|
10月17日(水)曇り
15日と16日、盛岡市郊外の「わかば保育園」を訪ねた。
むかし、岩手大学生協の職員のための無認可保育園だったが、25年前に市の用地提供を受けて、認可保育園となったという。盛岡駅からおよそ8キロの郊外、閑静な住宅地にあった。
保守的な盛岡の地にあって、「その」と同じような自然の中で泥んこになって遊ぶという保育を続けていると聞いて、興味をもってはいた。この園がいま、大規模改修中で、新しくなる園舎の玄関にボクの切り絵を飾りたいと、画商を通じて注文を受けた。このホームページの切り絵を見て、気に入ってくださったようだ。
そして、どうせなら「その」の子どもたちでなく、わかば保育園の子どもたちを描いてほしいということで、ボクで役に立つかどうか、見学がてら伺いましょうと、画商の社員、萩さんと一緒に新幹線で盛岡まで出向いたのだ。
佐藤秀子園長が暖かく迎えてくれた。
年長の「たいよう組」は17人で、うち3人がダウン症などで発達遅滞のある子だという。子どもたちの様子を写真に撮るにしても、まず仲良くならなくてはと、昼寝が終わる時間に保育室に行く。
保育しながらの改修工事で、大きい組は園庭のプレハブで生活していた。蒲団をしまう押入れがないのか、子どもたちは寝袋で寝ていた。起き出した子に寝袋を借りて、「うわあ、あったかい、寝袋は初めて!」と喜ぶと、「おじさん、キャンプに行ったことないの?」「あるけど、毛布だもの」「買えばいいのに。売ってるよ」…そんなふうに人懐こい子どもたちとすぐ仲良しになった。
ダウンの子が起きようとしていた。「その」で前に保育した2人のダウン症の子より軽度だろうか。まわりの子が声をかけ、暖かく支えているのが伝わってくる。この園の創立以来の障害児保育の積み重ねがわかる気がした。
一緒におやつを食べてから外で竹馬を見た。今はまだ個人差が大きいが、やがて卒園する頃にはみんな高いのに乗れるようになるという。ゆうと君が2〜3歩、かろうじて乗れていたが、何度も挑戦するうち、しまいに20メートルほどのコースを踏破した。「やったね」と先生に褒められて嬉しそう。…翌日、ママに言ったかい?と聞いてみた。「言ったよ」「それでなんて言った?」「なんにも」。そうかなあ。何も言わなかったというのは怪しい。
翌日、9時30分に散歩に出発した。市街地を抜け、ひょうたん池の公園の先に山道があった。園から3キロほどの山の中の休耕田が目的地だ。
以前はあぜ道を気にして遊んだが、今はわずかに畔のあとが盛り上がって見えるだけの草むらで、イナゴやバッタが飛び交っている。細い用水路だけが草の茂みの中を流れて、子どもたちはカエルやあめんぼを追う。
冬眠前のトノサマガエルや、ヒキガエルにしては小ぶりだが、子どもの手からははみ出すような獲物に笑みがあふれる。
「あっ、タニシだ」と叫ぶ子に、駆け寄ったはると君が、「タニシじゃないよ。カワニナだよ」と言った。「ホタルに襲われる前に、助けてあげなくちゃ」と腹ばいになって獲った。この子は”虫博士”なことが公認らしく、バッタを捕まえた子が、「はると君、これはオス? メス?」と聞いている。
同行した主任の山蔭先生が木立の中にアケビを見つけた。さっそくはると君が枝もないつるつるの樹に登って、蔓から実をゲット。探せばいくつもあった。割れて完熟の実を少しずつ手のひらに乗せてもらって食べる。「おいしい」という子も、食べる勇気の出ない子もいた。
3キロ歩いてきたとは言え、身近なところにこんなに豊かな自然があるのはうらやましい。子どもたちの好奇心をくすぐるものがいっぱいだ。
旺盛な好奇心と、赤ちゃんの時から育ててきたであろう友だち関係の深さが、この子たちを生き生きとさせている。いまの瞬間、この子たちは幸せがいっぱいだと感じた。多分、親にも先生にも大事にかわいがられて育っているのだろう。
この園の子どもたちは、あれはダメ、これもダメとがんじがらめに縛られることなく、むしろ、その子らしく自由に遊び、対等な友だち関係を深めているのを、ボクは肌で感じた。
遊んでいるとき、一人の女の子が、「先生、けいちゃんが跳んだよ!」と叫んだ。(多分、けいちゃんだったと思う)。
ダウン症の男の子が両足をそろえて水路を跳び越えたのだ。「けいくん、すごい!」と先生。その子は褒められて、元気に二度、三度と跳んだ。
初めに跳んだ時、それに驚き、それを素晴らしいことと評価できる友だちがいた。出来なかったことが出来るようになったのを、自分のことのように喜ぶ友だちがいた。それがけい君を二度、三度と跳ばせたに違いない。
鈴木理事長や佐藤園長と保育のことや後退する福祉行政への懸念を話し合ったのも勉強になった。「おじさん、明日も来る? ・・・だめなの。また来てね」。子どもたちとハイタッチで別れた。
紅葉は遅れていた。いつかまた、この園を訪ねることがあったとしても、多分この子たちとは会えないだろう。でも、ボクの絵でいいのなら、力をこめて作ろうかな、と思いながら新幹線に乗った。
|