●悲しきリーナス
黒竜戦役にモンゴール赤騎士に殺されたリーナスの父リヤはパロ宰相で侯爵で、長年にわたりパロの重鎮として、世界各国に使節として派遣され、また外交官として多くの国々の最高権力者と接触し、ひとたびは、キタイにさえ赴いたこともある、となっている。
リーナス家は聖王家の縁つづきでもある大貴族であって、代々宰相を勤める家柄とあり、恐らくマール公に次ぐ家柄と思えるが、息子のリーナスは、聖騎士伯、官房長官、副宰相で終わってしまった。
彼は父が亡くなって家督を相続したにも関わらず最後まで伯爵のままだった。
当然、侯爵に昇格して、望んだ場合は聖騎士候にならねばおかしい、あのサイデン閣下さえ侯爵なのだから。
リーナスはモンゴールからのパロ復興戦では、自分の領地ダーナムから、オヴィディウス聖騎士候(当時は聖騎士伯)と供に挙兵し、クリスタルからモンゴール軍二万をおびき寄せクリスタルのモンゴール軍を弱体化させている。
リーナス自身も二千の兵を指揮し、この後、ルナン聖騎士候の軍も加わりモンゴール軍を打ち破るという、輝かしい働きを見せクリスタルに入城し、後の戦いにも活躍をしている。
ナリスが謀反を企て彼を仲間に引き入れようとしたとき、リーナスは文官だから彼の兵力は望めないと云っているが、聖騎士伯が文官と云うことはないであろう。
ナリスの謀反にあたり、リーナスが加わらないと判ると謀反が発覚するのを恐れ、ヴァレリウスによって毒薬を飲まされる(直接の死因はナリスが雇った暗殺者によると思われる)。
後に、ヴァレリウスはリーナスに毒薬を飲ませたことについて激しく苦悶しているが、ヴァレリウスがリーナスを殺すこと自体が本来は不自然なことに気がついているだろうか。
マルガにいた当時、謀反のためにナリスは仲間をつのるため何十人もの人間に謀反の計画を打ち明け、最終的に百数十人の血判書を取ったとある。
マルガを訪れた貴族の中には、レムス一世がヤンダルの影響下にあるという話を一笑にふし、謀反に加わらずクリスタルに戻った貴族もかなりいたとある。
しかし彼らは、ヴァレリウスらの手によって暗殺されることはなかった。
何故か。
それは、ヴァレリウスが彼らの記憶から謀反の話を消し去ってしまったからである。
それなのに、ヴァレリウスは大事に思っていたリーナスに対してだけ、記憶を抜き取る変わりに殺してしまった。
どうせ、謀反を起こすまでのわずかな期間ばれなければ良いだけなのにである。
ナリスやヴァレリウスは謀反を起こした後で、自分たちにとって最大の危険な敵になるとは思ってなどいまい。
報われないリーナス。
リーナスの父リヤは、ヴァレリウスやヨナの才能を見いだして子供の時から、オー・タン・フェイ塾に入学させてその後も何かと援助をしている。
やがて、彼らが育ち、その才能を開花させてゆくと、横からナリスが次々と彼らを引き抜いてゆく。
リーナスに彼らを引き留めるだけの、魅力と才能が無かった、というだけでは納得できないものがある。
大いなる凡庸が一人もいない世界というのも意外と味気ない。
(追記:2000/11/25)
リーナスが九つか十くらいの時、純粋な優しい気持ちからアムブラで行き倒れていたヴァレリウスに食物とカラム水を与え、困ったことがあれば自分を訪ねてくるようにと、指輪を与えた(外7p85)