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黄金の神々

第四話 太陽王冠は紫に輝く

◆ 第一章 籠絡

カラヴィアとカレニアの国境では密かに二人の男が密談を重ねていた。
一人はクリスタル公アルド・ナリス、そしてもう一人はカラヴィア公アドロンであった。
「どうですかな、アドロン公。この条件で何かまだご不満でもありましょうか」
「何も、ございませぬ。先のアルシス王子とアル・リース王子の対立の時、カラヴィアがアル・リース王子側に立ったのも、私の意志ではありませぬ。当時、私はわずか十二歳でした。私も父クラインと同様にアルシス王子のお味方になろうと考えていたのです。ところが、パロ宮廷の風向きがアル・リース王子に傾くと将来のカラヴィアの行く末を案じた重臣たちが、アル・リース王子を押すように強いれられ、後を継いだばかりで子供の私は反対することは出来ませんでした」
アドロン公は申し訳ないと頭をさげた。
「十二歳では重臣たちの意見を押し切ることは無理でしょう。私は別にそのことは怨んだことなど少しもありません」
「有り難きお言葉――しかし、本当でしょうか――先ほどの――その」
「私は約束は守ります。カラヴィアのパロから独立を許しカラヴィア王国として認めますよ――カラヴィア王アドロン殿」
「おおっ」
アドロンは感激してアルド・ナリスの手を握った。
「カラヴィアの独立は五百年前からの宿願でした。二百年前の独立戦争で大敗を喫してからは、カラヴィアはパロの忠実な僕となっていましたが、カラヴィア人はいつかは自分の国と心の中では思っていたものです。それをクリスタル公に判っていただけるとは……」
アドロンは両目から涙を流し喜んだ。
(やはりな――今は大人しくなっているとは言え、カラヴィア人の独立精神は今なお盛んということか――。独立は確かに許しますよ、アドロン――。しかし、アドリアンは、いたくリンダにご執心でね。リンダが頼めば再び、パロに組み入ることを承諾するでしょう。――あなたは長生きできそうにもありませんね)
アルド・ナリスのくちびるは妖しくほくそ笑む。

それから五日後、アルド・ナリスはカレニアの民に顔見せを済ますととマルガに戻った。
その夜――ナリスとルナン聖騎士候、ワリス聖騎士候、リギア聖騎士伯たちは密議をかさねていた。
「ナリスさま……」
どこからともなく声がする。
「ディランか」
もやもやと黒い影があらわれると人の姿になる。
「失礼します。例の一件のご報告に」
「それは何より。もちろん、うまくいきましたよね。――して彼は」
「ここにおります」
すっと一人の魔道師が姿をあらわす。
「さすがは上級魔道師だ。あらわれ方が手際よいな、ヴルス」
金髪で魔道師としては体格もかなり良い四十がらみの男であった。
「あなたの魔道力が私の期待に応えてくれるものと信じていますよ」
「クリスタル公の意に沿えると思っております。わたくしめは魔道力から云えば、上級魔道師の地位にあった中で一番でございました。とりわけ、魔道攻撃に関しては導師をも上回ります」
「随分な自信ですね。――それで、それだけの力を持ちながら主流派でなく、導師にもなれず、そして野望を持ったわけですか?」
「……」
「まあ、よい。あなたがカル=ファンに力を貸したおがげで危うく私は大逆の罪をきせられランズベール塔に囚われたが、あやういところでカル=ファンの陰謀が――まあ、私に云わせれば稚児の遊びみたいなものだが。これだけは覚えておきなさいヴァルス。最初に私の敵となるのは致し方がありません。しかし――私の味方になり、その後、私を裏切った者は決して許すことはないですよ」
「心得ております」


◆ 第二章 蜂起

ナリスは主だった顔ぶれを前に語りはじめた。
「我々が動く時がそこまで迫っています。動いたからには素早く――アルゴスとアグラーヤが何も出来ない内にね。今までの中原の情報によるとその知らせは遠からず訪れます。さらに都合のよいことにファーンはマルガの別荘にいます。国王派に出来るだけ気取られぬように軍勢を集結させ、まずファーンの身柄を拘束した後――リギア、くれぐれもファーンには失礼の無いようにしてくれたまえ。――それを合図として、マルガより兵を挙げ、クリスタルへと進軍します。それと同時に、ギールたちを消す。これはヴルスに任せます」
ナリスがヴルスに目をやるとヴルスは目でうなずいた。
「恐らく、私の軍勢がクリスタルに到達する前にレムスも軍勢をさし向け、アラインあたりで両軍はぶつかる事になるでしょう。後続のカラヴィア軍が到達するその少し前に、やって欲しい事があります」
ナリスは再びヴルスを見た。
「その時、国王派の軍勢の総司令官はオヴィディウス聖騎士候、そしてクリスタルを指揮するのがリーナス伯になるのは間違いない。そこでヴルス――あなたの出番がやってきます。まずオヴィディウスを――」
ナリスはすうっと自分の首に手のひらを横に当てた。
「混乱している国王軍に後続のカラヴィア軍とともにこれを攻撃します。もちろん我々が勝ちます。いったん国王軍はクリスタルに籠城するでしょう。しかし、堅固なはずのクリスタルもランズベール候が我々の味方、一気にクリスタルへ突入します。その直前に、リーナスを」
ナリスの目が細くなった。
「近衛長官と官房長官の二人をここぞという時に失えば、彼らはさぞ慌てふためくでしょうね」
ルナンが悠然とした態度で、
「勝ったも同然ですな」
と、勝ち誇ったように云った。
「当然、勝ちます。しかし、そうなると彼らも後がないから激しい抵抗をするでしょう。できればあまり犠牲者を出したくありません。今後、私の軍勢になるわけですから。ヴルス――できれば、混乱の隙に乗じてレムスを亡き者にしてくれるとありがたいね――無論、王の警備となると厳重でしょうが」
「二人は必ず。レムス陛下については、恐らく向こうもヴァレリウスが側に控えていますでしょうし、もっといるかも知れません」
「まあ、チャンスがあったらでいいですよ。どのみち彼らには逃げ道はないのですから――。それから、アルノーとディランには私の護衛と連絡のためについてもらいます。恐らく向こうも最後は起死回生の手段として、私を暗殺しようと狙ってくるだろうから」
「かしこまりました」
「ナリスさま」
リギアが不安そうに云った。
「ナリスさま。――パロ魔道師ギルドは国王側につくのでございましょう」
「だろうね」
ナリスはあっさり云った。
それを聞くとリギアははっとした。
「そ、それでは。そうなれば、何人もの上級魔道師が出て参りましょう。こう云ってはなんですが、アルノーやディラン、ましてや下級魔道士たちでは歯が立たないでしょう。それではナリスさまの身が危ういのではありませんか」
「ははは。危ういどころか、確実に私は彼らの手にかかるだろうね」
それを聞くとルナン候が慌てた。
「ナ、ナリスさま――」
「心配無用だよ、ルナン。そのために、既に自由魔道師ギルドと接触し、上級魔道師を2人と一級魔道師を9人雇い入れています。特に防御能力の優れた魔道師たちをね。残念ながら、自由魔道師ギルドからはそれ以上雇えなかったよ。攻撃力の強い魔道師二人と防御能力高い魔道師一人は少しの差で、誰かに雇われてしまったようでね。まあ、そのためにヴルスがいる」
(ケイロニアは動かぬ。あの国はあまりにも巨大になりすぎて自ら動くことをためらう。特にグインのいない今は動かぬ。――危ないのはイシュトヴァーンだ。あいつは狂犬だ。見境無く、いつもぎらついた目で獲物を狙っている。イシュトヴァーンさえ――しかし、それももうすぐだ)
ナリスはすっと立ち上がると全員に向かって右腕を差し出した。
「さあ、始まるぞ。――ヤーンよ、私の手のひらで踊るがいい」


アルセイスでの市民たちの平和な日々は長くは続かなかった。
あれほどタルーに熱い思いを向けていたネリイはユラニア大公になった途端にタルーを顧みることなく、また以前のように若い男あさりの日々が続くようになった。
初めは我慢していたタルーも遂に堪忍袋が切れた。
(ネリイのやつ、俺を馬鹿にして――。許さんぞ)
タルーはクム本国と密かに連絡を取り、ユラニア国境にクム軍を7万を集結させると、アルセイスでネリイ大公の行状を告発し、自らの手兵二万でクーデターを起こした。
それは、ユラニアを顧みることなく遊び呆けて、ユラニアの人心失っていたネリイには致命的であった。
まさかと思っていた重臣のなかからもタルー側につく者たちがあらわれ、ネリイは一万の兵に守られてアルセイスを脱出し、いったんガザまで落ちのびて、ガザ守備軍を加え体制を立て直した。
さらに各地に自分の元に集まるようにとの使者を飛ばし、モンゴールへも何人もの使者を次々と繰り出した。

これを待ちかまえていたかのように、国境からはクム軍八万がアルセイス向けて怒濤の進撃を開始した。
アルセイスでのクーデターに右往左往していたユラニア軍は、この青天の霹靂のクム軍の侵攻をくい止められずに次々と各都市の砦は陥落し、ガザは四万のクム軍に包囲され、残りの四万のクム軍はアルセイスに入城した。
各地から集まった、ユラニア軍はアルセイスに籠城する六万のタルー軍には歯が立たない。

クーデター直後にクム軍が動くとの知らせは、早馬にてトーラスにもたらされた。
ユラニアの急使はアムネリス大公に密書を届けると、ネリイ大公の援軍要請を願い出た。
すぐさま、トーラスでは御前会議が開かれ、モンゴールはユラニアを援護することを裁決し、また中原各国にはゴーラ内の内政として不介入の声明文を各国に飛ばした。
クム国ルーアン侵攻軍五万はイシュトヴァーンを司令官、副司令官アリオン黒騎士団団長、参謀はヨナ卿、そしてユラニア救援軍五万は司令官はマルス青騎士団団長、副司令官にルキウス伯爵、参謀にアリストートスと決まり、翌日トーラスを発った。
カメロン左府将軍はこの間のモンゴールの防衛を一任された。


◆ 第三章 開戦

ちょうどその頃、パロ。
ついにその日は来た。
ゴーラの内紛勃発の知らせを受け取るとナリスはただちに動いた。
日も明け切らぬ早朝、リギア隊がベック公の別荘を急襲しベック公の身柄を拘束すると同時にヴルスによってギールたちはあっさり葬られた。
ナリス軍はカラヴィアに派遣している魔道士に連絡をとると供に、クリスタルへ向けて進撃を開始する。
ナリス謀反の知らせは直ちにクリスタルに届き、その日の内にオヴィディウス聖騎士候を総司令官とするナリス討伐軍3万がクリスタルを発ち、夜中に、アラインに到着すると、防衛ラインを築いた。
翌朝、サラミス軍やカレニア騎兵隊を加えたナリス軍1万6千はほとんど抵抗も受けることなくアラインの手前五モータッド前に陣をはった。
援軍のカラヴィア軍三万と傭兵隊五千の到着は早くても半日後になるとナリスの元に魔道士を通して連絡が入る。
同様に国王側は各地に速やかに早馬が飛ばされ続々と地方守備隊がクリスタルに到着し、マルティニアス聖騎士伯、タラント聖騎士伯ひきいる二万がクリスタルを発つ準備で大わらわである。
クリスタルを防衛するのはランズベール軍三千、ネルヴァ軍二千、クリスタル護民軍二千、クリスタル騎士団五千、近衛兵一万とダーヴァルス聖騎士候が指揮する残りのパロ聖騎士団五千の合計二万二千である。
が、国王側はまさか、ランズベール軍すべてとクリスタル騎士団から二千が寝返るとは思っていない。
また、ロイス護民長官もクリスタル護民軍を抜けだし、自分の手勢百人をもってナリス側につくことになっていた。
クリスタル・パレスの水晶宮に臨時にもうけられた謀反軍討伐対策室ではレムス一世を初めとしてリーナス宰相やヴァレリウス副宰相、ランズベール候、ネルヴァ候、ダルカン聖騎士候、ギリウス聖騎士伯、ルシウス聖騎士伯たちが鳩首を集めて会議をしていた。
「以上が謀反軍の動きでございます」
ヴァレリウスがこれまでの経過を説明した。
「明日中にはさらに各都市より援軍として一万は集まる予定で、これはパロ騎士団に組み入れられダルカン聖騎士候が指揮を取られ、明日、ダルカン殿とルシウス聖騎士伯が近衛隊から五千、増援部隊として派遣されます。現状は国境警備隊は動かしません。さらに、遠距離の各都市からも五千は集まるかと思います。――また、地方に戻っている聖騎士候や聖騎士伯も戻るればさらに五千は確保できます」
レムスは二ヵ月後に迫ったアルミナ姫との盛大な婚礼を前に不機嫌な顔であった。
ヴァレリウスはちらっとレムスの顔を見ると続けて状況を説明する。
「半ザン前にアラインにいる魔道士から連絡が入り、間もなく、オヴィディウス聖騎士候殿がカラヴィア軍が合流する前のナリス軍に攻撃を開始するとのことです。三万対一万六千ですから上手くすればここで、謀反人ナリス殿の首級を挙げることも出来るでしょう」
ダルカン聖騎士候が口をはさんだ。
「向こうには老かいなルナン殿もいれば、ワリスもおる。そう簡単にはいくまい」
「さようでございます。それは戦況がすべてこちらの思いどうりに進んだ時のことですから、初戦で決着がつくとは思っていません。あくまでも、想定です。明日、マルティニアス殿の二万、さらに明後日、ダルカン殿の二万が加わればわが軍の有利は動きません。謀反軍はこれ以上、兵力が増えることが無いのに対して国王軍はまだまだ増援できます」
「うーん、これは楽勝だなあ」
何とも言えないのんびりした態度でリーナスが云うと、レムスはしぶい顔をした。
「なめてかかると痛い目に合うぞ。くれぐれも油断無きように」
と、戒めるように云ったがリーナスは意に介さない風であった。
ヴァレリウスはかるく頭をさげると、
「もちろんそのようなことは無いように各軍には伝えております」
(リーナスさま、この場で迂闊な発言は困ります――どうか、お控え下さいませ)
そのヴァレリウスの願いが通じたかどうか、その後リーナスはそれなりに宰相らしい態度に始終し、会議を終えると、レムス一世やランベール候たちは出ていった。
残ったのはリーナスとルシウス聖騎士伯とヴァレリウスの三人になりさらに詳細をつめた。
半ザン後、リーナスはにこやかな表情で邸宅へ戻っていた。
謀反軍討伐対策室にはルシウス聖騎士伯が詰めることになり、ヴァレリウスは副宰相政務室へと向かった。
(ふむ。今のところはこれで良し。あと問題はランズベール候か――。ランズベール候はナリス派の筆頭だったはず。何食わぬ顔をしているが、今回の謀反に名を連ねないわけがない。これはよくよく誰かに監視させる必要があるな。怪しい動きを見せたらすぐさま亡き者にした方が無難だな。そちらはロルカ殿の配下の魔道士にお願いすることにしよう)


――サイロン。
パロの反乱とゴーラ三大公国の騒乱は直ちに、各地からの急使の知らせが届いた。
黒曜宮には、サイロンに滞在していた十二選帝候や十二神将や主だった重臣たちが集められた。
「何と云うことだ。パロでクリスタル公が謀反を起こしただけでも信じがたい事なのに――ゴーラでも三国が同時に騒乱状態になったとは」
アキレウス皇帝は思わず上を見上げた。
「陛下」
ハゾスは、立ち上がりテーブルに大きく広げられた地図を棒で何カ所か指し示すと、
「直ちに、ケイロニア国境のアレイユにサルデス候騎士団、アトキア候騎士団合計2万、同じくブランにランゴバルド候騎士団、及び白虎騎士団合計2万、さらにワルスタットにワルスタット候騎士団、白蛇騎士団合計2万を派遣するとともに、サイロンはフリルギア候騎士団、ツルミット候騎士団、ダナエ候騎士団ローデス候騎士団を収集し、金狼騎士団、銀狐騎士団、金猿騎士団には臨戦態勢で臨ませます」
「現在のケイロニア総力は45万。国内に徴集をかければ三日以内に60万に達することが可能です」
「うむ。パロ、ゴーラが内紛で疲弊しているところに、わがケイロニアが乗り出して国内防衛に20万を残したとして、パロに10万、ゴーラに30万を送れば収拾はつくだろう。が、その時はパロ、ゴーラともこの地上に存在することは無いであろう。そこまではしたくはない」
「御意」
「グインがおればのう。豹めなら、そのような事態にならぬ方向に持っていけるのだろうがわしには、思い浮かばん。――いない者はいかしかたがあるまい。今は国境を厳重に監視し守り、両国の様子を見てみることにしよう」



―― 第五話につづく ――


・コメント
グイン・パラレル・ワールドです。
う〜ん、戦争物になっている、しかも安易な展開だ、困った^^;
グインはシルヴィアとマリウスたちとノスフェラス横断中で中原に向かっている途中です。
次か、その次ぎが完結の予定ですから、グインはぎりぎり間に合うかな^^;


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