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新しい時代の技術者像

技術士法が改正され、平成13年4月より施行されています。見出しにも述べましたように経済社会活動のグローバリゼイション化に伴い世界に共通するエンジニア像が大きく変化しています。 これからの技術者として持たねばならない世界に共通する資質と従来からの考え方の意識改革の必要性について述べています。
2001年第30回EMシンポジウム(主催:電気学会 電子回路技術委員会)において「新しい時代の技術者像」と題して発表させて頂いたものの予稿です。参考として下さい。

新しい時代の技術者像(世界に共通するEngineer像)
岡野技術士事務所 所長 電気電子部門技術士 岡野庄太郎

まえがき

経済社会活動のグローバリゼーションに伴い、技術者相互の国際的な交流と人材の流動化が盛んに行われている。欧米先進国では、1995年に世界貿易機構(WTO)が提唱した「サービスに関する国際障壁排除」の一環として、世界的に技術者資格の国際相互認証に関する検討が進められている。
我が国では、1996年に「APEC人材養成作業部会」に参加し、APECエンジニア制度の検討が開始され、現在、エンジニアの行動規範と必要な5つの要件が決められている。 これは、エンジニアの国際的に共通な基本要件となるものと思われる。
一方、教育機関においては、米国が主導する技術者教育の同等性を国際的に認証する制度としてワシントン協定があり、 我が国も参加することに決め、1999年11月に日本技術者教育認定機構(JABEE)を発足させ、大学、高等専門教育機関等の教育組織を含む技術者教育プログラムの認証が開始されている。
このような情勢下にありながら我が国の理工系大学卒業生の技術レベルは下降し、産業界では技術再教育、OJT等に時間をかけねばならない状況下に落ち込み、世界的に大変な遅れをとるに至っている。
ここに我が国の「Engineer又はEngineering]関連の誤解を説き、「世界の技術者資格」、「技術者資質に関する経団連の提言」、「技術士審議会の答申」等の内容を紹介して我々技術者の在り方を再考して頂くよう提言したいと思う。
研究機関・大学関係者、産業界の技術担当者の方々のシンポジュウムに異色の講演となりますが、技術立国日本の将来のためにご参考となれば幸いである。

技術に関する諸定義

これから記述するに際し、過去から常識的に考えていた事項の誤解を先ず先に解く必要があると思われるので、下記に技術関連の定義を述べる。
工学 Engineering Science(Engineeringと誤訳)
数学と自然科学を基礎とし、ときには人文社会科学の見知を用いて公共の安全、健康、福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問
技術業 Engineering
数理科学、工学、情報技術などの知識・手法を駆使し、社会や自然に対する影響を予見しながら、人類の生存・福祉・安全に必要なシステムを研究・開発・製造・運用・保全する専門職業
技術者 Engineer
技術業に携わる知的専門職従事者であり、「単なる技術進歩の推進者であるのみならずその成果が人類・社会に及ぼす影響に付いて強い責任を持つ自立的な行動者」専門職業人
専門職業 Profession
社会が必要とする特定の業務に関して、高度な知識訓練と技能に基づいて独占的なサービスを提供すると共に独自の倫理規定、集団としての自立機能を備えている職業
専門職 Professional
専門職業に携わる者
技術者資格 Engineer Resister
国或いは地域で定める特定のプロセスを修了した技術者に与える資格
これらは、国際的にコンセンサスがとられた和訳と思われるが、前記したJABEEでオーソライズされている。ここに「公共の安全、健康、福祉」、「社会や環境」、 「人類の利益と安全」、「倫理規定」、「専門職業人」と言ったキーワードが随所に入っており、我々技術者は再認識しなければならない。

世界の技術者資格について

先進国の技術者資格は、国、州、Economy 単位で技術者としての要件が決められて資格認証を付与する形式となっている。国際的に実存している称号は  
  • 英国・関連国:Charterd Engineer
  •  
  • 欧州エンジニア団体連合会(FERNI):Euro-Engineer
  •  
  • 米国他(NAFTA):Professional Engineer
  •  
  • アジア太平洋連合(APEC):APEC Engineer
であり、日本は最後のAPEC関係:19エコノミー(主要8:日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、タイ、マレーシア、中国香港)に入っており、最終的には、世界的に1本化される見通しである。 APECエンジニアの要件の中には「認定又は承認された高等教育機関のエンジニアリング過程の修了」と言う事項が入っており、教育機関も日本技術者教育認定機構(JABEE)の認証を受け、維持する必要があるのではないかと思う。
この認証の審査基準としては、自己点検結果を尊重するが、教育プログラムに人類の幸福・福祉等公益に関して考える能力と素養、技術者倫理、コミュニケーション能力、技術的応用能力、生涯自己学習能力、 社会ニーズ解決能力、計画的遂行の管理能力等、従来の大学教育では求められていなかった教育プログラムが要求される。これは、今までの知識教育偏重から社会に出た後の技術者養成に関わる教育を促進させる方針となったことを意味するものである。
また、JABEEは、国際的技術者教育の同等性を認証する制度としてワシントン協定(米、英、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、アイルランド、中国香港の団体が加盟) があり、上記の思想を導入することが基本にあって日本が加盟できるよう活動も開始している。

技術者資質の産業界要請(経団連提言)

産業のグローバリゼーションが進行する中で企業もすぐに役立つ人材を求めて技術者の流動化が図られており、 技術立国を目指す我が国の技術者資質、在り方として下記のように経団連から提言されている。
  1. 産業社会ニーズに適合した専門性資質
  2. 主体的に行動でき、自己責任の観念が豊富
  3. 世界の歴史・文化を理解し、ヒューマニテイを基礎とした相互理解を深め、幅広い教養
  4. 国際的同等性のある技術者教育プログラムを修了
  5. 多国籍、他分野からなるチームの中で活躍可能
以上のように「従来から求められている多様な知識に基づく問題解決能力ばかりでなく、専門家の責任に道徳的な責任を理解して行動できる能力を持ち、 国際的な場で人間性に富む技術者資質」を求めていると言って差し支えない。

技術士審議会答申内容(平成12年2月)

かような情勢下にあって、我が国唯一の認証されている技術士制度も米国のProfessional Engineer制度から法制化されてできたものであり、これを改正し、活性化させることが最良であると判断された。 昨年、世界の要請に適合させるよう技術士審議会答申がまとめられて技術者に対する基本的な考え方が示されており、その主な改正主旨は下記の通りである。
  1. 具備すべき倫理要件
  2.  
    • 企業活動を前提とし、社会や公益に対する責任を持つ高い職業倫理感覚を持つ
  3. 技術者資格の国際的な相互承認への対応
  4.  
    • WTOにより、専門職業人の自由な移動促進
    •  
    • 技術士のAPECエンジニア体制の確立
    •  
    • 国際的な同等性に明解な説得力を持つ制度改正
  5. 質が高く、多数技術者の育成・確保
  6.  
    • 高等教育機関のJABEE認定プログラムに基づく技術者教育の実施又は基礎的な学識、技術者資質の適性を判断する1次試験を全員に実施(修習技術者)
    •  
    • 優秀な技術者又は有資格技術者(技術士)の修習プログラムに基づく継続教育を行うコースの新設
  7. 有資格技術者(技術士)の普及
  8.  
    • 技術者資格の国際的な相互承認
    •  
    • 有資格技術者(技術士)活用の社会的認識を喚起
  9. 有資格技術者(技術士)数の増大
  10.  
    • 米国41万人:英国20万人:日本4万人と少なく、技術立国に相応しい資格を確立し、活用を図る上記のような制度改正は、昨年4月の時点で技術士法が改正され、 平成13年4月から施行となっている。これは大変大きな教育改革の一端でもあって、工学教育関係者も良く認識して頂けなければならない。

期待される技術人材及び付加能力

結論として新世紀に生きる技術人材は、今までに考えられていた能力に更に国際的に共通する能力が必要であり、次に示す能力を付加する必要があるだろう。
  1. 高い技術的創造能力
  2. 社会問題を予防・防御する技術者倫理観
  3. マネージメント手法、コミュニケーション能力  (ドキュメンテーション、プレゼンテーション等)
更に、国際的な場においてこれらを持って活動できる人材と言うことになる。従って「国が認証する有資格者」=技術士も上記に関わる継続教育の責務が付加され、意識改革も行われることになっている。

技術者の重要な反省と意識

ここに新しい技術者像が明確になったが、産業界で働く技術者は、「企業の中の技術担当者」であったことになり、大きな反省と意識転換を余儀なくされることになる。 前記したJABEEの教育プログラム内容も意識して学習したかと言えば疑問であり、Engineeringの定義や技術者の倫理に関しては考えたことが無ないのが企業内技術者の実体であろう。
結論として日本文化の伝統から築かれた技術者像を世界的なコンセンサスに基づく新しい技術者像に我々の意識を修正していかねばならない。

技術者倫理に関する社会問題

最近、技術関係に基づく社会問題が多発している。
  • 薬害エイズ問題
  • 高速増殖炉「もんじゅ」事故
  • JCO臨界発生事故
  • トンネル内コンクリート崩落事故
  • 雪印乳業食中毒事件
  • 三菱自動車のリコール隠し事件
等の大事故・大事件は、過度の業績、経済性追求の結果、発生し、企業の存亡を揺るがす結果となっている。 これは、氷山の一角で単に表面化したに過ぎないとも言われているが、まさしく「技術者の倫理」問題として捉える必要があり、企業内の技術者実践倫理として考えられるようになった。 技術者を育成する高等教育機関関係者にも意識して頂きたいと思う。
2000年11月号のIEEE会誌:SPECTRUMに倫理要綱が掲載され、ビジネスの矛盾したルールの問題、実践倫理の有効性、事例研究の推奨等について記載されている。是非、参考にして頂きたい。

技術士のイメージ改善

国家が認証する技術士資格は、米国のProfessional Engineer(PE)制度から生まれたものであるが、企業では土木建築、下水道工事の公共事業及び海外向けコンサルタント会社の職業資格として定着し、 その他は自立・独立したコンサルタントとして技術問題解決、技術指導、プロジェクト支援等を行う職業で生かされるのみで一般の企業では生かされていない。
新世紀初頭に新しい技術士制度は発足するが、世界に共通する意識を持った国が認証する唯一の技術者資格 ”Professional Engineer,Japan” として定着することを目指している。従って
社会的:Consulting Engineer からProfessional Engineer の職業的資格から技術者資格へ
企業内:企業経営に貢献する有資格技術者
自主独立:契約に基づき技術業務する有資格者

と言った新しい時代のイメージに替わることになる。

技術者活動の重要な反省と意識改革

このように技術者の役割、使命は大変重いものであり、技術者及び高等教育関係者も反省として
  1. 過去の自己の成果を見直
  2. 公衆の安全、健康及び福祉の優先意識
  3. 企業の看板なしで役立つ技術活動
  4. 技術シーズを社会ニーズに生かす技術的応用能力
  5. これ迄に述べた国際的エンジニア感覚、付加能力
については、最低限反省し、不足分は補充する必要があるでしょう。これらは、個人意識、技術レベル、自己の目標等によって大差があるかも知れないが、 新しい時代に備える方向と考えて欲しいものである。技術者の意識として、次の事項
  1. 自分自身の[社会における役割意識]
  2. どんな立派な技術、思想でも自己体験の範疇でしか解釈できない[理解の度合]
  3. 地球環境問題を念頭に置いた[グローバル思考]
  4. 産、官、学及び異業種の[架け橋]
の意識を常に持つことお薦めし、技術者諸氏も国家資格に挑戦してグローバルに活動できる技術者資格を確保する時代になったのではないかと思う。

おわりに

産業界のグローバリゼーションにより技術活動や研究活動も新しいニーズの創設により、変化の激しい時代になるものと思われる。 この新世紀に入って新しい時代の技術者像について述べさせて頂いたが、企業経営者、高等教育機関の教育者にも国家資格の意義を認めて頂き、有資格技術者の育成と有効活用を図ることが必要な時代となったことを意識して頂きたい。
我が国に置いても、米国と同じ思想で企業内での有資格技術者を有効に利用して技術者の質を高めている先進企業も散見される。 また、高等教育専門機関(大学教育が主)からの修習技術者育成のコースも構築されており、新しい若い技術者も国家資格に挑戦することを望む次第である。

[参考]
  • 日本技術者教育認定機構(JABEE)ホームページ   http://www.jabee.org/
  • (社)日本技術士会ホームページ   http://www.engineer.or.jp/
  • 文部科学省ホームページ   http://www.mext.go.jp/