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密やかな楽しみ

パロの夏は草原地方や沿海州と比べると猛暑という日々は少なく、誠に過ごしやすい。
それでも、やはり夏は夏である。

パロ、クリスタルのカリナエ宮は一年を通して花が咲き乱れている。
その庭園内に咲き乱れる赤いルノリアの花々、そしてその中に白いルノリアがひとつ。
その中をアルド・ナリス――既にクリスタル公に拝命されてから四年の歳月が過ぎており、彼の力は徐々にではあるがパロ宮廷内に影響力を及ぼし始めていた――は、日差しを避けながら通り過ぎて行く。
「いつ見てもルノリアの花は美しい。ごらん、クリスタルひろしと言えども、白いルノリアを見ることが出来るのはここだけだよ」
ナリスは満足そうに小姓頭のラガーに話しかける。
「さようでございます。クリスタルに美しきルノリアはただひとつでよろしいかと――」
そんなたわいもない話をしていると一人のまだ年若い小姓が走り寄ってきた。
ナリスは少し眉をしかめた。
小姓はナリスの前に来ると、
「ナリスさま、科学ギルドのミャラミオンさまと云う方が尋ねて参っております」
と告げた。
「そう、彼が――ということは完成したのかな」
ナリスのあとの言葉は口の中に消えた。
「ところで、あなたはカイという名前でしたね」
いきなり自分の名前を呼ばれて小姓はびくっとした。
歳は十一くらいであろうか、小姓はひどく緊張した顔をした。
アルド・ナリスがカリナエ宮に仕えている全員の名前を知っているという噂は聞いていたが、まさか自分のようなまだカリナエ宮に仕えて一年足らずの小姓の名前など知っていようとは夢にも思っていなかった。
「は、はい。カイと申します」
「ここはカリナエ宮です。どんな時にでもわたしの前で走っている姿を見せてはいけません」
「はいっ! これから気をつけます」
カイは直立不動のまま遠ざかるナリスを見送った。

ナリスが一室にはいると数人の男が待っていた。
頭には科学ギルドのメンバーであることを示す星のついたバンドをしている。
「ナリスさまご機嫌麗しゅうございます」
「そう麗しくもないです。今年はパロでは誠に珍しい猛暑が続いています」
「ナリスさまに吉報をお届けに参りました」
男はそういうと助手たちになにやら箱を運び込ませた。
ナリスの瞳が鋭くなった。
「例のモノか」
「さようでございます。遂に完成しました。今までの味とはまったく異なります。そしてナリスさまが発見された例の方法ですべてがうまくいきました」
ナリスは満足そうな表情をすると、
「ラガー、彼らを例の隠し部屋に案内してくれ給え」
「かしこまりました」

隠し部屋に入ったナリスは、ラガーを残して全員を外に出すと、つぼに手を触れた。
「おおっ、確かに冷えているようだ」
ラガーはつぼからグラスに中身を注ぐとナリスに手渡した。
ナリスはぐいっと一口に飲み干した。
「プハ――ッ! くうぅぅぅっ! うまいっ! 腹にしみわたる。生き返ったようだ。やはりこうではなくてはいけないね」
ナリスは天を仰いで云った。
「つぼに濡れた布を巻き、気化熱を利用して冷やすことが出来るなどとは、誰も知らないだろう。そしてそうすることによってこれほど飲み応えが変わるなどとは――」
ナリスはグラスをテーブルにおくとそのまわりを小躍りし始めた。
ナリスが「やった! やった!」と叫ぶ恍惚な姿に思わずラガーは心配になった。
「ナ、ナリスさま。――お酔いでございますか」
「アハハハハ。癖になりそうだよ――ところで、ラガー。この酒をビールと名づけよう」


吟遊詩人は伝える。
アルド・ナリスのその生涯において幾たびか躍った幻の「ナリスの舞」――それを見た者は三人のみ、と。


・コメント
ナリスに少し品がないですね。ナリスふぁんの方、ごめんなさいm(_ _)m
Hemさん/まり坊さん/ミヤーンさんの話をヒントにしました^^;


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