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 降りそそぐ太陽の光。

 サングラスをかけていないと、周囲をすべて白に染めてしまう太陽の下、俺は思いきり伸びをした。

 ここは、モルディブ。

 成田からスリランカ航空に半日と少し揺られてきた、赤道近くの国だ。

 もともとアウトドア派ではない俺がここにいるのは、 ひとえにこの旅行がタダだったからだ。

(依田さんもかわいそーに)

 俺のマネージャーの依田さんは、この夏、夏期休暇をまとめてとって、モルディブでスキューバをする予定だった。しかし、急に新人のマネージメントが入ってしまい、出発直前で行けなくなってしまったのだ。キャンセルしてもほとんど代金が帰ってこないので、かわりに俺が安く行かせてもらうことになった。ちょうど東京のくそ暑さにうんざりしていたところだったので、俺はこの旅行に行くことにしたのだ。

(きてよかったなぁ・・・)

 モルディブは東京よりも暑いのだけど、暑さの質が違う。

 さらりとしていて、あまり汗をかかない。それに、目の前は海だから、暑いと思ったらすぐに水につかればいいのだ。

(うるさい日本人もいないし)

 少しは顔と名の知られたミュージシャンなので、日本ではなかなかこんなふうに自由にはできない。

 海の浅瀬にたった水上ヴィラのデッキチェア―に横になって、ぼんやりとそんなことを思っていると、ふいに、聞きなれた日本語が耳に飛び込んできた。

「とっきわさーんっ!!」

(は?)

 男の声が俺の名前を呼んだ。

 反射的に声のした方を向くと、水着姿の少年がひとり、こちらに向かって両手を振っていた。

(・・・うそだろ〜・・・・・・・・・)

 少年はざぶざぶと海に入り、俺のヴィラのテラスまでくると、にんまりとネコの瞳を細めた。

「やっぱり常葉さんだぁ!こんにちは!」

 にこにこと人懐こく笑ったこの少年の名前は、夏川円(なつかわ まどか)。

 日本のトップアイドルで、俺がプロデュースしてる歌手で、俺の愛人・・・・・・みたいな立場の奴だった。

 

 

 

 

「雑誌の撮影がたまたまここだったんですよ!すごい偶然ですね」

 カレーのスプーンを握りしめて、円はにっこりと笑った。俺はその前で、皿の上の料理を突き刺しながらため息をつく。

「…なんでこんなところに来てまでおまえの顔見ることになるんだか………」

「喜んでくださいよ!もぅ」

 ぷぅっと頬をふくらませて円は首をかしげた。

「こんなところで会えるなんて、運命的じゃないですか」

「――――――腐れ縁だろ……」

「運命ですよ」

 そう言って円は心底うれしそうに俺を見た。

 夏川円は日本の若者の中で知らない奴はいないっていうくらいのトップアイドルだ(本人は「俳優」だって言い張るけれど、こいつの演技力はまだまだだ)。俺と知り合ったのは、3年前。俺が26歳で、こいつが15歳だったころ。

「俺のプロデュースしてください!!」

 円は少しつりあがった大きな目でまっすぐに俺を見上げていた。

 そしていつのまにか、「セックス10回で1曲つくる」という契約をこいつと交わす羽目になり、現在にいたる。

 俺は元ミュージシャンで現作詞家。作曲も時々やるし、円のついでに何度か他のアーティストのプロデュースもした(そのたびに円はすねていたけれど)。 

(本当に腐れ縁だ…………)

 超多忙で売れっ子の円と、南の島で偶然出会うなんて。最近は円の仕事と俺の仕事が食い違ってろくに会ってなかったけれど、しばらく見ない間に円の体つきが少ししっかりしたように思う。

「腹筋してるんですよ〜。いっつも常葉さんが意地悪するから」

 自分のみぞおち付近をなでながら、円はふいに艶っぽい目をした。まるでセックスの最中のような表情。

 不覚ながら、ちょっとドキッとする。

 円は年をおうごとに美人になっていく。初めて会ったときはてんで子供だったけれど、最近は色気が出てきた。

(今日の水着姿の写真も売れるんだろうなぁ…)

 女性陣はもちろん、一部の男性ファンにも。

 円はどこか中性的な雰囲気があるから。

「常葉さん、まだまだこっちにいますよね」

 円が身を乗り出して俺の目を見上げる。

「いるけど?」

「俺、明日で撮影終わりなんです!だから……それから、一緒にいても……いいですか…?」

「飛行機が出るまで?」

「違いますよ!……俺、この撮影の後、オフとってるんです。3日間……だから、その間…」

「――――――はぁ?」

 なんだなんだ。

 状況がいまいち理解できず、俺は手に持ったフォークを握りしめた。

「このあたり、あんまり日本人がいないから、ゆっくりできるかなって思って、撮影の後オフになるように調整してたんです。日本にいるころから…」

「でもなぁ…………」

「邪魔…ですか?」

 円はまゆをひそめて不安げに首をかしげた。

「…常葉さん、ひとりでここ来てるんですよね……?」

「あぁ」

「……じゃ、性欲処理係、要りませんか………?」

 頬を赤くして、ぽそり、と円がささやいた。

 性欲処理係。

 それは、俺と円の間にある契約。まだ円のプロデュースをしていなかったとき、円は俺に「性欲処理係でもいいから抱いてくれ」と懇願したのだ。それ以来、俺とこいつの間にあるのは、性欲処理をするかわりに曲を提供するという「契約」なのだ。

「……別になぁ……………」

 リゾートにきてまで、と思ったけれど、必死な円の様子についうなずいてしまった。

「まぁいいよ。くれば?」

「……やったぁ!」

 途端に満面の笑みになった円は、えへへ、と俺を見つめた。

「早く明日にならないかな」

 

 

 

 

 雑誌の撮影が終わると、円はスーツケースを片手に飛んできた。

「常葉さんっ!!」

 円は俺のヴィラの外から声をかけ、俺が顔を出すと、頬を赤くして首をかしげた。

「来ました。入れて!」

「はいはい」

 玄関のドアを開けると、もう円はその前にいた。そして、ドアが開くやいなや、俺の首に飛びついてきた。

「いたっ…こら、円!」

 じゃれついてくる円は、大きなネコみたいだ。

「どこに人目があるかわからないんだぞ。写真とられたらまずいだろ」

 円を首にぶら下げたままドアを閉める。円はぎゅうっと俺に抱きついて、頬を肩にすり寄せた。

「常葉さんとのスキャンダルならいいですもん」

「俺は嫌だ」

「ひどいー」

 むっと頬を膨らませたものの、すぐに笑みに戻って円は俺を見上げた。

「これから3日間、よろしくお願いします」

「……まさかここに泊り込むつもりなのか…?」

 「一緒に」というのは、そういうことだったのか……

 円は心底、不思議そうな顔をして首をかしげた。

「え?そうですけど」

「――――まぁいいけど」

「やったぁ」

 円はスーツケースを部屋の隅におくと、ばたばたとテラスの方へ駆け出した。

「わぁ、本当に海の上だぁ!」

 元気にはしゃぐ円の背を眺めつつ、俺はベッドに座った。

「俺、泊まってたのホテルだったから、こういうとこ泊まってみたかったんだ」

 テラスから戻ってきた円は、俺の座っていたベッドにダイブした。ぽわんぽわん、と、スプリングが波のようにゆれる。

「おっきなベッド〜!ダブル?もっと大きいかも。天蓋までついてる!」

「新婚旅行で使う人が多いらしいから、そのせいだろ」

「ふ〜ん」

 円はごろり、とベッドを転がり、仰向けになって俺を見上げた。

「じゃあ、俺と常葉さんも新婚旅行にしちゃおうよ」

「…追い出すぞ」

「えっ、やだ!………じゃあ、不倫旅行くらい」

「…出てくか?」

「…ごめんなさい」

 途端に悲しげな瞳になって、円は俺の足に頬を寄せた。

「俺……常葉さんとふたりきりになれるの久しぶりだったから、うれしくって……」

「…確かに久しぶりだな。1ヶ月ぶりくらいか?」

「2ヶ月ぶり!」

 円は俺のひざの上に頭を移して俺をにらんだ。

「常盤さんち、最近いっつも留守電だし、メッセージ入れてもめったに返事くれないし、ときどきは電話線抜いちゃってますよね?だから全然会えなかったんですよ!」

「あー悪い悪い」

 2、3ヶ月前からある雑誌でのエッセイを請け負ったのだが、その担当が頻繁に電話をしてくるので、辟易して電話には近づかないでいたのだ。

「常葉さんは俺に会えなくっても寂しくないんだ?」

「あたりまえだろ。性欲処理係」

「――――――………」

 円はしばらく頬をふくらませていただが、思い立ったように俺のズボンのボタンに手をかけた。

「じゃあ、仕事する!性欲処理係出動〜」

 いたずらっぽく言って円は下着の上から俺のモノをくわえた。

(日本を代表するトップアイドルが、実はこんな奴だなんて、誰も信じないだろうな……)

 わがままで高飛車で、セックス好き。

 礼儀正しく聡明だと業界人にも評価が高い「夏川円」が、実はこんなだなんて。

「…脱げよ円」

 言うと、円は大人しく俺から離れ、着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。そしてジーンズも下着も投げ捨てると、待ちきれないというように俺にキスをした。

「常葉さん………」

 耳元でささやく声。

 熱っぽくうるんだネコの瞳。

(性欲処理係のいる休日、か……)

 こういうリゾートもいいかもな。

 そんなことを考えながら、俺は円をベッドに押し倒した。

 

 

 

 

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