劇伴日記 

 ◆◆◆某TV番組・劇伴作成のメモ◆◆◆ 

  2003年7月〜12月(第一部)
●その1「話し半分が基本
●その2「
好奇心の果てに
●その3「
散財のプロローグ
●その4「
…リローデッド
●その5「
ショート寸前!
●その6「
弐号機作成計画
●その7「
弐号機作成計画2
●その8「
シナリオが届いた
●その9「
宿題が間に合わない
●その10「
タイトロープ
●その11「
50:50
●その12「
あぁ、絶対音感
●その13「
ノープロブレム?
●その14「
24時間、戦いますか?
●その15「
おそらく、いちばん長い一日
 
   
  2004年1月〜2月(延長戦編)
●その16「延長戦の始まり
●その17「…三歩進めず、二歩(更に)下がる
●その18「
意外な結末


 何の前触れもなく今年の夏頃に、数年前関わっていた作品の『続編を制作するかもしれない』という不確定な企画が舞い込み、自宅作業場のシステムを本格的に再起動することになりました。詳細については
劇伴日記というコーナーを設けましたので、そちらを参照下さい。なお劇伴日記は”日々の雑記”とは趣旨が異なり一応リアルタイム更新を心掛けますが、その時々の状況に左右されますので不定期更新を原則とします。(ネタがあれば即更新ということで)
 ※劇伴日記では、基本的に”私”を含め、特定の人物や団体、企業名を含む固有名詞などの実名による表記を極力避けることにしました。(Googleなどの検索エンジンでのヒットにより、各関連等の方々に迷惑が掛かるのを避けるためです。)いろいろと不鮮明な点も多々あるとは思いますが、ご容赦下さい。それと、企画が完璧に流れると思っていたので、元々公開する予定の無かった個人的にメモに基づいて記載してあります。(日付などはリアルタイムです)    
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 2004年2月16日(晴れ)
  ●その18「意外な結末」
 DVDソフト販売促進を目的とした”アキバ”でのイベントが中止となったことをディレクターからの連絡で知った。綱渡り状態でミックスを進めてきたが、取りあえず現段階での作業は中止しても問題はないだろう。正直なところアクシデントが重なりすぎで気持が乗らなかったのは否めない。やはり個人で全てを賄うには時間が無さ過ぎるというのが今システム導入の反省点だ。マニュアルの解読だけでも相当なストレスだが、試行錯誤しなければ確認出来ないことが余りに多すぎた。
 …そもそも何故フル・デジタル化に固執してきたのか?今回はそのあたりを掘り下げてみようと思う。
 このシリーズの劇伴はPCM関連(16ビット演算のデジタル機器)のシンセをメインにプログラムを実践していて、ラインで出力する後は全てアナログという非合理的な環境での作成という背景があった。一部ではアナログ・シンセも使っていたが、モデリング・タイプの機種が登場してからは、アナログ回路のオリジナル・マシーンは使用していない。アナログ関連の機器は音圧は稼げるモノの回路的に理不尽なノイズを増幅(放出)するデメリットがあり、アナログミキサーに接続しただけでもやっかいな異音を供給してくれる。ノイズ・レスというのが当時からのレコーディング時における理想であり、現行システムに拘ったのもあくまで個人的なストレスの除去というのが目的だったように思う。(要約するならCDデッキをMDデッキにステレオ(赤白)ケーブルでのみ接続しているのが旧システムの実情)実際、当時のPCMシンセは本体がデジタルでも出力はアナログしか存在しなかったので仕方ないと言えばソレまでだが、好奇心の代償が高く付いたことは以前の項目を参照して頂ければ理解出来るかと思う。
 約半年程度関わった新作のレコーディングもコレで終了となり、再びモチベーションを失うことになった。アンビエントの研究も進めたいが、どうもイーノ見たいな音楽と”チルアウト”は根本的に違うようなので、抜本的な軌道修正が必要だろうか?
                                                           2004年 4月 12日

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2004年1月29日(晴れ/曇り)
  ●その17「…三歩進めず、二歩(更に)下がる」
 ディレクターよりDATに収めた素材が予想以上に早く到着した。後はミックス・ダウンに着手するだけなのだが、幾つか問題が発生した。ひとつは通称”魔法の箱”と呼ばれる虎の子のマスターリング専用機が故障したことだ。プロのエンジニアやスタジオで施される技術の一つに”音圧の向上”が上げられる。専門的な話しで恐縮だが、デジタル・アナログに関わらずステレオミックスした信号を各種録音機器で”録音”又は”記憶”させると、レベル(音の大きさ)の違いという壁に先ずぶつかる。小さいのならソースを大きくすれば良いのではと思われるかも知れないが、ボリュームを上げれば上・下限の振り幅に対し等しく拡大するので、当然クリップして音割れに直結する事になる。(目立たないノイズも拡大する)端的に言うなら、解像度の低い画像データーを元のサイズより大きく表示すると、ドットの荒さが目立ち”みずぼらしく”なる状況と酷似する。所有するマスターリング機材は”コンプレッサー系統”のエフェクターに該当し、高・低のピークを押さえながら全体の音圧を高めるという夢のような機材であり、コンプレッサーにありがちなハイファイ感の損失というデメリットも軽減されたスペックが売りのマシーンだった。しかし、動かなければ”絵に描いた餅”であり、デンマーク産というフットワークの悪さから修理による対応では、今回の締め切りには間に合わない公算が大きい。 
 更なる問題として、現行システムはR社のソフトとデバイス(デジタルミキサー等)をパッケージしたモノを使用しているが、年末にバージョン・アップした同ソフトに、同ハードの対応が不完全という”あり得ない”事態が判明した。システムを導入してから半年も経たない内にこの体たらくには憤りを感じずにはいられない。当然メーカ側に猛抗議したのだが、現在フル対応に向けて鋭意努力中という消極的な解答を得るに止まった。危うくソフトのバージョンアップに高額な投資をするところであり、私はこのR社が大嫌いになった。(バージョンアップには、欲しい機能が多く含まれているだけに腹立たしい)
 更に、更なる問題として……いや、止めておこう。これ以上続けるとモチベーションの低下に歯止めが効かなくなりそうだ。
 …絶望的な断絶。…リアルな現実を本気で受け止める寒い冬の午後だった。(泣)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2004年1月23日(晴れ/曇り)
  ●その16「延長戦の始まり」
 先日ディレクターのHPを閲覧していると、例の番組のソフト化に関する告知が賑わっていた。何にせよ発売に漕ぎ着けたようで何よりだ。来月の中旬にはオタクの聖地と化した”アキバ”で販売イベントを催すらしい。1本でも多くソフトが売れることを願わずにはいられない…しかし、待て‥よって、イベントでは例の”主題歌2003年度バージョン”を流してキャンペーンを行うのではないだろうか?…私の脳裏を掠める苦い記憶。…大した葛藤もなく、余り上手く行かなかったレコーディングを切り上げたのだが聴衆の前で大々的に聴いて頂くには不適切な仕上がりではないだろうか?私は慌てて真偽を確かめるべくディレクターにメールを送ると、やはり使う方向で検討しているとの有難くない解答を得る。メールを送った時点で覚悟を決めていたので、伏せて加工前のボーカルトラックの要求も伝え自身でコンプリートミックスをキャンペーンまでに、完成させなければならない現実を受け止める。コレと言った策は無いが、貧乏な(予算の無い)現場での作業は充分心得ているつもりだ。エフェクト+リ・サンプリングの波状攻撃で何とか試聴レベルまでにはもって行きたい。…しかしながら、納得の行くバージョンに仕上がってもソフトの方には収録されないので、負け戦みたいなモノだな今回も。(泣)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


疲れました…


 ACT.3 不夜城を見つめて

 再び雨が降り出したことに気付いたのは、歌手の二人をロビーまで送り出した時だった。
 
 MA室に戻ると”アフレコ”のために収集されたキャストの方々で、ソコは鮨詰め状態だ。某専門学校の生徒に混じり、本編のレギュラーである参謀や隊員など面識のある方々と久々の再会になったが、私は挨拶もそこそこに効果音の波形編集を再開する。
 ヘッドフォンをする事で外部の情報を遮断するつもりだったが、珍しく厳しい檄が飛ぶディレクターの演出に思わず手が止まってしまった。冒頭のナレーションに関する指示だったが、ダメ出しの応酬に皆の表情は重く、指導を受ける本人の声にも動揺は隠せない。筈か”1分30”秒前後の時間を埋めるために相当な時間を消費したが、和やかな空気を一掃する事で現場に緊張感が生まれ、後の作業は比較的スムーズに進行して行った。もしコレが周到な計算に基づいた上での行動だとしたら、叱責を浴びた方には気の毒だが的確な作戦としか言いようがない。
 アフレコが完了したのは13時40分で、現段階でスケジュールが”1時間40分”ロスしたことになる。スタッフの方に調達して頂いた、遅い昼食を口に運びながら残りの作業を逆算すると、21時前後の終了だけは、絶対にあり得ないことを確信した。

 約1時間の休憩を挟んで、台詞の付いたVTRにBGMの貼り付けを開始する。その間にディレクターの準備した”効果音割付表”に目を通しながら自分の準備したモノの有無を確認する。劇伴がVTRに貼り付いたところで、実際に効果音を録音する準備へと作業は移行。演技というか操作はディレクター自ら行うので、ブースへの指示や判定は私の受け持ちになる。録音は全て、このスタジオで行って来たが、第1話のみバックアップが無いため、今回重複した作業を繰り返す。”コンセントを引き抜く音”や”プラグが外れる音”などシンセで加工が不向きなモノに限って保存されていない。とはいえ、あの1話を録った時は、誰もが続編の可能性を信じていなかったので仕方がないだろう。
 試行錯誤を繰り返した結果、効果音の録音が完了した時点で18時は軽く過ぎてしまった。何となく空腹感はあるものの更に時間をロスする分けにも行かないので、皆ソレを口に出さない。録音した効果音の貼り付けが完了すると、私の準備したサウンドとライブラリーを併用した残りの貼り付けを始める。ディレクターの嗜好は充分理解しているつもりだったが、イマジネーションには誤差がある。例えば光線銃の音などだが、未合成のVTRを見たときのイメージでは”閃光”が標的に向かって伸びる音を想定していたが、合成後の映像は短い”光弾”が無数に交差しており、画面を見る限りディレクターの主張は正しい。万事このような調子で録音と修正を繰り返すが、作品の冒頭で怪獣が登場するせいかディレクターはご機嫌な様子だ。(怪獣の存在が精神安定剤のようで助かる)
 それでも、足音を一歩ずつ各キャラクター毎に貼り付けるのは辛い。幾らデジタルでも長さを個々に調整し、タイムコードに合わせて入力する操作そのものはアナログだ。我々の地道な努力を嘲笑うように”地団駄を踏む描写”など嫌がらせは絶えることが無く続く。
 タイムコードで約10分、大雑把に全体の三分の一が消化した時点でディレクターの大英断が遂に下った。
「このままでは、明日が来ても終わりそうもないので、必要最低限の効果音以外は諦める事にします」皮肉なことに本人が終業時間を想定していた21時30分にその裁定は下った。
 それから約1時間作業を進めて、22時45分に遅過ぎる夕食と成った。もうこの時点で食欲など無いが、何か食べておかないと後々辛そうだ。
 大まかな効果音の貼り付けを完了させると、マスターリングと呼ばれる各音量の調整となる。この時点でエラーを見つけるのだが、ディレクターが自の失敗に激しく落胆していた。登場人物の呼称が統一されていないのだ。シナリオのチェックの時点から漏れていたのかもしれないが、大変な事になった。他の場所から必要な台詞(この場合は固有名詞)を切り貼りして凌ぐ方法もあるが、ニュアンスが狂う恐れがあるし何より不自然だ。ディレクターは暫しの葛藤の末、修正を見送る事を決めた。

 困難は更に続き、本日最大の試練が訪れた。録り忘れたのは、主役ロボットがクライマックスで呼称する、必殺技に関連した省略出来ない台詞だ。ディレクターにオペレーターと私。どう逆立ちしても女性型ロボットの声をカバー出来る筈もない。重い沈黙がしばし続くと、途方に暮れる我々を尻目にディレクターはMA室を慌てて飛び出していった。気が付けば、既に日付は翌日に変わっている。近所にいる知り合いでも強引に呼びつけるのだろうか?市販された1話のVTRからサンプリングする手段などを私なりに模索していると、控え室から眠たげなディレクターのお嬢さんが現れた。「備えあれば憂いなしだろ」ディレクターは、父親から演出家モードに切り替わると、素早く指示を与えて録音の準備を始めた。「保険とまでは行かないけど、自分の身内なら万が一の場合、様々な用途に対応出来ると思ってさ」…親バカ撤回。この用心深さは、伊達に辛酸を舐めていない証と言えよう。

 
「…ターゲット、ロック・オン!」違和感のある明るい声が鬱蒼としたMA室に響いた。流石に子供の声であり、…幼い。しかし贅沢は言っていられない。ディレクターは懸命に指示を繰り返し、どうにか使えそうな台詞を引き出した。


 午前1時過ぎにようやく大まかなトラック・ダウンが完了したが、録りっぱなしで放置されたままの主題歌のマスターリングなどが、まだ残っている。朝の録音時は余り気にならなかったが、改めて聴くとやはり声が両者共に固いようだし、最初の音程が低いパートは歌えていない気がする。中盤になると音程がフィットするのか別人のように歌えていて、その落差が凄くアンバランスだ。結論から言うと、やはり歌手の音域を把握した上で作曲しなければ”悲劇の回避”は難しいという事だろうか。何れにせよ、この主題歌は今回で三度目の改修だったので、次回が仮にあるなら別な曲が望ましいと強く思った。
 いつも思うことだが”歌える人”を上手くコントロール出来ないことは歯痒いし辛いことだ。

 午前2時に、音声に関する最終調整が完了した作品の最終チェックとマスタートラックのダビングを行い、午前3時前に何とか解散撤収となった。24時間とは行かなかったが、往復の移動時間を加えれば、ほぼ1日と言えよう。

 雨は上がったが路面は相変わらず濡れていた。今日が日曜日であるにも関わらず、テレビ局に人影が絶えることは無い。私の車と入れ違いに局に到着した車がいたし、ロケ車らしいワゴンは玄関でアイドリングしたままだ。 

 私は寝静まった世界で”不夜城”のように灯りを灯す社屋を見上げ、長かった一日の終わりをようやく実感した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
ACT.2 策士、策におぼれない(かも)

 …感傷的な気分に浸っている場合ではい。
 脊椎反射のような切り返しで、デジタルの件は忘れることにした。これから始まる大事に比べれば、私的な計画の頓挫など些細な事だ。早速ディレクターに用意して頂いた簡易スピーカーをこちらの卓(ミキサー)に接続し、主題歌フルバーションの再生を試みる。ブースから呼び寄せた二人の歌手には初めて聞かせるので、間奏の場所と2番への入りや、サビのリフレイン等々、細かな指示を与えてレコーディングに備える。両者の表情を見ていると、こちらが考えていたほど緊張していないようで、チョッと拍子抜け。(以外と精神的には逞しいようだ)
 さて、今回はコレまでの重ねてきた失敗から学んだ教訓を元に幾つか作戦を用意してみた。
 1.当日に完璧なリハーサルを追求する事で、声帯を疲弊させない。
 2.プレッシャーになるような空気を現場に持ち込まない。(時間の事は、極力口にしない)
 3.当事者の体調管理には万全を尽くしてもらう。
 端的に言って1と3が満たされていれば、今回の収録に関しては上手く行くような期待があった。この主題歌は音域が万遍なくあり、中域から高域に掛ける声帯への負担はかなりある。そのため当日のリハーサルを執拗に繰り返すと、収録時に声量や音程が不安定になる事もしばしばだ。そのため今回は何度か某専門学校に通う度に練習の方針なども含め、的確な指示を与えたつもりだ。3に関しては最初のレコーディングで体験したことだが、今回と同様に早朝の収録に備えて早起きしたことが徒となり、直後に風邪をひかれたという苦い記憶がある。テレビ番組というのは非情で”放送スケジュール”が最優先事項であり、仕上がりが不味くても作品は期限に収めなければならない。あの日、最悪のコンディションで歌った本人を含め、収録に携わったモノ全てが”砂を噛むような思いで”ダビングを完了させなければならなかった。”歴史は悲劇の繰り返し”などという戯言が脳裏を掠めるが、10周年の記念作で同じ”轍”を踏むわけにはいかない。我々にもささやかながら学習機能はあるのだ。(本当に?)
 
 ところが、8時30分を回ったのに立ち上げに手間取り、定刻通りに収録を始めることは出来なかった。(物理的に必然となる絶対時間)早くも作戦2に関する試練が襲うではないか。仕方ないので簡単なリハーサルを一通り行い繋ぐが、作業は一向に終わりそうもなかった。(…既に私の方がテンパっているし)
 9時を回ってようやく録音開始。リハーサルと異なり収録は個々で進めることになった。最初のパートの方の録音を完了させてから、それに合わせてもう一方が歌うという形式になるが、単純に録音時間は倍掛かる。(30分押しているのに、コレは痛い誤算だが、声量とかも個々に異なるので修正の手間を考えると仕方がない措置だ)テレビバージョンとフルバージョンは分けて納めるが、比較的ミスも少なく順調に録り終える事が出来そうだった。
…が、パートナーの歌手の方から”フルバージョン”の方に関して”ダメ出し”が出てしまった。実はハモリのパートは、音程の関係で主旋律を歌う方が”オクターブ”低く最後をハモるのだが、構成的に最後のリフレインは両者の役割を入れ替えることを直前に私が指定したのだ。二人でハモっている時は、分からなかったが個別に歌うと音程が合っていない。ハモリパートだけ、後でダビングという方針で何度か録り直したが上手く行かない。録音を中断して私もブースに入って簡単なリハーサルを試みるが、両者が間違えずハモれるのは絶望的な確立だ。おまけに最後のパートは音域が高く、録り直しの弊害で懸念していた声帯への負担の兆候も徐々に感じられた。 
 仕方がないのでパートを入れ替える方針は諦めて、当初の予定通りの録音を再開する。2番手の方もミスが少なくて助かるが、声の固さは若干在る。しかし、”音程と歌詞の間違い以外は基本的に目をつぶる”というのがディレクターとの有事の際の取り決めだ。歌い続ければ調子も上がってくるが、同時に声帯は確実に消耗する。贅沢は望めない状況なので、私はレコーディングを切り上げた。時間は10時を少し回っている。予定されていた1時間はほぼ使い切った事になるので、人事は尽くしたことになるだろうか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2003年12月6日(雨)
 ●その15「おそらく、いちばん長い一日」

 
ACT.1 デジタル・レコーディング化計画の挫折…
 セットしたアラームを聞くまでもなく、同日午前5時前に目覚めた。夕べの作業を確認すべくPCに電源を投入し、OSが起動する間に各機材も立ち上げる。ソフトが開くと、レベル調整が粗いサンプルの放つノイズがヘッドホーン越しに頭へ響いた。辺りが暗いのは、日ノ出が遅いだけでない事が微かに響く雨音から連想できた。…やはり雨は降ったようだ。
 確認作業に30分は費やしただろうか?結局のところ、現時点でエラーを確認しても改修する余裕など無いはずだったが、老婆心というか慎重に構えすぎたのが裏目に出たようだ。電源を落とすと素早くシステムを解体して、準備した大型ケースに各種機材を収納し大きめのビニール袋で梱包する。それでも収まらなかったミキサーやサンプラーは、クッションを巻いて別ケースに移して何とか車に搬入。時計を見ると6時近かったので簡単に身支度を済ませ、ナビを某放送局にセットした。土曜の早朝という事を考慮して、一般道からルートを選択。途中コンビニで簡単な朝食を調達し、効果音源関連のCDを再生しながら再びハンドルを握る。路面は僅かに濡れているが車中に積載した機材はどれも衝撃厳禁なので、安全運転厳守を心掛けよう。

 7時半を回った頃にスタジオに到着。受付で手続きを済ませて通行証を受け取る。相変わらず私の実名は読みづらいようなので読み仮名を振っておく事も忘れない。インターホンで私の到着が報告されると、しばらくしてディレクターが重い表情を引きつらせて現れた。眠そうなのはお互い様だが、向こうは無精ひげが放置された事で翳りにもリアリティがあった。
 控え室に機材を運ぶと、ホワイトボードに落書きをする少女を呼び寄せて「うちの娘だよ」とディレクターから紹介された。よく見れば本編の登場人物の一人のようで、役者の有志を拒んでまで使ったディレクターの意外な親バカ振りに少々戸惑った。

 7時45分に総称”MA室”と呼ばれる録音編集スタジオに入り、今朝解体した機材を再び組み上げる。流石に自分でも手慣れた作業となったが、ハード・ディスクの損傷等を含め状況を把握したいので若干焦り気味だ。束ねたコードを抱えていると、最初の録音のためにスタジオ入りした歌手の方々が到着した。私はシステムの稼働に全力投球するため室内の奥にある録音ブースへ彼女たちを案内すると、しばらく待つように告げて作業を再開する。
 オペレーターの方が一段落したようなので、双方のデジタルによる出入力はどのように接続するか尋ねてみると、こちらのシステムを一瞥しながら「…コアキシャルだけか…」と呟いただけで考え込んでしまった。要するに我々のような民生レベルではデジタルと言えば、コアキシャルかオプチカルによる端子をイメージするが、放送用の規格はキャノン(プラグ規格のことで、カメラで有名な企業名とは異なります)が主流であり、当然デジタル・ケーブルもキャノンタイプの端末しか扱わないという事らしい。私は苦渋の選択をし、アナログによる入出力が可能なことを確認すると、赤と白のステレオプラグを自分のデジタルミキサーに接続した。デジタルで作ったデーターをアナログで出力するが、受ける側はデジタルだという何とも不毛な結末に全身の力が抜けそうに成った。良く見ればそのステレオケーブルも何処かにあったビデオデッキから持ち出したようで、黄色の映像端子が繋がれないままぶら下がっている。 

 
半月以上も掛けて試行錯誤を繰り返したデジタル化計画は、この瞬間に音を立てて崩れて行った。(泣)


2003年12月6日地元の某スタジオにて


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 2003年12月5日(晴れ)
  ●その14「24時間、戦いますか?」
 年末と言うこともあり、就業時間内で業務が片付かないため、自由になる時間は日々削られている。明日の録音を考えると気が重いが、あれこれ迷う余裕も無し。ノルマの作業は相変わらず出口が見えないが、手を休めるわけにも行かず効果音の波形編集をひたすら進めるのみ。ラッシュのVを見る限り、絶対に必要なモノから優先順位を決めての作業だが、出来る問題から解いて行く試験と同じで気がつけば空欄ばかりだ。ディレクターから明日の日程をメールで知らされたが、録音が朝の8時半のスタートで、同日21時に解散という日程は、まったく疑わしい。スタジオには弐号機を中心としたデジタル編集機器を持ち込む手筈なのだが、明日は雨という予報なので防水を念頭に梱包をしなければならないようだ。シンセも持参するつもりだったが、コレは諦めなければなるまい。有事に備え”効果音大全集”〜擬音編(ア〜カ)という秘密兵器を購入したが、こいつが全く使えない酷い内容だった。「小さな生き物が吹き飛ばされる感じ」って、どんな感じの音なのだろうと再生してみたら、”ア〜レ〜”って口で言ってるし。…ふざけんなよ、王様レコード!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 2003年11月28日(曇り/雨)
 ●その13「ノープロブレム?」
 何とか1コーラス分のオケをトラックダウンして、定刻までに某専門学校へ到着。今日は歌い手を決定しなければならないので、此方も緊張気味。取りあえず、軽く練習した後に個別に歌を披露してもらう。やはり授業の後のためか、皆さん万遍なく声に疲れがあり判断は微妙になった。結局、私の個人的なレコーディング経験からリスクの小さい方を優先して2名を選ぶことにした。二人の息が合うかは難しいが両者のキャラは全く異なるので、上手く行けば面白い結果が得られるかもしれない。基本的な構成として、交互に歌い”サビ”でハモるというオーソドックスなスタイルを選択し、早速新しいオケに会わせて練習して貰う。声量とかは流石に違うモノの物理的な不具合は卓の方でコントロール出来るし、ハモリも案外それらしく聞こえるので特に問題は無い。来週はいよいよ収録となるので、風邪や喉を痛めないよう体調管理について念を押す。どちらかと言えば、私の作業の遅れ具合の方が問題か?
 19時を回ったところでディレクターと合流し、ラッシュのVTRを受け取る。ロケは災難続きで大変だったことを聞かされたが、今週が撮影だったかと思えば、この選択にはツキがあるようにも思える。しかし初日が曇で2日目が晴れ、最終日が雨と画的な繋がりは大丈夫なのか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2003年11月27日(曇り/晴れ)
 ●その12「あぁ、絶対音感」
 相対音感でしか作曲出来ない立場から言わせて貰えば、いかに日常生活に支障があっても”絶対音感”というのは魅力的なスキルだと思う。というのは、本日の就業時間内で偶発的に主題歌に必要なフレーズが閃いてしまったからであり、ささやかな戦いは、その瞬間から始まっていた。優れた技術を持つ方なら、メモ用紙などに五線譜を仮想しサラりと書き留めたりするのだろうけど、私の場合は頭の中で鳴っているイメージを自宅まで持ち帰り、楽器で音を拾い出すというプロセスを辿らなければならない。その間は会話などの外的な刺激は避け、音階のある情報には極力近づかない等の徹底した警戒が必要だ。如何なる不確定な要素が折角のイメージを上書きしてしまうか予測もつかない。祈るような気持で定刻を持つが、案の定業務トラブルが発生したことで、私の思考の優先順位はそちらの対応で一杯一杯になった。ようやく問題の対処が完了した頃には、すっきりとフレーズの件は消去され”イメージの反芻”は徒労に終わっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 2003年11月21日(晴れ/曇り)
 ●その11「50:50」
 再び某専門学校に向かう事になった。コレというのも郵送に必要な物理的な時間の目算を謝ったからだが、モノは考えようで、受け取り待ちの生徒の方々に会うなら簡単なアドバイス等をしてから退散しようと思う。オケを流しながら譜面のコピーを渡し、ブースの外で4人分のダビング待ち。バンド経験が有るといっていた方にサラっと歌って貰い、後はコピーで曲が流れる度に自主練習というカタチで私はブース外のモニター越しに音を選別。バイク便が無かったことを渋滞に捕まったときは呪ったが、結果的には良かった思う。オケはコレが完成型では無いのでヒントみたいなモノを掴もうかと思ったが、当日は自前の機材も持ち込むので、歌を載せた後のミックスダウン時に物理的な支障が出たらオケの方で修正を施そうと覚悟を決めた。何れにせよ、4人の方々には平等な条件を提示出来たので、後は当日の仕上がり具合で判断するという事になるだろう。何となく清々しい気分で帰れそうだったんだけど、立ち寄った某CDショップの対応が最低だったので”ブチ壊し”に成った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2003年11月18日(晴れ)
 ●その10「タイトロープ」
 夕方に市内にある某専門学校に到着。番組に必要なキャスト等を選考するための訪問だが、主題歌の歌い手も有志を募ったとの事で、私も同行を許可された。主題歌に関しては先回の『バージョン2.0』で大改造を施した経緯があり、オケのリメイクに関しては消極的に成らざるを得ないが、折角の機会なので気持を切り替えようと思う。今回は”デュエット”という方針を自ら打ち出したが上手くコントロール出来るのか自信は皆無。集められた4人の方々に順番に歌って貰うが当然のようにガチガチ。緊張するなという方が無理な話だが、それでも四者四様の個性は見えてきたような気がする。結局、現段階では選べなかったので、実務レベルの仮デモで練習後に改めて歌を披露するという方向で即答は避けた。仮デモが間に合わなかった事が悔やまれるが、その締め切りが今週末なので実質的な作業に割り当てられる時間は”水”・”木”の2日しかない。オーディション後にディレクターとファミレスで録音関連の打ち合わせをしながら、アフレコまでの超タイトなスケジュールとアフレコ当日も相当厳しい状況で有ることを確認し正気を失いそうになった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2003年11月13日(晴れ/曇り)
 ●その9「宿題が間に合わない」
 来週までに主題歌の素案を持参して打ち合わせに臨むことになりそうだ。再来週は撮影らしいのでディレクターの疲労も相当だろうと思われる。アレンジの方は快調とは言えないが、ソフトをコントロールする術を会得しつつあるので、ストレスは日々軽減されつつある。最終的には全てをオーディオ・データーに書き換えてトラックダウンするつもりだが、やっぱり歌手の声質が大きな不安要素なので予断は許されぬ状況に変わりはない。取りあえず放送サイズの1コーラス分を何とかすれば良いわけだが”イントロ”も”エンディング”も必要なので端折れるのは間奏だけ。メディアを用意する事になりそうなので、週末に特価品を買いに行くことにしよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2003年11月4日(晴れ)
 ●その8「シナリオが届いた」
 決定稿と印刷されたシナリオが届いた。驚いたことに、よく集まったなと思うくらいオリジナル関係者ばかりだった。ディレクターの『同窓会モード』と言っていた気分も理解出来る。さて実務レベルで冷静に分析すると、劇伴以上に効果音が引っ掛かった。怪獣、ロボット、防衛軍etcという、特撮番組チックなフォーマットで構成されているため、その手のエフェクト系サウンドが大量に必要となりそうだ。以前使用した”ライブラリー”が何処まで有効か分からないが、今度の打ち合わせで確認しようと思う。なお今回は持ち込みのエンディング曲があるそうで、そっちの試聴もさせてもらう。感想は率直に言って”菊池俊輔”へのオマージュって言うか、そのままじゃん!これ聴いちゃうと、主題歌のアレンジが更に迷うことになりそうだ。まぁ、こちらから摺り合わせる必要はないと思うけどね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2003年11月1日(晴れ)
 ●その7「弐号機作成計画2」
 『軽自動車と普通車、いやそれ以上かもしれません』これはCPUの性能比についてPCショップの店員が語ったモノで、以前楽器屋でも『CPUの処理速度以上に、メーカー毎の性能比というのは侮れない』という見解について語っていた事を思い出した。当初は10万円内で余裕と見積もっていた弐号機だが、最終的にモニター及び入力ツール等を省いたにも関わらず、”旧壱号機”より遙かに高額なマシーンに成ってしまった。共体をキューブにして実現出来たのは省スペースのみ。取りあえず、モニター及びキーボードとトラックボールを2機で共有するために分配機を接続し、RAN回線で両機を通信させるためにルーターも購入してインターネット回線の確保も図った。紆余曲折の末、連休を返上して組上がったマシーンの性能はいかに?期待ではやる気持ちを抑えて、各種ソフトをインストールし専用デバイスを接続する。ようやく振り出しに戻ったわけだが、早速ソフト習得を兼ねて、旧主題歌の打ち込みを再開しようと思う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 2003年10月21日(曇り/雨)
 ●その6「弐号機作成計画」
 USBによるデーター転送を放棄することで、キーボード(鍵盤)からソフトにデーター入力をする見通しが立ったが、万能スペックが売りのシステムは既に赤信号だった。それに加えて、MIDIの再生時にメーカーの見解では”あり得ない”暴走が頻繁に発症するようになった。ウィルスの感染も疑ったが取りあえずPC及びOS等のプログラム内で、ソレは発見出来なかった。メーカーの指示に従い、常駐プログラムの一時的な隔離によってソフトへPCのポテンシャルを最大限にまで開放したが、症状は変わらない。向こうの言い分では、私のPCのスペックなら充分に推奨規定を満たしているモノの、『複雑なデバイスや常駐プログラムのバッティングなどにより、システムを構築するには不適切な環境かもしれない』という随分な見解を弾き出した。言われてみれば、確かにPC自体の不安定さは否定出来ないし、仮にこのソフトのために他のアプリケーションを整理すれば、別の用途に不具合が発生する。コストパフォーマンスを最重視して購入したシステムは、PCの再導入により更なる高額支出を余儀なくされた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2003年10月17日(晴れ)
 ●その5「ショート寸前!」
 サービスを受けられる時間はこちらの勤務時間内であり、土日はサービスの対象外という悪循環に閉口。メールでの対応も、一つの質問の送受信で2〜3日掛かり、解決しないと次週に持ち越しという状況で事態の進展は無し。土日に作曲を進められないと言うのが何より痛かったが、主題歌が旧主題歌の新録という方針は皮肉なことに朗報だ。何もしないと落ち着かないので、昔のシンセを久々に接続する。階層式の小さな液晶ディスプレイを眺めながら、複雑な操作方法を思い出せずにマニュアルを読むが、やはり集中出来ない。完全に煮詰まったので、気分転換を兼ねて編曲のアイディアを練るためのドライブを強行する。アレンジに関しては幾つかアイディアが在るが、歌手の声とかが未確定だけに絞り込みようが無いのも事実だ。それと、達観というより加齢によって嗜好が鈍化したのか、ロック的なサウンドには全く魅力を感じなくなってしまった。音楽も結局はロジックで眺めてはダメなのか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2003年10月9日(晴れ)
 ●その4「…リローデッド」
 例のディレクターから封書が届いた。概ね企画が頓挫した経緯の釈明だろうと読み始めると、年末までの進行表があり12月中旬レコーディング(仮)と記されていた。…正直驚いた、と同時に慌てなければ成らなかった。何故なら本業の仕事が忙しく更新半ばでシステムは立ち上がっていないからだ。やはりモチベーションの不在というのは大きく、締め切りが無いので作業は放置されたままだ。簡単な日程の打ち合わせが済むと、物理的な作業自体はさほど多くは無いことに胸を撫で下ろしつつ、音楽を作る環境が整っていない事態に少々焦り気味。上手く行かないUSBの調整を試行錯誤しながら、最悪の事態に備え、アナログ関連の機材を納戸から自室に運び込む。デジタルに拘らなければ問題は無いが、今更後には引けない。ソフトを購入したメーカーの相談窓口にメールを出しながら再試行を続ける。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2003年9月6日(晴れ/曇り)
 ●その3「散財のプロローグ」
 一月以上は過ぎたものの音沙汰無し。これまでの経験上この企画が流れた事を確信しつつ、それでもシステムの更新は続けなければならなかった。ソフトシンセによる動作の不安定さを解消するためにデジタル・アウトを装備している外国製音源を購入したが、そのサンプリング精度の高さはシステムの中心に置くべき存在に思えた。日進月歩とは言うが、技術の進歩はラックに収められた過去の音源群がただの粗大ゴミであることを告げると同時に、このノイズ・レスなマシーンのスペックを生かすには脱アナログ入力を基本としたシステムを構築する必然があるように思われる。USBを装備した入力用のキーボード(鍵盤)を購入するなど散財は相変わらずなので、新譜のCDなど支出の優先順位を変更し”焼け石に水のような”調整を試みる。さて、このUSBの入力用キーボードなのだが、セッティングが上手く行かない事が発端となり、更なる散財を生む温床と成ることなどこの時点で知るよしもないのだが…

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 2003年8月14日(雨)
  ●その2「好奇心の果てに」
 半月ほど経過したが例によって連絡は無し。こちらから催促するのも何だし、この時期は親会社のイベント番組に向けて、相当タイトなスケジュールが組まれている事が予想された。事が起こるのは月末だろうと思いながらも、同時に欲しい機材の事を考えている自分が悲しい。お盆休みを利用して楽器屋を回りながら、完全なPCベースの環境にするには現状のデバイスでは貧弱すぎるという危機感は募るばかりだ。結局、北区にある楽器屋の店員と相談した結果、一部の機材を一括購入し有事に備えることにした。安い買い物では無かったが、自分の中で”作品のため”だとか正当化する理由をでっち上げ、無駄使いの現実から逃避した。仮に企画が消滅しても、デジタル環境での音楽製作は経済的な損失以外に失うモノは無いと確信している。(そこが一番重要な問題だが…)特にテクノ系列で音を制御するなら必需品と言っても良いかもしれない。好奇心の代償は大きかったが、ソフトと連動するモーターコンソールを眺めるたび”この買い物は無駄ではない”と自分に言い聞かせる事にした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ●その1「話し半分が基本」
 数年前までお世話になっていた、某地方放送局の担当ディレクターより連絡があった。何でも以前関わっていた作品をCSで買い取るに当たり、ソフト化を前提にした交渉が進行中であるとの事。ついでに、その作品が10周年なので新作を1本撮り、年末に放送するという思い切った企画が動いているらしい。正直なところソフト化に関しては、余り感心しなかったが、賛同を前提とした空気を電話越しでも感じたので取りあえず承諾した。仮に拒んだところで、それを望む方々のヒンシュクを買うことは必至であり、私には選ぶ権利など存在する筈もない。新作の製作もスポンサーであるクライアントの意向次第なので微妙なトコだろう。結局「…流れました」何て事態も珍しくないだけに話半分で構えておこうと思う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



INDEX<