがばれたのかっていうのが問題だ。
シーナの家でシーナを抱きしめてしまったせい?それで気づいたのか?それとも姿子のいうとおり、俺のシーナへの恋愛感情がばればれだったとか?
(もう終わりなのかな・・・・・・)
シーナが俺の気持ちを知って、気持ち悪いと思っているのなら、もう友達にすら戻れないだろう。
親しくなって、まだ半年もたっていないのに。もう終わりなのか。
(俺にだけ笑ってくれてたのに)
他のヤツには見せない表情だったから、うれしくて、うれしくて。宝物みたいに大切で。絶対に壊したくはなかったのに。
「・・・・・・畜生・・・・・・・・・・・・」
悔しくって泣けてくる。
こんなことになるなら、せめて、気持ちを伝えたかった。そして断られるのなら、まだあきらめがつく。つらいけど、まだましだ。
シーナが何故俺を避けているのか。
それが知りたい。
そのために俺はこのベンチに座り続けている。
ここは大学の裏手にある駐輪場近くの細い並木道。自転車通学のシーナが、いつも使っている道だ。
駐輪場に行って、シーナの自転車があるのは確認してある。シーナはまだ構内にいるはずだった。
今日最終の講義が終わってから、もうだいぶたつ。
日はとっくに暮れてしまい、人気のない道を街灯が照らしていた。
(寒――――――)
はーっと吐き出す息は真っ白だ。
日が落ちると、ぐっと気温が下がる。一応厚手の上着を着ているのだけど、何時間も外でじっとしていたので、身体がすっかり冷えてしまったのだ。
(シーナが自転車置いて帰ってたら、凍死だな)
身も心も冷え切って死ぬだなんてさみしすぎる。
煙草の煙を空に吐き出し、煙草を消す。
じっとしていると寒いので、ベンチから立ち上がって身体を伸ばした。と、少し離れたところで、ガサガサっと物音がした。
「?」
なんだろう?とそっちを見ると、目を丸くしたシーナが立っていた。
「・・・・・・シーナ」
「―――――――・・・・・・」
心底びっくりした、という顔でシーナは俺を見ていた。その足が歩道から外れて草むらに入っている。さっきの音はシーナが草を踏む音だったのだ。
「シーナ?」
その声で我に返ったのか、シーナは草むらから歩道にあがった。そして、こっちを見ないまま俺の前を通り過ぎていこうとした。その腕を必死につかまえる。
「待てよ!」
「――――――」
振り払おうと力のはいった腕を、離さないよう握りしめる。
「・・・離せよ・・・・・・」
俺から顔を背けてシーナがつぶやく。
(離せるかよ)
ぐっと手に力を込めると、シーナが顔をしかめた。
「!」
痛かったかな?と反射的に腕を放すと、シーナはバッと俺から離れた。そのままシーナはうつむいて黙ってしまった。
俺はさりげなく駐輪場への道を身体でふさぎつつ、シーナのほうに一歩寄った。
「最近おかしーぞ、シーナ」
「――――――」
「なんで俺のこと避けてるんだよ」
「・・・避けてなんか・・・・・・」
「いまだって、逃げようとした」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
シーナは答えない。
「・・・・・・俺のこと、うっとうしくなったのか・・・・・・?」
「違う・・・・・・・・・・・・」
かすれたシーナの声。
「そんなこと・・・ない・・・・・・」
「じゃあ、なんで?」
「―――――――――――」
沈黙。
「理由、教えろよ。そうじゃなきゃ、ストーカーするからな」
「―――――――――」
「避けるんならそれでもいいよ。でも、なんでなのかわからなかったら、納得いかない。俺のこと嫌なら、そう言ってくれれば、もうシーナには近づかない」
「!」
シーナが顔を上げる。
夜の闇と街灯の明かりが、シーナの顔に濃い影を落としていた。
「シーナ・・・・・・・・・」
強張ったシーナの表情。
「・・・やっぱり、俺のこと、嫌いなんだ」
せめて気持ちを伝えて・・・なんて決意は、その顔を見てどこかへ吹っ飛んでしまった。俺を怖がっているようなシーナの表情をこれ以上見ているのがつらかった。
「・・・・・・・・・ごめん・・・・・・いままでの忘れて。ストーカーするっていうのも冗談だから。もうシーナには近づかない」
俺はシーナに背を向けた。頭の中は、絶望。これでもうシーナと一緒にいることはできなくなったのだ。覚悟していたとはいえ、実際そうなってみると、予想以上にショックだった。
その時。
「―――――――――――待って」
シーナの声。
「待って・・・・・・本谷・・・・・・・・・」
苦しそうな声に振り向くと、シーナがすがるような瞳をこちらに向けてた。
「待って・・・・・・・・・・・・」
シーナは泣き出しそうな顔で俺をじっと見ていた。
(なんだ・・・・・・・・・・・・?)
「オレ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
何かを言いかけて、その言葉を飲み込み、シーナはうつむいた。
「・・・いなくなるのは・・・・・・オレのほう、だよ・・・」
「え・・・・・・・・・?」
「オレのほうから、いなくなる。オレが本谷の前から消えるよ・・・・・・」
そう言ったシーナの手は、堅く堅くにぎられていた。
TO NEXT......
|