11月も終わりに近づき、日に日に寒さが増していく。

 構内の木の葉もみんな枯れて、もの悲しい雰囲気になっていた。

 シーナは先輩の手伝いが終わってから、確かにいままでよりは多く講義に顔を出すようになった。俺と顔を合わす機会も多くなった。だけど。

(遊んでくれないんだよな・・・・・・)

 夏みたいに家に誘っても来ないし、どこかに出かけようといっても断られる。

「・・・カノジョに悪いし」

 なんていって。

 いくら俺が姿子は彼女じゃないって説明しても、信じていないみたいだった。

 それからは、どうも避けられているような気がしていた。シーナは、俺の側には来ないし、目を見て話さないし、すぐにどこかへいってしまう。

(なんでだろう)

 理由が思いつかない。

 

 

 

 今日の講義のあと、何とかシーナをつかまえた。

「何?」

 ぶっきらぼうな言葉にたじろぎつつ、俺は笑顔を作った。

「このあとヒマ?よかったら・・・」

「ヒマじゃない」

 俺の言葉を遮ってシーナはぷいとそっぽを向いた。

 最近はずっとこの調子なのだ。

 前にシーナの家に泊まったときは、ようやく夏のような友達関係に戻れたと思ったのに。あの時以来、シーナは以前以上に素っ気なくなってしまったのだ。

 そうやって振られた俺は、仕方なく、ひとり寂しく構内のベンチで煙草を吸っていた。

(なんでだろう)

 シーナが俺のことを嫌いになったとか?なんで?

(俺の気持ちに気づかれた・・・とか?)

 だから、気持ち悪くなって、近寄らなくなったとか。

 それは考え得ることだけど、どこからそれがばれたのかっていうのが問題だ。

 シーナの家でシーナを抱きしめてしまったせい?それで気づいたのか?それとも姿子のいうとおり、俺のシーナへの恋愛感情がばればれだったとか?

(もう終わりなのかな・・・・・・)

 シーナが俺の気持ちを知って、気持ち悪いと思っているのなら、もう友達にすら戻れないだろう。

 親しくなって、まだ半年もたっていないのに。もう終わりなのか。

(俺にだけ笑ってくれてたのに)

 他のヤツには見せない表情だったから、うれしくて、うれしくて。宝物みたいに大切で。絶対に壊したくはなかったのに。

「・・・・・・畜生・・・・・・・・・・・・」

 悔しくって泣けてくる。

 こんなことになるなら、せめて、気持ちを伝えたかった。そして断られるのなら、まだあきらめがつく。つらいけど、まだましだ。

 シーナが何故俺を避けているのか。

 それが知りたい。

 そのために俺はこのベンチに座り続けている。

 ここは大学の裏手にある駐輪場近くの細い並木道。自転車通学のシーナが、いつも使っている道だ。

 駐輪場に行って、シーナの自転車があるのは確認してある。シーナはまだ構内にいるはずだった。

 今日最終の講義が終わってから、もうだいぶたつ。

 日はとっくに暮れてしまい、人気のない道を街灯が照らしていた。

(寒――――――)

 はーっと吐き出す息は真っ白だ。

 日が落ちると、ぐっと気温が下がる。一応厚手の上着を着ているのだけど、何時間も外でじっとしていたので、身体がすっかり冷えてしまったのだ。

(シーナが自転車置いて帰ってたら、凍死だな)

 身も心も冷え切って死ぬだなんてさみしすぎる。

 煙草の煙を空に吐き出し、煙草を消す。

 じっとしていると寒いので、ベンチから立ち上がって身体を伸ばした。と、少し離れたところで、ガサガサっと物音がした。

「?」

 なんだろう?とそっちを見ると、目を丸くしたシーナが立っていた。

「・・・・・・シーナ」

「―――――――・・・・・・」

 心底びっくりした、という顔でシーナは俺を見ていた。その足が歩道から外れて草むらに入っている。さっきの音はシーナが草を踏む音だったのだ。

「シーナ?」

 その声で我に返ったのか、シーナは草むらから歩道にあがった。そして、こっちを見ないまま俺の前を通り過ぎていこうとした。その腕を必死につかまえる。

「待てよ!」

「――――――」

 振り払おうと力のはいった腕を、離さないよう握りしめる。

「・・・離せよ・・・・・・」

 俺から顔を背けてシーナがつぶやく。

(離せるかよ)

 ぐっと手に力を込めると、シーナが顔をしかめた。

「!」

 痛かったかな?と反射的に腕を放すと、シーナはバッと俺から離れた。そのままシーナはうつむいて黙ってしまった。

 俺はさりげなく駐輪場への道を身体でふさぎつつ、シーナのほうに一歩寄った。

「最近おかしーぞ、シーナ」

「――――――」

「なんで俺のこと避けてるんだよ」

「・・・避けてなんか・・・・・・」

「いまだって、逃げようとした」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 シーナは答えない。

「・・・・・・俺のこと、うっとうしくなったのか・・・・・・?」

「違う・・・・・・・・・・・・」

 かすれたシーナの声。

「そんなこと・・・ない・・・・・・」

「じゃあ、なんで?」

「―――――――――――」

 沈黙。

「理由、教えろよ。そうじゃなきゃ、ストーカーするからな」

「―――――――――」

「避けるんならそれでもいいよ。でも、なんでなのかわからなかったら、納得いかない。俺のこと嫌なら、そう言ってくれれば、もうシーナには近づかない」

「!」

 シーナが顔を上げる。

 夜の闇と街灯の明かりが、シーナの顔に濃い影を落としていた。

「シーナ・・・・・・・・・」

 強張ったシーナの表情。

「・・・やっぱり、俺のこと、嫌いなんだ」

 せめて気持ちを伝えて・・・なんて決意は、その顔を見てどこかへ吹っ飛んでしまった。俺を怖がっているようなシーナの表情をこれ以上見ているのがつらかった。

「・・・・・・・・・ごめん・・・・・・いままでの忘れて。ストーカーするっていうのも冗談だから。もうシーナには近づかない」

 俺はシーナに背を向けた。頭の中は、絶望。これでもうシーナと一緒にいることはできなくなったのだ。覚悟していたとはいえ、実際そうなってみると、予想以上にショックだった。

 その時。

「―――――――――――待って」

 シーナの声。

「待って・・・・・・本谷・・・・・・・・・」

 苦しそうな声に振り向くと、シーナがすがるような瞳をこちらに向けてた。

「待って・・・・・・・・・・・・」

 シーナは泣き出しそうな顔で俺をじっと見ていた。

(なんだ・・・・・・・・・・・・?)

「オレ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 何かを言いかけて、その言葉を飲み込み、シーナはうつむいた。

「・・・いなくなるのは・・・・・・オレのほう、だよ・・・」

「え・・・・・・・・・?」

「オレのほうから、いなくなる。オレが本谷の前から消えるよ・・・・・・」

 そう言ったシーナの手は、堅く堅くにぎられていた。

 

 

TO NEXT......     

 

 

モドル