草原の勇士 グル・シン
草原の勇猛果敢なグル族の族長であり、リー・ファの父でもあるグル・シン。
スカールに従い部族をまとめ、カウロスと戦い、スカールにつき従い伝説となるウィレン山脈越えを果たし、モンゴールのアムネリス軍を翻弄し、そしてトーラスの戦いに勝つ。
スカールと共にケス河を渡り、ノスフェラスへも行く。
ラク谷に1800名の部族を残し、スカールと200人の部族ともにグル=ヌーを目指す。
1ヶ月かけて狗頭山を越え、死のオアシスにたどり着いたところで、スカールはロカンドラスと共にグル=ヌーへ行く。
10日後にスカールが戻り、3週間かけてラク村に戻った時は生存者はわずかに14人となっていた。
10日後にラク村出発しケス河を目指す。
ケス河渡河の際、筏転覆により騎馬の民600人が犠牲となる。
「おおっ、なんということ……。天空の神なるモスよ。今日召されたいのちをそのもとに引き取らせるべし……」
グル・シンの目に涙がにじむ。
一行がモンゴールのタルフォの森に到着するとスカールはグル・シンを呼び寄せて言った。
「グル・シン。俺はリー・ファたち70人とタリアから帰路を目指す。お前は、1000人の騎馬の民を率いて別ルートで草原を目指せ」
グル・シンは黙ってうなずく。
翌朝、部隊を二つにわけ、スカール一行とは別にとタルフォの森を出発、グル・シンたちは50日後に草原に戻る。
「太子さまは無事でおられるだろうか」
それから3ヶ月後、スカールがマハールに到着したの知らせがグル・シンの元に届く。
スカールに会いに行き、娘リー・ファの死を知る。
グル・シンは黙って涙をこぼす。
草原にもどってから数年が過ぎ、グル・シンは老いて馬にも乗れなくなっため、族長の座を息子のタジムにゆずる。
それから数ヵ月後、スカールがグル・シンの元を訪れた。
「グル・シン、体は大事ないか」
「はい、おかげさまでこの通りです」
グル・シンは気丈にも、スカールの前に立つ。
「それなら良し。リー・ファの仇を討つ。部の民と共に来い」
一瞬、――。
「……太子の仰せのままに」
グル・シンは黙って従う。
旅立つ前日の夕暮れに今はグル族の長におさまっている息子のタジムがやって来た。
「おやじさま。……おやじさまには今度の遠征は無理だ。俺に行かせてくれ。太子さまもそこまで無理は言わないで下さるはずだ」
タジムは身の回りの整理をしている、グル・シンに懇願した。
グル・シンは皺だらけの顔を息子に向ける、その穏やかな眼光の中にも戦士の鋭さが光る、そして静かに話し始めた。
「タジムよ。わしには、8人の息子と4人の娘がいた」
「……」
「長男と三男はサンカ族との争いで死んだ」
「……」
「次男と五男、そして六男は前回の太子さまについて行った遠征で死んだ」
「……」
「そして、モンゴールで別れたリ・ファーもあれが最後になってしまった」
「……」
「今度は七男のクァンと末のタムンを連れていく」
「……」
「明日の遠征にほとんどの男たちが太子さまとともに行く――もうグル族には若い奴はおらん。――女とちびどもだけだ」
「……」
「もう、わしも長くはない。からだも言うことをきかん――じゃが」
「……」
「――すまんな、わがままを言って。これがわしの最後のご奉公だ。どうかお前は残って部族を導いてくれ」
「……」
三日後、死ぬ思いで馬にまたがり、スカールとともに部の民二千人の先頭に並び草原を発つ。
数ヵ月後、スカール率いる部の民はパロ内乱に介入してたゴーラ軍に奇襲をかけ、スカールはイシュトヴァーンと一騎打ちするも逃す。
スカールが戻ってきた。
「今一歩というところで奴を逃がした。次の機会を狙う。グル・シン、行くぞ」
グル・シンは黙って従う。
数週間後にパロ内乱が終結するとイシュトヴァーンのゴーラ軍はゴーラ王国に引き上げた。
「グル・シン、ゴーラへ行くぞ」
グル・シンは黙って従う。
スカール率いる騎馬の民は密かにパロの国境を超え、自由国境地帯に入る。
馬上のグル・シンの体が大きく揺れた。
今回の旅に出てからグル・シンの3回目の落馬であった、
(くっ。おおっ)
グル・シンの体はもはや己の言うことを利かなくなっていた。
なんとか、部下の力を借りて馬に這い上がりスカールの元へ行く。
「……太子さま。ス、スカール様」
「おう」
「お名残惜しゅうございますが、私がお伴を出来るのは……ここまでです」
スカールはじっと、グル・シンの目を見つめた。
「そうか、判った」
「モスのご加護を……」
立ち去るスカール率いる騎馬の民の一行を見送るグル・シンには
悔いはなかった。
その頭上にはギラギラと日差しが照りつける。
翌朝、朝日に照らされる一人の骸。
五歳から馬上の人となりモスの大海に生きたグル・シン。
草原のハヤブサと呼ばれ草原を駆け巡ったグル・シン。
スカールに従い流浪し旅の途中で果てたグル・シン。
享年102歳であった。
・コメント
ええ! スカール随分と無茶させるな。老人をこき使い過ぎないかい。
この話は最初は「納得がイカン集」か「本編内容の間違い」にしようと考えました。
草原に戻った以降のグル・シンについて、以下の記述があります。
・63巻「時の潮」192ページ
老いて馬にも乗れなくなり族長を息子のタジムにゆずる
・102巻「火の山」201ページ
スカールに従い流浪したが旅の途中で果てた
102巻の一文を読んだ時、思わず、
「そりゃあ、ないだろう、スカール! お前は鬼か!」
と叫んでしまいました。
(たしか、グル・シンは老いて寝たきりで隠居していたはず……)
既に、グイン・サーガからはほぼ退場した初期のキャラクタであり、もはや中原になんの影響も及ぼすことのない人物ではありますが、作者の意図したことか思い違いかは判り兼ねますが、この様な形での退場をさせられてしまったグル・シンに哀悼の意を込めました。
なお、グル・シンは実際はもう少し若い(笑)と思っています。
また、タジムはグル・シンの息子としてグイン・サーガに登場しています。
スカールはグル・シンに死に場所を与えたのか、それとも――。
未確認ですが、一説には、スカールはパロ内乱介入への遠征にグル・シンは留まるよう説得した、との話も伝わる……。