* * *

 

 

 試合も終わり、薫とのお試し期間も終わり、オレと薫はより親密になった・・・・・・・・・なんていえたらよかったんだけど、実際には、今までと変わらない生活をしていた。薫はいつも美術室で絵を描いていて、オレがそこへ遊びにいって。お茶飲んだりしゃべったりして、タイムリミットがきたら戻って。休日にどこかへ出かけるわけでもなく、ただ、美術室の中での関係。

(それはそれでまったりしてていいんだけど)

 ぽわ〜んとした薫と一緒にいるだけで和むから。部活で光にいじめられても、薫に会えばイライラがおさまるのだ。

「麟くん、お茶がはいりましたよ」

 いい匂いのするカップをふたつもって、薫が美術準備室から出てきた。

「なんの匂い?」

「ライチ紅茶です。昨日、佐山先生から頂いたんですよ」

 佐山先生っていうのは、光と同じ数学の先生だ。旅行が趣味(と薫が言っていた)のおっとりしたおじさんだ。

「佐山先生、またどっかいってきたんだ?」

「佐山先生が、ではなくて、お友達が、みたいですよ。中国のおみやげだそうです」

 なぜその佐山先生のおみやげが薫の手元にあるのかというと。

 佐山先生は同じ数学科の光におみやげをよくくれるのだ。それがものによっては光から薫に渡ってくる。

「光はあまり紅茶は飲まないんですよ。コーヒーばかりで」

「・・・そんなカンジする」

 着てる服も、飲み物も、黒。まさにあいつのダークな性格を表してる。

 熱いカップに口を付けると、甘い香りが鼻に飛び込んできた。

「・・・うまい」

「よかった」

 にこっと笑って薫はイーゼルの前に座ろうとした。その瞬間、ふらっと薫の身体が揺れた。

「薫!?」

 近くのテーブルにカップをおいて、あわてて薫の身体を支えた。薫は額に手をあてて小さく首を振った。

「どうしたんだよ?・・・・・・なんか、顔色悪いぞ」

 色白な顔が、少し青ざめて見えた。

「・・・・・・なんでもないです。ちょっとふらっとしただけ」

 薫の身体を支えて椅子に座らせると、薫は申し訳なさそうにオレを見上げて微笑んだ。

「体力なくって、たまにふらついちゃうんです。光にもよく怒られるんですよ」

「薫、細いもん。ちゃんとメシ食ってる?」

「――――――――」

 ごめんなさい、と薫がオレの胸に顔を寄せた。オレはその肩をそっと抱いて、薫の髪を指にくるくるとまきつけた。しなやかな薫の髪は、指にからめてもすぐにほどけて流れていく。

「・・・そういえば、ここのとこ、薫、なんか元気なかったよなー。体調悪い?それともなんか心配事とか・・・・・・・・・」

「・・・・・・たぶん・・・最近暑くなってきたから、夏バテかなって・・・」

「夏バテ!?」

 って、ついこの前、6月に入ったところなのに!?

「早すぎー!」

 思わず笑ってしまったら、薫も苦笑した。

「本当に・・・・・・夏に向けて、もう少し体力つけておかないといけないですね」

「そうだよ。そうじゃないと、オレ、心配するからな!」

 その時、オレは薫の言うことを信じて、薫の体調不良は本当に夏バテなんだと思ってた。

 数日後、学内で薫が倒れるまでは―――――――――

 

 

 

 

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