* * *
試合の日は、抜けるような青空の良い天気だった。
バスケットは屋内でするから、天候はあんまり関係ないけれど、でも、よい天気の日はいい気分だ。
コンディションもばっちりだし、今日は薫が見に来てくれるから、俄然やる気がわく。
(恋人・・・・・・だからかなぁ)
昨日、告白して両想いになって、正式にお付き合い開始したのだ。
(試合が終わったらイロイロしよー)
薫はめったに出てこないとはいえ一応教師だから、あんまり大っぴらに遊び回れないけど、オレとしてはあの美術室で薫とのんびりできるだけでもしあわせだから。
今日の試合は青嵐近辺の高校のバスケ部が集まって行う親善試合だ。参加校はうちをいれて4つ。
体育館の中では、他の高校の部員たちがきて、もうウォーミングアップを始めていた。いろいろな色のユニフォームやジャージがうろうろしている。
「霧島ー、こっちやこっち!」
青嵐のベンチで不破先輩が手を振った。
「おまえー、二年のくせに三年より遅く来るなよなぁ」
がしっとヘッドロックをかけられて、オレはじたばたした。もちろん不破先輩は本気で技をかけてるわけじゃないんだけど、体格のいい先輩は力も強くって、遊びでもけっこう苦しいのだ。
「先輩、ギブ!ギブ!」
ばしばしっと先輩の背中をたたくと、すぐに首が解放された。
「オレ、ラストでした?」
「いや、レギュラーはオレと日渡しかまだきとらん。あとは一年だけや」
「うわ、非道ー。先輩のうそつきっ」
「だいじょーぶ!あとで大和にも技かけとくから」
大和というのは、オレと同じ二年のレギュラーだ。
うわさをすれば何とやらって感じで、そこへちょうど大和がやってきた。
「おー大和ぉ!」
にやりと笑って不破先輩は大和のほうへ寄っていった。すぐに「うわぁっ」という大和の悲鳴が聞こえてくる。
「試合前にメンバーを疲れさせるなよ」
やれやれと苦笑しながら、ジャージ姿の部長がやってきた。その隣には光。今日も光は不機嫌そうな顔だ。黒っぽいスーツのボタンをかっちり留めて着ていて、色合い的にもまさに悪魔って感じだ。
「このくらい、ウォーミングアップやて」
大和の首を抱えたまま不破先輩が笑う。その背後から、最後のレギュラーメンバーの戸田先輩がやってきた。「戸田ぁ」と今度は戸田先輩に飛びかかりそうだった不破先輩を、部長がやんわりとした声で止めた。
「・・・そのへんにしとけ。本当のアップの時間がなくなるぞ。三人とも着替えてこい」
体育館のステージのわきでユニフォームに着替え、上からジャージを羽織ってると、体育館の二階、ギャラリーに見慣れた白衣があった。
(薫だ)
思わず顔がほころんでしまう。
薫はずっとオレを見ていたらしく、オレの視線に気づくと、小さく首を傾げた。
「あれー?薫ちゃんじゃん」
オレの視線の先を追って、大和が言った。
「あぁホントだ、珍しい。あの薫ちゃんが美術室から出てくるなんて」
戸田先輩も薫の姿を確認してつぶやく。
三人でベンチに戻る途中、薫のいるギャラリーの下を通った。
「薫センセー!応援にきてくれたんですかー?」
両手を大きく振って大和が叫ぶ。
答える代わりに薫はにっこりと笑った。そして、オレにだけわかるように、特別な笑顔を見せてくれた。
(えへへ)
それだけで嬉しくなってしまう。
こっそり手を振ってふと前を見ると、遠くから光がにらんでいた。
(やばっ)
これ以上、光に目をつけられたら厄介だ。
慌てて戸田先輩と大和の後を追いかけた。
薫が見てると思うと、ウォーミングアップにも実際の試合にも熱が入った。それだけのせいってわけではないけど、青嵐は順調に勝ち、残すは午後の一試合だけになった。
昼休み、少しでも薫に会いたくって、オレは体育館を出た。
昼前の試合が終わると薫や光、そして他の学校の先生たちはみんな校舎へ移動してしまっていたから。
いつもの場所にいると信じて美術室へ行ったけど、薫はいなかった。もしかして、と保健室ものぞいてみたけど、いなかった。
(あれー?)
どこにいったんだろう。
一応職員室をのぞいたけれど、そこにも薫はいなかった。
「ちぇーっ」
思いっきりがっかりして、オレは体育館への道を戻った。
そこでふと、薫が前に美術室で「時々温室へ行く」といっていたことを思いだした。温室は体育館の近くだし、すぐに行って来れる。
(行ってみよ)
オレは体育館前の道を、植物園へ向けて曲がった。
青嵐の植物園は、こじんまりしているけど、青嵐の校舎のすぐ後ろに森があるせいか、ものすごく広く感じる。温室はその中のちょうど真ん中あたりにある。大きな鳥かごみたいな鉄骨の中には、いつでも花がいっぱい咲いていて、平日のお昼休みなんかはよく学生の憩いの場になっている。だけど、日曜日の今日は、植物園にも、温室にも、人気はなかった。
(ここも・・・違う、か)
温室に入って、一通り中を見回ってからため息をついた。
「どこいったんだろ、薫・・・・・・・・・」
温室の中のベンチにどかっと座り、もう一度ため息をつく。その時、視界の片隅にちらりと黒いものが動いた。
「?」
反射的にその方向を見ると、植物園の奥の方に誰かがいた。真っ黒の長身な影と、対照的な白い姿。
「光と薫?」
温室から出て目を凝らしてみる。
確かにそれは坂崎光と坂崎薫だった。
遠いから何を話しているかはわからないけど、なんとなく、二人が言い争っているように見えた。いや、どっちかというと、光が薫をいじめてるみたいで・・・・・・
(なにやってんだよ、光のヤツっ!)
いくら兄弟とはいえ、薫をいじめるだなんて。
二人を止めよう。
そう思って足を一歩踏み出したとき、ふらっと白い影がよろめいた。それを光が抱きとめ、そして―――――――――
「――――――――っ!!」
オレの視線の先で、光と薫は、キスをしていた。
-TO NEXT-
|