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●マルガとクリスタル公

マルガは全世界でさえ随一の名勝のひとつに数えられるほどに、有数の風光明媚な美しい土地である。 湖畔には聖王家のマルガ離宮とアルシス王家の別荘を中心にしてマール公別邸、ベック公別荘、ランズベール公の別荘、ネルバ公の別荘――とたくさんの大貴族の別荘ばかりがたちならぶ(38巻p180-181より抜粋)

そう、マルガ離宮はアルシス家のものではなかった。
聖王家のものであったのが、57巻からナリスをとにかく無条件にことさら讃えあげるためにマルガ離宮もマルガ一帯もアルシス家のものに変更された。
しかし、この強引と思われる設定変更は如何なものであろうか。
ナリスの魅力をもってすれば、そのようなことは不必要に思えるのだが。

もともと、マルガを別荘地として開き、マルガの景観をこよなく愛したアルバヌス二世の命令によってマルガでの建築物はすべて醜悪な色どりを使用することをかたく禁じられ、緑の森と宝玉のような碧の湖水にふさわしく純白の館しかたててはならぬ、と決められた。そのためマルガの湖岸にある邸宅はすべて純白の大理石だけを用いて建てられている、とある。

従ってマルガ一帯には有名な王侯貴族のすべてがこぞって別荘、別邸を求めて集まっているところである。
この中原でも有数な風光明媚な美しい土地一帯を、創設されてわずか二、三十年のアルシス家、しかも、別に殊勲をあげたわけでもなく、逆に反乱に失敗して失脚したアルシス家の所有地になってしまうのは異常である。

このような歴史ある風光明媚な土地は聖王家、あるいはパロ国有地のはずである。
いきなりポッと出の何の手柄もない逆賊呼ばわりされたアルシス家の所有地になることはパロの伝統を無視している。


アルシス家は創設されて三十数年であり、しかもパロ王国では異端の家柄である。
そのアルシス家がカレニア自治領という広大な領地をはじめ、マルガ、ダネイン、カラヴィアの一部、クリスタル市、サラミスの一部と肥沃な土地を多く私有財産としている、とある。
王さえも凌ぐ所有地を持っている。
何の手柄もない王子にこれだけの、土地を分け与えていたら、三千年の歴史を誇るパロにどれだけの王子がいたことか。すべてが現在も継承されて残っているわけではあるまいが、土地など無くなってしまう。

パロで継承できる名誉ある称号は、マール公、サラミス公、カラヴィア公、ランズベール候とネルヴァ候だけのはずである。
これまでの経緯を考察すると、クリスタル公や、ベック公は世襲ではない。
王に複数の王子らがある場合、一人を国王にした時、残りの王子達に君主と臣下をはっきりさせるために任命している。
しかも、クリスタル公は国王に匹敵する、きわめて巨大な力を持つため、王になれなかった有能な王子の不満を解消するために、一代限りのもである。
現にアルドロス一世、アルドロス二世の時はクリスタル公は存在しない。
アルドロス三世が18歳になったナリスをクリスタル公に任命したのは先の約束の結果である。

基本的に広大な土地を所有しているのはマール公、サラミス公、カラヴィア公だけである。
クリスタル公に土地があるとしてもこの所有地は広大すぎる。
今さら、既に祖先から引き継いでいる誰かの土地を召し上げたりは出来まい。
そもそも、王子が一人しかいなかったらクリスタル公やベック公は必要ない。
後から、複数の王子がいて何人かが臣下に下りるときに、クリスタル公や、ベック公の地位が空いていなくて困るはずである。
この称号も召し上げるわけにはいくまい。

アルドロス二世の時世ではベック公もクリスタル公も空位である。
アル・リース王子がアルドロス三世に即位し、ファーンの父アルディス王子はベック公となり、ナリスの父がジェニュア大祭司長になり、その後、息子のアルド・ナリスがクリスタル公に任命されている。
ファーンがベック公を名乗るのはアルドロス三世に王子がレムスひとりしかいないためである。
クリスタル公はそれに見合った人物がいない場合は空位でもよいが、ベック公は軍事の最高司令官であり必要であろうし、本来、空位は考えられない。

これまでも、クリスタル大公家に伝わる〈クリスタルの炎〉(:クリスタル公妃が必ずその婚礼のときに夫の手によってかけて貰う、クリスタル大公妃のあかしともいうべき、大公家に伝えられる伝説的な名品)が登場し、リンダの所有物になっているが、クリスタル大公家自体は継続するものではないので、これもおかしい。

クリスタル公にこれほど権力があると、王と対立するのは目に見えている、もう少し穏やかな権力でなければ国内騒乱の原因になりかねない。
王以外の誰かに何もかも集中させるのは、かえって国を危うくしかねず、三千年の歴史を誇るパロのする事ではあるまい。
何事もバランスが肝要かと思われる。

(注)
「ランズベール公の別荘、ネルバ公の別荘」は、実際は侯爵であるが、38巻p181の地文をそのまま引用。


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