現代俳句アンソロジー
,,,,,,,,,,ed by suzuki shigeo



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(@なハイクを求めて、随時更新中です)


『無形を視る秀句』  『新・無形を視る秀句』
『海の見える俳句』 『Midnight Owl(梟俳句)』

選は批評、という考えがある。当初、このアンソロジーは、わたしが感動した
作品を採り上げ、感動した俳句について語りたいと思った作品のリストの積り
で並べていたものである。(ひと昔前なら、筆写していたものだ)だが、WEB上
に掲載する以上、これを採り上げるならあれも、あれを入れるならこれもと収
集しているうちに、いつしか教科書的配慮をすることになり、俳句史上よく取り
沙汰される作品や人口に膾炙した俳句なども収める結果となってしまったが、
いまではこの形もまたわるくないと自負するようになった。俳句表現史としての
鳥瞰図的役割を担ってくれたらいいと思うことにしたからである。ただその一方
で、このアンソロジーを編んだ者として、わたしの志向する俳句を知って欲しい
という思いがある。わたしの意中の俳句とこれから執筆予定の作品を太字
示した所以である。 ,ただし、2003/8/9現在、太字表示の箇所は作業中です)
                                         by鈴木
















目 次
(年代順)

(五十音順)はこちらから


    高浜虚子(1874-1959)  河東碧梧桐 (1873-1937)  芥川龍之介 (1892-1927)

    松瀬青々 (1869-1937)  村上鬼城 (1865-1938)  臼田亜浪 (1879-1951)

    鈴木花蓑(1881-1942)  内田慕情 (1881-1946)   渡辺水巴 (1882-1946)

    飯田蛇笏(1885-1962)  前田普羅 (1884-1954)   原石鼎 (1886-1951)

    林原耒井(1887-1975)  大橋裸木 (1890-1933)  杉田久女(1890-1946)

    水原秋桜子(1892-1981)  島村元 (1893-1923)   高野素十(1893-1976)

     西島麦南 (1895-1979)  相生垣瓜人(1898-1985)   阿波野青畝(1899-1992)

     右城暮石 (1899-1995)

    荻原井泉水(1884-1976) 中塚一碧樓 (1887-1946) 種田山頭火(1882-1940)

    尾崎放哉(1885-1926)  阿部みどり女 (1886-1980) 長谷川かな女(1887-1969)

    竹下しづの女(1887-1951) 室生犀星(1889-1962)  久保田万太郎(1889-1963)

    富安風生(1885-1979)  松村蒼石 (1887-1982)  山口青邨(1892-1988)

    石原舟月 (1892-1984)  栗林一石路 (1894-1961)

    富田木歩(1897-1923)  五十嵐 播水 (1899-2000) 山口誓子(1901-94)

    日野草城(1901-56)    中村草田男(1901-83)   滝春一(1901-96)

    中村汀女(1900-88)    海藤抱壺 (1902-40)

    橋本夢道 (1903-1974)  星野立子 (1903-84)    川端茅舎 (1897-1941)

    後藤夜半(1895-1976   長谷川双魚 (1897-1987)  篠田悌二郎 (1899-1986)

    及川貞 (1899-1993)    吉屋信子 (1898−1973)  三橋鷹女 (1899-1972)

    橋本多佳子(1899-1963) 横山白虹 (1899-1983)   西東三鬼(1900-62)

    三好達治(1900-64)    永田耕衣 (1900-97)    高篤三 (1901-45)

    秋元不死男 (1901-77)  阪口涯子(1901-1989)  富澤赤黄男 (1902-62)

    皆吉爽雨 (1902-83)

    芝不器男 (1903-30)   橋關ホ(1903-92)      大野林火 (1904-82)

    永井龍男(1904−90)   井上白文地 (1904-?)    百合山羽公(1904-91)

     加藤楸邨 (1905-93)  福田蓼汀 (1905-88)

    平畑静塔 (1905-1997)  篠原鳳作(1905-36)     松本たかし(1906-56)

    石塚友二 (1906-1986)  山口波津女 (1906-1985)  鈴木真砂女 (1906-)

    細谷源二 (1906-1970)  高橋馬相 (1907-1946)   細見綾子(1907-97)

    橋本鶏二 (1907-1990)  谷野予志 (1907-)     中川宋淵 (1907-84)

     安住敦 (1907-88)    赤城さかえ(1908-1967)  京極杞陽(1908-81)

    相馬遷子 (1908-76)   藤後左右(1908-91)    喜多青子(1909-1935)

    石橋辰之助 (1909-48)  石川桂郎 (1909-75)    加藤知世子 (1909-1986)

    高屋窓秋 (1910-99)   篠原梵 (1910-74)     下村槐太(1910-66)

    有馬籌子(1910-)

    神生彩史 (1911-1966)  藤木清子 (生没年未詳)   能村登四郎(1911-)

    清水径子 (1911-)     三谷昭 (1911-1978)     片山桃史 (1912-44)

    火渡周平 (1912-)

    石田波郷(1913-69)    渡辺白泉 (1913-69)    古沢太穂 (1913-2000)

    中村苑子(1913-2001)  後藤綾子 (1913-94)

    木下夕爾(1914-65)    阿部青鞋(1914-89)

    中尾寿美子(1914-89)  斎藤玄(1914-80)

    桂信子(1914-)      田川飛旅子 (1914-)    吉野義子 (1915-)

    堀葦男 (1916-93)    香西照雄 (1917-87)

     野見山朱鳥 (1917-70) 後藤比奈夫 (1917-)    角川源義 (1917-1975)

    永田耕一郎 (1918-)   岸田稚魚 (1918-88)    島津亮 (1918-2000)

    上野泰 (1918-73)    原子公平 (1919-)

    澤木欣一 (1919-)     森澄雄(1919-)        金子兜太(1919-)

    佐藤鬼房 (1919-)    鈴木六林男 (1919-)    安東次男 (1919-)

    石原八束(1919-98)    野澤節子(1920-95)     津田清子 (1920-)

    草間時彦(1920-)     飯田龍太(1920-)      三橋敏雄(1920-)

    眞鍋呉夫 (1920-)     伊丹三樹彦(1920-)    飯島晴子(1921-2000)

    清崎敏郎 (1922-99)    楠本憲吉 (1922-1988)   塚本邦雄(1922-)

    小川双々子 (1922-)    村越化石 (1922-)     三浦秋葉 (1922-)

    寺井文子 (1923-)     和田悟朗 (1923-)     深見けん二 (1923- )

    神尾久美子 (1923-)    北光星 (1923-)       高柳重信(1923-83)

    波多野爽波 (1923-)    鷲谷七菜子(1923-)    八木三日女 (1924-)

    林田紀音夫(1924-98)  森田峠 (1924-)        赤尾兜子 (1925-81)

     寺田京子 (1925-76)   加藤三七子 (1925-2005)  津根元 潮 (1925-)

    橋本美代子(1925-)    針呆介(1925-)       岡井省二(1925-)

    宇佐美魚目(1926-)    澁谷道 (1926-)       藤田湘子 (1926-)

    飴山實 (1926-2000)

    金子明彦 (1927-)     川崎展宏 (1927-)     福田甲子雄(1927-)

    津沢マサ子(1927-)   佐伯昭市 (1927-)      沼尻巳津子(1927-)

     岡本眸 (1928-)      阿部完市(1928-)     柿本多映 (1928-)

     本宮鼎三 (1928-)     たむらちせい (1928-)   穴井太 (1926-97)

    加藤郁乎(1929-)     宮津昭彦 (1929-)     青柳志解樹 (1929- )

    広瀬直人 (1929-)     綾部仁喜 (1929-)      宗田安正 (1930-)

    原裕 (1930-)        鷹羽狩行(1930-)      河原枇杷男(1930-)

    有馬朗人 (1930-)      稲畑汀子(1931-)      角光雄 (1931-)

    寺田澄史 (1931-)     平井照敏(1931-)      大井雅人 (1931-)

     大牧広 (1931-)       山上樹実雄 (1931-)    辻田克巳 (1931-)

     田邊香代子 (1931-)    宇咲冬男 (1931-)      鍵和田禾由(1932-)

     馬場駿吉 (1932-)

     竹本健司 (1933-)

    上田五千石 (1933-97)   桑原三郎 (1933-)      折笠美秋 (1934-90)

    友岡子郷 (1934-)     八染藍子 (1934-)     山本洋子 (1934-)

    岸本マチ子 (1934-)    高橋悦男 (1934-)

     佃悦夫 (1934-)       寺山修司(1935-83)

    伊藤通明 (1935-)     宇多喜代子 (1935-)    矢島渚男 (1935-)

    土生重次 (1935-)     阿部静雄 (1935-)     池田澄子(1936-)

    安井浩司(1936-)     中嶋秀子 (1936-)     岩淵喜代子 (1936- )

    大岡頌司 (1937-)      落合水尾 (1937-)     栗田やすし (1937- )

    大串章 (1937-)      高橋睦郎 (1937-)      檜紀代(1937-)

    福永耕二 (1938-80)    雨宮きぬよ (1938-)    豊口陽子 (1938-)

    黒田杏子(1938-)      斎藤慎爾(1939-)     茨木和生 (1939-)

    倉田紘文(1940-)      新出朝子 (1941-)    大木あまり(1941-)

    正木浩一 (1942-92)    角川春樹(1942-)

    徳弘純 (1943-)       鳴戸奈菜 (1943-)      坪内稔典(1944-)

    寺井谷子 (1944-)      行方克巳 (1944-)

    辻桃子(1945-)       攝津幸彦 (1947-96)   大庭紫逢(1947-)

    西川徹郎 (1947-)      千葉皓史 (1947-)     高野ムツオ (1947-)

    あざ蓉子 (1947-)      金田咲子 (1948-)

    西村和子(1948-)      保坂敏子 (1948-)      吉藤春美 (1948-)

    大井恒行 (1948-)      小澤克巳 (1949-)      仁平勝 (1949-)

    大西泰世(1949-)      久保純夫 (1949-)      能村研三 (1949-)

     竹内一犀 (1949-)

    江里昭彦(1950-)     今井聖 (1950-)        秋尾敏 (1950-)

    猫髭 (1950)        鈴木茂雄 (1950-)      奧坂まや(1950-)

    中原道夫 (1951-)     高澤晶子(1951-)     藤原月彦(1952-)

    正木ゆう子(1952-)    片山由美子 (1952-)   大屋達治(1952-)

    馬場龍吉 (1952- )     鎌倉佐弓(1953-)      中西夕紀(1953-)

    永末恵子 (1954-)      長谷川櫂(1954-)      米元ひとみ(1954-)

    夏石番矢 (1955-)     大内史現 (1955-)     久保山敦子 (1955-)

     小澤實 (1956-)       夏井いつき (1957-)

    四ツ谷龍 (1958-)     松本恭子 (1958-)      石田郷子 (1958-)

     浦川聡子 (1958-)      田中裕明 (1959-)

     金子敦 (1959-)       藺草慶子 (1959-)      櫂未知子(1960-)

     岸本尚毅 (1961-)

     上田日差子(1961-)    小川軽舟(1961-)     上島顕司 (1961-)

     皆吉司 (1962-)      仙田洋子(1962-)      土肥あき子 (1963- )

     黛まどか(1965-)     五島高資(1968-)      塩見恵介 (1971- )

     きっこ (1972-)      如月真奈 (1975-)

     大高翔 (1977-)









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   相生垣瓜人 青柳志解樹 赤尾兜子 赤城さかえ 秋元不死男 秋尾敏 芥川龍之介 

     あざ蓉子 安住敦 穴井太 阿部完市 阿部青鞋 阿部静雄 阿部みどり女 雨宮きぬよ

     飴山實 綾部仁喜 新出朝子 有馬籌子 有馬朗人 阿波野青畝 安東次男

     飯島晴子 飯田蛇笏 飯田龍太 五十嵐 播水 藺草慶子 池田澄子

     石川桂郎 石田郷子 石田波郷 石塚友二 石橋辰之助 石原舟月 石原八束 伊丹三樹彦

     稲畑汀子 井上白文地 茨木和生 今井聖 伊藤通明 岩淵喜代子

     上島顕司 上田五千石 上田日差子 上野泰 宇咲冬男 宇多喜代子 宇佐美魚目 右城暮石

     臼田亜浪 内田慕情 浦川聡子

     江里昭彦 及川貞 大井雅人 大井恒行 大内史現  大岡頌司 大串章 大木あまり

     大高翔 大西泰世 大野林火 大橋裸木 大屋達治 大庭紫逢 岡井省二

     岡本眸 奧坂まや 小川軽舟 小川双々子 小澤克巳 小澤實  荻原井泉水 尾崎放哉 

     落合水尾 折笠美秋

  か 櫂未知子 海藤抱壺 香西照雄 柿本多映 鍵和田禾由 片山桃史 片山由美子

     桂信子 加藤郁乎 加藤楸邨 加藤知世子 加藤三七子

     角川源義 角川春樹 鎌倉佐弓  神生彩史 金田咲子 金子明彦 金子敦 金子兜太

     神尾久美子 川崎展宏 河原枇杷男 川端茅舎 河東碧梧桐

     岸田稚魚  岸本尚毅 岸本マチ子 北光星 喜多青子 如月真奈 きっこ 木下夕爾 京極杞陽

     清崎敏郎

     草間時彦 楠本憲吉 久保純夫 久保田万太郎 久保山敦子 栗田あつし 栗林一石路 

     黒田杏子 桑原三郎

     高篤三 五島高資 後藤綾子 後藤比奈夫 後藤夜半

  さ 西東三鬼 斎藤慎爾 斎藤玄  佐伯昭市 阪口涯子 佐藤鬼房  澤木欣一

     塩見恵介 篠田悌二郎 篠原鳳作 篠原梵 芝不器男 澁谷道 島津亮 島村元

      清水径子 下村槐太

     杉田久女 鈴木茂雄 鈴木花蓑 鈴木真砂女 鈴木六林男 角光雄 攝津幸彦 仙田洋子

     宗田安正 相馬遷子

  た 高澤晶子 鷹羽狩行 高橋悦男 高橋馬相 高橋睦郎 高浜虚子 高野素十 高野ムツオ

     高柳重信 高屋窓秋 田川飛旅子 滝春一 竹内一犀 竹下しづの女  竹本健司 田中裕明

     田邊香代子 谷野予志

      種田山頭火 千葉皓史 塚本邦雄 佃悦夫 津沢マサ子 辻桃子 辻田克巳 津田清子

     たむらちせい 津根元 潮 坪内稔典 寺井谷子 寺田澄史   寺田京子 寺井文子 寺山修司

     藤後左右 徳弘純 土肥あき子 富澤赤黄男 富田木歩 富安風生 友岡子郷 豊口陽子

  な 永井龍男 中尾寿美子 永末恵子 永田耕衣 永田耕一郎 中川宋淵 中嶋秀子 中塚一碧樓

     中原道夫 中西夕紀 中村草田男 中村苑子 中村汀女 夏井いつき 夏石番矢  鳴戸奈菜

     行方克巳

     西川徹郎 西島麦南 西村和子 仁平勝 沼尻巳津子 猫髭

     能村登四郎 野澤節子 野見山朱鳥 能村研三

  は 橋關ホ 橋本鶏二 橋本多佳子 橋本美代子 橋本夢道 長谷川櫂 長谷川かな女 

     長谷川双魚 波多野爽波 土生重次 馬場駿吉 馬場龍吉 針呆介 林田紀音夫

     林原耒井 原石鼎

     原裕 原子公平 日野草城 檜紀代 平井照敏 平畑静塔 広瀬直人 火渡周平

     深見けん二 福田甲子雄 福田蓼汀 福永耕二 藤木清子 藤田湘子  藤原月彦 

     古沢太穂 

     保坂敏子 星野立子  細谷源二 細見綾子 堀葦男

  ま 前田普羅  正木浩一 正木ゆう子 松村蒼石 松瀬青々 松本恭子 松本たかし 眞鍋呉夫

      黛まどか

     水原秋桜子 三橋鷹女 三橋敏雄 皆吉爽雨 皆吉司 三浦秋葉 三谷昭 三好達治

     宮津昭彦

     村上鬼城 村越化石 室生犀星  本宮鼎三 森澄雄 森田峠

  や 八木三日女 矢島渚男 安井浩司 八染藍子 山上樹実雄 山口青邨 山口誓子 山口波津女

     山本洋子 百合山羽公 横山きっこ 横山白虹 吉野義子 吉藤春美 吉屋信子 四ツ谷龍

      米元ひとみ

  ら

  わ 鷲谷七菜子 和田悟朗 渡辺水巴 渡辺白泉


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 高浜虚子(1874-1959)

遠山に日の当りたる枯野かな
桐一葉日当りながら落ちにけり
金亀子擲つ闇の深さかな
年を以て巨人としたり歩み去る
大空に又わき出でし小鳥かな
蛇逃げて我を見し眼の草に残る
白牡丹といふといへども紅ほのか
大空に伸び傾ける冬木かな
流れ行く大根の葉の早さかな
石ころも露けきものの一つかな
春の浜大いなる輪が画いてある
襟巻の狐の顔は別にあり
凍蝶の己が魂追うて飛ぶ
大空に羽根の白妙とどまれり
この庭の遅日の石のいつまでも
たとふれば独楽のはじける如くなり
旗のごとなびく冬日をふとみたり
秋風や心の中の幾山河
もの置けばそこに生れぬ秋の蔭
初蝶を夢の如くに見失ふ
手鞠唄かなしきことをうつくしく
大寒の埃の如く人死ぬる
水打てば夏蝶そこに生まれけり
秋風や心激して口吃る
北風に人細り行き曲り消え
大根を水くしやくしやにして洗ふ
天地の間にほろと時雨かな
句を玉と暖めてをる炬燵かな
我生の今日の昼寝も一大事
爛々と昼の星見え菌生え
彼一語我一語秋深みかも
去年今年貫く棒の如きもの
ゆらぎ見ゆ百の椿が三百に
一切を抛擲し去り大昼寝
蜘蛛に生れ網をかけねばならぬかな
箒木に影といふものありにけり


 河東碧梧桐 (1873-1937)

赤い椿白い椿と落ちにけり
空をはさむ蟹死にをるや雲の峰
から松は淋しき木なり赤蜻蛉
この道の富士になりゆく芒かな
曳かれる牛が辻でずつと見廻した秋空だ


 正岡子規(1867-1903)

あたゝかな雨が降るなり枯葎
行く秋をすつくと鹿の立ちにけり
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺
砂の如き雲流れ行く朝の秋
いくたびも雪の深さを尋ねけり
この頃の蕣藍に定まりぬ
鶏頭の十四五本もありぬべし
をととひのへちまの水も取らざき


  内藤鳴雪 (1847-1926)

夏山の大木倒す谺かな
初冬の竹緑なり詩仙堂


 夏目漱石 (1867-1916)

叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉
永き日や欠伸うつして別れ行く
凩や海に夕日を吹き落す
秋の川真白な石を拾ひけり
わが影の吹かれて長き枯野かな
腸に春滴るや粥の味
秋風や屠られに行く牛の尻


 芥川龍之介 (1892-1927)

蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな
木がらしや東京の日のありどころ
癆咳の顔美しや冬帽子
木がらしや目刺にのこる海の色
水洟や鼻の先だけ暮れ残る
元日や手を洗ひをる夕ごころ
兎も片耳垂るる大暑かな
青蛙おのれもペンキぬりたてか
胸中の凩咳となりにけり


 松瀬青々 (1869-1937)

日盛りに蝶のふれ合ふ音すなり
夕立は貧しき町を洗ひ去る
女房のふところ恋ひし春の暮
桃の花を満面に見る女かな
暁や北斗を浸す春の潮
我が骨のゆるぶ音する蒲団かな
俎や青菜で拭ふ烏賊の墨
山に花海には鯛のふゞくかな


 村上鬼城(1865-1938)

生きかはり死にかはりして打つ田かな
川底に蝌蚪の大国ありにけり
ゆさゆさと大枝ゆるる桜かな
念力のゆるめば死ぬる大暑かな
水すまし水に跳て水鉄の如し
秋の暮水のやうなる酒二合
月さして一ト間の家でありにけり
冬の日や前に塞がる己が影
鷹のつらきびしく老いて哀れなり
冬蜂の死に所なく歩きけり


 臼田亜浪 (1879-1951)

えにしだの夕べは白き別れかな
かつこうや何処までゆかば人に逢はむ
寒雷や肋骨のごと障子ある
向日葵の大き一つは日に反く


 鈴木花蓑(1881-1942)

大いなる春日の翼垂れてあり


 内田慕情 (1881-1946)

腔のおとカオと仆れしラガー起つ
飛板を蹠かむとき風満ちぬ
太陽と正し鼻梁と陰隆く


 渡辺水巴(1882-1946)

冬山やどこまで登る郵便夫
天渺々笑ひたくなりし花野かな
白日は我が霊なりし落葉かな
さざ波は立春の譜をひろげたり
てのひらに落花とまらぬ月夜かな
かたまつて薄き光の菫かな
月光にぶつかつて行く山路かな
一筋の秋風なりし蚊遣香


 飯田蛇笏(1885-1962)

鈴おとのかすかにひびく日傘かな
くれなゐのこころの闇の冬日かな
炉ほとりの甕に澄む日や十二月
古き世の火の色うごく野焼かな
竈火赫とただ秋風の妻を見る
芋の露連山影を正しうす
たましひのしづかにうつる菊見かな
山国の虚空日わたる冬至かな
雪晴れてわが冬帽の蒼さかな
死病得て爪うつくしき火桶かな
落葉ふんでひと道念を全うす
流燈や一つにはかにさかのぼる
極寒の塵もとどめず岩ぶすま
死骸や秋風かよふ鼻の穴
たましひのたとへば秋のほたる哉
ひたひたと寒九の水や廚甕
をりとりてはらりとおもきすすきかな
わらんべの溺るるばかり初湯かな
秋たつや川瀬にまじる風の音
くろがねの秋の風鈴鳴りにけり
死火山の膚つめたくて草いちご
大つぶの寒卵おく襤褸の上
雪山を匐ひまわりゐる谺かな
秋鶏が見てゐる陶の卵かな
夏雲群るるこの峡中に死ぬるかな
夏真昼死は半眼に人をみる
高浪にかくるる秋のつばめかな
冬滝のきけば相つぐこだまかな
冷やかに人住める地の起伏あり
いわし雲大いなる瀬をさかのぼる
戦死報秋の日くれてきたりけり
降る雪や玉のごとくにランプ拭く
春めきてものの果てなる空の色
炎天を槍のごとくに涼気すぐ
冬川に出て何を見る人の妻
薔薇園一夫多妻の場を思ふ
大揚羽娑婆天国を翔けめぐる
いち早く日暮るる蝉の鳴きにけり
誰彼もあらず一天自尊の秋


 前田普羅 (1884-1954)

春更けて諸鳥啼くや雲の上
春尽きて山みな甲斐に走りけり
春雪の暫く降るや海の上
雪解川名山けづる響かな 
人殺す我かも知らず飛ぶ蛍
新涼や豆腐驚く唐辛子
立山のかぶさる町や水を打つ
茅枯れてみづがき山は蒼天に入る
霜つよし蓮華とひらく八ヶ嶽
駒ケ岳凍てて巌を落しけり
奧白根かの世の雪をかがやかす
秋風の吹きくる方に帰るなり


 原石鼎(1886-1951)

頂上や殊に野菊の吹かれ居り
風呂の戸にせまりて谷の朧かな
谷杉の紺折り畳む霞かな
高々と蝶こゆる谷の深さかな
花影婆娑と踏むべくありぬ岨の月
山の色釣り上げし鮎に動くかな
蔓踏んで一山の露動きけり
かなしさはひともしごろの雪山家
病める母の障子の外の枯野かな
秋風や模様のちがふ皿二つ
けさ秋の一帆生みぬ中の海
短日の梢微塵にくれにけり
秋蝶の驚きやすきつばさかな
雪に来て見事な鳥のだまり居る
春の水岸へ岸へと夕かな
晴天や白き五弁の梨の花


 林原耒井(1887-1975)

片隅で椿が梅を感じてゐる


 松村蒼石 (1887-1982)

たわたわと薄氷に乗る鴨の脚
明易くひそひそと田へ人の寄る
声のなき雁人をおほひ去る


 大橋裸木 (1890-1933)

陽へ病む


 杉田久女(1890-1946)

花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ
朝顔や濁り初めたる