黄金の神々
第五話 暁の目
◆ 第一章 焦燥
ゴーラ国内はまさに各地で予断を許さない状態となっていた。
イシュトヴァーン軍はクム国境のタリサを陥落させ、怒濤の勢いでクム軍を破りルーアンに迫ったものの、イシュトヴァーン軍は籠城したクム軍に対して運河や河に張り巡らせたルーアンでは思うように大軍を動かして一気に攻めることも出来ず、逆に各地から援軍に駆けつけたクム軍を追い払うのに始終していた。
一方、ガザに籠城しクム軍に包囲されたネリイ軍とアルセイスを攻めるモンゴール・ユラニア連合軍は苦戦していた。
皮肉なことに、ケイロニア軍がケイロニア国境を越えてユラニアの監視に入ったために、それを警戒して逆にエルザイム砦やマイラスの砦からはアルセイス包囲軍にも、ガザに籠城しているネリイ軍への援軍はほとんど出せない状態になってしまった。
クーデター発生の翌日に各地から駆けつけた三万のユラニア軍は初戦でタルー軍に手ひどい敗戦を喫すると、アルセイス郊外十五モータッドにあるルヴァまで退いて防衛線を築き、他の都市からの守備隊とモンゴールからの援軍を待つことにした。
二日後にアルセイス包囲軍に加わったマルス率いるモンゴール軍五万と、さらに四万に増えたユラニア軍と合同で改めて攻めるがアルセイスは落ちない。
マルス伯は天幕に戻ると采配棒を投げつけた。
「なんていうざまだ。われわれモンゴール軍が命をはって戦っているというのに、あのユラニア軍の不甲斐なさは。モンゴール軍は優勢に戦を進めていても、必ずユラニア軍が崩れてしまい、逆にわれわれがタルー軍に反撃を食らってしまう。相手は六万しか、いないのだぞ、九万もいる我々が負け戦の連続だ。まったくユラニアの連中ときたら頼みがいがない」
マルス伯は憤懣やるかたないといった態度でどかっと椅子に座るとアリストートスに文句を言った。
「まあまあ、マルス殿、そう興奮なさらないで、所詮はユラニア軍はユラニア軍。過度な期待は……」
「俺は過度な期待などはしていない。普通に戦線を維持してくれればモンゴール軍がクム軍などに遅れをとることなど無い。アレクサンドロスの如きアリストートス卿の戦法も近頃は相手に通じない、なんとか良い方法はござらぬか。この腹の傷跡が早く借りを返したいと今もうずくのだ」
アリは表面上はマルス伯をなだめていたが、実際には心底焦っていた。
今回のクム・ユラニア出兵にあたり、当然アリはイシュトヴァーンの参謀となることを予想していたのが、自分はマルス伯のアルセイス援軍にまわされ、イシュトヴァーンにはヨナが参謀としてつくことになった。
アリは今一度の再考の申し立てをしたが、イシュトヴァーン、カメロンに却下された。
(これもカメロンとヨナの悪巧みに違いない。くそっ。こうなったらこの戦いで参謀長に一番ふさわしいのは誰かということを思い知らせてやる――このモルダニアのアリストートス以外にはいないのだ。そのためにも、いつまでも手間取っているわけにはいかない。幸いというか何というか、イシュトヴァーンもルーアン攻略に手間取り、ガザに侵攻できないでいる。もっともこれはヨナの作戦では当たり前だろうが――。必ずやアルセイスを落として、先にガザにたどり着きネリイ大公を救出すれば、モンゴールでの俺の地位は確固たるものになる。あんな、こせがれのガキにこれ以上大きな顔をさせるものか。――なにか起死回生の戦法を。――考えるのだ、アリ。この素晴らしい頭を使って何としても思いつくのだ。俺なら必ず思い浮かぶはずだ)
アリはそのまま知恵熱が出るかというくらいに己の世界に没頭して、マルスも声をかけるのをはばかるほどにアリは白目を向いて固まってしまった。
ガザに籠城するネリイ軍は城門を固く閉ざし、時々攻撃を仕掛けるクム包囲軍にじっと耐えている。
ガザに救援に駆けつけた一万のユラニア軍も四万のクム軍に敢えて攻めることは控え、辛うじて牽制をするにとどまっており、ネリイを歯ぎしりさせていた。
「ええい、口惜しいや。モンゴールからの援軍はいつ来るのじゃ。この包囲網を打ち破り、一刻も早くアルセイスに攻めのぼらん」
「はっ。イシュトヴァーン将軍からは、タリサを陥落しルーアンを包囲したとの連絡が入ったきり、その後は――」
ネリイはぴしっとガザ司令官の肩を扇子で打った。
「そんなことは判っておる。タルーめ、わらわを裏切るとは許すまいぞ。そんなことだからクム国内でも人望がないのじゃ」
ネリイは顔を真っ赤に紅潮させ死凄まじい鼻息をあげながら、近くに控える部下たちに当たり散らした。
ネリイの叱責を受けるガザ司令官はじっとうつむいて耐えている。
(ネリイ様。人望が無いのはあなた様も同じでございます。どうか、もっと大公にふさわしく――)
そんな部下の思いがネリイに通じるわけもなく、ネリイは落ち着いていることが出来ずに、のっしのっしと歩き回る。
「ええい、何故、こうも何処も膠着状態なのじゃ。どこか一ヵ所が崩れたら一気に戦況は変わる。それはどこか?」
◆ 第二章 暗殺
ルーアンを包囲して四日目、ついにイシュトヴァーンは決心した。
アリオンとヨナを呼び寄せると自分は五千の軍をひきいてガザに向かうと告げた。
アリオンは驚いてイシュトヴァーンに翻意を促したが、もとよりイシュトヴァーンがアリオンの意見など聞くはずもない。
「このままじゃ、だめだ。タリオ大公はルーアンに蝸牛のように閉じこもって出て来やしねえ。これで苦戦しているガザが落ちてネリイの首をあげられて見ろ。ユラニア軍はクム軍に組み込まれ逆にこっちにが挟み撃ちだ。アルセイスを攻めているマルスも同じ目に合う。違うか、ヨナ?」
「さようでございます」
「し、しかし」
アリオンはなおも食い下がった。
「たった五千でガザに向かうとは無謀すぎます。もし、ルーアンから追討軍でも出されてはイシュトヴァーン将軍が挟み撃ちにされます」
「馬鹿言うんじゃねえよ。奴らが外に出てきたらこっちのものだ。俺さまが野戦で負けるわけがねえだろうが」
この二日前にヨナはタリオ大公を亡き者にするため、魔道師の一人をルーアンの暗殺者として送り込んだが、「敵にも魔道――」という連絡があったきり途絶えた、と上級魔道師ザルガンから報告を受けた。
最初にヨナが調べたところではタリオ大公は魔道を嫌い、側においていないはずだったが、さらに、詳しく調査してみると確かにクム魔道師ギルドは小さいながらも存在していることが判明した。
「クム魔道師ギルドはラン・ダル魔道伯が元締めとなっており、ただしその規模は誠にささいなものでありまして、ラン・ダル魔道伯自身が上級魔道師で最高と思われます。ラン・ダル魔道伯さえ取り除けば道はひらけると思われます。――私が行きましょう」
そう言い残して、ザルガンが赴いたのは昨日で、「やった」との連絡があったがザルガンが戻ることは無かった。
今まさに国王軍と反乱軍が激突しようかという時に、アラインで急変が起こった。
それは、マルティニアス聖騎士伯、タラント聖騎士伯ひきいる二万がクリスタルを出発した頃に、アラインに陣取る国王軍のオヴィディウス聖騎士候と副将マルヴィヌス聖騎士伯が暗殺され国王軍に衝撃が走った。
魔道士がヴルスからの連絡をナリスに告げた。
「なお、国王軍についていた連絡用の魔道士三人も葬ったよしにございます。」
「さすがに口だけではないな。よし、数はこちらが少ないとはいえ、国王軍は動揺に陥ってる今を逃すな。間もなくカラヴィア軍も到着する。全軍、総攻撃に移れ」
ナリスの檄とともに、ルナン聖騎士候が率いる三千、ワリス聖騎士候が率いる三千、カレニア伯ローリウスが率いる三千、サラミス公騎士団が四千のナリス軍は怒濤をあげてアラインに攻め入った。
ナリスの本陣には大公騎士団千人とマルガ守備隊千人、それにリギア伯の二百人、魔道師たちがいるだけである。
緒戦は一ザンで終結した。
国王軍は一度に司令官と副司令官を失い、指揮命令系統が乱れ右往左往しているところに、ナリス軍が襲い、兵力では倍するものの、為す術もなく破れると、ルシウス聖騎士伯の抵抗も虚しくクリスタルへ撤退を余儀なくされた。
国王軍の死者四千に対してナリス軍の戦死者は三百余名に過ぎなかった。
四ザン後にカラヴィア軍二万五千、及び傭兵師団五千と合流し四万五千にふくれ上がったナリス軍はクリスタルに向けて進軍を開始した。
国王軍は、翌日、ダルカン聖騎士候を新たな司令官に任命し副将マルティニアス聖騎士伯をつけた四万のパロ聖騎士団と、さらにギリウス聖騎士伯が五千のクリスタル騎士団の軍勢をクリスタル郊外五モータッドに陣をひいて、ナリス軍を迎え撃つ体制を整えた。
続いて第二陣としてダーヴァルス聖騎士候、メラニール聖騎士伯の一万五千と、ライアー伯爵ひきいる、パロ軍最強の近衛騎士団の内半分の五千がいつでも出撃できる体制にあった。
ルシウス聖騎士伯は先にクリスタルへ逃げ戻った二万五千余から、負傷者を除く二万二千を新たに編成し直している。
その様子を、聖王宮のテラスよりレムス一世、リーナス宰相、ヴァレリウス副宰相や聖騎士伯たちが見下ろしている。
「ヴァレリウス、ベック公からの連絡は?」
「はっ。様子をさぐらせた魔道士からの報告によりますと、やはりナリス軍の捕虜となりどこかに監禁されている由にございます」
レムスはやはりかというしぶい顔をした。
ヴァレリウスはすっとレムスに一歩近づくと小声でささやいた。
「陛下、間もなくクリスタル市郊外で行われる戦はわが軍が有利かと思えますが、クリスタル公のお命を奪うため導師を筆頭とする強力な魔道師部隊を編成中でございます」
◆ 第三章 神剣
クリスタル郊外で激突した国王軍と反乱軍の戦況は一進一退を極めた。
ついに、クリスタルの南大手門より、ダーヴァルス聖騎士候ひきいる二万の援軍が戦場に向かおうとしている時、とうの戦場で異変が起こった。
国王軍の左翼が大きく崩れると中央に向かって攻撃を始めたのだ。
「わあっー」
「裏切りだっ!」
「ローマン伯のクリスタル軍が反乱軍に寝返ったぞ」
「わあ。ひけぃ、ひけー」
そこに一気にナリス軍は中央突破をはかろうと襲いかかる。
「退くでない。引くでない!」
「間もなく、援軍も来る。踏みとどまれ。陣を崩すなっ!」
国王軍の隊長たちの怒声が飛び交う。
その頃、クリスタルのアルカンドロス大広場においても青天の霹靂とも思われる事件が発生した。
近衛騎士団を率いていたライアー伯爵が一部の部下を引き連れて、出陣間近のダーヴァルス聖騎士候とメラニール聖騎士伯に近づき、いきなりメラニール聖騎士伯の首をはねると、ダーヴァルス聖騎士候にも斬りかかり、そのままランベール城に逃げ込んでしまったのだ。
ダーヴァルス聖騎士候は一命はとり止めたが傷は深く重傷を負った。
一方、クリスタル郊外ではついに国王軍が堪えきれずに背走しはじめた。
「良し、今だ。全軍、総攻撃!」
ナリスは自らの旗本隊となっているカレニア衛兵隊と供に戦場になだれ込んだ。
「ナリスさまっ。ナリスさまっ!」
リギアが髪を乱しながら傍らに馬の手綱さばきも見事に寄ってくる。
「そんなに先頭になっては危険です。お下がり下さい。ここは私たちにお任せ下さい」
ナリスはリギアの方を向くと笑った。
「私はね、こう見えても戦士なのだよ。それに私はこの様なところで雑兵の手にかかって討たれるような運命ならば、最初からパロ聖王などは望まないよ」
そう云うなりナリスは「ルアーッ!」のかけ声と供に突き進んでゆく。
国王軍は無惨にもまたもや惨敗した。
ちりじりになった国王軍はなんとか体制を立て直し、南大門や西大門よりクリスタル・パレス内に戻った。
ナリス軍はそのまま南クリスタルに殺到するとクリスタル・パレスを大きく東に迂回して北クリスタルにまわりその一帯を占拠して陣をはった。
クリスタルの近辺やアルカンドロス大広場では両軍入り交じっての小競り合いが続いていたが、ナリスはそのまま、ルナン聖騎士候やリギア聖騎士伯とともにランズベール城に入った。
すぐさまランズベール候やロイス長官がナリスらを出迎える。
「ナリスさま、よくぞご無事で。さすがナリスさまであらせられます」
ナリスはさっと右手を上げると、
「リュイス、すまないがこれから作戦会議に入りたい。主だった者を集めて欲しい。それからアルカンドロス広場が一望に見渡せるテラスに案内してくれ」
「はい、ただいま」
ランズベール候は部下の隊長に命令を伝えると、
「ナリスさま、ランズベール城のテラスより、ランズベール塔の方がよろしいかと思われます。アルカンドロス広場はもとより、聖王宮、そしてクリスタルが眼下に見えましてございます」
「おおっ、そうだったな」
先のクリスタル郊外の戦いで国王軍はまたもや六千人にものぼる戦死者と五千人近くの重軽傷者を出し大いなるダメージを受けたのに対して、ナリス軍は千人ほどの戦死者を出したに過ぎなかった。
現在、ワリス聖騎士候ひきいるナリス軍本隊三万は北クリスタルに陣取り、ランベール城の真下にはリーズ聖騎士伯が一万の軍勢で陣をはり、国王軍はアルカンドロス広場を挟んで聖王宮側に二万で対峙し、南大門にはダルカン聖騎士候の軍勢八千、西大門にはマルティニアス聖騎士伯の五千の軍勢が睨み合いを続けていた。
北クリスタルのナリス軍本隊への牽制として東クリスタルにバルウス聖騎士候の一万が展開している。
夕刻、ランズベール城ではナリス側の作戦会議を錬っていた。
「私はもうクリスタルを離れることはないよ。それはレムスとて同じであろう。ああ見えてもレムスにも誇りがあるだろうから聖王宮を抜け出すことを、恥だと考えているだろう。意地でもあそこを動くことはないだろう」
と、ナリスがそこまで云った時、広間の隅に控えていた自由魔道師ギルドの上級魔道師ザブロンが、警告を発した。
「ナリスさまッ!」
その鋭い言葉に思わず、リギアやランズベール候、ルナン候、ロイス長官らがはっとして身構えた。
護衛の騎士たちも剣に手をかけた。
ナリスはすばやく立ち上がり、と大テーブルより離れかけながら、
「アルノー、ディラン」
と、小さく叫んだ。
再び、上級魔道師ザブロンの口から言葉が発せられた。
「ナリスさま、お気をつけ下さい。――来ます。――かなり大勢の……」
その言葉が終わるいとまもなく、作戦会議の大広間にはもわもわっと数十もの黒いもやが現れた。
リギアは素早く剣を抜くと「ルアッー」と叫びながら近くの黒いもやに切りつけると、ばっと赤い鮮血が飛び散った。
「魔道師だっ!」
「衛兵ッ。衛兵ッ!」
「敵だ。敵の侵入だ!」
叫び声が飛び交う。
あたりは一瞬にして修羅場と化した。
唸る剣、飛び交う雷撃、そして炎。
騎士たちが素早く反応して何人かの襲撃者たちを切り伏せるもあっと云う間に逆襲を食らい倒される。
あちこちから大広間に向かって騎士たちが叫び声を上げながら集まってくる。
「ナリスさまをッ! ナリスさまをお守りせよッ!」
ナリスの前にリギアやランズベール候が立ちふさがる。
ぼんッ、という炎とともに襲撃者側の魔道師が火に包まれる。
「ぎゃあっ」
「ぐわぁ」
襲撃者の魔道師たち、ナリス側の魔道師たち騎士たち入り乱れての混戦となった
「ぐふっ!」
アルノーの身体がものすごい勢いで大理石の壁に叩き伏せられる。
「ザルバン、そこな魔道師を片付けろ。わしとマルダナはナリスを殺る。他の者達は雑魚を始末せよ」
襲撃者の頭目とおぼしき魔道師が叫ぶと同時に、大広間に救援に駆けつけた騎士たちにがまさに飛び込もうとして開け広げた大扉に向かって巨大な炎の塊を投げつけると、あっと云う間にその一帯は火に包まれた。
ナリスは広間の片隅のテーブルの剣に手をかけると襲撃者たちを振り返った。
その時、ナリスを狙う魔道師二人の手が輝くとナリスに向かって電撃が放たれた。
「危ないッ!」
「ナリスさまッ!」
それは、リギアとランズベール候がナリスの前に飛び出したのと同時であった。
二人の身体がパッと輝いたかと見えるとその場に崩れ落ちた。
「リギア――ッ。リュイス!――おのれっ――」
二人の魔道師が再び念を集中すると手が輝きはじめる。
ナリスは剣を抜いた。
手のひらにぴたりと吸いつく、ここちよい剣のおもみが、ナリスと一体になり身体中に言い知れぬ力がみなぎる。
その手の剣もまた、その白い炎と一つになり、天を衝き、人々の目をくらまさせた。
「なんの光――ッ!」
ザルバンが叫ぶ。
「ええいっ、目くらましに過ぎぬ。いくぞっ」
そう云うなり、二人の手から電撃が放たれナリスの身体を襲った。
激しくナリスの身体は眩くスパークするが――
「おりゃああ――ッ」
ナリスの白く輝く身体が跳躍し二人との距離を縮めると、ナリスの手に握られた剣が一閃、また一閃すると魔道師の首は宙に飛んだ。
それらを振り返ろうともせず、ナリスは次々と他の襲撃者たちを葬り去る。
やがてナリスの身体をおおっていた光が影をひそめた頃には、あたりは血の海と死体の山となっていた。
大広間では大勢の騎士たちがあつまり消火が行われている。
ナリスは視線を部屋の片隅に注いだ。
「リギアッ」
ルナン聖騎士候がナリスの側に近寄る。
「ナリスさまがご無事でなりよりでした」
「ルナン、リギアは?」
「あの娘もナリスさまのお役に立てて本望でございましたでしょう。さあ、ここを離れましょう。リュード、ナリスさまの警護を」
カレニア衛兵隊隊長リュードが騎士たちとナリスのまわりをがっちりと警護する。
「アドロン公もアドリアン子爵も、こちらへ」
ルナンが次々と命を下す。
「ランズベール騎士団団長ゾロイ男爵は、おられるか?」
「ここにおりまする」
「あとの始末を頼む。それと、ランズベール候夫人にも伝えるのだ。外のワリス候とリーズ伯爵にもな、いらぬ不安を持たぬように、ナリスさまはご無事と、な」
さすがに歴戦の強者であり老かいな経験の騎士であるルナン候はこのよう様な状況には心を揺らぐことはなかった。
この場はルナン候は自分の娘が亡くなったことより、ナリスが無事だったことにともかく大事をおいた。
ルナン候はナリスの手に握られている剣を見た。
「ナリスさま――。その剣はもしや――」
ナリスの目はどこか遠くを見つめていた。
「ああ――。これか――」
ナリスは剣を鞘に納めると、
「神剣――《パロスの剣》だよ」
「やはり――」
ナリスは何かを思いながらも口を開いた。
「パロに伝わる伝説――。『それがまことのパロスの剣となるのは、それを扱うべき正しい騎士の手にふれたとき、そのときパロスの剣は至宝になろう。しかしもし、そうでないものの手にふれたなら、それはパロスをほろぼすだろう』と伝えられている。――この剣は私を認めたようだ。しかし失ったものも多いな――」
(――これは戦だ。――レムス、お前だけが魔道師を持っていると思うなよ)
それきりナリスは口を開こうとはしなかった。
―― 第六話につづく ――
・コメント
グイン・パラレル・ワールドです。
戦いとはいつも残酷なものです。
変則になりますが、次回で、終わりです。
「ゴーラ編」と「パロ内乱編」の一部は後日に、いつになる判りませんが書きたいと思います。
一応、次回第六話と最終話(第十一話)との二話でなんとか筋は通るかと考えています。
――グイン。次は出ます。