●「未来を見る者」(レムス、中原統一す・その1)
第1章(聖双生児)
リンダとともに〈パロの真珠〉と呼ばれたレムスも、カル・モルの霊にとりつかれてからはその面影はなく、かろうじて王という名の下にその威厳を保っているものの、その人望は深い深い海底に頭から突き刺さったまま浮上せず。
リンダはそのたぐいまれな予知能力をして、パロ史上最大の予言者〈処女姫リンダ〉に匹敵すると見られていた。
しかし、本当に特異なのはレムスだったのをパロの人々は知るよしも無かった。
アルド・ナリスさえ――。
リンダとレムス、ともにプラチナブロンドとヴァイオレットの瞳を持つ。
パロ王家では、王家創設以来、黒髪以外の男は存在しない。
第2章(ナリス謀反)
「ふふふ、やはりな」レムスは低くつぶやいた。
パロ国王軍とナリス軍との戦いは国王軍有利に展開しつつある。
レムスの前にベック公とリーナス副宰相が控えている。
「ファーン、必ずナリスを討て。わが前に首を」
「はっ、パロ聖王レムス一世陛下」ベック公は身を翻すと広間より下がった。
ベック公が聖騎士団を率いて出撃してから3ザン後、リーナス副宰相が血相を変えて駆け込んできた。
「へっ、陛下、一大事にございます! イ、イ、イ――」
「何事だ、騒々しい。ナリス謀反以外の一大事などあるものか」
リーナス副宰相は口から泡を飛ばしながら叫んだ。
「イシュトヴァーンが、ゴーラ軍がユノに攻め込んできたと、ただいま知らせが――」
第3章(苦戦)
「くっ、まずいな」レムスは唇をかみしめた。
昨日ユノは陥落しゴーラ軍はケーミに迫りつつあった。
「リーナス、お前が出向きゴーラ軍を防げ」
「えっええ、わ、わたしがですか」
「お前以外、誰がいる。時間を稼ぐのだ、やがてアルゴスから援軍が来る。それまでは――」
ふるえる手を押さえながらレムスは椅子に座り込んだ。
「遅い! アルゴスの援軍はまだ来ぬのか。わがパロ王家とアルゴス王家とは、アルゴス建国時からの親戚ぞ。黒竜戦の時といい、今度もまたか」
「陛下、申し訳ありません」アルミナがそっとレムスの手を握りしめた。
「アグラーヤが山々に囲まれていなければ、速やかに援軍を出せたでしょうに」
アルミナのほほを涙がつたわる。
「すまないアルミナ」
第4章(絶対絶命)
遂にクリスタルパレスはゴーラ軍に包囲された。
イシュトヴァーン率いるゴーラ軍はパロ軍をさんざん打ち破り、リーナスは命からがらクリスタルに逃げ込んだ。
(役ただずが――)
レムスはテラスより外を眺めた。
「すべて敵か」
優勢だったベック軍も背後よりゴーラ軍の攻撃を受けて苦境に陥っている。
アグラーヤ援軍1万とアルゴス軍3万はナリス軍に阻まれて北上出来ないでいる。
「これまでか、もはや時間の問題だな。あと何日持つか――3日、いや2日か」
それほど、ゴーラ軍の勢いは凄まじかった。
第5章(急展開)
遙か遠くで動きがあった。
「陛下、陛下っ〜」
リーナスが駆け込んできた。
「なんだお前か」
レムスは胡散臭そうに見た。
「いまさら騒ぐな」
「それが――」
その時、見覚えのある顔が現れた。
「陛下、ただいま戻りました」
ベック公がひざまづいた。
無数の傷がある。
「おおっ、ファーン、いかがした」
「はっ、ナリス軍は壊滅しました。また、南を包囲していたゴーラ軍は蹴散らしてございます」
「な、なんと、ナリス軍が壊滅と? 苦戦していると聞いていたが」
「謀反人アルド・ナリスは、、、死にました。命、燃え尽き、ドールに魂を飲み込まれたと存じます。
ナリスを追ってヴァレリウスも自殺したとのことです。このことが、広まると反乱軍はあっと云う間に消え、アルゴス軍、アグラーヤ軍と我がが聖騎士団はゴーラ軍を打ち破りましてございます」
レムスの顔がぱっと明るくなった。
「そうか、さすがはファーン、ベック公だ。ゴーラ軍を破るとは――。リーナスに爪の垢でも飲ませたいわ」
レムスは後ろを振り返った。
「それにしても、ナリスが――これが天命なのか」
第6章(ゴーラの殺人王)
ゴーラ軍はクリスタルより一時的に撤退した。
「あのひとが――あのひとが死ぬなんて。嘘だろう」
イシュトヴァーンは声にならぬ叫びをあげた。
「イシュト、これを機会にパロと休戦するんだ」
カメロンはイシュトヴァーン肩に手をかけた。
「あの人と約束したんだ」
イシュトヴァーンはその手を振り払った。
「約束したんだ。俺はゴーラの王に。あの人はパロ聖王にと――。あのひとの果たせなかった夢を――」
ゴーラ軍はさらにゴーラ王国内まで退却して、新たに体制を整えた。
その軍勢20万。
ふたたび、黒い濁流は動き始めた、クリスタルへと。
アルゴス軍、アグラーヤ軍はともかく、パロ軍は全軍結集しても5万人しかそろわなかった。
「3軍併せても9万、向こうにはイシュトヴァーンがいる」
第7章(決戦前)
太陽は中天近くに昇った。
連合軍9万とゴーラ軍20万はユノ砦10モータッド郊外で向かい合った。
イシュトヴァーンは剣を抜き頭上にかざした。
「いいか、ゴーラの強さを奴らに思い知らせろ。前進!」
と、その時、凄まじい勢いで伝令が駆け寄ってくる。
「ウラー、ウラー。 でんれいっー」
「何事だ」
「報告、西よりケイロニア軍とおぼしき軍勢が20モータッド先に出現。その数、およそ10万。ケイロニア王が自ら率いているとのことです」
「な、なにぃ――ケ、ケイロニアだと――グインか」
イシュトヴァーンは馬上から西の方角を見つめた。
無論、ケイロニア軍は見えない。
「――グイン。――俺の敵になるんだろうな――はっははは」
騒々しい中に笑い声が響く。
「そうか、そうなのか――やはりあんたは俺の前に立ちはだかるというのか」
「そうさ、俺はいつだってばくち打ちさ。こうなったら全部まとめて相手してやる。中原すべてをこの手の中に――」
第7章補足(決意)
レムスはスカールが部族とともにクリスタルを出るのを見送ったのち、しばらく考え込んでいたが、エウリウス男爵を呼び寄せると、
「エウリウス、余もこれからゴーラとの決戦にのぞむ。近衛騎士団軍を揃えるように」
エウリウスは青ざめた顔をして広間を下がった。
リーナスは必死の形相でレムスにすがりついた。
「陛下!陛下――お願いです。……ここに――」
レムスはなおも食い下がるリーナスを振り払った。
「くどいぞリーナス」
「しかし陛下が御身図から出陣するのは危険すぎます」
レムスはリーナスを見下ろすと、
「安全な戦などあるものか。いま、行かずしていつ行くのだ?」
「ですから、陛下はクリスタルで状況――」
「愚か者!」
レムスは一喝した。
「国境警備隊を除けば、各都市にわずかな兵がいるだけで、現在、まともに動かせる軍勢は近衛騎士団のみ。それとて、この戦でイシュトヴァーンが勝ちを納め、クリスタルを攻め込まれたら何の役にも立たぬわ。今こそ、われが自ら先陣にたつこそが、全軍の志気を高め、勝利を招くことが出来ると云うもの。この戦いに勝たずしてパロの未来は無いと思え!」
レムスはリーナスを振り払うと、供の者と広間を出ていった。
取り残されたリーナスはしばらくの間、唖然としていたがはっと我に戻るとレムスの後を追った。
「へいかぁあああ。お持ちを〜」
第8章(決戦)
グインはケイロニア12騎士団を主力に10万の軍勢を率いて、連合軍に合流した。
「これはケイロニア王、かたじけない」ベック公は深々と頭をさげた。
さらに、アルゴスからはスカールが自分の部族とともに姿を現した。
(ナリスがいない今、俺には思いとどまるものはない。リー・ファよ――)
こうして、ゴーラ軍20万と連合軍20万は殺気みなぎる中で激突した。
第8章補足(戦場に散る)
血、血、血――大地はとどまることなく戦士達の血を吸い続ける。
阿鼻叫喚、まさに地獄絵図。累々と軍馬に混じり果てしなく戦士達の屍が連なる。
イシュトヴァーン自身はケイロニア軍と2回戦ったが戦況はおもわしくなかった。
「戦況は?」
馬上からイシュトヴァーンは尋ねた。
ゴーラ禁中軍副司令官は気まずそうに答えた。
「世界に冠たるケイロニア軍の前に我がゴーラ軍は押されております。」
「相手を誉めてんじゃねえ!」
「はっ、パロ、アルゴス、アグラーヤ連合軍に対しては、有利だったものの、パロのレムス一世が出陣してからは押し返されております。現在、カメロン殿がなんとか持ちこたえておりますが――」
「そんなことはいい、数字を云え。」
「はっ――死者2万5千、負傷者4万を越えました。残念ながら、全滅でございます。もはや戦いを継続することは困難かと思われます。」
「馬鹿野郎! まだ10万以上もいるのに何が全滅だ。ふざけるなぁあああ。苦しいのは奴らも同じだ」
「恐れながら、現在戦っている兵たちも疲労困ぱい著しく、このままでは我がゴーラ軍は壊滅するは明らかでございます。まだ、ゴーラ国内には20万以上の無傷の軍勢がおります。ここはいったん引き上げて、建て直しをはかるが賢明かと――」
「ええい! だまれ。次などは無い」
(まずい――なんかいい手だてはないか)
イシュトヴァーンは空を仰ぎ見ていたが突然、「マルコ行くぞ!」
それを聞くとあわててゴーラ禁中軍副司令官はイシュトヴァーンに取りすがった。
「お、お待ちください」
イシュトヴァーンは足にしがみつくゴーラ禁中軍副司令官を蹴り倒した。
「ゴーラ旗本隊、及びゴーラ第一騎士団はこれより、ケイロニア本陣を突く。グインの首をあげればこの戦いは勝つ。目指すはグインの首ひとつ。いくぞぉおお」
「おっおおおお!」
イシュトヴァーン以下1万5千の軍勢は主戦場を避けゴーラ寄りに迂回してケイロニア本陣を目指した。
「トールあれは?」
アダン白虎将軍が率いる白虎騎士団が戦場より戻る中、グインは遠くを見つめながら云った。
入れ違いにバルファン率いる千猿騎士団が戦場へ向かう。
まもなくトールの元に戦況監視部隊から伝令がやってきた。
「ゴーラ王率いる軍勢が、他の戦いには目もくれず、ケイロニア本陣を目指しています。およそ、1万5千と思われます」
トールはそのことをグインに伝えた。
「随分と無茶なことをしてきますね。ここには5万からのケイロニア軍がいるというのに。いよいよせっぱ詰まったということですかね」
「うむ――トール、行くぞ」
「へい、豹頭王。かたをつけましょうぜ」
トールが部下に命令を伝えていると横から、
「王よ、それはなりませぬ」と、ハゾスがグインに進言した。
グインは後ろに止めてある馬に歩みかけていた足をとめるとハゾスに云った。
「われを案じるその方の気持ちは有り難く思う。が、イシュトヴァーンに安らかな死を与えることが出来るのはわれひとり――その時この戦いは終わる。トール近衛長官、アルマリオン金狼将軍参るぞ」
ハゾスはゼノン金犬将軍とダルヴァン白蛇将軍に目配せをした。
「出過ぎたまねでございました。このハゾス、そこまで考え及びませんでした。しかし、イシュトヴァーン王の軍勢も少なからず、このダルヴァン白蛇将軍の白蛇騎士団もお供させてくだされ」
「――うむ、好きにするが良い」
グインを先頭にケイロニア近衛軍、金狼騎士団、白蛇騎士団は遙か彼方にもうもうと土ほこりをたてて
近づいてくる軍勢に向かって行った。
ゼノンはグインたちが出撃するのを確かめると、
「ハゾス殿、アダン白虎将軍、あとをよろしくお頼み申します」
ハゾスは「うむ、王を頼む」と、意味ありげな顔をして云った。
血煙に感覚が麻痺してきた。剣を持つ腕も鉛のように重い。
(つうっ、さすがケイロニア。ユラニア、クムとは較べものにならねえぜ。――またしても、押されているじゃねえか)
全身血にまみれたイシュトヴァーンは血で染まったマントをはずすと投げ捨てた。
「ちきしょう、それにしてもグインはどこにいやがる」
ぎらぎらした目で周りを見回す。
イシュトヴァーンの周りにはわずかに五百ばかりの旗本隊がいるばかり。
既に敵味方入り乱れての白兵戦の模様をなしている。
「くそっー。雑魚には用はねえ。グインをだせぇええ」
マルコはイシュトヴァーンに馬を近づけると云った。
「イシュト、増援部隊が間もなく合流します。それを見計らって、ここはいったん本陣へ」
「くそっ、しかたがない」
イシュトヴァーンはぺっと唾を吐き捨てた時、
遠く、一団の軍勢がイシュトヴァーンめざししてくるのが目に入った。
「あれは? おおっ――」
まさしく先頭にいるのは豹頭の姿。
「グイン――グインだ、いくぞマルコ」
イシュトヴァーンは歓喜に武者震いし、力が再びみなぎるのを感じた。
と、イシュトヴァーンとグインの間にどどどっとゼノン率いる金犬騎士団が割って入った。
あっという間に人馬の壁ができた。
見事な体躯をした戦士が一騎、前に進み出た。
「残念だが――イシュトヴァーン王よ、ケイロニア王と剣をまじわす事はかなわぬ。ここが死に場所と知れ」
ゼノンの右手がさっと挙がると5千の金犬騎士団がイシュトヴァーンを襲った。
「きさまっ、じゃまするかっ」イシュトヴァーンは叫んだ。
黒い大波がイシュトヴァーンたちを襲う。
マルコは素早く部下に一言云うと、イシュトヴァーンの前に残る旗本隊を全面に出した。
イシュトヴァーンは自分を10人ほどが囲んで馬の手綱をつかみ馬の方向を変え始めると、驚いて叫んだ。「お、おまえら何をしているのだ」
マルコはイシュトヴァーン向かって何かを云った。
「マルコっー」イシュトヴァーンの叫びは喧騒にかき消された。
マルコは襲いかかる金犬騎士団に向き直ると、旗本隊とともに突っ込んでいった。
ゆっくりと敵の姿が大きくなる。
血と汗と涙が後方に飛び散る――。
マルコは剣を振りかざした。
「させるかー」
(以下、56億37文字省略)
延々と広がる血染めの大地、さらにそれらを赤く染め上げる夕日に浮かび上がる豹頭の姿。
第9章(未来への道)
中原大戦争終結後、レムスは反乱に与した主要人物を次々と粛正し、パロ国内の政や式典をふたたびパロ古式に戻した。
さらに大改革を実行するため、リンダを絶対予言者とし、オー・タン・フェイ私塾から若き天才ヨナ・ハンゼを大抜擢した。
そのむかし、パロ建国王アルカンドロスが〈処女姫リンダ〉とアレクサンドロスをもちいて、魔道王国、闇王国パロスから近代国家パロへと変革したように、レムスもまた、リンダとヨナをもちいて魔道王国への変革を歩み始めた。
のちにパロ中興の祖としてパロ聖王レムス一世の名は語り継がれることになる。
パロの基礎となった闇王国パロス、それを築いた大魔導師パロス。
その髪はプラチナブロンドにて瞳はヴァイオレットに輝く。
・コメント
『レムス、中原統一す』『レムス、中原統一ならず』シリーズ?の第二弾です。
1999年8月に「グインの小部屋」にカキコしたパロディです。
私が書いた最初のグイン・パロディです。
当時の掲示板のカキコに触発されて3時間ほどで書き上げました。
第7章補足(決意)と第8章補足(戦場に散る)は、その数日後に書き上げ、やはり「グインの小部屋」に投稿しました。
いやあ、当時は怖いもの知らずでした^^;
しかし、レムスとリーナスが現在(74巻時点)この様に変わるとは思ってもみませんでした(涙)
(2000/09/17)