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キキョウは特別珍重された。採ってきた花を、ススキをバックに藁で束にする。ススキは縞ススキが最高だ。子どもの作った花束は2銭が相場だったが、縞ススキを使い、キキョウが入れば3銭でも売れる。
ただ、縞ススキは自生したものはない。庭に栽培されたものしかないのである。庭といっても裏山のようなところに一かたまり植わっているので、今思えば「分けて下さい」と頼めば譲ってくれたのではなかろうか。だが、ボクたちの知恵では盗むしかなかった。
ある晩、鎌を持って一人で縞ススキを盗みに行った。
町外れの目星をつけた家の母屋はまだ明かりがついていた。脇の坂になった細い農道を登った。裏手に出ると、もう母屋の明かりは届かず、ほとんど暗闇に近かった。目を凝らして、縞ススキを刈った。ボクのうちは大工だから、刃物はどれもよく切れる。一抱え刈るのにさして時間はかからなかった。左手に縞ススキを抱え、右手に鎌を持って、盗っ人のボクは走って逃げた。何につまづいたのか、坂道で転んだ。
鎌の刃が、右手の親指を切り裂いた。その瞬間は痛くはなかったが、暗闇の中で生ぬるい血が流れるのが分かった。「しまった!」。ボクは縞ススキを投げ捨て、手ぬぐいで親指をぐるぐる巻きにして、走って家に帰った。
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