老成都

[其三十九]

卑県豆板

 成都の西郊、今では衛星都市の一つの様な存在になっいますが、本来なら中心街たる卑筒鎮は古蜀国の都でした。ここ卑県は、日本でも定着しつつある豆板醤の代表的な生産地です。四川では、豆板醤と言えば卑県、卑県と言えば豆板醤と言うのが固定観念になっています。


    1990年7月 卑筒鎮の街路


 卑県板醤の歴史は以外に浅く、清代道光年間からです。そして抗日戦争時代に、四川全土に広がり、建国後に全国的に有名になったそうです。味の特徴は、辛味が強く、鮮明な辣油の赤み、そして甘味が残る後味です。


    1992年6月 卑県豆板醤の工場前で原料を運ぶ荷車


 以前、ここの豆板醤を個人で輸入して、商売にならないかと考え、実際この工場に見学に訪れた事があります。今から十数年以上も前の話ですが、なんでも当時この地区の豆板醤工場を訪れた外国人は私が初めてとの事で、地元の副書記さんに食事まで招待して頂いたのには恐縮しました。丁度地元の人民政府も外資導入政策を打ち出したばかりの頃合で、多分に政治的な動悸もあったのでしょう。
 工場と言っても、その生産工程は甚く簡単で、唐辛子、大豆、胡麻等の材料を粉砕し混ぜ合わせ、後は野晒しで蓋を掛けて発酵させるというものです。因って生産設備らしき物も無く、ほとんどが人力、また容器も天然素材の物ばかりでした。兎に角、野晒しで食品を生産しているその過程には、抱いていたイメージと余りに乖離していたので驚きました。(あくまで当時の話です。)


    1992年6月 露天の工場内での発酵作業の様子


 要はかなり原始的なイメージですが、今なら反って昨今嗜好の自然食ブームには合致するのかも知れません。帰国後、関係方面を調べて可能性も検討してみましたが、個人での食品輸入は品質や衛生の管理面でハードルが高く、具体的な話にはなりませんでした。
 私も毎回成都を訪れた際は、豆板醤は多めに買って帰りますが、最近は専門の食材店の店頭にも並んでいるので、日本の食品商社が既に専ら輸入をしているんだと思います。
 また、良く接待で使う東京の有名な某四川料理店でも、本場の物が店頭で売られています。


    1992年6月 発酵が完了し出荷を待つ製品


 個人的に好きな豆板醤を使った四川料理のベスト3は以下の通りです。
1.回鍋肉
[最初豚腿肉片を煮込んだ後、再度鍋で炒めなおすので、肉を鍋に戻す(回鍋))事に由来します。留学当時外食の際は、ほとんど毎回注文していた記憶がします。でも余りに簡単な料理な為、四川の宴席では注文がタブーとされています。どうも日本の中華料理店では、つけ合せの野菜はキャベツが一般的ですが、成都では大蒜の芽が普遍的です。因みに私が自分で作る時は、玉葱の芽や長葱を代用しています。]
2.麻蟻上樹
[日本で言う麻婆春雨。炒めた挽肉が春雨に絡み付き、蟻が木に登っている様に見える事に由来しています。同じく留学中は、中華の場合は何人かで連れだって外食するのが常でしたが、たまに一人で出向く際は、良くこの一品にビールが定番でした。余談ですが。]
3.麻婆豆腐
[言わずと知れた。]

多分麻婆豆腐に関しては、この料理だけで一講釈してしまいそうなので、詳しくはまたの機会にします。


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