老成都

[其八]


火鍋

 四川料理は中国四大料理の一つです。日本で知られるその味の特徴は、一般的に辛い料理と言うイメージです。でも実際はどうかというと、必ずしも辛い料理ばかりではありません。かの地に住んでみて体感した味の特徴として、辛さ、甘さ、すっぱさ等、その味覚の違いや濃淡がはっきりしていると言う事でしょうか。


    
1987年3月 菜の花畑が広がる四川盆地の春


 四川は周りを高い山脈に囲まれた盆地です。現在の四川省の面積が日本の総面積より大きい訳ですから、その大きさが伺えます。そしてこの特種な地形条件の為、気候も非常に特色があります。四川の西側にあるチベット高原に阻まれたモンスーンの湿った大気が、周りを高い山脈に囲まれている為滞留してしまうのです。だから成都も一年の大半は曇りか雨です。地元の諺で「蜀犬は日を見て吠える」と言われます。実際の話しですが、私が持ちこんだ太陽電池の電卓が機能しない時もありました。
 この湿気った気候条件が、この地の料理を特徴付けている訳です。昔から伝染病が流行りやすく、辛しをふんだんに使う等、自然と濃い味付けになったのです。また辛い料理を食べると発散作用を助長し、どんよりした天気で鬱積した気分を晴らしてくれる効果もあるのです。


    
1992年6月 赤い方が麻辣味、白い方が白湯味


 前置きが長くなりましたが、この四川の辛さを代表する名物料理が火鍋です。読んで字の如く、まさに口から火の出る様な鍋料理です。鍋のスープには、唐辛子、山椒、豆棗、牛油、香油等をベースに、店毎に色々な調味料を加えています。元々四川は漢方薬の産地なので、これらの原料を加えている店が多いみたいです。最近はブームを反映して誰でも食べられる様、麻辣(激辛)と白湯(鶏がら)のニ種類のスープ鍋を出す所が増えました。また何年か前、スープの中にけしの実を入れ、客に習慣性を付けさせる事が流行っていましたが、警察からのお達しで駄目になりました。でも通に言わせると、けしの実が入っている方が、味が良く爽快感があるので好きだったと言う人もいるので、すこし危ない料理でもありました。
 入れる具も様々です。例えば、豚の血を固まらせた物、豚の脳みそ、アヒルの喉、腸や胃袋、蛙等のゲテモノ系、豆腐の皮、湯葉、ハム等の乾物系、太刀魚、田うなぎ等の海鮮系、そして中国レタス、蓮根、もやし、ジャガイモ、木耳、椎茸等の野菜系があります。豚の脳みそは高級な具材で、四川の人は普通皆注文しているみたいでした。たまに綺麗な女性が美味しそうに脳みそを食べているのを見かけましたが、今思い起こしてもゾッとする光景です。日本人の食に関する偏見のせいですが、私もこの脳みそだけはノーサンキューでした。


    
2000年1月 青石橋にある火鍋屋


 火鍋のスープと全く一緒で、道端の屋台で七輪の上で売られていたのが、「麻辣湯」です。こちらは野菜や豆腐の皮、湯葉等が主な具材でした。一昔前は夕方から明け方まで路上に屋台を出し、この麻辣湯を売る出稼ぎ農民の姿が成都の風物詩の一つでしたが、最近の都市管理条例云々のせいか、現在街中では、目っきり見なくなりました。(郊外に行けば、まだ沢山残ってます)
 火鍋の発祥は重慶と言われています。辛さは重慶の方がまた一段と強く、そのせいか四川では、成都人より重慶人の方が性格的にもキツイと良く言われます。


    
1992年6月 西御街にあった開店間も無い皇城老媽


    
1992年6月 創始者、廖華英女士  


 成都の一番の火鍋店をご紹介致します。「皇城老媽」と言い、東城根上街(55号)にあります。四川に行く度に、私の友人が連れて行ってくれ、いつも客で満員です。開店当初は西御街にありましてが、街の再開発でここに移転しました。社長さんはごくごく普通のおばさんと言った感じでしたが、この秘伝の味で大繁盛です。あの世界中に広まった麻婆豆腐も、普通のおばさんのあまり物を使った料理が発端ですから、火鍋が普通の家庭料理になる日がくるのかも知れません。


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