ときめいて子育てを

2008年版
 

 
                                   
4月
5月
6月
7月
9月
10月
11月
12月
1月
2月
3月
トップへ

 2月14日(土)晴れ
 きょうは作品展に参加するミニ・きりえ展の準備で終日忙しかった。夕方、郵便ポストを開けると、土曜日で手紙を書く暇もなかったのだろう。わずか数通の手紙の中に、よしのり君はじめらいおん組の3人から「きのうはどろけいをやってくれてありがとうございました」と、丁重な礼状が入っていた。

 どろけいは面白かったが、いささか疲れた。
 手紙ごっこで、よしのり君から「どろけいをしてください」と、丁寧なお誘いをもらったのは1月下旬だった。「いいよ。やろうね」といったその場限りの返事を書いたかもしれない。
 「どろけいは27にちにやります」と一方的な通告の手紙を開いたのは、その日の夕方だった。それからしばらくして、またよしのり君から、
 「そつえんするまでに、どろけいができなかったら、どうするんですか」と、催促がきた。
 もう観念するしかない。「13にちのきゅうしょくのあとはどうですか。やらせんせいがいいといったら…」
 「やらせんせいはいいといいました。では、よびにいきます」と、いつもの丁寧語で返事が来た。

 話は違うが、らいおん組のなつきちゃんが家で書いてきた手紙をくれた。「いえでかいたてがみをありがとう」と返事をすると、
 「いえでかいたって、どうしてわかったの?」と聞いてきた。それに、
 「だって、かみのおおきさがちがうし、せんがえんぴつでかいたあったから、わかったよ」と答えると、なつきちゃんの返事は、
 「それってすごいことだよね」と、一行書かれている。
 やりとりの内容は簡単な事柄だが、しかし、この手紙の往復は、文字の力を借りて時間と空間を超えた心の通い合いなのだ。

 さて、給食を終えたらいおん組の子どもたちが迎えにきた。10人余りでアスレチックに集合する。「どうやって泥棒と警官をきめるの?」

 子どもたちは一列に並び、「どろ、けい、どろ、けい…」と両側にはじいて、たちまち組分けが終わった。「牢屋はどこにするの?」「はんとう棒だよ」…もう慣習として決まっているらしい。
 「おじさん、どろだよ」泥棒の子は赤い帽子のままだが、警官になった方は帽子を裏返して白にした。「逃げろッ」。3^4人の警官に追われた。全力で走れば、すぐには追いつかれない。多勢に無勢で包囲されて逮捕された時は、もう心臓が破裂しそうだった。
 「おじさん、思ったより早いね」「そう。意外に早いよ」と女の子がませた口調で言うのを聞きながら、ボクは牢屋の地面に横になる。土の冷たさが汗ばんだ背中に心地よい。
 そのうち屋良先生も給食の片づけが済んで加わり、らいおん組あげてのどろけいがしばらく続いた。年配の助手の先生たちが「大丈夫ですか?」と心配してくれた。「そうだよねえ。還暦を過ぎたらボクも考えることにする」と笑った。
 石原先生も「本当に大丈夫ですか」と言い、事務所の井出さんは「能登さんは、もう!」とあきれていた。確かに、やるとしてもほどほどが肝心だ。つい本気になってしまう。いささか疲れた。恥ずかしながら「どろけい」は初めてやったが、けっこう面白かった。


 2月8日(日)晴れ
 風が強くて、外は寒い。昨日の土曜日は何故か子どもの手紙がほとんどなくて、今日は久し振りに手紙書きのない休日になった。
 手紙ごっこは例年適当な時期に子どもたちの熱が冷めて終りになるのだが、今年は一向に終わりの気配がない。大変といえば大変なので、そろそろ終わりにしようかと、昨日の午後、年長組にいくと、内山先生から子どもたちがどんなに理事長の返事を心待ちしているかということを、こちらが何も言わないうちに話されて、終わりの話はせずじまいに帰ってきた。
 それどころか手紙ごっこがきっかけで、吹っ切れたように元気になった子の話も聞かされた。

 毎日のように届くその子の手紙は、気持がよく書き込まれていて、手紙のやりとりで心が通い合う感じがする。返事も書きやすい。手紙交換が楽しみで、そのへ行くのが今まで以上に楽しくなったようだ。家族もその変化を喜んでくれているらしい。その子の変化はそれだけではない。絵が変わった。「これ見て下さい」と内山先生は、「エルマーのぼうけん」を描いた絵と、鳩の絵の具の絵を見せてくれた。エルマーの方は、りゅうを助けた後、抱き合って別れを惜しむ場面だった。りゅうが太い腕でエルマーをしっかり抱きしめ、その眼は涙をこぼしている。絵の具で描いた鳩は、力強く堂々としていた。描いた子の自信というか、充実感があふれていると思った。こんな成長に手紙ごっこが一役かっているとすれば、自然に終わりが近づくまでは続けるしかないか。
 きりん組のD君も手紙が好きで、多い日は7通も書いた。ただ書き方が雑で、判読に苦しむことが多かった。が、毎日書いていればだんだん上手になる。最後の手紙は「おにのひにきてくれてありがとう」とはっきり書かれていたし、文字も格段に上達しているのが見て取れた。
 これは一例で、書けばきりもなくドラマがある。

 手紙ごっこが始まって、全部で653通の手紙をもらった。一人一日一通の返事を、合計で471通出した。その中の一通のやりとりがちょっとした波紋を広げた。

 ぞう組のゆうが君はボクと仲よしだ。彼はいつも自分のペースで遊ぼうとする。大人を巻き込んで結構楽しく遊べる。反面、友だちに合わせて遊ぶのは苦手かも知れない。手紙ごっこには乗らなかった。でも、みんなが毎日のように返事をもらい、先生が読み上げて喜び合っているのを見ているうちに、自分もやりたくなったのだろう。ある日、手紙を書いた。「おお、来たか」ボクは喜んで返事を出した。後で先生から「返事をもらって、すごく喜んでいました」と報告を聞いた。
 それからしばらくして、また手紙が来た。こんどはビーズ玉を1個入れたビニール袋がついていた。「びいずをあげるから、とくべつにちょこちょうだい」とある。どうしようかと思ったが、それで手紙ごっこに参加できるならいいかと考えて、翌日の手紙に頂き物のチョコレートを一つつけた。「びいずをありがとう。ちょこはこっそりたべてね」。
 すると、ぞう組から手紙と大きな袋が届いた。「ゆうが君だけずるいよ。みんなにもちょこちょうだい」。仕方がないのでコンビニでアーモンドチョコを買って届けた。「ゆうがくんはびいずをくれたから、おかえしにちょこをあげたんだよ。おじさんのちょこをたべたひとは、おかえしのぷれぜんとをください。しゅりけんでも、ばらのはなでもいいよ」。
 最初に、わかなちゃんがきれいな折り紙のサイコロ型の箱を持ってきた。きちんと、きれいに作られている。「ありがとう。おうちにかざるね」。続いて、たくみ君が小さな手裏剣をたくさん持ってきた。これも先端がピッととがった見事な作品だった。たくみ君からもらった手裏剣を届けに来た子も何人かいる。
 事務所を留守にしている間に、ビーズ玉を届けてくれた子もいた。りょう君はバラの花をきれいに折ってくれた。きょうかちゃんは折り紙で作った八角形のふたつきの箱を二つもくれた。最初の写真がそれである。家に持ち帰ったら、「これを子どもが作ったの? ウソでしょう」と家族もびっくりしていた。


 2月3日(火)晴れ
 朝、年長組に手紙を届けに行くと、きりん組の部屋は赤い絵の具で床が真赤だった。見ると、子どもたちの手や足が赤い。子どもたちはすっかり赤おに気分だが、絵の具を塗って歩き回っては、後の掃除が大変だろうなあ。
 「さあ、きょうは思いっきり暴れまくろうね」と先生が気合いを入れる。きょう鬼が来ることは分かっているから、年中組・年少組の部屋のカーテンはしっかり閉まり、子どもたちは机の下や押し入れに隠れて、静まり返っていた。
 子鬼たちは気持では容赦もない。しかし、袋のお面をかぶっては視界が狭く、動きが鈍い。それでもありがたいことに、どのクラスにも派手に泣いてくれる子はいる。
 4クラス117匹の子鬼は、入れ替わり立ち替わり保育室を襲うのでだんだん鳴き声が大きくなって行く。「野郎ども。引き上げるぞ」と先生が号令するまでにはずいぶん時間がかかった気がする。やっと静かになっと思う間もなく、じきにまた太鼓が鳴った。

 今度は鬼の親分とその手下の登場だ。ふだん威ばっている子は、鬼がよく知っていて連れ去ろうとする。さらわれては大変、「やめて下さい。その子はいい子です」と言いながら、ボクは鬼の太い腕から子どもをとりもどす。
 阿鼻叫喚のなか、頃合いを見て、ポケットの豆を鬼の顔に投げつける。鬼は派手にひっくり返る。前もって鬼に「けがをしないように」と言っておいたのだが、今年も見事にひっくり返り、追撃の豆で這いながら逃げていく。「やったァ」。
 午後、帰りのバスを待つ子どもたちから、次々に「おじさん、助けてくれてありがとう」とお礼を言われた。「どういたしまして」…ちょっと良心がとがめた。

 夕方、おじさんの郵便ポストを開けると、いっぱい手紙があった。「やっとおにのひはおわりました」と、くま組のちなつちゃん。らいおん組のあかねちゃんは「まもってくれてありがとう」とある。「きょうはたすけてくれてありがとう」は、きりん組のみのりちゃん。
 いつも強気のきりん組のれつ君まで「とてもとてもこわかったよ。でもおじさんがやっつけてくれてありがとう」と、気持が滲んでいた。あおいちゃんも「おにをおいはらってくれてありがとう」と書いてくれた。先日は返信の数を間違えて報告したかもしれない。手紙ごっこのボクの返事は今日で380通を超えた。


もどる