* * *
薫とのお試し期間は2週間ってことになった。
その間、特に何かをするってわけではなく、気が向いたら薫に会いに行って、しゃべって、キスして、別れるっていう毎日だった。薫はたいてい美術室にいるから、オレのほうから出向いていく。
「・・・キス、うまくなりましたね」
本日何度目かのキスをした後、薫が微笑みながら言った。大人の余裕の発言って感じで少々むっとしつつも、ほめられたのはうれしい。まだ触れるだけのキスしかしてないけど。
「今日は部活はいいんですか」
「もうちょっとしたら行く。薫が絵描いてるとこ、もうちょっと見てから」
「麟くんも描いてみますか?」
「あー、駄目駄目。オレ、芸術的センスって持って生まれなかったから。それに、『薫が絵を描いてるとこ』を見るのが好きなんだよ」
くすっと薫が微笑んで、イーゼルのほうを向いた。オレはその背中をぼーっとながめる。
真剣な、まっすぐな瞳でキャンバスに向かう薫。いつもにこにこしている顔からは想像がつかないくらい凛とした表情で、背筋をぴんと伸ばし、筆を動かしていく。最初は真っ白な紙だったところに、少しずつ世界ができあがっていくのを見るのは、まるで魔法みたいでわくわくするのだ。
薫は水彩、油彩、日本画などなど守備範囲が広い。美術選択のヤツに聞いてみたら、薫はどんなジャンルでもそつなくこなすらしい。放課後や休み時間に美術室をのぞくと、薫はたいてい何か画材と向かい合ってる。今日は油絵。キャンバスに描かれているのは、どうやら校舎の近くにある温室らしい。
「・・・ホンモノ見ないでよく描けるなー」
「ここにありますから」
左の人差し指でこめかみをさして薫が言った。
「・・・温室や植物園にはたまに行くんですよ。その時に覚えてくるんです」
「すっげー記憶力!」
四つん這いに地面を這って、薫のすぐとなりまで移動する。
「いーなー。オレもそういう記憶力欲しい」
「完璧に覚えているわけではなくって、イメージで『なんとなく』つかんでるだけです。・・・・・・だから、試験には使えませんよ?」
「あ、バレてる?」
へへへーと笑って、薫の白衣に顔を寄せる。保健医だからというよりも、絵を描くときのエプロン代わりに着てる白衣だから、ちょっと油絵の具の匂いがする。薫の手が、よしよし、とオレの髪をなでた。
オレはすっかり薫を気に入っていた。
キスもうまいし、絵もうまいし。
外見もいいし、中身も最高。
優しくって、おっとりしてて、なごみ系で。一緒にいるとすごく落ちつく。
だからついついヒマがあると薫のところへ来るようになってた。
――――――これが恋愛感情っていうのかわからなかったけど、でも、一緒にいたいと思う気持ちはすごくあるから。
もう少しで薫の提示したお試し期間は終わる。
オレとしては、このまま薫とほのぼのしているのもいいかなって思ってる。
美術室の珍獣。麗しの坂崎薫先生。
その人がまっすぐにオレを見て好きだといってくれる。
それがオレにはとても心地よかった。
-TO NEXT-
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