●「此処より永遠に」(レムス、中原統一ならず・その1)
時はすべてを巻き込み、何事もなかったかのように流れゆく。
聖王歴3012年。
中原を恐怖におとしめた、パロ内乱から一年余。
地上にパロ聖王は存在せず、そしてクリスタル公もまた――。
それでもパロ国内は疲弊しきった戦乱から徐々にではあるが復興しつつあった。
パロはパロ大乱終結後、臨時にベック公を筆頭とする重臣の合議議会でこの困難を乗り切ろうと懸命の中、、隣国ゴーラ王国が隙あらばとパロを窺い予断を許さない状況下で、ケイロニアのゴーラに対する強い警告が無ければイシュトヴァーンのゴーラにパロは蹂躙されていたであろう。
――雲は流れてゆく。
テラスからクリスタル・パレスの街並みを見渡していたベック公は深い溜息をついた。
未だ再建されず黒く焼け跡の残るランズベール城。
(――誰もいなくなってしまった。しかし、パロは存在する。ここにある。我々、人がいる限り、
どんなに国が荒れようと、しかし――)
背後にネルヴァ候が近づいてきた。
「ファーン殿――また、お悩みですか」
この一年でめっきり老けたネルヴァ候。
この数ヶ月間というものは、下はパロ国民から王族まで寝る時間も惜しんで国の再興に力を注いだ。
(恐らくは俺もそうなのだろう)
「シリウス殿、本当に大丈夫なのだろうか」
ベック公はネルヴァ候に聞いた。
「ご心配で? 罠ではないかと?」
それを聞くとベック公は軽く頭をふった。
「いいや、そうではありません。ケイロニア王グイン殿は誠実なお方です。信頼するにあれ以上の人物はいないでありましょう」
「――そうですな。ケイロニア王の働きが無ければ我々もここにこうして今立っていられた事やら――」
(レムス、リンダ、そしてナリス)
いいや彼らだけではない。
マール公、ランズベール候、ルナン候、オヴィディウス、リーナス、――リギア。
ダルカン聖騎士候、マルティニアス聖騎士伯、タラント聖騎士伯、ローリウス伯、ロイス護民長官――。
体調を崩していたダーヴァルス聖騎士候も先月末に亡くなり、ヴァレリウスは行方知れず。
この内乱で、パロ聖騎士団二万人と十万人に上るパロ国民が大地に血を流した。
(蘇るともパロは――これだけ多くの血を流した代償にこのまま滅ぼさせてなるものか)
ベック公は唇を噛みしめた。
眼下でのクリスタル市内は大勢の人々で埋め尽くされている。
大勢の人々が両手に旗を振りかざして、しずしずとアルカンドロス広場をクリスタル・パレスに向かって進みゆく行列に声をかけている。
右手にはパロの旗、そして左手にケイロニアの旗。
行列の先頭は、金狼将軍アルマリオン率いる金狼騎士団五千、その次には白い豪華な馬車を囲むように、アウレリウス聖騎士候率いるパロ聖騎士団、最後に千蛇将軍ダルヴァンの白蛇騎士団が続いている。
馬車の右の窓からは、人々の歓声に応え女性がかろく手を振る、そして左の窓からは――。
(帰ってきた。帰ってきたのだ。もうこの地を踏むことは無いだろうと思っていたクリスタルへ。
――ボクは本当に戻ってきたのだ)
人々の口からは新国王の名が呼ばれていた。
「ディーン国王万歳」
「新パロ国王万歳」
「アル・ディーンさま」
アル・ディーンは少しこわばった絵が顔で人々に応える。
傍らにはオクタヴィアと三歳になるマリニアがいる。
「マリウス――ああっ、もうマリウスではないのね。パロ国王アル・ディーン」
オクタヴィアは嬉しそうに云った。
「君はこれで良かったのかい? ケイロニアの方が安全につつがなく暮らせると思うけど」
「いいえ、これでいいのですわ。ケイロニアはシルヴィアの国、私たちがいればケイロニアに要らぬ混乱を招く原因になります。ここはあなたの故郷。あなたが生まれ育った国ですもの」
(あまり良い想い出はないけどね)
アル・ディーンは回りには聞こえないようにつぶやいた。
「それに私たちの後ろではケイロニアとそしてグインが後押ししてくれている。パロの人々も皆温かく迎えてくれている。
なんて云ってもパロの青き血が一番濃いのはあなたですから。心配事があるとすれば、それはあなたのこと。宮廷生活に耐えられなくなって、どこかにいってしまわないかと」
アル・ディーンは目を大きく開くとあわてて否定した。
「そんなことをするものか。美しい奥さんと可愛い娘を置いて旅に出るなんて」
それから、半年。
パロ王アル・ディーン新国王はパロの重臣や国民の期待と応援に励まされ、
そしてオクタヴィアの叱咤激励に応えてパロをなんとかまとめつつあった、ある日――。
血相を変えたベック公が入ってきた。
「王妃! これはいかがしたことか」
オクタヴィアも真っ青な顔をして立ちつくしていた。
「ああっ、ディーンが――ディーンが――あの人は行ってしまったわ」
オクタヴィアの後ろでは小さな、マリニアがオクタヴィアのドレスをしっかり握って離さない。
あまりのオクタヴィアのうろたえようにベック公は仰天し、かえって落ち着きを取り戻した。
「王妃、オクタヴィア王妃、落ち着いて下さい。ディーン国王の放浪癖が再発したわけでは無いのですから」
そうは云ったものの、ベック公は右手に握りしめている手紙の内容を思い出すと、深い溜息と内心、多少の怒りがこみ上げてくるのはどうしようもなかった。
『親愛なる従兄弟。ベック公ファーン殿
パロ重臣の懸命なる努力と奮闘により、またパロ国内も国民一丸となりし働きでパロ国内は驚くばかりの盛況を見せている。
ここに、アルドロス四世ディーンは、ひと月ほど、身分を隠し国内の巡幸をすることにする。
余のいない間のことは、ベック公とネルヴァ候に任す。
心配しなくてもボクは大丈夫だよ。ひと月したら戻るから探さないでね。じゃあね。
吟遊詩人マリウス
山羊年、緑月、ルアー旬、三日。』
(ああ、ディーンは本当に現状を理解していないのだな――。今が一番重要な時期だというのに。今、宮廷重臣やパロ国民に動揺を与えてなんとする。
いやいや、このことは極秘中の極秘。早々に捜索隊を手配しなくては)
目に入る限り、どこまでも広がる平野。
ほど遠くないところにマルガ湖から流れ出る川が大地を潤し、木々には美しい花が咲き乱れている。
湖畔には、豪華な別荘があちらこちらに見える。
「ああ、このあたりは争いに巻き込まれることなく、本当に昔のままだ――」
ディーンは、馬の背に揺られて美しい景色と晴れやかな天気の下で我知らず歌を口ずさんでいた。
『時はながれど、大地は変わらず
ただ、人のみが幸せと悲しみをうたう
知りたるあの娘も今いずこ
花は散り、鳥は去りゆけど
いつの日にか また戻らん』
「歌ったのなんて、何十年ぶりだろう。クリスタル・パレスに来てからと云うもの、やれ政治だ、外交だ、と、まったくボクには不向きな事ばかり。例え、紫のビロードのマントを羽織っていようともボクの魂は吟遊詩人なのだから」
ディーンを乗せた馬はゆっくりと、このあたりでもひときわ豪奢な別荘へ近づいていった。
「本当に、懐かしいな」
ディーンの顔は自然にほころび瞳は輝き、まさに生き返ったかのようにうきうきしていた。
(ここは、ボクと兄さまと過ごした、想い出の故郷。悲しく辛い想い出も多いけれど、今思うとあの頃の僕たちは幸福だったのかしら)
そんな、昔の想い出を噛みしめながら、ディーンは固く閉ざされた門の前に止まった。
「何もかも昔のままだ。変わっていないな」
(かなり雑草があるけど、仕方がないか。もう主はいないのだから)
そのまま、ぼんやりとあれこれ考えている時、いきなり声をかけられたので、ディーンは驚いて馬から落ちそうになり慌てて馬のたてがみにしがみついた。
「あわわわわっ!」
ディーンは必死に体勢を取り戻すと唾を飲み込み、安堵の溜息をついた。
「もう、驚かさないでよ、急に声をかけるのだから」
ディーンは声のした方に頭を向くと、そこには五十がらみの男が立っていた。
「――ディーン様? もしや、アル・ディーン国王陛下ではございませぬか」
思わぬ男の言葉に再びディーンは馬上で飛び上がり、今度こそ馬の背から転げ落ちてしまった。
「つッ――ッ」
男は慌てて駆け寄って来ると、ディーンが立ち上がるのを心配そうに助けた。
「だ、大丈夫でございますか。申し訳ございません」
男は恐縮して平謝りに頭を下げた。
が、ディーンの方はそれどころではなかった。
(まさか、こんな所でボクを知っている人間がいるなんて――ここに来るまで少しでもボクに気づいた素振りを見せた人なんかいなかったのに――パロに戻ってからボクは宮廷の中でうんざりした生活を送って、外に出たことさえあまりなく、ましてやクリスタルを離れたことさえないのに――それに、ボクが昔パロを出奔したのは――ああ、あれはもう十年前になるんだもの、一般の人なんか誰もボクを知っているはずはないのに。まだクリスタルを出て一旬も過ぎていないのにもう見つかってしまってクリスタルへ戻されるの?)
ディーンは男を危ぶむかのように様子を盗み見た。
そんな、ディーンの心情も知らずにか、男は再び口を開いた。
「間違いない、ディーン様ですね」
(チッ)
ディーンは心の中で舌打ちした。
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「お忘れでございますか。ナリスさまとディーンさまがクリスタルに行かれるまで、マルガでお仕え致しましたガンでございます」 男は懐かしそうに、そして嬉しそうな声をあげた。 「……」 「ディーンさま、あっ、失礼しましたディーン国王陛下、どうしてこの様な所へ」 ガンは不思議そうな顔をして尋ねた。 (そうか、クリスタルでは――ベック公やネルヴァ候はボクを信用して黙っていてくれたんだっけ) ディーンは一人納得していた。 (よしよし) そこで、ディーンはクリクリした目で改めて男の顔を見つめた。 「えっーと」 「ガンでございます。当時はおもに雑用係りをさせていただいておりましたガンでございます」 「――ガン?」 「ほら、一度は馬に乗るのを嫌がるディーンさまが逃げだして、洞窟にお隠れになっていたのを探し出した――」 ディーンは思わず両手を打った。 「あっ。あのガン。ボクが泣いていると、時々、面白いお話をしてくれた?」 |
ガンの目が輝いた。
「そうです。そのガンでございます。覚えていただいていたとは光栄でございます。
しかも、あれから十年。クリスタルへ行ってから数年してディーンさまは行方不明とおなりの噂を聞いて――それが、こうしてお目にかかれて、しかもパロ国王陛下とは。まるで夢のようです」
嬉しそうにガンは声をあげると、ディーンは人差し指を口に当てて回りを見回した。
「ガン、実は今回はお忍びなんだ。誰にも口外しないで。そして此処では、ボクのことをマリウスと呼んでおくれ」
「そ、そりゃもう。国王陛下の仰せつけなれば。しかし――」
ガンはしげしげとディーンを見た。
「ディーンさまを、あっ、マリウスさまの顔を御存じでなければ、その身なり――。マリウスさま、ここではなんでございます。どうか私の離れ屋に」
「ガンはまだマルガの別荘で働いているの」
「はい。ナリスさまがクリスタルへ行って、そしてご不自由なお体で戻られて――また、クリスタルへ行かれてからもずっと。
もっとも、内乱以後、いまでは使用人達はほどんど暇を出され、この別荘もパロ国の国有地になりまして」
「そうなのか――」
その日は、ガンの家でガンの妻、やはり五十ぐらいのハンナと云う名で誠実そうな女性だった。
そのハンナの出す料理に満足しながら、ディーンは色々な想い出やパロを離れて、
吟遊詩人だった頃の話をしてガン夫妻を驚かせ、また歌を何曲も聴かせて二人を感激させた。
そうして二日ばかりが過ぎたある日、ガンがディーンに相談を持ちかけた。
「実はディーンさま。知っての通り、今ではこの別荘はもちろん財産もすべてアルシス家から、パロ国へと所有権が移りましてございます。今では、我々夫婦もパロ国からお給与を頂いております。ところが――。それだけでは足りないのでございます」
「うーん。パロも今はやっと復興したばかりだから主人のいない別荘にそんなにお金をかける余裕もないのだろうね。
残念だけど、他の人たちよりもあなた達にたくさんのお金を出すのは――。ううん、もちろん、ボクがクリスタルに戻ったら感謝の気持ちとしてわずかではあるかも知れないけど、ボクからガンさんに――」
「いいえ、そうではございません」
ガンはきっぱり云った。
「確かに、今は主のいない別荘ですがここはマルガでも有数の別荘でありますから、維持費として我々や他の者達はそれなりのお給与を頂いております。我々の子供達もいまや三人とも一人立ちしておりますので、これからこの二人ぶんの生活はなんとかなるのですが、実はもう一人いますので――」
「もう一人? まさかハンナさんに子供が出来たとか――」
「と、とんでもございません。そうではありません」
ガンは顔をまっ赤にして否定した。
「もう、時効でしょうし――当のナリスさまもおりませぬので――。今から三年前ほどに、極秘にナリスさまからある男の世話を申しつけられたのです。それまではその男の世話代はクリスタル公家から、まかなっていたのですが、現在、もはやそれはありません。そして極秘にしているため今日まで私が食事代を出しているのですが――」
「ナリス兄さまが預けた極秘の男――?」
「ハイ。そうでございます。しかし、今となっては、生活のこともありますしどうしようかと、ほとほと困っております」
「クリスタルに事情を話せない事なの?」
ディーンは不思議そうに尋ねた。
「ハイ。下手をすると私はネルヴァの塔に放り込まれてしまうかもしれません」
「ふーん。それでその男の名前は? 今は何処にいるの」
「それが名前は知りません」
「名前を知らないだって」
ディーンは驚いた。
「本当でございます。ただ、鉄仮面の男、と――そして、その男はディーンさまが昔、隠れた洞窟に監禁して――」
その日の内に、ディーンはガンの案内で洞窟へと向かい、男を洞窟から出し、ディーンは後日に迎えを出し、男を自分で責任を持って預かると約束した。
(可哀想に、酷く弱っている――それにしても『生かさず、殺さず』との指図とは――兄らしい仕打ちと云えばそれまでだが)
それから三日ほどガンの家に逗留した後、別れを惜しみながらディーンはマルガを離れた。
ディーンがクリスタルに戻ったのは二旬後のことである。
意気揚々と戻ったディーンを待ち受けていたのは、ベック公を初めとする重臣たちのディーンには思いもかけぬ叱責と諌言だった。
そして、それら何よりも恐ろしいオクタヴィアの――。
夜な夜な、聖王宮の奥室にディーンの悲鳴が響きわたるのだった。
ディーンがふらりと旅に出てから半年後のある日、ベック公がディーンの元にやってきた。
「やあ、ファーン。ボクもこれでなかなか良い国王ぶりが様になってきただろう。ボクにもやはり聖王家の血が流れているんだね」
「さようでございます」
ベック公は口元が少しほころんだが、それ以上は何も云わなかった。
「それより、半年前にディーンの指図でマルガよりクリスタルへ連れ戻した男のことだが」
「えっ。 ああ、あの可哀想な男ね。あれから手厚い看護を受けていると一度聞いたけれど」
「彼はこの半年でかなり体調もよくなり体力も回復したので昨日、鍛冶屋に命じて無事に鉄仮面をはずすことが出来ましたが――」
「……」
「それが――」
「どうしたの」
「実は私も知っている人間でした」
「ファーンが! 一体、誰だったの。ナリス兄さまの政敵だった人?」
「いや、パロにとって非常に微妙な存在としか――」
「誰なの」
「ゴーラ――」
「ゴ、ゴーラの人間だって云うのかい」
「いや、正確には今は亡きモンゴール公国の人間だが」
「モンゴールだって――」
(懐かしいな。楽しいことや悲しい想い出の国)
「でも、今じゃ、あの嫌なイシュトヴァーン。あの凶王イシュトヴァーンのゴーラ」
「彼の名は『ゴーラの赤い獅子』ことアストリアス」
その名を聞くと、ディーンはその場に茫然自失となって立ち尽くした。
「ア、ア、ア、ア」
ベック公は云いにくそうに云った。
「アストリアスはディーン国王と面識があると云っている。パロの新国王に随分と興味を抱いたらしく世話係の者に、ディーン陛下がかつて吟遊詩人マリウスと名乗り中原を旅していたと事を聞き、人相や特徴を確かめたらしいが、――本当なのですか? そして面会したいと申し出ています」
「ア、ア、アスト――アスト・リ・ア・ス」
ディーンはゆっくりとその名を口ずさんだ。
「その様子からすると、アストリアスの言葉は本当のようですね。いかが致します」
(そうか、彼だったのか。まさかアストリアスだったなんて。もう、そんな名前なんかずっと昔に忘れていた。でも、彼は一生ボクの名前を覚えているだろう。ナリスの名と供に――。今の彼をあのような状態にしたきっかけはボクだし、そしてその兄の仕打ち。
でももうナリスはいない。すべてボクに恨みをぶつけようというのか)
ディーンは目をつぶるとしばらく考え込んだ。
(ナリスの手玉に取られ、そして踊らされ、何年もの間も鉄仮面をかぶせられ暗い洞窟に監禁されて、すべてを奪われていた――ボクがしたことではない、が――。ボクにも責任はある。ナリスにかわり――。いや、兄ナリスの分も含めてボクが憎しみの対象となろう。それで少しでもアストリアスの気が晴れるなら――。いやきっとボクのことも殺したいほど憎いのだろう)
ディーンは目を開けると静かに云った。
「会おう。会わねばならない」
ベック公はそれを聞くと何かを言いたげだったが、やはり何も云わずただ一言「そうか」とだけつぶやいた。
翌日、ディーンはベック公と供にアストリアスが療養をしている一室で合った。
「やあ、アストリアス殿。だいぶ体力がもっどたそうだね。それに仮面も取れて何より――」
アストリアスは何も云わず、静かにディーンを見つめた。
「きっと私が憎いのだろうね、アストリアス殿は――」
「……」
「でも、私の命は差し上げることは出来ないよ。今ではこれでも一応、パロの国王だから。
でもそれ以外のことなら出来るだけ、出来るだけのことはするつもりではいます。
傲慢な言い方と思うかもしれないが、何か希望があるなら言って下さい」
「……」
重苦しい沈黙が流れる。
と、アストリアスは口を開いた。
「私をあんな目にあわせたのはディーン国王陛下ではない。国王陛下を怨む筋合いは無い。もとより、あの頃の私の行動が浅はかだったのだろう――」
「そのように言っていただけると、私も少しは気持ちが安らぎます。感謝します。アストリアス殿」
ディーンは右手を差し出したがそれにはアストリアスは応えようとはしなかった。
「私を自由にして欲しい――」
「おおっ、もちろんです」
「それと、なにがしかの金銭を――」
アストリアスは今は暗い瞳でディーンを見つめた。
「勘違いしないで頂きたい。私が金銭を望むのは私が受けた仕打ちに対する見返りではありません」
アストリアスの暗い目に赤々と炎が燃え上がった。
「聞けば、今やモンゴールはこの世に無いと。そして、ゴーラ王国と名乗り、支配するのはイシュトヴァーン王と」
(おや、アストリアスは何を考えているのだ)
「何人かの人に聞いた。イシュトヴァーンはゴーラ王となりアムネリス様を名ばかりの王妃にとして、いや自由さえもない扱いを受けているとうかがった」
(ははーん、そう言えばアストリアスはアムネリスに夢中だったんだっけ。それが元で――)
アストリアスは話を続けた。
「イシュトヴァーンの過去の話も聞いた。ゴーラからの噂話らしいが、かつてノスフェラスで今はケイロニア王となっている豹頭の戦士グインと供にセム族を指揮してモンゴール軍を破った、と」
アストリアスの体が小刻みに興奮で震える。
「私は――イシュトヴァーン王にノスフェラスでのかりを返したい。そしてアムネリアス様をお救いして差し上げたい。ゴーラは虎視眈々と中原制覇を狙っていると聞きました。私がゴーラを内部から席巻することはパロにとっては都合がよろしいのでは?」
「それは確かに」
ベック公が答えた。
「しかし、ゴーラの中で、あなた一人で何が出来ますか」
「私は『ゴーラの赤い獅子』と呼ばれた男だ。今はまだ完全には体力は戻ってはいませんが、必ずや元に戻って見せます。そして、そしてゴーラ国内部を席巻するための費用としての金銭を頂きたい。必ずアムネリス様を救い出し、イシュトヴァーンを倒します」
(アムネリス様――。お待ち下さいアムネリス様。アストリアスが必ずお救いに参上致します――アムネリス様)
・コメント
『レムス、中原統一す』『レムス、中原統一ならず』シリーズ?の第一弾です。
グイン・パラレル・ワールドのつもりです。
「麗しのグイン・サーガ」1万hitの時に、ふうさんより頂きましたイラストを使わせていただいています。
当HPギャラリーにも 掲載しています。
改めて、お礼申しあげますm(_ _)m