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いつのまにか11月になっていた。
シーナは相変わらず忙しいらしく、うちに遊びに来ることもなく、学校で顔を合わせることもほとんどなくなっていた。
(なんでだよー)
はっきりいって、悲しい。
まさかゼミの先輩の手伝いっていうのがこんなに長引くとは思わなかった。
この前、ようやく必修の講義でシーナを捕まえたときは、「もう少しで終わるんだけど・・・」といっていた。
その時も、シーナは講義が終わると飛び出すように講義室を出ていってしまい、ろくに話すことができなかった。
家で待っているダイゴローもつまらなそうにしている。俺が帰ってきて玄関に入ると、ダイゴローは奥から飛んできて、俺の後ろにシーナがいないか確認する。そしてシーナがいないとわかると「なぁんだ」というように、とぼとぼと戻っていくのだ。時にはテレビを観ている俺に頭突きをしてきたりして、怒っている。
(さみしいのは俺も一緒だっつーの)
夏休みの時間が嘘のようだ。
あの頃は、毎日のようにシーナはうちに来て泊まっていってたのに。あちこちでかけたり、一緒にテレビを観て笑い合ったり、勉強したり。
(思えば、理性の限界だーなんて悩んでたのも、しあわせだったよなー)
シーナが隣にいてくれなければ、そんな悩みも起きようがないのだ。
はぁ、とため息をつきながら、グラスをみがく。
今日はバイトの夜だ。
お客が少ないので、今日は裏の厨房でのんびりと食器磨きをしている。表のカウンターでは、マスターがお馴染みさんと談笑している。
はぁ。
もう一度、ため息。その息でグラスが一瞬白くくもる。
(シーナに会いたいなぁ・・・・・・)
もう長いこと、シーナの笑顔を近くで見てない気がする。あまりに会いたくて、せめて声が聞きたい、と受話器を手に取ったこともあるけれど、結局、電話もできずにいた。思えば、今までは密に会っていたから連絡も口頭でしていたので、電話で話したことがなかったのだ。
(シーナは携帯もってないし)
パソコンもないといっていたから、メールを送ることもできない。
(なんで電話ってこんなに緊張するんだろう)
メールなら、気軽に送ることができるのに。
その時、表からマスターが顔を出して「本谷くん」と呼んだ。
「はい、なんですか?」
マスターはちょいちょい、と手招きをした。呼ばれてそばまでいくと、耳打ちするようにこそっといった。
「今日、もうお客さんけぇへんようやし、あがってくれてええよ」
「でも・・・・・・・・・」
「後は僕ひとりで大丈夫や」
ぽん、と俺の肩をたたいて、マスターはカウンターに戻っていった。
(帰る・・・・・・・・・かな・・・)
せっかくなので、帰ることにする。が。
(今はひまになるのもな・・・)
時間が空くと、シーナのことを思って落ち込んでしまうから、まだバイトをしているほうが気が楽だったんだけど。
制服を着替えて、裏口から外へ。
思えば、シーナと親しくなるきっかけとなったのも、この路地だった。たまたまゴミ出しに来て、ダイゴローを抱いてるシーナと出会った場所。あの時は、ずっと話してみたかった人と知り合うことができて、すごくうれしかったのだ。
はぁ。
今日はため息が止まらない。
時刻は深夜に近いけれど、バイト先の木屋町付近はまだまだにぎやかだ。飲み会帰りのサラリーマンや学生、風俗の客引き、道端に溜まっている若者たち。煩いくらいにぎやかなその中を歩いていると、ふと、視界の片隅に見覚えのある姿が引っかかった。
「・・・・・・!?」
一瞬遅れて振り返る。
その人がいた方向をさがしたけれど、もう目的の姿は人混みの中に消えていってしまったのか、見つからなかった。
(見間違い・・・・・・・・・?・・・・・・いや、絶対に、いた・・・・・・!)
俺があの人の姿を見間違うわけない。
あれは絶対にシーナだった。
・・・そして、その隣には、橘・・・・・・・・・
まさか。
まさか。
俺はシーナと橘がいた方向を見つめ、呆然と立ち尽くすしかなかった。
シーナと橘が二人でいた。
二人で仲良く笑い合いながら。
見間違いならいい。
でも、そうではなかった。
ほんの一瞬だったけれど、俺がシーナを見逃すわけがない。なんていったって、最近ろくにシーナに会
えないから、せめて姿だけでも、と、目を皿にしてシーナをさがす癖がついているのだから。
(なんでだよ―――――っ!!)
かーっと体の中が熱くなる。
(俺と会う時間はなくっても、橘と遊ぶ時間はあるっていうのかよ!)
めちゃめちゃ腹立つ!
橘っ!!国家試験直前のくせに、こんなとこでふらふらしてる場合じゃねーだろーがっ。あー、それよりも、シーナだ。忙しいっていうからできるだけ邪魔しないようにしてたのに、橘と遊ぶヒマがあったら・・・・・・
(俺に会いに来てくれたらよかったのに・・・・・・・・・っ)
俺がこんなことを思うのは変かもしれないけど、「裏切られた」気分だった。
シーナとはつい数ヶ月前から「ともだち」として付き合うようになった。その期間はまだ短いけれど、時間なんて関係ないくらい親しく、密に過ごしてきた。たとえ恋愛感情がなかったとしても、シーナは俺の唯一無二の親友に違いはない。そして、シーナも同じように思ってくれていると思っていた。勝手な俺の思いこみかもしれない。だけど、信じていたのだ。だからこそ、この友人関係を壊すのが怖くて、シーナに想いを伝えられなかったのだ。なのに。
(俺だけが勝手に盛り上がってたってわけか・・・?)
とんだ独り芝居だ。
頭の中がぐるぐる回る。
いらいらしながら家まで帰って、玄関に鍵をつっこんだ瞬間、ふと、思いついた。あわてて時計を見る。
今日はバイトが早く終わったから、日付が変わるまで、まだ時間はある。
ばたばたと外に駆け出て、マンションの駐輪場へ。普段はあまり乗らないのでシートをかけてあるバイクを出し、エンジンをかけた。
このまま家で悶々として過ごすのは嫌だ。そのくらいなら――――――――
バゥン、といきおいよくエンジンがかかる。
俺は、アクセルを回して、夜の道に飛び出していった。
TO NEXT......
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