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●薔薇の姫
「アハハハ」「きゃははは」
離宮の薔薇の邸園内にみずみずしい、可愛いらしい小さな笑い声が響きわたる。
その声を追うかのように、若いおんな達の声が続く。
「見て見て!」
少女は一つの大きな薔薇の塊に前に立ち止まると、目を輝かしながら云った。
「サーラス、ブローネ。なんてきれいな花なのでしょう」
歳の頃は十二、三であろうか、少女は可憐な指を差し出した。
侍女のひとりがあわててそれを止めた。
「姫さま、いけません。薔薇のトゲでそのかわいいお手にでもお怪我をなすったら、
私がバーバラ官長さまにしかられますわ」
少女は侍女達を見るとつまらそうな顔をすると、
「なら、サーラス、この花を取りなさい」
サーラスと呼ばれた侍女はちょっと嫌な顔をした。
「姫さま、そのようなことは後で庭師にいくらでも持ってこさせますわ」
少女はそれを聞くと唇をつきだし何か云おうとしたが、頭をめぐらすと何かを見つけたのか、
突然、庭園の門に向かって走り始めた。
「姫さま!」
侍女達はぶつぶつ云いながらあとを追った。

と、門のそばまで来た時だった。
「きゃっ!」
侍女達が目にしたのは一匹の大柄な凶暴そうな野犬だった。
少女は、野犬に目がくぎづけになったまま、立ちすくんだ。
野犬は低いうなり声をあげながら少女に近づく。
侍女達も恐怖で一歩たりとも動くことが出来ない。
「ト、ト、…トーマス」
サーラスがかろうじて衛兵の名を呼ぶが、か細い声でもちろん、遠くまでは届かない。
野犬はジロジロと少女を値踏みするように睨んでいたがじりじりと近づくと、少女に飛びかかった。
少女も侍女達も息をのんだ。

その刹那、一陣の黒い疾風が少女と野犬の間に割って入ったかと思う間もなく、
キラッと鋭い閃光が走った次の瞬間、野犬の頭は宙を飛んでいた。
野犬の胴体はその場にどっと倒れ込む。
「きゃっああああッ!」
それは少女のものでなく、侍女達のあげた悲鳴だった。
胴体から切り離された野犬の頭が侍女の目の前に落ちたのだった。
二人とも、その場に腰を抜かして、へたり込んでしまった。

少女はあっけにとられながらも近づいてくる黒い影の主を見つめた。
大柄なたくましい体格、けわしいがハッとするような眼差しを持った騎士であった。
男は剣の血を拭うと剣を鞘におさめ、少女の前まで歩み寄ると片膝をつき、こうべをさげた。
「姫、どこかお怪我はありませんかな」
それは、ふとく今まで少女の聞いたことのない声である。
「礼を云う。おもてをあげなさい」
男は、頭を上げ少女を見上げた。
顎に髭をたくわえ、精悍な顔、鋭い目をつきをしており、
少女にもその騎士が名だたる戦士であると云うことが感じ取れた。

へたり込んでいた侍女達はやっと立ち上がると、野犬の頭を避けて少女のそばに駆け寄った。
「姫さま」
そう言いながら、騎士の顔を見るなりハッとした。
「あ、あなたは……」
「オ、オ……」

薔薇園の騎士 まじまじと驚いた顔をして自分を見つめる侍女達などいないかのように、騎士は少女に騎士の誓いをした。
剣の代わりに腕を差しのべると、少女はかるくその手に唇をふれた。
「私の剣は生涯、姫さまのものです」
騎士は立ち上がると、近くの赤い薔薇を一輪折り、枝をつかみザッとトゲを払い、少女の髪に挿した。
「おおっ、薔薇がよくお似合いの姫であらされる」
少女のほおはポッと薔薇色に染まった。


騎士はそう云うと、きびすを返して庭園の外へ向かった。
少女は門の近くまで後を追って駆け寄った。
騎士は門の外に出ると待たせていた従者から馬の手綱を受け取ると、
さっと素早く馬上の人なると、いま一度、軽く会釈をし馬を促した。
(ああっ、なんて素敵な騎士なのかしら)
少女の小さな心は、幼いながらにもときめいた。
(私の騎士、……私の騎士……)
騎士の去りゆく後ろ姿を見つめながら少女はつぶやいた。
(私もあの騎士にふさわしく、強くなりたい。……強くなりたい)

時に、ネリイ公女十二歳、騎士は《青髭》こと、世界最強の戦士と謳われたオー・ラン将軍、二十八歳。
二人の初めての出会いであった。


・コメント
この後、オー・ランにあこがれたネリイ姫は日夜、体を鍛え、剣技、乗馬に励み、
女猪武者と呼ばれることになる。

なお、28巻「アルセイスの秘密」に、『若き日の彼が素手で巨大な牛の角をつかんでその突進をとめ、ひねり倒して殺した』という、伝説があるのを知ったのは書いた後でした。
さすがに、覚えていません^^;

「麗しのグイン・サーガ」5000hitの時に、
このパロディの話に合った素敵なイラストを、ふうさんより頂きました。
当HPギャラリーに大きいサイズでも掲載しています。
改めて、お礼申しあげますm(_ _)m



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