シーナの家から帰ってくると、ダイゴローが俺に飛びついてきた。

 いつもは俺のことなんて気にもしないくせに、何でだろうと思ったけど。

(服にシーナの匂いがついてるのかな)

 ぴょんぴょんとまとわりついてくるダイゴローを踏まないように奥へいくと、留守番電話のランプが点滅していた。

 再生ボタンを押すと、入っていたのは姿子の声だった。

『啓吾ー、うまくいったあ?報告聞かせてよ。今日は夜まで京都にいるから、時間あったら連絡ちょうだい』

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 どうしようか?と思ったけど、一瞬悩んで、俺は携帯を取り出した。

 

 

 

 

「啓吾ー、こっちこっち」

 四条河原町の交差点そばのカフェに入ると、めざとく俺を見つけて姿子が手を振った。かっちり化粧をして、流行の服に身を包んだ姿子は目立つ。

 向かい合って座ると、にやにやと姿子が笑った。

「いいのー?彼女置いてきて」

「・・・邪魔したのだれだっつーの」

「あー、やっぱり彼女のとこにいたんだ!泊まったの?寝たんだー」

 カッと顔が熱くなる。ゆうべ眠ったシーナにこっそりふれたことを見られていたような気になったからだ。

(中学生かよ、俺は)

 これしきのことで赤面するだなんて。

「会ってみたいな。どんなコなんだろ」

「・・・あっちもそう言ってた」

「あれ、あたしのこと話したの?」

「電話。かけてきたの誰だよ」

「そっか。啓吾、すっごい不機嫌に電話でたもんね。起こしちゃってごめんね」

「あの人に会うの、久しぶりだったのにさぁ」

「でも、泊まったんでしょ?ってことは、正式にお付き合い開始?」

「違うって。あの人はそういうつもりなんて全然ないって」

 シーナは俺のことを友達としか思ってないんだから。

「えー?だって、ふたりっきりだったんでしょ?普通、女の子が家に泊めるっていうのは、OKってことじゃないの?」

 怪訝そうに姿子が言う。

(そっか、姿子はシーナが男だって知らないから)

 危ない危ない。

「世の中全員がそうってわけじゃねーだろ」

「ふぅん・・・・・・・・・」

 ふっと姿子は目を伏せた。

「・・・大切にしてるんだ・・・・・・・・・」

「そ、大切なの」

 無理矢理抱いてしまえないくらい。

 日が暮れてきて、晩飯を食おう、ということで、カフェを出た。何を食べようかと思いつつぶらぶらしていると、ふと、俺の目にあの人の姿が飛び込んできた。

(シーナ?)

 数メートル向こうから歩いてくる姿。人混みに見え隠れしているけど、見間違いではなかった。

「!」

 シーナのほうもこちらに気づいたみたいだ。目を丸くして、俺たちのほうに寄ってきた。

「本谷!久しぶり」

「ちょっと前まで会ってただろー?」

「そっか、そうだっけ」

 くすくすっとシーナが笑う。そして、俺の隣りに視線をうつした。

「こんばんは」

 礼儀正しく挨拶するシーナに、姿子もにっこり笑って挨拶を返した。

「こんばんは。啓吾のお友達?」

(おいおい、俺としゃべってるときよりトーンあがってるぞ)

 営業用というか、男用の極上スマイルで姿子はシーナを見上げた。

「椎名っていいます」

「わたしは鈴木姿子。姿子って呼んでくださいね」

 姿子は俺のことなんてすっかり忘れたかのようにシーナに歩み寄った。

「椎名さん、これから何か予定あります?よかったらいっしょにお食事でも?」

「え・・・えっと・・・・・・」

 明らかにシーナは困惑していた。初対面の女に詰め寄られて、どうしよう?って顔でこっちを見ている。

 俺は姿子の肩をつかんで引っ張った。

「姿子!ひとりで突っ走るなよ。シーナに悪いだろ」

「あら、ごめんなさい」

 姿子はちらりと俺を見上げて笑った。

「啓吾が椎名くんと一緒にいたいんじゃないかなーと思って」

「――――――――はぁ!?」

(何を言い出すんだ、こいつはっ)

 キッとにらみつけると、姿子はニヤリとした。

(まさかこいつ・・・・・・・・・・・・)

 気づいた―――――――!?

 俺の気持ちに・・・・・・・・・・・・?

 でもなんで―――――――?

 さーっと血の気が引いた。手のひらと背中にいやな汗がわき出てくる。

「ね、椎名さん、どう?」

「えっと・・・すみません、オレ、まだこのあとちょっと用あるんで・・・・・・」

 シーナはぺこりと頭を下げると、俺を見て手を振った。

「じゃあ、また大学で」

 そしてシーナの姿はまた人混みに戻っていった。

 残ったのは、呆然と立ち尽くす俺と、にやにやと俺を見上げている姿子。

「・・・あの人なんだ」

 ぽつり、と姿子が言う。

「なっ・・・何がっ・・・・・・?」

 自分でも声が動揺してるのがわかった。

「あの人はただの同級生だよっ・・・・・・別に何もないって」

「―――あたし、何も言ってないじゃない?」

「―――――――――――・・・・・・・・・」

 駄目だ。

 動揺しすぎて墓穴を掘ってしまっている。

「綺麗な子よね・・・・・・男だけど」

「―――――――・・・・・・」

 「男だけど」がずしっと肩にのっかった。

(どうしよ・・・・・・・・・・・・)

 どう言い訳したらごまかせるだろう。あー、駄目か。勘のいいこいつは、絶対に確信してる。俺を見る目が明らかにそういっている。

「・・・・・・そうだよ」

 俺は観念していった。

「あの人が、俺の好きな人だよ」

「なるほどね」

 満足そうに姿子が微笑む。

「なんでわかったんだよ?」

「啓吾、椎名さんが『久しぶり』っていったとき、『ちょっと前まで会ってただろ』っていったじゃない。啓吾は今日はずっと片思いのカノジョの家にいたってさっき白状させてたし。ってことは・・・・・・でしょ?」

「―――――――――――――」

(俺のせいかよ〜)

  頭を抱えて座り込みたい気分だったけど、大混雑した往来ではそれも無理で、俺は天を仰いだ。

「だーいじょうぶよぉ。あたしは誰にもいわないって。変な偏見もないし」

 ばんっと姿子が俺の背をたたいた。

「応援したげる。がんばんなさいよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 とりあえずは姿子を信じるしかない。

 はぁ、と俺はため息をついた。

「・・・不覚だ・・・・・・よりによって姿子にばれるだなんて・・・・・・」

「あら、あたしでよかったって思ってよ。こんなに素敵なお姉さまが応援するっていってるのに」

「・・・・・・なんにもするなよ、おまえ」

 じろりとにらんだが、姿子は素知らぬ顔だ。

「椎名くんは啓吾の気持ち、気づいてないの?」

 往来にいつまでも立ち止まっているわけにはいかず、近くのイタリアンの店にはいった。

「椎名くんの前の啓吾、挙動不審でおかしーの」

 くるくるとパスタをフォークに巻き付けながら、姿子が笑う。

「挙動不審?」

「嬉しくってたまらないっ、っていう感じ。よくばれないわね」

(そんなに表に出てるのかな・・・・・・?)

 自制しているから、そのはずはないと思うのだけど・・・・・・姿子は人一倍勘がいいから、きっと気づいたのだろう。

「啓吾があんなに優しい顔するの、初めてだったもの」

「?」

「椎名くんのこと、すっごい大切って感じで見てた。あの目見たら、何も知らなくても、啓吾はこの人のことが好きなんだろうなって気づいたと思う」

 そう言って微笑む姿子の表情は、とても「優しそう」だった。

「うまくいくといいね」

 初めて自分の気持ちを共有して、認めてもらえて、不覚にも俺は泣いてしまいそうになった。大切にしたいからこそ、必死に押さえていた気持ち。ひとりで抱え続けるには、少しだけ苦しかった・・・みたいだ。

「サンキュ」

 いつまでも隠し続けなければならない気持ちだけど。

 間違いではないよといってもらいたかったんだ。

「そんなに好きなら無理矢理抱いちゃえばいいのに」

「無理強いはしたくないんだよ」

 そんなことをして、シーナに口をきいてもらえなくなったりしたらどうする。俺の一生終わってしまう。

 シーナを大切にしたい。

 

TO NEXT......     

 

 

モドル